リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり
1
今や我らは語り告げよう、
力強き神の触触者たる、
活気ある神群のために、
彼らの太古の力を。
声高きマルトたちよ、
汝らの道の上に火を点じ、
戦いをもって、
強大なる者たちよ、
己の力の業を成し遂げ給え。
2
楽しき蜜を、
あたかも己の愛しき息子の如くに携え、
彼らは集いの中で、
華やかに戯れ遊ぶ。
ルドラの神々は、
助けをもって祀る者のもとへ来る。
自ら強き彼らは、
祭品を捧げる者を裏切ることがない。
3
不滅の守護者たる彼らが、
豊潤なる富を与えし、
いかなる祭品のもたらし手に対しても、
愛する友らのごとく、
至福をもたらすマルトたちは、
周囲の領域を、
乳(恵み)をもって豊かに潤すのだ。
4
大いなる力をもって、
領域を揺り動かした汝らよ、
汝らの駿馬たちは、
自らの意志で疾走した。
大地のすべての生き物、
すべての住処は恐れおののく。
槍を前に突き出した、
汝らの来臨が燦然たるがゆえに。
5
眩しい突進において、
彼らが山々を鳴り響かせ、
英雄の力をもって、
天の高き背を揺さぶる時、
森のあらゆる君主(大木)は、
汝らが近づくにつれ恐れ抱き、
低木らは風車のごとく素早く、
汝らの前から逃げ去るのだ。
6
恐ろしきマルトたちよ、
衰えぬ軍勢を持つ汝らは、
大いなる慈愛をもって、
我らの心の望みを満たし給え。
血塗られた歯で武装した、
汝らの雷電が噛みつくところ、
それは狙い過たぬ矢のごとく、
牛たちを噛み砕くのだ。
7
決して途絶えぬ恵みを持つ、
永劫の賜物の授与者たち、
悪意を離れ、
祭祀において栄光を与えられし彼らは、
甘き汁を飲まんとして、
高らかに歌を歌う。
彼らは英雄の最初の英雄的偉業を、
実によく知っているのだ。
8
百重の城砦をもって、
マルトたちよ、
汝らが愛した人間を、
破滅と罪から堅く護り給え。
激しく、吼える強大なる者たちよ、
彼の種子(子孫)を慈しみ、
誹謗から彼を護り給え。
9
マルトたちよ、
汝らの車の中には、
すべての良きものがある。
そこに大いなる力らが、
あたかも競い合うように据えられている。
汝らが前進し行く時、
肩には環(指輪/腕輪)があり、
汝らの車軸は、
戦車の双方の輪をともに回転させるのだ。
10
汝らの男らしき腕の中には、
多くの美しきものが保持され、
胸には金の鎖(胸飾り)、
光り輝く装飾品がある。
彼らの肩には鹿の皮、
その輪渕には刃がある。
鳥が翼を広げるように、
彼らは己の栄光を広げるのだ。
11
威圧感において強大であり、
行き渡り、極めて強く、
天の星々の如くに遥か遠くから目に見え、
愛らしき舌をもち、
その口をもって甘く歌う者たち、
インドラと結ばれしマルトたちは、
あたり一面に叫び声をあげる。
12
これこそは汝らの威厳、
高貴なる生まれのマルトたちよ。
アディティ(無縛の神母)の支配の及ぶかぎり、
汝らの恵みは広がる。
インドラすらも、見捨てることによって、
虔深き男へ汝らが与えた賜物を、
取り消すことは決してないのだから。
13
不滅の者たちよ、
太古の昔より、
汝らが我らの呼び声に配慮したこと、
マルトたちよ、これこそが汝らの親族関係なり。
この祈りを通じて、
人間に耳を傾けることを聴き入れ、
奇跡の業によって、
英雄たちは己の力を示された。
14
マルトたちよ、
汝らの豊かな富によって、
速く動く者たちよ、
我らが長きにわたり繁栄できるように。
そして我らの男たちが、
陣営の中に広がっていくように、
これらの奉納物をもって、
我にこの儀礼を完成させ給え。
15
マルトたちよ、詩人たるマーナの息子、
マンダーリヤによって歌われた、
この汝らへの称賛が、この汝らへの歌が、
我らを養う食べ物とともに、我らに子孫をもたらさんことを。
我らが十分な豊穣の中に、
活力を与える食べ物を見出さんことを!
解説:荒ぶる嵐の威力と、美しく装身具を纏う「戦慄の美学」
166讃歌は、前歌の勢いをそのままに、暴風神群「マルトたち」の圧倒的な神威と荘厳さを歌い上げた全15節の大讃歌です。
山々を鳴り響かせ、森の樹木たち(森の君主)を震え上がらせる恐ろしい嵐の力。その一方で、胸に金の鎖、肩に斑点の鹿皮、腕に環(腕輪)を纏い、鳥が翼を広げるように華麗に栄光を散らす「装飾と美」の側面が見事に描かれた、躍動感あふれる傑作讃歌です。
* 1–6節:山々を震撼させ、大木を吹き飛ばす「猛威」
1〜6節では、槍を携えて天と地を駆け巡るマルトたちの圧倒的な威圧感が描かれます。彼らが疾走すれば山々は咆哮し、森の大木(君主)は恐怖に震え、低木は車輪のように巻き上げられます。「血塗られた歯を持つ雷電」という衝撃的な比喩表現は、彼らの絶対的な破壊力を象徴しています。
* 7–12節:金の鎖、鹿の皮、そして鳥の如き「美麗な飛翔」
7〜12節は本讃歌の最も魅力的なハイライトです。凶暴な嵐の神々でありながら、彼らは胸に金の鎖を掛け、肩に鹿の皮を纏い、腕輪を光らせて登場します。「鳥が羽を広げるように栄光を咲かせる」という華麗なヴィジョンは、恐怖と美が同居する古代ヴェーダ詩人の卓越した美意識を示しています。
* 13–15節:不滅の絆と、詩人マーニャによる永劫の祈り
後半では、古より人間とマルトたちを結ぶ「不滅の親族関係(絆)」が確かめられます。主神インドラすら取り消すことのできない神々の絶対的な恵みが約束され、詩人マーニャ(マンダーリヤ)の高らかな讃歌とともに、一族の繁栄と豊かな糧が祈願されて締めくくられます。