攻略組が帰った後から始まるVRMMO 〜イベントに遅れた俺だけが、誰にも拾われなかったユニークを見つける〜
「みんな、攻撃が届くところから参加していこう。無理に前へ出る必要はないからね」
ロヴェルがパーティチャットで声をかける。
「了解」
「分かりました」
「はい」
俺も返事をしてから弓を構える。
まともに正面から殴り合えるレベルではない。でも、攻撃が一切届かないわけじゃない。
前線ではもう戦闘が始まっていた。
正面ではアスレガの盾職が《アトラクト》で注意を引き、その左右から前衛たちが灰色の装甲へ攻撃を叩き込んでいる。
さらに周囲から様々なパーティが攻撃を重ねていた。
「硬っ!」
「全然通らないぞ!」
「爪に注意しろよ!」
プレイヤーたちの攻撃を一斉に受けているはずなのに、鎧蜥ドルガーレンのHPの減りはかなり遅い。
右前脚を振るえば、盾職の横にいたプレイヤーまでまとめて吹き飛ばされる。
「今なら距離的に届きそうです」
ドルガーレンの向きが前線へ固定されたところで、俺も弓を引く。
《ピンポイントショット》が灰色の装甲へ当たり、小さな光を散らした。
ダメージはほとんど入らない。
それでも攻撃には一応参加できる。
銀ゴツネやリック、他のメンバーもそれぞれ届く位置から攻撃や支援を始めていた。
その上から魔法や遠距離攻撃が降り注ぐ。
なかでも風属性の攻撃が当たった場所だけ、装甲へ残る傷が深かった。
その直後、指揮チャットで青蘭の声が飛んだ。
『敵の外殻には風属性が通りやすいようです。使える人はそちらを中心にお願いします』
《Astra Regalia》の攻撃がさらに風属性へ寄っていく。
そのとき、視界の端に新しい通知が開いた。
―――――
【探索支援】
調査情報が更新されました。
《大鎧蜥の外殻》と《鎧蜥ドルガーレン》との関連を確認しました。
―――――
「え……進んだ」
「お、こっちも何か出たぞ」
「俺のもだ」
隣で銀ゴツネとリックが声を上げた。
「やっぱりあの外殻、こいつのだったんだな……」
銀ゴツネがドルガーレンを見上げる。
「拾ったときは何なのかも分からなかったのに」
「ああ、こんな感じで繋がるとはな。面白え」
リックが少し笑った。
「お、探索支援が進んだのかい?」
「はい。外殻とドルガーレンの関連が確認されたみたいです」
「なるほど。実物まで見てから確定なんだねぇ。それだけでも来た意味があるよ」
俺は頷いてから通知を閉じ、ドルガーレンを見る。
「爪と体当たりに注意!」
「動きの癖はないか?」
「背中側にまわれ!」
前線から声が飛び交っている。
傷は増えているが、装甲そのものはまだ崩れていなかった。
そんな中、シグエルは武器を抜いたままドルガーレンの動きをじっと見ていた。
刀身には中央広場で見た灰白色の光が走っている。
そこへ青蘭から風属性の支援が飛び、風が灰白色の光を巻き込みながら《灰冠竜の穿牙剣》の周囲を巡り始めていた。
その間も、《Astra Regalia》の前衛たちは右前脚へ攻撃を集中させている。
盾職が正面で受け止め、その内側から斧や槌が叩き込まれる。
シグエルだけはその攻撃に参加せず、右前脚の動きを見ていた。
ドルガーレンが盾職を振り払おうと脚を踏み込む。
その瞬間、厚い装甲の端がずれ、その下からもう一枚の灰色が覗いた。
「……あ」
次に右前脚が深く曲がったとき、今度ははっきり見えた。
一枚ではない。
いくつもの外殻が重なって前脚を覆っている。
そして前脚を深く曲げた瞬間だけ、その重なりにわずかな隙間ができていた。
「ロヴェルさん、あそこ……!」
「うん、今見えたね」
右前脚の付け根。
外殻と外殻の間に隙間が開いた。
シグエルの方を見てみると、俺たちと同じ場所に気付いたようだった。
ロヴェルが今の情報を青蘭へと送っている。
すぐに指揮チャットから青蘭の声が飛んだ。
『――前衛はもう一度、ボスの位置を固定させてください』
指揮に合わせて《Astra Regalia》の前衛が回り込むように動いた。
盾職が大きく踏み込み、別の前衛が内側から槌を叩き込む。
青蘭がシグエルを見る。
「シグ、次行ける?」
シグエルが頷いた。
「――《アキュラシー》」
足元に薄い光輪が広がる。
剣を巡っていた風と灰白色の光が刀身へ沿っていく。
「シグ、二十秒だ。行くよ。《スピリットオーバー》」
青蘭の杖から強い支援の光が弾けた。
シグエルを包む光がさらに膨れ上がり、刀身の周囲で風が激しく渦を巻いた。
「やべえ……なんだあのバフスキル」
リックが思わず呟いていた。
スキルに詳しくない俺でも分かる。
さっきまでとは、明らかに違う。
それでもシグエルはまだ動かない。
ドルガーレンが右前脚を踏み込み、盾職がそれを受ける。
反対側から斧や剣が入る。
そこで、シグエルが柄を握り直した。
「――『グラウ・シュニット』」
ギィィイイイン――――!
戦場の音を押し退けるような甲高い音が鳴り響いた。
《灰冠竜の穿牙剣》を包む光が大きく変わる。
灰白色の光が刀身から噴き上がり、風を巻き込みながら巨大な螺旋となった。
溢れた光が後方へ長く尾を引く。
「……あんなにスキルって重ねられるのか」
「私も初めて見たよ」
銀ゴツネとロヴェルが思わず後ろへ下がる。
まだ隙間は開いていない。
でも、シグエルはもう踏み込んでいた。
――速い。
先ほどまで立っていた場所には灰色の残光だけが残っていた。
ドルガーレンが盾職を押し返し、右前脚を引く。
外殻がずれる。
「――開いた!」
ほんの一瞬。
右前脚の付け根に隙間が開いた。
そのときにはシグエルはそこにいた。
「《フォーカスエッジ》――!」
瞬間、荒れ狂っていた光が消えた。
風も。
灰白色の光も。
全てが《灰冠竜の穿牙剣》へ吸い込まれ、刀身の中へ押し込められていく。
シグエルの腕が動いたと気づいたときには、剣そのものが視界から消えていた。
灰色の残光だけが一直線に走る。
狙うのは、右前脚の付け根に開いた外殻の隙間。
一瞬だけ、重なった外殻が刃を止めた。
シグエルがさらに踏み込む。
次の瞬間、剣が外殻の隙間を抜け、右前脚の付け根へ深く突き刺さった。
そこから灰白色の光が爆発するように噴き上がる。
何本もの光が外殻を内側から突き破り、その中心からひときわ太い光柱が空へ伸びた。
一瞬、戦場の上空まで白く染まる。
ドルガーレンの巨体が大きく跳ねた。
足元の赤砂が円状に弾け飛ぶ。
右前脚の付け根から数え切れないほどの亀裂が広がり、その全てから灰白色の光が噴き出した。
「な――――」
亀裂が一斉に弾けた。
多数の攻撃でも壊れなかった外殻が、内側から押し広げられるようにまとめて砕け散る。
そして――次の瞬間。
ドルガーレンの右前脚が根元から吹き飛んだ。
一瞬、戦場から音が消えた。
巨大な右前脚が砕けた外殻を撒き散らしながら前線の遥か上を一直線に横切る。
そのまま遠くの赤砂へ深々と突き刺さり、周囲の砂が大きく跳ね上がった。
「ちょぉぉおっ、待てえ!? 前脚ふっ飛んだぞおお!?」
「え、部位破壊!?」
「前脚を部位破壊って何だよ!」
そこから一気に声が上がった。
「尻尾の部位破壊なら見たことある。でも……」
「牙とか角だろ、普通!」
「脚そのものが吹っ飛ぶ部位破壊なんか見たことねえよ」
「やっば……!」
俺も吹き飛んだ右前脚とシグエルを交互に見る。
シグエル本人はすでにボスから距離を取っていた。
右前脚があった場所には装甲のない部分が大きく露出している。
「おおお、付け根が開いてるぞ!」
「そこへ攻撃を集中しろおお!」
前線がすぐに動き直した。
槍が突き込まれ、斧と槌が続く。
風属性の攻撃もそこへ一斉に集中する。
HPバーが大きく削れた。
「うおおおおおぉぉおお!!」
歓声が上がる。
俺も拳を握っていた。
二十秒。
その短い時間の中で何をどこまで積み上げていたのか俺には分からない。
でも、あのシグエルの一撃で戦況が大きく変わった。
「右側、まだ開いてる!」
「付け根を狙え!」
盾職が入れ替わり、回復と支援が飛ぶ。
後方からの攻撃も露出した場所へ集まっていく。
俺も弓を引いた。
矢が露出した場所へ飛び込む。
HPが七割を切る。
そして、そのまま六割まで減っていった。
「いけるぞぉぉおお!!」
前線から声が上がる。
俺もそう思った。
さっきまで何をしても弾かれていた相手が、今は確実に削られている。
このまま行ける――そう思った直後だった。
ドルガーレンの動きが止まっていた。