異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
「薬はかさばるからね」
サキくんが表情をちょっと苦くする。「僕らは収納空間を持っていないので……」
「そっか。あ、これ、どうぞ」
折角なので、クッキーの包みをひとつ渡した。「待ってる間におなかすいちゃうでしょ?たべてよ」
「わ、いいんですか?」
「うん。育ち盛りなんだから」
成長期はおなかがすいてつらいもんな。俺も昔は今よりもっと食べてた。
リオちゃんが早速包みを開き、クッキーをかじる。おいしいわ、とにこにこしていた。サキくんはそれを見詰めてにっこり。このふたりはほんとにいい雰囲気だなあ。
気を付けてね、と云って、ふたりと別れた。リオちゃんは、また行くわ、とにっこりし、サキくんは頷いて、見送ってくれた。
四月の雨亭につく。眠たい。用足しをして、井戸端で手と顔を洗い、歯を磨いた。客室棟からかすかに歌が聴こえてきた。曲調からして子守歌かな。営業再開した頃は、レントへ商談に来た男性とか、傭兵の屈強な男達だとかが主な客層だったが、警邏隊がよく利用している安全な店、という印象がついたからか、このところは家族連れも目立つ。
この世界は中学生くらいまでは親と同じ部屋に泊まるのが常識なよう。一部屋にふたり三人泊まられるとその分収益は下がるのだが、子ども連れだとお菓子を沢山買って帰ってくれるし、リピート率も高い……らしい。俺は覚えていないが、アーレンセさんがお客さんの顔をよく覚えているのだ。それも、食事だけのお客さんだったか、泊まりのお客さんだったかまで。
俺は子守歌をせなかに聴きながら、部屋へ向かった。何度も利用してくれるのは嬉しいし、あの店いいよ、と宣伝してくれるかもしれない。子どもが大人になってからも、利用してくれるかもだし。評判はこわいからなあ。
翌朝、市場に買い出しに行って、朝食をつくっていると、ミューくんが訪ねてきた。
人参をみじん切りにしていたジーナちゃんが手を停める。リエナさんがにやにやして、ジーナちゃんをミューくんのほうへ押しやった。「ミュー……」
「おはよう、ジーナ。君が具合を悪くしているんじゃないかと思ってさ」
ミューくんは背負っていたかごを下ろす。「マオさん、これ、廟の畑でとれたものです。つかって下さい」
「いいの?」
遠慮するみたいなことを云いつつ、俺はいそいそとかごの中身を改める。アーティチョークだあ!沢山ある!それに、キャベツとりんごも。
ミューくんはジーナちゃんの手をとって、くすっとした。
「顔色はいいね。水花」
「……ありがとう。アエッラになにか云われた?」
「ああ」ミューくんは首をすくめる。「まったく彼女には参るよ」
心のこもった言葉に、ジーナちゃんが思わずと云う感じでくすくすした。