召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M vs. 霊能力者 (後編)
霊能力者達との対決を行う当日を迎えた。現地には午後8時に集合となったが、本来であれば最神玲も物部かすみもその直前に転移すれば済むはずだった。ところが、神室霊華には創成召喚はおろか、転移術に関しても全く披露していない。これは玲の方針であり、かすみも彼の方針には賛成しているのだが、そのため転移して現地に行くことが出来ない。そこで、玲の魔改造車で現地に向かうことになるのだが、そうするとどれくらいの時間がかかるのかを見積もる必要がある。一応スマホのナビを使って確認すると、下道で1時間弱となった。そのため少し早く夕飯を摂って午後7時にここを出発することにした。最初は玲とかすみが順番に運転していたのだが、彼らの運転というか、殆ど自律型の車の意思によるのだが、制限速度+数キロと言う範囲でゆっくりと進んで行った。そのうち、痺れを切らしたのか神室霊華が玲とかすみに自分も運転して良いかと尋ねたので、別に問題ないよと玲は答えた。そこで、運転を神室霊華に代わってもらうことにしたので、玲は車から降りて後部座席に向かい、神室霊華は入れ替わりに運転席に向かった。ただし、玲はその時、車にある指示を出した。そして、神室霊華が運転席に座って、アクセルを踏み込んだ途端、その加速感は半端ない位に玲とかすみをシートに押し付けた。あれ、神室さんって、もしかして運転すると人が変わるタイプなの?とは玲とかすみの抱いた印象である。とにかく、速い。勿論違反しないギリギリのスピードを保ちつつ、アクセルとブレーキを巧みに使って山道のコーナーを回って行く、所謂「ドリフト」走行をし出したのだ。実は後で話を聞いたところ、神室霊華はレース用のライセンスを持っているのだという。それなら最初から運転して貰えばよかった、とはかすみの感想である。何れにしても、神室霊華のお陰で、午後8時前には目的地に到着できた。
さて、霊能力者集団が指定した廃村だが、そこに降り立った玲とかすみと神室霊華は、直ぐに問題の廃屋を見て取った。
「あそこ、めっちゃやばない、玲」
「うん、あれは強烈だな。どうですか、神室さん?」
「はい、私でも分かります。
あの建物から漏れ出てくる霊力の凄まじさを」
問題の廃屋は、廃村の外れに位置していた。ちなみに、他の廃屋にも複数体の霊体は確認されるが、どれも無害に近い存在である。これだったら、霊能力者集団でも十分に除霊できると思われたが、問題は玲達が見つめている廃屋の存在である。そんな状態にいた3人の後ろから、彼らに声を掛けてきた集団が現れた。しかも前回美土路神社に現れた時よりも人数が増えていた。その数8名。
「ん?もしかして、
数で押し通そういう魂胆なんか?」
とはかすみの呟きである。確かにそう思っても仕方のない状況である。そこに現れた霊能力者達は、それぞれの仕事着に身を包み、各々数珠や何かの呪物を持って現れたのだ。それに引き換え玲とかすみと神室霊華はと言うと、一応M Mの制服に身を包んでいるが、特に何か持つわけではなく、手ぶら状態である。そんな彼らの様子、特に神室霊華の様子を見た霊能力者集団は、「神室霊華様が、あいつらに洗脳されてしまった」と何やら大袈裟に言うや否や、芝居じみて嘆き悲しみだしたのだ。これにはかすみも、こいつらに付き合ったのは間違いだったのかな、と俯き加減で額に右手を当てながら後悔したのだった。そんな状況にあっても、一人玲は冷静になって、彼らに対しどういう対決をするのかを確認した。すると、
「この廃村には、かなりやばい霊が居るという噂があり、
それを最初に退治したら勝ちと言うのはどうだ?」
と、単に早い者勝ち方式の勝敗を伝えてきた。玲もかすみも特に問題はないので、それでいいよ、と答えた。ところで、彼らはそのやばい霊がどこにいるのか分かっているのかが気になったので、玲はそれを尋ねた。すると、
「勿論分かっているが、お前たちに
そんな情報を知らせる訳がないだろう」
と鼻で笑われてしまった。まあ、分かっているなら、問題無いからじゃあ始めようか、と玲は気楽に伝えた。そして、ここに霊能力者同士の対決が始まったのだった。
さてM Mの3人だが、とりあえず霊能力者集団の様子を見るためにその場を動かずじっとしていた。そんな彼らの様子を見た霊能力者集団では、自分たちが探っている様子を見て、横取りしようと考えているのではないかという変な誤解が生じてしまい、そのうち何やら明後日の方向に行ったりして、要するに攪乱作戦を取りだした。ところで、玲もかすみもさっさと問題の霊体を駆除すればいいのだが何故かその場から動かない。なぜかと言うと、自分たち以外であの霊体を除霊できるのはこの集団の中には居ないと見抜いていたからである。そして、もし彼らのうちの誰かが誤ってあそこに入った時に何時でも動けるように対処していたのであった。恐らくそうしないと、彼らは本当の意味での霊の怖さが分からないと思ったのだ。今の霊能力者集団は、霊体の恐ろしさを実は理解しきれていないとも見抜いていた。そんな状況で玲とかすみが勝利しても、彼らは執拗に挑戦し続けるだろうとも睨んでいた。そして、この考えは、勿論神室霊華にも伝えていたので、彼らの指示通りじっとしていた。そう、この勝負は既についていたのである。そんなことは全く知らずに只管問題の霊体を探し求める霊能力者の集団であるが、そのうちの一人が問題の廃屋に近づいて行った。それを見た玲とかすみは、早速そちらに進み始めた。それを見て神室霊華も彼らの後を追うように進んで行った。そして、案の定、廃屋に入った一人の霊能力者が問題の悪霊か怨霊に憑りつかれてしまった。その途端、「た、助けて、だ、誰か、助けて、く、苦しい」と言う絶叫が廃村の闇の中に木霊した。その声を聞きつけて霊能力者集団はその廃屋に駆け付けた。そして、早速各々が独自の除霊を行い始めたのだった。
およそ1時間後、憑りつかれた霊能力者は霊に憑りつかれたまま気を失ってしまい、その周りでは力尽きた霊能力者の集団が膝をついたり、あるいは四つん這いになって荒い息をしていた。まあ、こうなるだろうな、と予想していた通りの展開になったのだが、この時、玲は神室霊華に降霊召喚門を設置することを提案した。まずはその霊体の要求を聞くことにしたのだった。そこで、神室霊華は降霊召喚門を設置した。すると、
「・・・こ、い、つ、を、た、す、け、た、い、か」
といきなり喋りかけてきたのだ。そこで玲は、
「お前の要求は何だ?」
と尋ねた。すると、
「・・・お、ん、な、だ、
そ、こ、の、お、ま、え、だ」
とかすみを指さした。かすみはキョトンとしながら右手の人差し指で自分を指さした。この霊体は好色でかすみに何かをするつもりなのか分からないが、選りによって神室霊華ではなくかすみを選ぶとは。そこで、玲はかすみにあることを耳打ちした。その時一瞬だが、かすみの目に緊張が走った。そしてかすみの召喚の書に何かを書き込んだ。かすみは不安になりながらも力強く頷く。そして、玲はかすみの目を見ながら、かすみの肩をしっかり掴んで気合を入れて、その場から少し後退した。そして、神室霊華に対し降霊召喚門を解除するように要請した。え、何で解除するの?という疑問が沸いてきたが、ここは玲とかすみに従うのが賢明と悟り、早速降霊召喚門を解除した。その様子を見ていた怨霊は、やっと自由に動けるぞとニヤリとしたかと思うや否や、最初に憑りついていた霊能者から離れて、間髪を入れずかすみに憑りつこうと迫って来た。その時かすみは「召喚!」と叫んだ。すると、そこには降霊転移門が出現した。怨霊は、またかと言う素振りを見せるも、そのままゆっくりとかすみに近づこうとするが全く動けない。その様子を見て玲は、倒れている霊能力者を霊体から離れた位置に引きずって行った。そしてかすみに対し、親指を立てた。一方の怨霊は、玲が行ったことにはさほど興味を持たず、かすみに対して先ほどの降霊召喚門と同じことをしても無駄だよ、とばかりに余裕の表情で睨み付けるのだが、その時かすみは降霊転移門を開けだした。その途端、周りの空気が徐々に加速しながら降霊転移門に吸い込まれるようになり、その時点で怨霊は何が起きたを理解した。そして、鬼の形相でかすみを睨み付け、手を伸ばしてかすみを掴もうとしのだが、時既に遅し。怨霊はそのまま霊界に吸い込まれていった。そしてかすみは急ぎ門を閉じて、降霊転移門を解除した。
流石のかすみもいきなり実践で降霊転移門の召喚を行ったため、かなりぐったりしてその場に座り込んだものの、心の中には、自分にも玲と同じあれが出来るようになったんだ、という喜びが満ち溢れていた。
「かすみ、お疲れ様。うまくいったね」
「う、うん、有難う、玲。
まさかほんまに実践でいきなりやるとは
思わんかったわ、ははは」
一仕事終わって玲とかすみはホッとしているが、その様子を見つめていた神室霊華は、暫くの間放心状態であった。今見たあの召喚門は何なのか、かすみの唱えたあの術式は何だったのか、尽きない疑問で心の中がパンクしそうになったが、それよりも先ずはかすみの所に駆け寄って、かすみに抱き着いた。
「師匠、心配しましたよ。
でも何事もなく良かったです」
と労い、そして自分が漸く扱えるようになった召喚門とは異なる、何かしら神々しい雰囲気を湛えたあの召喚門、あれは一体何なのか、その答えを知りたくてかすみに質問した。すると、
「あれはね、霊華さん、降霊転移門という
特殊な召喚門なんよ」
そしてあの降霊転移門だけが、人が霊界に直接行くことが出来る唯一の方法なんですよ、と説明されたが、かすみの言葉を俄かには信じられないでいる神室霊華であった。詳しいことは後で説明するね、とかすみに言われたので、その時にまた聞くとして、先ずは目の前に横たわる仲間の対応である。一部の者達は疲れ果てたのか、意識を失っている状態であり、残りの者達も立ち上がる気力が無いほどぐったりしていた。そんな中で気丈にも何とか立ち上がって神室霊華の所にやって来たのが正門と呼ばれた霊能力者である。
「神室霊華様、御無事で何よりです。
それよりも一体どうやってあの怨霊を
退治されたのでしょうか?」
「あの怨霊は、こちらの物部かすみさんが
退治されました。
残念ながら今の私の実力では、
まだかすみさんの足元にも及びませんが」
と正門に対し清々しい笑顔で答えた。正門は、これまで神室霊華の笑顔を見たことが無いため、暫し彼女の笑顔に見惚れていた。だが、貴人である神室霊華を見続けることは失礼に当ると思い直し、急ぎ顔を下に向けて自分の足元を見ながら
「神室霊華様、我々にもそのような
除霊が出来るでしょうか?」
と尋ねた。これに対し神室霊華は、先ほどかすみさんが行った術式が見えましたか、と逆に問いかけた。残念ながら見えませんでした、と正門は首を振りながら正直に答えた。すると
「では、はっきり申しまして、無理ですね」
え、全く駄目なんですか、と尚も食い下がるが、神室霊華はきっぱりと「無理です」と断言した。理由は明白で、召喚門が見えない者には何をやっても出来ないからであった。
とりあえず、霊能力者集団は、正門以下動ける者達が対応するということで、玲とかすみと神室霊華は、車に乗って自宅に戻って行った。なお、運転は神室霊華が担当し、かすみは助手席に座ったが、やはり疲れが溜まっていたのか、途中から寝てしまった。そこで玲がかすみに代わって、降霊転移門の発見の経緯と今起きている問題を含めて説明した。その間神室霊華は一切口を挟むことなく運転に集中していたようだが、時にふらつくことがあったので、運転どころではなかったのかと思われた。そして、午後11時少し前に自宅に無事到着した。
神社前の駐車場に到着してもかすみは夢の中のため、仕方なく玲がかすみを背負って石段を登ることにした。その後を神室霊華が付いてきたのだが、自宅玄関前に到着したとき、玲が降霊転移門を近くに設置した。そして、
「神室さん、そこから中を覗いてみてください」
と言われたので、恐る恐る近づいて門の中を覗き込んだ。そこは、霧がかかったように何も見えない。しかも自分の声が耳に届かない。何とも不思議な感覚を体験した。そして一旦門の外に頭を出して振り返った。その時玲が、
「そう、そこが霊界です。そこは、音も聞こえません。
もし生きた人間がそこに入り込んだら、
普通の人でも半日かそれ位で命を落とします」
と言われたので、慌てて降霊転移門から離れるように身を引いた神室霊華であった。ちなみに、ここから霊界に入れるんですか、と尋ねると、
「ええ、入れますよ。ただし出れませんが。
もし出ようとするなら、同じ降霊転移門を
霊界に設置する必要があります。
ただですね、どこにでも自由に設置することは
出来ないんですよ。なぜかと言うと...」
霊界は、時間も空間も滅茶苦茶になっているというか、違う時代の変なところにつながる危険性があるんですよ、と俄かには信じられないようなことを玲は神室霊華に語った。そうすると、タイムマシンじゃないけど、好きな時代に行けるんですか?と、何やら期待の籠るような表情で玲に尋ねたが、残念ながら生きた人間は、時間の制約を受けるようで駄目だという。つまり過去にも未来にも行くことは出来ない。その代りに、魂であれば、時間の制約がなくなるということのようだ。その時、玲は神室霊華に対し
「あ、ちなみに、この話は、
実は霊界に住む人というか霊体かな、
その人に教えてもらったんですけど、
この話は内緒にしてくださいね」
と伝えた。え、霊界に住人が居るの?という新たな疑問が沸き出てきたが、それよりも、一番肝心なことを聞きそびれるところだったので、玲に自分もこの降霊転移門を召喚できるのかどうか、この点を尋ねた。すると、残念ながら今の召喚エネルギーでは無理です、と即答された。かすみでもここまで出来るようになるまで2年は掛かりましたから、と言われると、まだ自分はかすみの足元に及ばないことを自覚しているため、直ぐに諦めた。だが、2年の修行を積むとこの降霊転移門が召喚出来るようになるのであれば、何か新たな目標が出来て修行の励みになりそうと、密かに期待したのだった。それよりも、玲はかすみを背負ったままだということに気づいた神室霊華は、「すいません、今玄関開けますね」と急ぎ鍵を開けて中に入った。ちなみに、かすみはどうも起きている気配がしたので、玲は背負っているかすみの尻を片方の手で突っついた。すると背後から「こらー、玲、痴漢行為は犯罪や」とゆっくり静かに抗議するかすみの声が聞こえた。もう、起きてるなら下すぞ、とかすみに向けて話しかけたが無視されたので、再び尻を突っつくと、「いい加減にせぇよ」と耳元で怒鳴られた。仕方ない、と言って、かすみを玄関先に放置して、玲は自室に戻って行った。その後玄関から、「こらー、玲、最後まで面倒見んかい!」とかすみの絶叫が木霊したが、結局誰からも相手されず、かすみは寝ぼけで力がはいらない足取りで、とぼとぼと歩いて自室に向かっていった。