異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ラスターラ卿は髪を耳にかけた。真珠のピアスが綺麗だ。
「最近は、還元してもおいしいりんご酒に手を出していまして。どうせ酒なぞ嗜好品ですし、呑まれなくなったらお仕舞です。ぶどう畑は潰せと親族中から」
「勿体ないです! 絶対だめ。ああ、でも丁度いいです、りんご酒ならお酢になりやすい筈。それをぶどうのお酒に混ぜてお酢にしてしまえば絶対においしいですから」
「はあ……しかしなぜ、こんなに親身になってくれるのですか」
「いいお酒はお料理につかえるんです」
はっと思い至る。ここに来たばかりの時、魚料理の香りがかすかにしていた。それに普段ひとが住んでいるところらしい。ってことは、厨房がある。
俺はラスターラ卿の手を握りしめた。「厨房をかりても宜しいですか?」
ラスターラ邸の厨房は完璧な設備を整えていたが、一部の調理器具は久しく出番がないらしく、うっすら埃をかぶっていた。
埃の被害をまぬかれているお鍋を取り上げ、ラスターラ邸の料理人だというそばかすだらけの青年を振り返る。「なんでもつかっていいんですか?」
「旦那さまにそう仰せつかっております」
口調はかたかったが、敬意は感じられた。ラスターラ卿同様の。
俺は頷いて、お水と赤ワインをはったお鍋をかまどにかけ、金属製の蒸し器をセットする。料理人さんが困惑顔で、かまどに火をいれてくれた。
「酒をつかうんですか……」
「はい」
平鍋も火にかけ、調理台の上に取り残されていた真鯛(!)をいれる。すでに下処理がなされているものが二尾もあるから、予想よりも夕食をとる人数が少なかったのだろう。
お塩・白ワインを振りかけ、収納空間からとりだしたバターをひと欠片のせる。魚のなかでも鯛は結構好きなほうだな。鯛めしは炊きこんでるタイプも生タイプも好き。でも魚料理で一番ははぎの煮付けと太刀魚のみりん干し。異論は認めない。あっでもさばの塩焼きも旨い。このしろなますとかたづくりとかきびなごの生姜煮ぶりのつけ焼きふかゆびき……。
よだれをこらえて平鍋に蓋をした。かますの塩焼きとかえそ団子とか食べたいいいい。
あとめぼしいものは……おお、くだものがいっぱい。紅玉っぽいりんご発見!煮るか。
手鍋に、四等分して芯をとったりんごを並べ、白ワインを振りかける。蓋をして、ぐつぐつさせないで煮込む。
蒸し器から湯気が上がり始めたので、牛肉をいれた。スライスだと脂がなくなりそうだったから、柵で。
蒸す間に、戸棚にあったヨーグルトを、綺麗な布でこす。平鍋をもうひとつ用意して、バターでうす切りのきのこ類・たまねぎを炒める。残念ながら、マッシュルームはこの場になかった。
お肉はもういいだろう。取り出してスライスし、きのこたまねぎとともに炒める。そこへ牛ストックと、ちょっぴりの赤ワインをいれた。
「いい香りがしますね」
料理人さんが生唾をのんだ。