異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
帳簿をつけて、外へ出る。寒いし、霧が深かった。俺は毛皮のローブをしっかり体へまきつけて、賭場へ向かう。
大きな通りに出れば街灯が明るいが、霧は一向はれてくれない。視野は悪かった。霧をすかして空を仰ぐと、細い月が浮かんでいた。星は少ない。月がきまぐれに形をかえるだけでなく、星も出たり出なかったりするのか。
冷たい指先をこすりあわせてあたため、なんとか辿りついた。生き証人さんは、格好は同じだが今日は凄く小柄で、声の感じからして中学生くらいの感じ。いつものひとは、と聴いたら、無言で頭を振られた。……なんかこわいなあ。
さて、リューを待つのがいいのか、とっとと奥へのりこむべきか。どっちだろう。
リューを待っていれば、リューに気があると思わせることができるかも。
待たずにとっとと奥へ行けば、賭けごとにのめりこんでいると思われるかも。
どっちが得かな。うーん……。
考えながら、カウンタでお酒とおつまみをもらった。ごわごわかたいタイプの発酵させたパンを薄めに切って、かりっとするまでよく焼いて、生ハムとマルメラーダをのせ、あらびきの黒こしょうをぱぱっとふったものだ。生ハムあるんだ、
食べてみたら、おいしかった。かなり塩っ辛い生ハムだが、それがマルメラーダとパンと、絶妙にあうのだ。
お酒はといえば、ラスターラ邸にはたちうちできない、というかそもそも勝負にならないレベルのお粗末なものだ。香りがほぼない、うすーい味の白ワインっぽいもの。あんまりにもあんまりなので、くだものない?と訊くと、どっさりでてきた。なので、メロンを小さめのさいの目にしていれてもらい、牛乳で割った。呑むというよりお匙ですくって食べるのだが、あの味じゃあ呑めたものではないし、おいしいからよしとする。
舌鼓を打っていると、信じがたいものを見付けた。投扇興みたいなので遊んでいる、ツィークくんだ。
思わずあっと声を立ててしまったからか、ツィークくんがこちらを見た。やば。
いややばくないのか。犯罪ではないし。……ん?
傭兵って賭けは厳禁じゃなかった?メイラさんが云ってなかったっけ。査定に響くって。
ツィークくんは口を半開きにしていた。俺は、にやっとして、胸の前で軽く手を振る。
あんまり関わり合いになりたくないのに、ツィークくんはゲームを抜け、俺のほうへと歩いてくる。俺はメロンをお匙ですくって口へ運んでいた。
「……こんばんは、マオさん?」
メロンを飲みこんだ。「こんばんは」
ツィークくんはまったくの無表情だった。
「少し、時間を戴けますか」
全然ふわふわしてない喋りかたしてる。こわいよー。