リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり
1
我がこの礼拝をもって、
我は汝らのもとへ行く。
讃歌をもって、
強大なる者たちの恩寵を我は求める。
マルトたちよ、
汝らをまことに歓ばせる讃歌を。
汝らの怒りを鎮め、
己の馬らの軛を外し給え。
2
マルトたちよ、心と精神において形作られし、
祈りと崇拝を伴うこの称賛が、
神々たる汝らに捧げられる。
己の精神において歓びつつ、
我らのもとへ来たり給え。
汝らこそは我らの祈りを、
効験あらたかなものとなす者たちなのだから。
3
我らに讃えられしマルトたちは、
我らに恩寵を示し給え。
讃えられしマガヴァン(インドラ)は、
最も吉兆(好意的)であらんことを。
マルトたちよ、
これに続く我らのすべての日々が、
きわめて心地よく、愛らしく、
勝利に満ちたものであらんことを。
4
マルトたちよ、我が身は恐れに震え、
我はこの強大なるインドラから、
恐ろしさのあまり逃げ出した。
汝らのために意図された奉納品は、
すでに準備されていたのだ。
我らはこれらを横に置いた(延期した)。
このゆえに、我らを赦し給え。
5
彼ら(マルト)を通じて、
マーナの者たち(詩人一族)は夜明け(日の出)を認識し、
終わりなき朝々の黎明において、
彼らの力を通じて認識する。
強大なる者よ、マルトたちとともに我らに栄光を与え給え。
凄まじき者たちとともに凄まじく、
勝利を与える強大なる者よ。
6
インドラよ、勝者たる英雄たち(マルート)を護り、
マルトたちに対する己の怒りを、
脱ぎ捨て給え。
賢質にして、勝利に満ち、
恵みを与える彼らとともに。
我らが十分な豊穣の中に、
活力を与える食べ物を見出さんことを!
解説
第171讃歌は、大聖仙アガスティヤがマルト神群、そして主神インドラに捧げる全6節の和解の讃歌です。
前歌(第170讃歌)の緊張関係を受けて、アガスティヤが暴風神マルートたちに怒りを鎮め、馬の軛を外すよう切願する場面から始まります。最高神インドラのあまりの威光に身を震わせて逃げ出し、マルトのための奉納品を横に置いてしまった非を詫びつつ、インドラとマルトの共闘と和解を祈る劇的な一曲です。
全6節という研ぎ澄まされた構成の中に、最高神インドラの圧倒的な神威に対する人間のリアルな恐怖と、それゆえに生じた不義理を素直に告白して神々の和解を導くアガスティヤの真摯な姿が描かれています。
1–3節:怒りの解除と、祈りを叶える神々への切願
1〜3節では、アガスティヤが心を込めて編み上げた讃歌を携え、怒りに燃えるマルート神群のもとへ参上します。「戦車の馬から軛を外し、怒りを鎮めてほしい」と誠実に訴え、彼らとインドラの双方が人々に恵みをもたらすよう祈りを捧げます。
4–6節:インドラへの恐怖の告白と、神々の「共闘」の復活
4〜6節は本讃歌の最大のハイライトです。アガスティヤは「インドラがあまりにも恐ろしく、身を震わせて逃げ出してしまい、マルートたちの奉納品を横に置いてしまった」と恥を忍んで告白し、赦しを請います。そしてインドラに向かっても「マルートたちへの怒りを捨て、ともに勝者として立ち上がってほしい」と促し、神々と人間双方の絆を再構築して締めくくります。