7/6再開《音楽xSFxファンタジー戦記》【交響詩】竜の姫と絆のユニゾン ~最強の力は絆の中に。人類に裏切られた天才軍師の俺は六竜姫の激情を調律し和音を奏でて覇道を往く~5サイト33KPV
帝都の復興が進む中、ヒカルは久しぶりに王宮の地下倉庫を整理していた。
魔力が失われた今、不要になった魔導具やアーティファクトを分類し、博物館行きか廃棄かを決める作業だ。
「……ん? これは」
埃を被った木箱の隅に、見覚えのある古びた端末が転がっていた。
かつてカインが愛用していた、旧時代の魔導演算機だ。
神との決戦でカインの人格データは消滅したはずだ。だが、ヒカルがその端末に手を触れた瞬間、残っていた微弱な魔力のが反応し、ホログラムが明滅した。
『――よう。これが再生されているってことは、貴様、また貧乏くじを引いて泥臭い復興作業でもやってるんだろ?』
懐かしい、人を食ったような声。
カイン・グリムウッドの、予約されていたビデオメッセージだった。
「……カイン。お前、こんなものまで用意して……」
『勘違いするな。これはただの自動送信プログラムだ。……システムは破壊され、魔法も消える。俺というバグも消滅する。だが、貴様のの隅っこくらいには、俺の席を残しておいてやってもいい』
ホログラムのカインは、いつものように眼鏡を押し上げ、不敵に笑った。
『ヒカル。貴様の「愛」という名のバグは、論理的に見れば最悪の非効率だ。だが……種の存続と進化という観点においてのみ、システムすら凌駕する「最適解」だったと認めてやる』
それは、天才軍師からの最大の賛辞だった。
『せっかく手に入れた不完全で不便な世界だ。せいぜい、貴様らしく、非効率に、無様に、そして幸せに足掻き続けろ。……あばよ、宿敵よ』
プツン。
映像が消え、端末は完全に沈黙した。二度と起動することはないだろう。
ヒカルは静かに端末を撫で、倉庫の棚の一番見えやすい場所に戻した。
「……ああ。言われなくても、幸せになってやるさ」
◇◆◇◆◇
その頃、王宮の裏庭にある秘密基地(かつての資材置き場)では、次世代を担う少年たちが集まっていた。
復興作業の合間の休憩時間。話題は自然と、彼らの年頃らしい「色恋沙汰」へと流れていく。
「……で? どうなんだよ、ライオス。お前、シズクとはどこまで進んだんだ?」
ニヤニヤしながら切り出したのは、セフィラの息子であり、自由奔放な性格のリオだ。
「はぁ!? ど、どこまでって何だよ!」
ライオスが顔を真っ赤にしてジュースを噴き出す。
「とぼけるなよ。この前の復興作業の後、二人でいい雰囲気だったじゃないか。……まさか、チュウくらいしたのか?」
「し、してねーよ!! バカかお前!」
ライオスが立ち上がって叫ぶ。その反応自体が怪しいと、全員の目が語っている。
「俺とあいつは、その……喧嘩仲間っていうか、ライバルっていうか……」
「素直じゃないですね、ライオス」
冷静にツッコミを入れたのは、生徒会長のシリウスだ。彼は優雅にを飲みながら諭す。
「君が次期国王として即位するなら、シズクはになる可能性が一番高い。最強の炎と理知的な水。政治的にも相性は抜群だ」
「うぐっ……シリウス兄貴まで……!」
ライオスは頭を抱えた。
「わかったよ! 確かにあいつは……その、頼りになるし、たまに可愛いとことかあるけど……! まだ手も繋いでねーよ!」
「ヘタレだなー」
ヴァルキリアの義理の息子、クロノスがボソッと言う。
「俺はリベルと剣の稽古中に3回くらいハプニングで抱き合ったぞ」
「それは事故だろ! ノーカウントだ!」
ライオスは悔し紛れに、矛先をニヤニヤしているリオに向けた。
「そういうお前はどうなんだよ、リオ! 天狗族のフウガと仲良くやってるらしいじゃねーか。お前だって何も進んでないんだろ?」
しかし、リオは涼しい顔で肩をすくめた。
「え? フウガ? ああ、この前グライダーの試運転中に、上空でちゅーしたぞ」
「「「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」」
ライオス、シリウス、クロノスの三人が同時に叫んだ。
「お、お前……! 抜け駆けかよ!?」
「驚きましたね……。セフィラ様の息子だけあって、手が早い」
「……風のように自由すぎるだろ」
「へへっ、風の中だと気分が高まるんだよなー。向こうも満更じゃなかったぜ?」
リオが得意げに鼻をこする。どうやら、このメンバーの中で一番「大人」なのは、この自由人らしい。
そんな色めき立つ少年たちの輪の中で、一人だけ会話から完全に取り残されている少年がいた。
やや小太りなテラの息子、グラウンドだ。
彼はポカーンと口を開け、眠そうな目をこすりながら首を傾げている。
「……ふあ。……ねえみんな、チュウって、美味しいおやつか何かの話?」
「「「お前は寝てろ!!」」」
全員からのツッコミが炸裂した。
少年たちは笑い合う。
魔力のない世界で、彼らは剣や魔法の修行だけでなく、こうした「青春」の悩みも分かち合っていた。
やがて彼らが大人になった時。
ライオスが王として立ち、シリウスが軍を率いてそれを支える。
そんな未来が、確かな予感としてそこにあった。
◇◆◇◆◇
一方、王宮のテラスでは、少女たちによる華やかな「ガールズトーク」が繰り広げられていた。
「――でね、シリウス様が『君の淹れたお茶が一番落ち着く』って言ってくれたの!」
ノアが頬を染めて報告すると、周囲から「キャーッ!」と歓声が上がる。
「やるじゃないノア。外堀から埋めていく作戦ね」
シズクが冷めた紅茶を啜りながら評価する。
「そういうお姉ちゃんはどうなの? ライオス兄さんと」
「ぶふっ!?」
シズクがむせる。
「な、何よ。あんな単細胞、ただの腐れ縁よ。……まぁ、重い荷物を持ってくれたり、私が計算ミスした時に慰めてくれたりはするけど……」
「はい、ごちそうさまー」
リベルが呆れたように手を振る。
そんな中、分厚い本を抱えたソイルが、珍しく口を開いた。
「……わたしは、ユリウス様と、新しいコンクリートの配合比率について語り合いました。……とても、ドキドキしました」
「そ、それは恋なの? それとも学術的な興奮なの?」
全員がツッコミを入れるが、ソイルは幸せそうに微笑んでいる。将来、彼女が宰相や文官として国を支え、ユリウスと共に歩む姿が容易に想像できた。
と、そこへ。
テーブルをバンッ! と叩いて立ち上がった少女がいた。
アクアの娘であり、シズクの双子の妹にあたるマリンだ。
「……解せぬ」
マリンはギリギリと歯噛みしている。
「お兄ちゃんも、ノアも、シズクお姉ちゃんも、みんな春が来てるじゃない! なんで私だけ浮いた話がないのよ!」
彼女は歌が得意で、明るく可愛い皇女だが、なぜか男運がなかった。
「あーあ。どこかにライオスお兄ちゃんよりカッコよくて、シリウス兄様より優しくて、将来有望な王子様いないかなー!」
「……ふふ。それなら、いい物件がありますよ」
突然、背後の柱の陰から声がした。
「ひゃっ!? ミ、ミスティ!?」
ヴァルキリアの娘、ミスティが音もなく現れ、一枚の写真をテーブルに置いた。
そこに写っていたのは、帝国の制服を着た凛々しい少年の姿だった。
「これは……?」
「じゃっじゃ~ん! 皇帝レオナルド様の御子息、レオン皇子です」
ミスティが得意げに眼鏡を光らせる。
「おばさま(シェイド)の隠密ネットワークからの極秘情報です。容姿端麗、頭脳明晰、性格は温厚篤実。現在、婚約者なし。……格的にも、竜の皇女の相手として申し分ありません」
マリンが写真を食い入るように見つめる。
そして、バッと顔を上げた。
「……決めた! 私、この人をオトす!」
マリンの瞳に、母レヴィア譲りの情熱の炎が宿る。
「ライオスお兄ちゃんよりイイ男を捕まえて、絶対に見返してやるんだから! ミスティ、詳細データ頂戴! まずは胃袋から攻めるわよ!」
「了解です。……ふふ、面白くなってきましたね」
盛り上がる少女たち。
恋に、夢に、野望に。
彼女たちのエネルギーは、魔力が消えた世界でも尽きることはない。
少年たちも、少女たちも。
親たちの背中を追いかけ、やがて追い越していく。
その賑やかな声は、平和な王宮の空にいつまでも響き渡っていた。
【第196話へつづく】