7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
魔力なき世界での復興が進む中、帝都には新たな訪問者たちが訪れていた。
「ガハハハ! これが『蒸気機関』というやつか! 魔法がなくとも、鉄の塊が動くとは面白い!」
豪快な笑い声を上げて帝都の工業区を練り歩くのは、南の砂漠を統べる獣魔族の王、ヴォルグ・レオグランスだ。
筋骨隆々の巨体に、王者の風格を漂わせる獅子の獣人。
彼を出迎えたのは、かつて敵として拳を交えたこともある、前・土の六天将ガイアだった。彼は引き続き、全軍の総大将としての重責を担っている。
「ようこそ、獣王殿。……どうです、我が国の新しい力は」
「悪くない。魔法に頼りきっていた我らには、目からウロコの技術ばかりだ」
ガイアの隣には、小さな二人の影が控えていた。
ヒカルとテラの娘、ソイル。そしてその弟であるグラウンドだ。
ソイルは緊張した面持ちで工学書の束を抱え、グラウンドはのんびりとあくびを噛み殺している。
「こ、こちらが……とボルタ師匠が考案した、砂漠地帯用の取水ポンプの設計図です……!」
ソイルがおずおずと図面を差し出す。
「おお、これが噂の! これがあれば、我が国の水不足も解消できるというわけか!」
「うむ。……あと、こっちは砂上船の車軸案。摩擦係数を減らしてあるから、風がなくても走れるよ」
グラウンドが眠そうな声で補足する。
その背後で、ドワーフの長ジオと王妃の一人ボルタが、獣魔族の技術者たちと熱い議論を交わしていた。
「いいか! 大事なのはマナじゃない、ギアの噛み合わせだ!」
「油圧の制御をミスると暴発するぞ! 覚えとけ!」
かつては剣と牙で争った両国が、今は「技術」という共通言語で握手を交わしている。
ガイアは目を細め、その光景を見守っていた。
「力が消えても、強さは残る。……いや、手を取り合える分、今の方が強いかもしれんな」
◇◆◇◆◇
一方、東の山脈にある天狗族の里では。
断崖絶壁に作られた彼らの集落は、常に強風が吹き荒れる「空の難所」だ。かつては翼持つ者しか辿り着けなかったこの場所に、今は新たな「翼」が持ち込まれていた。
「――ほう。これが『グライダー』という乗り物か。魔力を用いず、風の力だけで空を舞うとは」
天狗族の長老が、骨組みに布を張っただけの華奢な翼を、興味深そうに撫でている。
その構造は、彼らが誇っていた魔力の翼とは似ても似つかない。だが、そこには風への深い理解と敬意が込められていた。
そこを訪れていたのは、風の竜妃セフィラと、エルフの賢者でありヒカルの妻の一人、イリスだった。
「ええ! ヒカルが設計して、私が監修したの。魔力で無理やり飛ぶんじゃなくて、風とお友達になって乗せてもらうのよ!」
セフィラが得意げに胸を張る。
彼女は魔力を失い、自力で空を飛ぶ力を失った。普通なら絶望してもおかしくない状況だ。
だが、今の彼女の瞳は、現役時代よりも生き生きと輝いている。
「魔力がなくなって分かったの。私たちは今まで、風を『支配』しようとしてた。でも、今は風の『声』がもっとよく聞こえるわ」
「私たちエルフからは、素材を提供いたします」
イリスが穏やかに微笑み、見本となる布と木材を差し出した。
「世界樹の枝を加工した軽量フレームに、妖精蜘蛛の糸で織った飛膜です。これなら、突風にも耐えうる柔軟性と強度を両立できます」
天狗たちは、ざわめいた。
かつて彼らは、自分たちの聖域である空を荒らす竜族を嫌い、地上を這うエルフたちを見下していた。
だが今、目の前に広げられたのは、種族の垣根を超えた「知恵の結晶」だ。
「……ふむ。竜の発想に、エルフの技、そして我ら天狗の『風読み』か」
長老が空を見上げる。そこには、変わらぬ風が吹いている。
「我らは翼を失ったが、代わりに空よりも広い世界と、友を得たようじゃな」
長老はニカリと笑い、セフィラに握手を求めた。
「よかろう。我ら天狗一族が持つ気象の知識、そして隠された『風の道』の地図……惜しみなく提供しようぞ!」
「ありがとう、長老! これでまた、みんなで空を飛べるね!」
セフィラが長老の手を両手で握り返す。
かつて空の覇権を争った二つの種族と、地上の知恵者。
種族を超えた「風の盟約」が、ここに結ばれたのだった。
◇◆◇◆◇
王宮の練兵場では、若き乙女たちの、この世の終わりかのような絶叫が木霊していた。
「ひぃぃぃぃっ! し、死ぬぅぅぅ!」
「あと500周だ! 止まるな! 止まったらケツに火をつけるぞ!!」
鬼神の如き形相で巨大な棍棒(釘なし)を振り回しているのは、炎の将軍フレアだ。
彼に追い立てられ、泥まみれで走り回っているのは、次期六天将候補として選抜された精鋭メイド隊――フェンリア、アクアリーヌ、フィンドラ、ルナリアの四名だ。
彼女たちは皆、竜の血を引く誇り高き一族の娘たちであり、元々高い戦闘能力を持っている。
だが、今の状況は異常だった。
全員が、自分の体重と同じ重さの岩を背負わされ、さらに足には鉄下駄という拷問装備。
「フ、フレア様ぁ! こ、これ魔力強化なしじゃ物理的に無理ですぅ!」
炎の赤髪を持つ竜族の娘フェンリアが、涙目で叫ぶ。
「甘えるなフェンリア! 魔力がなければ筋肉を使え! 筋肉がなければ根性を燃やせ! 魂で岩を浮かせろ!」
「理論が破綻してますぅぅぅ!」
「――うるさいわね。口を動かす暇があったら脳を動かしなさい」
冷徹な声と共に、頭上から大量の水風船が爆撃のように降り注いだ。
バシャーン!!
水の将軍シエルだ。彼女は優雅に日傘を差しながら、冷酷にストップウォッチを押した。
「ひゃああっ!?」
「冷たっ! え、なんで水!?」
ずぶ濡れになった水竜族のアクアリーヌと風竜族のフィンドラが悲鳴を上げる。
「体を冷やして思考をクリアにするための配慮よ。さあ、走りながらこの『古代竜語の複雑怪奇な暗号文』を解読しなさい。制限時間は次のコーナーを曲がるまで」
「は、走りながら暗号解読!? しかも岩背負って!?」
真面目な闇竜族のルナリアが絶望の表情を浮かべる。
「できない? なら、罰として今晩の夕食は『激辛特盛カレー・水なし』よ」
「「「いやぁぁぁぁッ!!」」」
熱血筋肉ダルマのフレアと、冷徹サディストのシエル。
この最強夫婦による「肉体と精神の」指導に、次世代の希望たちは完全に涙目だった。
「ほらほら、フィンドラ! 足が止まってるぞ! 風のように走れ!」
「風は岩なんて背負いませんーっ!」
「アクアリーヌ! 計算ミスよ。罰として追加の水!」
「ぶふっ! も、もうお腹いっぱいですぅ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図。
そんな惨状を、練兵場の隅に設置された特等席(ティーセット付き)で、優雅に眺める二つの影があった。
亡きアウラの後を継ぎ、新たな『光の六天将』となったソルニアと、ガイアの後継者である『土の六天将』テラナだ。
「……うわぁ。フェンリアちゃん、白目剥いてますよ」
ソルニアが芳醇な紅茶の香りを楽しみながら、他人事のように呟く。
「あれ、私たちが受けなくて本当に良かったですねぇ。見てるだけで胃が痛くなります」
「全くだ。……おい見ろソルニア。ルナリアのやつ、走りながら数式解いてるぞ。あいつ意外と根性あるな」
テラナがサクサクとクッキーを齧りながら、棒読みで声を張り上げた。
「がんばれー。未来の六天将ー。期待してるぞー」
「ファイトでーす。生き残ってくださいねー。あ、シエル様、あそこの角度から水攻めすると効果的ですよ?」
ソルニアが余計なアドバイスを送る。
「せ、先輩ずらしないでええええ! あんたたちもメイド隊同期でしょ!!
「あとで覚えてなさいよぉぉぉ!」
フェンリアとルナリアが血涙を流しながら叫ぶが、すぐにフレアの棍棒が飛んできて悲鳴に変わる。
新たな六天将と、その候補生たち。
騒がしく、理不尽で、けれど活力に満ちた世代交代の風景が、そこにはあった。
◇◆◇◆◇
そして、夜。
喧騒が静まり返った王宮の一室。
そこは、静寂に包まれていた。
天蓋付きのベッドで、一人の少女が眠っている。
末娘のアルテミスだ。
神との決戦で、世界中のエネルギーを受け止める「核」となった彼女は、あれから一度も目を覚ましていない。
医師の診断では、身体に異常はない。ただ、あまりにも大きな力を通した反動で、魂が深い休息を求めている状態だという。
「……今日も、起きなかったな」
ベッドの脇で、ヒカルがぽつりと呟く。
彼は毎晩こうして、眠る娘の手を握り、その日の出来事を語りかけていた。
「ごめんなさい、ヒカル……。私がもっと強ければ、この子に負担をかけずに済んだのに……」
隣でルーナが潤んだ瞳を伏せる。
自分譲りの「光の因子」が、娘を犠牲にしてしまったのではないか。彼女はずっと自分を責めていた。
「違うよ、ルーナ」
ヒカルは首を振り、ルーナの肩を抱き寄せた。
「アルテミスは自分で選んだんだ。みんなを守ることを。……あの子は強い子だ。きっと、夢の中で、これからの未来を見る準備をしているだけさ」
ヒカルはアルテミスの銀色の髪を優しく撫でる。
その寝顔は安らかで、まるで幸せな夢を見ているかのようだった。
「……待ってるぞ、アルテミス。お前が目覚めた時、世界がどれだけ素敵になったか、一番に教えてやるからな」
窓の外には、満月が輝いていた。
新しい時代は動き出している。あとは、最後のピースである「希望」が目覚めるのを待つだけだった。
【第195話へつづく】