【完結】冷徹侯爵様、お気の毒なので『円満な婚約解消』して差し上げます
その後、わたくしはアルベール様とリリアーナ様にお話ししたいことがあるとお願いし、お二人に集まっていただきました。
そして、お父様の驚くべき計画、『東の隣国アルファンブラ帝国への極秘外交』の話を、丁寧に説明したのです。
すべてを聞き終えたお二人は、それはもう目を見開いてもの凄く驚かれ、声を揃えてお父様のことを「なんて底知れない人なんだ!」と大絶賛してくださったのです。
すると、リリアーナ様は目を輝かせ、身を乗り出されました。
「でしたら、そのアルファンブラ帝国への旅、私も同行いたしますわ! あちらの国の第二王子殿下に嫁いだお姉様にもお会いしたいですし、公爵家の娘である私がいた方が、帝国側との交渉の場でも何かと協力できるはずですもの!」
「おいおい、リリアーナ。ただ単に、帝国の大きな市場へ買い物に行きたいだけではないのか?」
いとこであるアルベール様が、呆れながらも冗談っぽく言います。
「し、失礼ね、本気ですわよ! きちんと役立つところ、見せてあげますわ」
リリアーナ様はそう言って、頬を膨らませました。ですが結局のところ、アルベール様もこの前代未聞の壮大な計画に興味津々なご様子で、ご自分も一緒に行くと言われました。
お父様に「お二人も同行したいそうです」と相談したところ、「それはなんと心強い! ぜひこちらからもお願いしたい」と大歓迎してくれました。
こうしてお父様、商会長、アルベール様、リリアーナ様、そしてわたくしの五人は、揃ってアルファンブラ帝国へと向かうことになったのです。
ちなみにこの時、本国にいるリチャード様から、アルベール様宛てに手紙が届いたのですが……旅立ちの準備でバタバタしていたわたくしたちは、その手紙の存在をすっかり忘れたまま出発してしまったのでした。リチャード様、本当にごめんなさい!
そして、アルベール様とリリアーナ様が、ご両親である公爵閣下にこの極秘外交の事情を説明したところ、なんと「それは名案だ!」と二つ返事で快諾してくださいました。そればかりか、さすがは抜け目のない公爵閣下です、
『もしその船の製造が決まったら、ぜひとも我が公爵家にも安く提供して欲しい』
という、ちゃっかりとした条件を出されたのです。
その報告をアルベール様から聞いたわたくしは、ふふっ、と悪戯っぽく微笑んで、商人の娘として、とっておきの提案を口にいたしました。
「でしたらアルベール様、公爵閣下にお伝えください。その船の所有権を『十六分割』、もしくは『二十四分割』にして、その権利を売り出せばよろしいのですわ、と」
「……ん? 船を分割する? 一体どういうことだい、ルシアン嬢」
アルベール様が不思議そうに首を傾げます。
わたくしはにっこりと微笑み、得意げに解説を始めました。
「大きな船を丸ごと一隻買い取るには、公爵家といえど莫大な資金が必要ですわ。それに、もしその船が嵐で沈没してしまったり、海賊に襲われてしまったら大赤字になってしまいます」
そこで一度言葉を区切り、アルベール様をじっと見つめました。
「ですが、船の権利を細かく分割して、複数の貴族や商人に少しずつ出資していただくのはどうでしょう? そうすれば、一人が出すお金は少なくて済みますわ。万が一船が沈んだとしても、損失は出資した分の権利だけで済みます。つまり、『リスクは分散させる』。これはビジネスの基本ですわよ?」
さらに、両手を腰に当てて微笑みました。
(実はこの発想、わたくしがお父様から学んだ『卵を一つのに盛るな』という格言から思いついたものなのです。すべてのものは分散する。ならば船の権利、つまり資金も、同じように分ければ良いのですわ)
そして最後にコホンと軽く咳払いをして締めくくります。
「では最初に仰っていた、一隻丸ごと船を購入する資金で、何隻分の権利を得られると思われますか? ということですわ。誰だってこちらの提案を選びます」
得意気な表情でそう告げると、アルベール様は息を呑み、完全にわたくしの話に呑まれていました。
「ルシアン嬢……君は本当に、ただの通訳のつもりなのか……? その発想は、商人というよりも投資家の発想だ!」
「お褒めに預かり光栄ですわ。でも、わたくしはあくまで、商人の娘。どうか今お話ししたことを公爵閣下にお伝えください」
「分かった。必ず伝える。こんな画期的な提案を聞いたら、どれほど驚くか、楽しみだ」
その言葉を聞き、わたくしは内心で、よしっ、と小さくガッツポーズを取りました。
こうしてわたくしたちは、未来への特大の野望を胸に抱き、レイモンド伯爵の目を完全に欺いたまま、いよいよアルファンブラ帝国へと足を踏み入れるのでした。