7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
試練の回廊、最初の関門。
そこに立っていたのは、ヒカルにとって見覚えのある、しかし決定的に異なる存在だった。
燃え盛る紅蓮の翼を持ち、全身から発せられる熱量はレヴィアの激情を遥かに凌駕する。しかし、その顔立ちは――ヒカルが最も愛する妻の一人、レヴィアと瓜二つだったのだ。
感情を一切宿さぬ無機質な瞳。それはまるで、レヴィアという存在をデータとして解析し、純粋な「火力」のみを抽出して再構築したかのような、冒涜的な模造品だった。
炎の熾天使『|セラフィム・レヴィア《Seraphim Levia》』。
神が配置した最初の試練は、ヒカルたちの心に最も深く突き刺さる「悪意」の形をしていた。
「なっ……!? あれは、私!? どういうことだ、ヒカル!」
レヴィアが驚愕の声を上げる。自分の姿をした人形が、冷徹な殺意を向けてくる現実に、彼女の激情は瞬時に沸点に達した。
ヒカルたちの脳裏に、カインの冷徹な声が響く。
『フン。神のシステムも、悪趣味な冗談がお好きなようだ。侵入者の精神を揺さぶるために、最も愛する者の姿を模倣したガーディアンを配置するとはな。ヒカル、貴様の愛が試されるぞ』
「神め……! よくも私の姿を、そんな無粋な人形に……!」
レヴィアが激しい嫌悪感を露わにし、全身から紅蓮の炎を噴き上げる。
「ヒカル! あんな偽物、私がこの手で焼き尽くしてやる! 私の顔で、私の夫に仇なすなど、存在することさえ許せない!」
『よせ、レヴィア。奴の熱量は、貴様の激情とは桁が違う。奴の炎は、世界のから来る、純粋な「消去」のエネルギーだ。感情で挑めば、貴様が消し炭になるぞ』
カインの警告が、レヴィアの熱を冷ます。
『それに、地上の戦況を見ろ。レオーネ皇女は、今まさに帝都防衛のために全軍の指揮を執っている。彼女が必死に時間を稼いでいる間に、貴様らが感情論で自滅すれば、地上の努力も全て無駄になるぞ』
ヒカルは唇を噛みしめる。天上と地上、二つの戦場がカインという一本の糸で繋がれている。
「排除。排除。熱量ヲ、収束スル」
セラフィム・レヴィアが無機質な声を発すると、広場全体の魔力が一点に収束し、ヒカルたちに向かって核爆発のような熱線が放たれた。
「テラ! ヴァルキリア! 複合防御!」
ヒカルの叫びが響くと、テラとヴァルキリアが前に出る。
テラの揺るぎない土の魔力と、ヴァルキリアの孤高の闇が重なり、ヒカルたちを守る結界を形成した。
ドォォォォン!!
熱線が結界に激突し、凄まじい衝撃波がヒカルたちを襲う。テラとヴァルキリアの体から、苦悶の唸り声が漏れた。
「な、熱い……! 単なる炎ではない……! 存在そのものを焼き尽くす概念的な熱量だ!」
『ヒカル。テラの防御は続かない。奴の熱は世界のから来るものだ。貴様らが愛する非線形な感情論では、この理を覆せないぞ』
ヒカルは屈辱を覚悟でその指示に従う。
「カイン、貴様の知恵を借りたいわけではないが、論理的最適解を示せ!」
『ならば、愚かしく焼き尽くされて死ぬがいい。だが、地上で貴様のために戦う妹たち(レオーネ)の努力を無駄にするなよ。私は地上戦の指揮で忙しい。無駄な手間をかけさせるな』
カインの皮肉な言葉は、彼が天上と地上の二つの戦場を同時に掌握し、ヒカルの命を救うことで「人類の知恵の優位性」を証明しようとしている、という最大の屈辱だった。
ヒカルは、カインの提示する最適解を脳内でシミュレートする。
(カインの言う通りだ。熱には熱で応じれば、泥沼の消耗戦になる。ユニゾンで熱を相殺するしかない)
ヒカルは指揮棒を構え、セラフィム・レヴィアの熱量に最も対極にある属性を指名した。
◇◆◇◆◇
第1波:3
「アクア! シズク! マリン! ユニゾン発動! だ!」
ヒカルの指揮棒が振るわれると、水の竜姫アクア、そしてその娘である皇女シズクとマリンが前に進み出た。
ユニゾン参加メンバーは、 アクア(水)、シズク(水)、マリン(水)の親子。
アクアが嬉々として前に出る。その手には、水流で形作られた指揮棒のような杖が握られている。その瞳は、いつになく生き生きと輝いていた。
「ふふっ、レヴィアそっくりの人形を、私の水で頭から冷やしてあげるなんて、最高にゾクゾクするわね! 貴女の熱すぎる頭も、少しは冷えるかしら? ……さあシズク、マリン、あの『暑苦しいおばさん』を徹底的に冷やしてあげなさい」
「ちょっとアクア! 貴様、何を嬉々として……! それに、シズクたちにまでそんな指示を!」
レヴィアが憤るが、アクアは涼しい顔で流す。
「あら、これは純粋な戦術よ? 個人的な感情なんて、一切ないわ。」
シズクが眼鏡を押し上げ、淡々と魔力を練り上げる。
「承知しました、母様。論理的に冷却します」
「はーい、お母様。お水いっぱいかけちゃえー」
マリンも無邪気に微笑む。
「……貴様、『暑苦しいおばさん』って言ったわね? 絶対になんか意味深じゃない!?」
レヴィアが地団駄を踏むが、アクアは聞こえないふりをして指揮を執る。
「展開! 絶対零度の五線譜!」
アクアから、透き通るような青い旋律が流れ出す。それは、論理と理性によって構築された、完璧な冷却の調べ。
クラリネットのような透明感のある低音が、空間の熱を奪い、静寂をもたらす。和音のとなるの音が、揺るぎない「水」の存在感を主張する。
それに呼応するように、シズクの水流が純粋な知性の旋律(ヴァイオリンのような高音)を奏でる。精緻な計算に基づいたの音が、和音に知的な明るさと鋭さを加える。
さらに、マリンの癒やしの水流が、全体を包み込むヴィオラのような中音域でを響かせ、和音に深みと安定を与える。
三つの旋律が重なり合い、一つの巨大なFメジャー(長三和音)となると、空間に青と白の魔力エネルギーが奔流となって渦を巻いた。
それは、熱を奪う「絶対零度の協奏曲」。
「熱には、理性の絶対零度で応えるわ! BPI、上昇!」
「論理的に、貴方の活動を停止させます!」
「悪い熱は、冷ましちゃいます!」
水と氷のユニゾンがセラフィム・レヴィアの全身に叩きつけられ、天使の装甲表面が急速に冷却され、亀裂が走り始める。
ジュウウウウウッ……!
猛烈な蒸気が立ち昇り、セラフィム・レヴィアの動きが一瞬だけ鈍った。
『機能、停止……。熱量ノ、制御、困難……』
◇◆◇◆◇
第2波:男たちの物理打撃(連携技)
『ヒカル! 冷却された装甲の論理的脆弱性を、物理的な暴力で突け! 私は地上のレオーネに「一点集中砲火の停止」を命じた。今、地上の天使は総崩れだ。貴様の息子たちも、私の論理で動け!』
カインの指示が、ヒカルの思考を加速させる。
「ライオス! リオ! 男の連携だ! 冷却された装甲を砕け!」
ユニゾンに参加できない皇子ライオス(炎)とリオ(風)が、フレアとゼファーの魔力支援を受け、炎と風を纏った物理攻撃で突撃する。
「うおおお! の偽物なんて、俺がぶっ壊してやる!」
ライオスが炎の剣を叩きつけ、リオが風の刃を装甲の亀裂へ打ち込む。
その一撃は、冷却され脆くなった装甲を粉砕し、天使の内部構造を露出させた。
「見てろよ母上! 俺の炎は、偽物なんかよりずっと熱いんだ!」
ライオスの叫びに、レヴィアは一瞬だけ表情を緩ませた。
「ふん、生意気な口を……。でも、悪くないわ」
◇◆◇◆◇
第3波:3
「仕上げだ! ユリウス! 理論を実践に移せ! シズク! マリン! リベル! ユニゾン!」
ヒカルは、レオーネ皇女の息子である軍師ユリウス(男性)に、ユニゾンではない「理論」の指揮を命じた。
連携技参加メンバー(男性) ユリウス(知恵・理論指揮)のもの、ユニゾン参加メンバー(女性): シズク(水)、マリン(水)、リベル(風)が選抜された。若い力が空間を満たしていく。
「了解しました、父上。計算通りです」
ユリウスが杖を振ると、複雑な魔法陣が空中に描かれる。
その緻密な計算に基づき、シズクとマリンが水の魔力を、リベルが風の魔力で増幅。冷却された装甲の亀裂に、水の魔力を超高圧で注入する。
「論理的に、貴方の構造体を破壊します!」
「氷になっちゃえー!」
「風さんも手伝うよー!」
注入された水が一瞬で凍結し、内部構造を膨張・粉砕させた。
パキィィィン!!
甲高い音と共に、セラフィム・レヴィアの左翼が砕け散る。
キィィィン……!
セラフィム・レヴィアは、全身から白い光の粒子を噴き出しながら、音もなく機能停止した。
「セラフィム・レヴィア、撃破! 損耗率ゼロ!」
アクアが歓喜の声を上げる。
「ふふっ、やっぱりレヴィア(の偽物)には、私たちの水が一番効くわね! ああ、すっきりした!」
アクアは満面の笑みで汗を拭う。
「……貴様、絶対に私怨が入っていただろう。後で覚えておけよ。絶対に焼き尽くしてやる」
レヴィアが低い声で唸るが、アクアは聞こえないふりをして髪を払った。
『フン。論理的に、貴様の愛の勝利だ。貴様の優しさというバグは、私の知恵という名のOSでしか実行できないらしいな、ヒカル』
カインの声が、ヒカルの脳裏に皮肉を投げかける。
ヒカルは剣を収め、悔しさを噛み締めた。
「貴様の力を借りなければ、ここで俺たちは全滅していた。ここは素直に礼を言おう……。だが、この借りは、必ず返してやる、カイン!」
最初の試練を突破したヒカルたちは、次なる回廊へと歩を進める。
そこには、青い光を纏った、もう一人の「見知った顔」が待ち受けていた。
【第183話へつづく】