異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
マイファレット卿はミューくんの攻撃を避け、上体を起こす。「ミュー、誤解があるようだ……」
「誤解?」
「ジーナは」
「彼女の名前を呼ぶな」
ミューくんがぴしゃりと云った。「お前の口から次彼女の名前が出たら、両手足をばらしてから組み立ててやるぞ」
癒しの力をふたつ持つミューくんには、不可能な話ではない。マイファレット卿は口を噤む。
うん?マイファレット卿ってことは、マイファレット嬢のお父さん?
にしては若い。すんごくわかづくりしてるのかな。せいぜい三十代にしか見えない。
あ、リッターくんと同じ理屈か。マイファレット家の跡取りなんだ。もしくは、跡取りの資格がある。マイファレット嬢のお兄さんとか、従兄とかだろう。目の色がマイファレット嬢より淡いけれどグレーだから、お兄さんかな。
リッターくんがミューくんを見て頷いている。「流石だ」
「なにがよ」
ユラちゃんが即座に突っ込んだ。リッターくんは無視。ユラちゃんがリッターくんへ向けて歯をむきだしにした。
で、マイファレット卿がここにいるってことは、詰まり。
「ああ、そっかあ。娘のわがままって、そういうこと」
俺はぱちんと手を鳴らす。ウロアが云っていたのって、これか。ジーナちゃんをさらった理由。男親は娘に弱いって云ってたから、マイファレット嬢のお父さんとお兄さんでジーナちゃんをさらったんだ。ジーナがアエッラをいじめたの!とでも云われたら、やる……のかもしれない。
サキくんが首を傾げる。ミューくんは解ったみたいで、愉快そうにはははと笑った。「そうか、そういうことだな。マイファレット卿、妹さんにお伝えください。俺の目に触れるところにあらわれたら、ご自慢の首をもぎとって魔物の餌にしてやると」
「みゅ。みゅー?」
「ジーナにも近寄らないでもらいたいものですね。死にたいというならお手伝い差し上げますが」
「ミュー」ジーナちゃんがたしなめるみたいに云った。「怒らないでって云っているでしょう……」
「だから君は優しいんだって云ってるんだよジーナ。俺はもう我慢の限界だね。こいつらはしちゃいけないことをしたんだ」
「それはそうね。でもあなたがなにかしなくても、警邏隊が居るわ」
ジーナちゃんの口調は投げやりだ。「荒れ地に送られるでしょう」
「それもそうか」
ミューくんはあっさり引き下がる。杖をさげ、マイファレット卿から離れた。
「公は荒れ地送りになった枢機卿の家族に情けを下さるようなかたではない。枢機卿という立場にありながら、唾棄すべき犯罪に手を染めたとあらば、閉門は間違いないだろう」
単なる身の危険から、家の存続の危機へと恐怖が格上げされたマイファレット卿は、途端に血の気を失った。