異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
俺はにこっとする。「召し上がります?」
「あらいいの? ……あら、お客さんがいたのね」
リエナさんがサッディレくんに会釈した。サッディレくんは、どう対処すべきか解らない、という顔。
座って待っていて下さいというと、リエナさんは椅子へ座った。お茶を出す。
こんなこともあろうかと、ふたつつくっている。心配ない。
そろそろいいかな?
オーブンを開け、パイをとりだす。うん、よし。
とりだして、粗熱をとり、型から外す。包丁で切り分けて、お皿に移した。
フォークを添えてトレイへのせ、、テーブルへ運ぶ。「できましたよ」
トレイを置いて、お皿を配る。どういう訳か、リエナさんまで不機嫌そうに口を尖らせてしまっている。待たせすぎたかな。
はい、と目の前に置くと、サッディレくんは、なんともいえない表情を浮かべた。戸惑ってる?
まあいいや。席について、フォークをとった。戴きます。
口へ運ぶ。……うん、上出来。バターの香りはうすいけれど、おいしい。ペカンたっぷりだから、こくもある。
セロベルさんがにやにやした。視線を辿ると、サッディレくんがかたまっている。
「口に合わない?」
「そんなわけあるかよ、なあリエナ?」
「とってもおいしいわ」
リエナさんは大きくひとくち頬張って、目を瞑ってゆっくり噛みしめる。「これだけのものをつくれるひとはなかなかいないと思う」
誉められた。えへへ。
セロベルさんはふんと鼻を鳴らした。
「おう、満足か手前。マオがちゃんとした料理をつくれる人間だって解ったんならとっとと失せやがれ」
「え?」
セロベルさんを見た。「どういうことですか? ここで働いてくれるかもしれないんでしょ?」
「こいつ、マオをばかにして……とにかく、こういう手合いはうちには勤めてもらいたくねえ」
うん?
……あれかなあ。俺がピアスしてないから、なんかいったのだろうか、サッディレくん。
まあ、でも、それは俺が紛らわしい格好してるせいもあるし。よく考えたら、いつだったかに頭を洗って以来、髪を編んでもいない。あみこみなんて高等な技術は身に着けていない。
「セロベルさんだって色々云ってたじゃん」
「そっ。それは、悪かった、謝る。あれは全面的に俺が悪い」
頭を下げられた。素直なことだ。セロベルさんって、やっぱり口調が荒いだけだよな。
「サッディレくん」
フォークを手にかたまるサッディレくんへ声をかける。目が合った。「ここで働きたくて来たんだよね」
ちいさな頷きが帰ってきた。
「今はどうなの?」
「……これ、くえるなら、働きたい」
「おまえ!」
「じゃあ、謝って」
セロベルさんが棒をのんだようになった。
俺はサッディレくんを見詰める。サッディレくんは目を伏せ、ペカンパイを見る。一分くらい沈黙があった。
「失礼なこと云って、ごめんなさい」
「ん。じゃあ、いいですよね、セロベルさん」