リグ・ヴェーダ 詩訳 ― 火の神が歌う世界の始まり
1
恵み深き者たちよ、
汝らの来臨が驚くべきものであらんことを。
助けをもって奇跡的であらんことを。
マルトたちよ、
蛇らが光り輝くように、
光を放つ者たちよ。
2
マルトたちよ、
惜しみなく与える者たちよ、
汝らの激しき矢が、
我らから遥か遠くにあらんことを。
汝らが投げつける石(雷石)が、
我らから遥か遠くにあらんことを。
3
恵み深き授与者たちよ、
マルトたちよ、
トゥリンスカンダの民に触れることなからんことを。
我らが生きることができるように、
我らを引き揚げ給え。
解説
第172讃歌は、暴風神群「マルトたち」に捧げる全3節のコンパクトな祈りの讃歌です。
蛇のごとく不気味で美しく光り輝くマルト神群。彼らが放つ猛烈な矢や投げつける石(雷石)の恐怖から自分たちを守り、死の危険から引き揚げて生かしてほしいと切願する、短くも緊迫感に満ちた一曲です。
全3節という短尺の中に、暴風神マルートたちの持つ「美しい光輝」と「破壊的な恐怖」の二面性が鮮明に凝縮されています。
* 1節:蛇のごとく不気味に眩しく輝くマルートたち
1節では、閃光を放ちながら接近するマルートたちが「蛇の輝き」に例えられます。古代ヴェーダにおいて蛇の光輝は、神秘的でありながら一歩間違えれば死をもたらす危険な美しさの象徴です。
* 2–3節:激しき矢と雷石の回避、そして「生」への引き揚げ
2〜3節では、彼らが地上へ投擲する激しい矢や石(雷電・雹)の威力を恐れ、詩人トゥリンスカンダの一族に壊滅的な被害が及ばないよう切願します。破滅の淵から人々を引き揚げ、生命を繋ぎ止めてほしいという切実な祈りで締めくくられます。