7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
神との決戦から数ヶ月。
世界は「魔力喪失」という未曾有の事態による混乱を脱し、急速に新しい秩序――物理と知恵による社会――を構築し始めていた。
そして、その復興を支えていたのは、ヒカルや六龍妃たちだけではない。
かつて戦場や裏舞台で活躍した「愛すべき脇役」たちもまた、魔力のない世界で逞しく生きていた。
「――ですから! 転移魔法が使えない以上、物流コストは3倍になります! 予算の増額を認めないなら、王宮の夕食を塩抜きにしますわよ!」
王宮の財務室で、金切り声を上げているのは、財務官僚長官ギルティアだ。
魔力が消え、魔法の計算機も使えなくなった今、彼女は巨大なそろばん(ドワーフのボルタ特製)を高速で弾きながら、帝国の財政を一人で切り盛りしていた。
「ひぃぃ! わかった、わかったから落ち着け、ギルティア!」
ヒカルが冷や汗をかいてなだめる。
「ふん。……ですが、悪いことばかりではありませんわ」
ギルティアはふと表情を緩め、窓の外を見た。そこには、大量の荷馬車が行き交う街道が見える。
「魔法で一瞬で物が届く時代よりも、こうして人が汗を流して運ぶ方が、経済(お金)の巡りは良くなっていますの。……やり甲斐は、以前の倍ですわ」
その物流を一手に担っているのが、「運び屋」ウィンド・ランナーだ。
風の魔力を失った彼は、今は帝国最大の運送会社『疾風(名前だけ)』の社長になっていた。
「へい、毎度! 南の砂漠から希少な鉱石、届きましたぜ!」
ウィンド・ランナーが、汗だくで荷下ろしをする。
「飛べなくなったのは不便だがね。自分の足で走るってのも、悪くない。景色がよく見えるし、何より飯がうまい!」
彼は以前より逞しくなった二の腕を叩いて笑った。
一方、王宮の図書館では……。
古王軍出身の若き天才竜、オーディーンが、大量の書物に埋もれていた。その横で弟子のユリウス(ヒカルとレオーネの子)がせわしなく書物の整理をしている。
「くっ……! 魔法が消えたことで、従来の理論式の半分が無意味になったか……」
彼は髪をかきむしりつつも、その眼鏡の奥の瞳は爛々と輝いている。
「だが、これを『物理法則』という視点で再定義すれば、より普遍的な科学体系が構築できる! なぁ、ユリウス。アウラ院長が遺した研究資料と合わせれば、新時代の礎は僕たちが作れるぞ!」
「お師匠様、少しは片付け手伝ってください!!」
魔力を失ってもその知能は衰えるどころか、むしろ「解くべき新しい難問」を得て水を得た魚のようだった。彼は今、学術院の若きリーダーとして、次世代の学者たちを牽引していた。
そして、もう一人。
六天将の中でも特に影が薄かった女性、シェイドは。
王宮の中庭では、奇妙な光景が広がっていた。
数人の新米メイドたちが、血相を変えて庭の植え込みや物陰を必死に探している。
それを優雅にティータイムを楽しみながら監督しているのは、筆頭侍女のリリアだ。
「ええっと、リリア様……これ、本当にかくれんぼ……いえ、訓練なんですか!?」
新米メイドの一人が、半泣きでボヤく。
「ただの子供の遊びじゃ……」
「あら、何を言っているのですか」
リリアはカップを置き、にっこりと微笑んだ。
「魔力が失われた今、王宮を守る最後の砦は『人の目』と『気配察知』です。気配を完全に消した潜入者を見つけ出す心眼……これこそが、一流のメイドの嗜みですわ」
「そ、そんなぁ……」
メイドが項垂れた、その背後。
何もないはずの空間から、ぬっと人影が湧き出した。
「……おや。後ろがお留守ですよ?」
「ひゃああああッ!?」
メイドが悲鳴を上げて飛び退く。
そこに立っていたのは、いつもの無表情で佇むシェイドだった。
「……残念。今の間合いなら、三回は暗殺できていましたね」
ヴァルキリアの姪であり、叔母譲りの闇の適性を持つ彼女だが、魔力がなくなってもその「影の薄さ」は健在だった。これはもう、魔法ではなく天性のらしい。
彼女は今、その特性を活かし、リリアと共に王室直属の「隠密メイド部隊」を育成しつつ、街の不満やトラブルを誰にも気づかれずに調査する仕事で大活躍していた。
「ふふ。魔法がなくても、私の影からは逃げられませんよ……。さあ、次は難易度を上げますよ、リリアさん?」
「ええ、お願いしますわシェイドさん。この子たち、まだまだ鍛え甲斐がありますもの」
最強の侍女と最恐の隠密によるスパルタ教育は、今日も平和な悲鳴と共に続いていく。
◇◆◇◆◇
大人たちが新たな役割に奔走する一方で、次世代を担う子供たちにも、春の予感が訪れていた。
帝都の復興現場。
瓦礫の撤去作業を手伝っていたライオス(ヒカルとレヴィアの息子・炎の皇子)と、シズク(ヒカルとアクアの娘・水の皇女)が、またもや言い争いをしていた。
「だーかーら! そこはテコの原理を使えって! 頭使えよ、水女!」
「なんですって!? ライオスこそ、力任せにやったら石が割れるでしょう! この脳筋!」
ギャーギャーと喧嘩しながらも、二人の息はぴったりだ。
ライオスが持ち上げ、シズクが台車を入れる。その作業は、見ていて恥ずかしくなるほどスムーズだった。
作業が終わり、夕焼けの中で二人は並んで座り込む。
「……ふん。ま、今日はこれくらいにしてやるよ」
ライオスがそっぽを向きながら、水筒をシズクに放る。
「……ありがとう。……意外と、気が利くのね」
シズクが少し顔を赤らめて受け取る。
喧嘩するほど仲がいい、を地で行く二人だった。
シズクの双子の妹マリンは、二人の間に入るのを諦めていた。ライオスとシズクの間に入れる余地は、もうない、と彼女は悟り、別の恋を探そうとしているようだ。
その様子を、少し離れた仮設校舎の窓から眺める二つの影があった。
生徒会長シリウス(フレアとシエルの息子)と、ノア(ヒカルとレヴィアの娘)だ。
「ふふっ。お兄ちゃんたち、またやってる」
ノアがクスクスと笑う。おませな彼女は、シリウスの隣にいる時だけは、少し背伸びした「乙女」の顔になる。
「元気でいいじゃないか。……君も、生徒会の仕事、手伝ってくれて助かったよ、ノア」
シリウスが優しく微笑む。
「う、うん……! シリウス様のためなら、これくらい平気だもん!」
ノアは顔を真っ赤にして、スカートの裾をぎゅっと握りしめた。聡明で完璧超人なシリウスと、彼に憧れる天真爛漫なノア。その距離は、少しずつ縮まっている。
図書館の奥では、もっと静かなロマンスが進行していた。
ソイル(ヒカルとテラの娘・土の皇女)が、分厚い工学書を広げている。その向かいには、オーディーンの弟子である若き賢者ユリウスがいた。
「……なるほど。土の粘性を利用した新しい建築素材……ソイル様の発想は素晴らしいですね」
「……ユリウス様の計算のおかげです。わらわ一人では、思いつきませんでした」
地味で真面目な二人は、互いの知識への敬意が、いつしか淡い恋心へと変わりつつあることに、まだ気づいていないようだった。
そして、街の広場では。
クロノス(ヴァルキリアに拾われた孤児の少年)が、一人で剣の素振りをしていた。
「……998、999……」
「またやってるの? クロノス」
声をかけたのは、リベル(ヒカルとセフィラの娘・風の皇女)だ。彼女は木の上から軽やかに飛び降りる。
「魔力がないんだから、そんなに振っても意味ないよー」
「……うるさい。俺はのような、最強の騎士になるんだ」
無愛想なクロノスだが、リベルが差し出したタオルを拒むことはしなかった。自由奔放な風と、孤高の闇(の継承者)。正反対な二人の凸凹コンビもまた、悪くない雰囲気だ。
さらに、城壁の上では、風に吹かれる二人の若者の姿があった。
リオ(セフィラの息子であり、母譲りの自由な心を持つ少年)と、フウガ(天狗族の族長の孫娘)だ。
「魔力がなくなっても、俺たちは風を感じられる。そうだろ、フウガ?」
「ふん、人間にしてはわかってるじゃない。……でも、私の団扇捌きには敵わないわよ」
かつて空を支配した種族の血を引く二人は、空を見上げながら、新しい時代の風を誰よりも鋭く感じ取っていた。ここにも、国境や種族を超えた、爽やかなロマンスの予感が漂っている。
そんな子供たちの群像劇を、物陰からじっと見つめる少女がいた。
ミスティ。 ヴァルキリアのヒカルの娘であり、母譲りの「気配遮断」スキル(天然)を持つ彼女は、誰にも気づかれずに人間観察をするのが趣味だ。
「……ふふ。みんな、春ですねぇ」
彼女の手には、克明に記された「カップル観察日記」が握られている。
彼女自身のロマンスは?
それはまだ、彼女の名前の通り、まさに霧の中である。
◇◆◇◆◇
「……平和だなぁ」
王宮のテラスからその全てを見下ろし、ヒカルは温かい茶をすすった。
隣には、同じようにお茶を楽しむレヴィアがいる。
「ええ。魔力があった頃より、ずっと賑やかで、ずっと騒がしいわ」
「退屈する暇もないな」
「望むところでしょ? 私たちの『人間王』様?」
レヴィアが意地悪く笑い、ヒカルの肩に頭を預ける。
夕日が、復興する帝都と、そこで生きる全ての人々を優しく照らしていた。
魔力は消えた。
けれど、この世界には「愛」と「希望」という、魔法よりも素敵なエネルギーが満ち溢れている。
物語は、ハッピーエンドのその先へ。
彼らの日常は、まだまだ続いていくのだ。
【第194話へつづく】