異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
庇うつもりではなかったが、結果として庇った。
ベッツィはライナイのことを誰にも云わず、放置した。乱暴者に酷い目にあわされそうになっても事を荒立てない理由も解った。そんなことをしたら、おかしな還元士の正体が開拓者だと気付かれかねない。藪をつついて蛇を出すくらいなら、屈辱に耐えるほうを選ぶということだろう。
ベッツィは、開拓者だと気付いていることを伝えるべきか、悩んで結局伝えなかった。
ライナイはそれからも村の連中に侮られ、蔑まれ、青年達の憂さ晴らしの対象になっていた。ライナイはじっと耐えていたし、ベッツィにはどうしようもない。
還元士の意外過ぎる正体に気付いてひと月後、ベッツィはライナイが溜め池をつくっていた理由を知った。
山向こうの集落で鉄砲水が起きたのだ。ながあめが続いていたし、条件で云えばこちらでも起こっておかしくはない。なのに起こらなかった。ライナイがせっせと溜め池をつくり、増水した川から水を運んでくれていたからだ。
ライナイは、おそらく本来起こる筈だった鉄砲水で死んだのだろう、とベッツィは思った。村の人間に恩義を感じている訳はないし、助ける理由はない。ライナイは山に住んでいるから、まきこまれたに違いない。
一年目が終わって、季節がめぐった。冬の終わりに、帝都へ要請していた還元士がやっと村に来た。
新しく来た還元士はベッツィと同じくらいの年齢で、ロアネス・バフィティ、貴族だった。
還元士を派遣してほしいと要請していたことをすっかり忘れていたベッツィは、焦った。還元士が来たらライナイの仕事を奪ってしまうし、その上貴族となれば、ツァリアスを知っている可能性もある。
ベッツィは、帰ってくれとどう切り出すか、真剣に考えた。だが、相手は貴族で、親が叙任されている。当人は跡取りではないらしいが、村の者は敬意と畏怖を込めてロアネス卿と呼んだ。ベッツィも、ロアネス卿と呼び、還元を頼む時も敬語だった。
案の定ライナイはお呼びがかからなくなった。そして村の代表者がライナイの家を訪れ、立ち退くよう伝えた。
ところがベッツィの予想を超えたことが起こった。ロアネスが、なんと酷いことを、と村の者を咎め、ライナイの家まで行って、立ち退く必要はないと云ったのだ。
当地で偉いのは領主とその家族、次が国府の官吏、その次が議員で最後が地方官、である。一般市民の力はほぼない。
そして、同じ国府の官であっても、ベッツィは単なる地方議員の娘、ロアネスは貴族の子だ。村の人間は異を唱えるどころではない。ベッツィにならともかく。
ベッツィも、疑問には思ったもの、気軽に質問できる立場でも間柄でもない。とりあえずライナイが路頭に迷わなくてよかったとほっとした。