7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
『希望号』が強行着陸した場所は、神の居城『』の広大なエントランス広場だった。
そこは、床も壁も空も、すべてが冷たい純白の幾何学物質で構成された、無機質で静謐な世界だった。
この空間は、自然界の色彩や音の反響、魔力の不規則な揺らぎを一切拒絶している。 地上の泥臭さ、炎の熱狂、水の豊かさ。ヒカルが愛した全てが「ノイズ」として弾かれる、純粋な「」の実験場だった。
ヒカルは『』を構え、周囲を警戒する。高密度の魔力が充満しているが、その魔力は生命の温もりを一切含まない。
ヒカルの脳裏に、ノイズを伴いながら、澄んだ、しかし歪んだ声が響いた。
『フン。予想通り、無作法な侵入者どもだ。ヒカル。ここは貴様らが愛する「バグ」が通用する世界ではないぞ』
「カイン! 貴様、やはりここにいるか!」
ヒカルは激しく剣を握りしめる。憎悪を乗り越えたはずの感情が、再びざわつく。
『私はデータ体だ。だが、私の知恵は地上と天上、二つの戦場を同時に支配している』
カインの声は冷笑を帯び、ヒカルの心に究極の屈辱を突きつけた。
『レオーネ皇女(貴様の妻の一人)の部隊は、今、地上から支援砲撃の論理的最適解を待っている。その最適解を弾き出すのは、皮肉にも、貴様が裏切った私だ。泣き言を言っている暇があれば、手を動かせ』
「敵影、感知! 全方位から来ます!」
艦橋に残った空虚の斥候王ゼファーが警告を発した。
空間のあちこちに光の亀裂が走り、そこから無数の自動迎撃ユニット『』が出現した。
のっぺらぼうの顔に、光の翼を持つ人型兵器。その一挙手一投足は、無駄な動きが一切ない。
「排除。排除。異物ヲ、検知」
無機質な機械音声と共に、神兵たちが一斉に光弾を放つ。
「させませんッ!!」
その前に立ちはだかったのは、新たに『光の六天将』となったメイド、ソルニアだった。
彼女は優雅なメイド服の上に、アウラから継承した魔導プロテクターを装着し、白い空間を切り取るように鮮やかな箒(高出力魔導杖)を掲げた。
「展開! !」
ソルニアの周囲に、無数の光の鏡が出現する。
神兵たちが放った数千の光弾は、鏡に反射し、屈折し、複雑な幾何学模様を描いて敵陣へと跳ね返った。
ズガガガガガッ!!
自らの放った光線によって、神兵たちが次々と爆散していく。
『ソルニアの術式は、アウラの緻密な論理を継承している。私の予測と一致した』
カインは冷徹に評価する。
ソルニアは、汗一つかかずに箒を振るう。
「の残したデータは完璧です。私はそれを、王のために出力するだけ。……通りたければ、光の速度を超えてきなさい!」
しかし、敵は光線だけではなかった。
物理的な破壊力を持つ重装型の神兵が、鏡の隙間を縫って『希望号』の船体へと特攻を仕掛けてくる。
「船を傷つけさせるものですか!」
続いて、甲板に仁王立ちしたのは、新たに『土の六天将』となったテラナだ。
彼女は、主であるテラ譲りの怪力で巨大なを振り回した。
「ッ!!」
ドゴォォォン!!
テラナの一撃が、空間そのものを揺るがし、重装神兵を瓦礫のように吹き飛ばす。
「ガイア様から受け継いだこの守護の鉄槌、甘く見ないでくださいまし!」
新六天将の二人が作り出した鉄壁の防衛線。
その隙を突き、影のように動く者がいた。
闇のメイド、ルナリスだ。彼女はヴァルキリアとシェイドの命を受け、戦場の「影」に潜行していた。
『制御中枢はあのオベリスクだ。ルナリス、奴の防御アルゴリズムを解析し、最小限の魔力で機能を停止させろ。地上でのレオーネの支援砲撃が、今、完璧な弾道で向かっている。その弾道こそ、私との共闘の証だ。無駄にするな』
カインの声が、ルナリスの行動を促す。
「……見つけました。迎撃システムの制御中枢」
ルナリスは、広場の隅にあるオベリスクの影から実体化した。
「王の行手を阻む障害は、排除します」
彼女が魔導書を開き、闇の呪言を囁くと、オベリスクが黒い茨に覆われ、機能停止に追い込まれた。
増援の転送ゲートが強制的に閉じられる。
「道が開いたわ! 総員、進撃!」
レヴィアが叫び、ヒカルたちが駆け出す。
その最中、ルーナに抱きかかえられていたアルテミス(6歳)が、ふと足を止めた。
彼女の白金の瞳が、居城の遥か奥、最上階を見つめている。
「……呼んでる」
「え? アルテミス、何が聞こえるの?」
ルーナが問いかける。アルテミスは、小さな胸を押さえた。
「悲しい音……。ううん、怒ってる音? ……世界の真ん中で、誰かが泣いてる」
それは、神のシステムの中枢、あるいは「神」そのものの感情なのだろうか。
「パパ。……あそこに行かなきゃ。あそこで、全部が終わるの」
アルテミスが指差す先。
そこには、四体の強大な気配――神の側近であるが待ち受ける「試練の回廊」が続いていた。
ヒカルは娘の頭を撫で、剣を握り直した。
『フン。ヒカル、貴様の愛が試されるぞ。神の番人は、貴様が最も憎むべき「」そのものだ』
カインの皮肉が響く中、ヒカルは屈辱に耐え、娘に微笑みかけた。
「ああ。行こう。……神様のお説教を聞きにな」
「ううん、ちがうよ。パパ」
「?」
「アルテミスが、ね。めっ、しちゃうの!!」
アルテミスの本気の顔に、一同から笑いがこぼれたのだった。
最初の関門。
燃え盛る紅蓮の翼を持つ、炎の熾天使『|セラフィム・イグニス《Seraphim Ignis》』が、彼らの前に立ちはだかった。
【第182話へつづく】