異世界に飛ばされたら適職が「魔王」しかない
シンプルな味付けで、いろんなお料理に合うし、ここからアレンジが効く。こういうのを覚えておけば役立つと思う。
ジーナちゃんが戻ってきて、オーブンからバットをとりだす。グロッシェさんが包丁やまないたをぴかぴかに洗ってくれている。
「マオ、味を見てくれない?」
ジーナちゃんがバットを調理台に置いて、マドレーヌを切り出した。「ツァリアスも」
「わー、うまそー」
熱々のをありがたく戴いた。ふうふうさまして口へ含む。ああ、このしっかりみっちり目の詰まった焼き加減、嚙み応え。マドレーヌはこうでなくっちゃあ。
「ジーナちゃんはなんでもできるね。すごくおいしい」
「おいしいです」
「よかったわ……マオに手伝ってもらわずに、これをつくったのよね、わたし」
ジーナちゃんはバットを見下ろして、満足そうに微笑む。
ミューくんが食堂から、汚れた食器を積んだワゴンを押してきた。「ジーナ、お茶が足りていないって。グロッシェさん、これ宜しくお願いします。ああ、ツァリアスさん」
ミューくんはにこっとして、ツァリアスさんの手をとり、水花をかけた。ツァリアスさんはほっと息を吐いて、お礼を云う。ミューくんはにこにこだ。
「お代は、晩のおかずでもらいます。ちょっと増やして下さいね」
グロッシェさんがお皿をひきとり、洗いはじめた。ジーナちゃんはマドレーヌをバットから外してクーラでさます。そのうちのふたきれは、お皿にとった。それから、お茶を淹れながら云う。
「ミュー。これを食べて」
「うん?」
「あなた昨日云ったじゃない。わたしがあなたから、甘いものをとりあげてるって?」
ジーナちゃんは魔法で出したお水を魔法でわかし、すぐにお茶を完成させた。
「だから、あなたに甘いものあげようと思ったのよ。一番綺麗に焼けたところをあげる」
「君ってやつは」
真顔のジーナちゃんに、ミューくんは楽しそうに声をたてて笑う。ジーナちゃんは横目でそれを見て、ミューくんの頬をつねった。
「なにが面白いのかしら」
「いたた。ごめんごめん。嬉しかったんだ。怒らないでよジーナ」
ジーナちゃんが手を離し、ワゴンにティーポットをふたつのせる。ミューくんは自分に水花をかけた。
「ジーナ、じゃ、これからは君が俺にお菓子をつくってくれるんだね?」
「それが宜しいなら、幾らでも」ジーナちゃんは一瞬ミューくんのほうを向く。「でもおすすめしないわ。わたし、まだクッキーとそれしかまともにはつくれないの」
ミューくんがもう一度笑った。
「俺がお菓子にくわしいと思ってるのか?ジーナ。クッキーだけだって文句は云わないよ」