異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「そうでしょう」
笑みを返して、お塩と黒こしょうでビーフストロガノフの味を調える。もうちょっとバターをいれよう。これでいいかな。
お米はなかったので、乾燥したバゲット(ディファーズのひとだから食べるみたい)を切ってにんにくをこすりつけ、バターでかりっと焼いた。ビーフストロガノフをお皿に盛りつけ、ガーリックトーストと水切りヨーグルトを添える。
料理人さんに渡した。「食べてみてください」
「えっ」
さて、鯛はどうなったかな。蓋を開けると、いい感じに火が通っている。白ワイン蒸し。
かまどの火を落とした。鯛は最後に刻んだパセリを振りかけて、出来上がり。りんごはお砂糖をまぶし、お塩をちょっと振って完成だ。
作業を終えて振り返ると、ビーフストロガノフを口いっぱい頬張った料理人さんがいた。
もごもごして必死に噛んだあと飲みこんでいる。「……おいしいです」
「ですよね。ご飯と一緒に食べるとおいしいですよ。バターをまぶしたごはん」
料理人さんは想像したらしく、切なげに溜め息を吐いた。
「おおい、エヴィ」
大声をあげながら、ラスターラ卿の弟さんが千鳥足ではいってきた。「なにか……たべられるものを……くれ。エヴィイイ?」
料理人さんがお皿を置いて、ラスターラ卿の弟さんに駈け寄る。笑いながら抱き付かれてひゃっと悲鳴を上げていた。
「ファルさま、困ります」
「うーん、いいじゃないかエヴィ、僕とお前のなかだろう」
料理人さんあらためエヴィさんが赤面した。「変なことを云わないで下さい!」
放り投げるみたいにして、ラスターラ卿の弟さん=ファルさんを椅子へ座らせている。ファルさんは笑って、エヴィさんの手を掴んでちゅっちゅっとむちゃくちゃに口付けた。
「エヴィ、いつものお粥をたべたい……ん? いいにおいだな」
エヴィさんは手を振り払って、一発ファルさんの肩口をはたいた。ファルさんは発作的な笑い声を立てる。「全然力がはいっていないぞ」
「体力ばか……ほら、お水ですよ」
エヴィさんはさらっと暴言を吐いてから、ファルさんにお水のはいったゴブレットをおしつけた。ファルさんはけたけた笑っている。
「くちうつしがいい」
「ファルさま、厨房には包丁ってものがあるんですよ。俺がちゃんと包丁の手入れをしているか、ためしてみたいんですか」
エヴィさんがすごむと、ファルさんは尚更笑った。
邸の主の弟と、一介の使用人の会話には思えない。俺が戸惑っていると、エヴィさんがばつが悪そうに説明してくれた。「親の代から住み込みで働いていて。幼馴染なんです」