異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
ユラちゃんとリッターくんはお菓子を沢山買って、迎えに来た馬車に乗って帰って行った。サキくんもお菓子の包みを幾つか買う。僕もこちらへ移ろうかな、と、ミューくんとこそこそ話していた。仲好しだなあ。
サキくんが帰り、ジーナちゃんがユラちゃんと一緒に洗ったお皿を黙々と拭いている。俺はお茶の時間のお菓子づくりだ。どーなつ。
小麦粉・片栗粉・元種・たまご・お砂糖・バター代わりのラード・おから・お水をよくませて、軽く発酵させる。オーブンのなかでちょっとだけ火を焚き、消して、即席の発酵室にした。
ふっくらふくらんだら、空気を抜いて成型。円をつくって、中心を小さなゴブレットでくりぬく。で、揚げる。くりぬいたのはそのまま揚げて、お持ち帰り用の包みにいれることにした。
ミューくんがベッツィさんの診察を終えた。
「これなら介添人をしても問題ないですよ」
「よかった……」
「夜はしっかり寝て、朝になったらひのひかりを浴びるようにして下さい。目が覚めたら成る丈はやく歯を磨いて下さいね」
「はい」
ベッツィさんは、セロベルさんとリエナさんに頼まれて、花嫁の介添人をやるそう。もうひとりの介添人は、アーレンセさん。花婿の介添えはサッディレくんらしい。
ツァリアスさんは、残念だけれど、結婚式には参列しない。ここの中庭でやるのだが、誰もが好き勝手に参加するから、シアイル貴族に見付かる危険がある。フードを目深にかぶればごまかせるが、失礼になるから結婚式ではそれは無理だ。
からっと揚げたドーナツをお皿に盛って、テーブルへ運んだ。「お疲れさまです。甘いものどうぞ」
「ああ、ありがとうな、マオ……」
セロベルさんがしみじみと云った。グロッシェさんが鼻先をふよふよさせ、目を瞬く。
「マオさん、本当にありがとうございます」
「うん?俺、なにもしてないですよ」
「いいえ。あちらのご両親が……セロベルがただ警邏隊をやっているだけだったら、絶対に首を縦には振らなかったと。ここを再開しようと云ってくれたのは、マオさんです」
「はあ」首を傾げた。「そんなもんなんですかね?」
「はい。セロベルが、食堂で働いているのを見て、これなら娘を任せてもいいと思ったと……セロベルが直に挨拶に来れば、すぐに認めるつもりだったそうです」
「じゃあ、セロベルさんの努力の結果じゃないですか。よかったねセロベルさん」
俺はきっかけをつくったにすぎない。頑張ったのはセロベルさんやグロッシェさんだ。俺は基本食べたいものをつくってるだけ。