異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
三人とも驚いた顔で俺を見る。セロベルさんは立ち上がっていたし、サッディレくんは椅子からずり落ちそうになっている。「え?」
「どうしてそうなるんだよ」
「そうよマオ、なに云ってるの」
「え。だって、さっきセロベルさんは謝って、それですみましたよね。じゃあ、サッディレくんもそれでいいでしょ」
セロベルさんが頭を掻きむしる。「俺とは違うだろ。お前はあの時強く否定しなかった。でも俺はこいつに何十回も、マオはそういう商売じゃねえしうちはその手のことが目的のやつには部屋を貸さねえって云った。こいつはそれを鼻で笑って、建前はいいからとかなんとかふざけたことばっか! お前の年齢だって、子どもじゃないって設定だと」
「あれ? 年齢はセロベルさんも信じてくれなかったでしょ」
「二十四に見えねえからな! でも俺は純粋にその歳に見えねえから信じてねえ、こいつは商売の為に偽ってるんだって決めてかかった。全然違うだろ!」
違うと云えば違うけれど、謝っても許されない程ではない。
「俺にとっては似たようなもんだしー」
「お前なあ」
「それに、そういう仕事のひとと思われたぐらいで、腹も立たないです」
いいんじゃないの別に。外見が整ってるって意味ととれば。
麺の行商さんは別。あれは、侮蔑の言葉だったから、次元が違う。
「本気だから、ここの業態のことを詳しく聴きたかったって理解で。だめ?」
三人は無言。俺はにこにこする。「で、焦熱士さんなの? 氾濫士さん?」
「……氾濫士」
おおー、助かる。
セロベルさんがすとんと腰を下ろした。「マオ、お前、甘いぞ」
「そんなことより、セロベルさん、サッディレくんを雇いたくない理由は、俺のことだけ?」
「ア?」
「それとも実力不足?」
セロベルさんは不満顔になる。
「氾濫士としての実力は申し分ねえ。傭兵協会のお墨付きだ」
「じゃあ」サッディレくんへ手を差し出した。「あらためて宜しく。マオ・クニタチです」
「……ロアの出?」
サッディレくんはぼそっと、そう訊いてきた。
首を傾げる。「さあ?」
「……違うみたいだね」
ああ、あれ、ロアの食べものなのか。
サッディレくんは俺の手の指先を、軽く握った。握手のやりかたも違うみたい。こちらは右手を出したのだが、あちらは左手を出した。
「宜しく。ラフィアレサディーエール、通称はサッディレ。悪いけど、うちの一族は名字を持たないから、なのれない」
わー、舌噛みそう。すんごく長い名前。
セロベルさんがテーブルへ突っ伏した。「ああもう。慥かにそいつはつかえるから、雇うよ。雇えばいいんだろ。ただし、マオに無礼を働いたら、井戸にたたきこんでやるからな」