召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲 vs. 超能力者(前編)
物部かすみが大学時代の親友であるからの依頼で北陸の富山県に向かった週末の土曜日。最神玲は、一人神社の神職用住宅に残り、寂しく、ではなく楽しく召喚術の研究に勤しんでいた。かすみの邪魔が入らないためか、何時もよりも研究のペースが早く感じて、気持ち的にもウキウキし出す玲である。もしここにかすみが居ようものなら、「なんなん、玲、私が居ないからって浮かれてんとちゃうやろな!」とか言って、早速玲の頭にツッコミの名の一発をお見舞いしただろう。尤もかすみが居る居ないに関係なく玲は召喚術の研究を続けるのだが、やはり時折暇になると玲をいに来る存在が居るのと居ないのとでは、り具合が段違いである。従って、玲のウキウキ気分はある意味仕方がない所であろう。
ところで玲が今取り組んでいる召喚術は、昨年末にかすみとある教団を調査した時に発見したバレル型召喚門についてである。更に色々と応用できることを見つけた玲は、自分が見つけた術式との違いをに比較して調査を続けていた。そんな地道な作業を苦も無くやっている玲、いやその中に潜む、かすみが言うところの宇宙人カーンフェルトは、この充実した時間を心置きなく楽しんでいた。だが、幾ら玲でも生理現象の一つ、空腹には勝てない。結局かすみと同じ、昼食を摂らずにぶっ続けで調査をしていたため、夕方になって腹が減り過ぎたため外食することにした。実は美土路神社に来てから、玲が独りで外食のするのはそんなに多いことではない。その分、偶の外食には必ずと言って良いほどあの店に足が向く。そう、ラーメン屋。しかも玲、というかその中身のカーンが大好物である塩ラーメンの店である。特に最近になって、差間見町の商店街に新しく塩ラーメンだけを出す店がオープンしたのだ。玲としては気が気でなく、本来ならオープン初日にでも食べに行きたかったのだが、そう言うときに限ってかすみが、何やら再び凝りだした手料理を振る舞ったりするため、「今日はラーメン屋がオープンしたから食べに行きたいな」などと言おうものなら、恐らく1カ月以上は無視されること請け合いである。なので、玲としてはただ只管我慢していたのであった。それも今日でおさらば。やっと念願の塩ラーメンが食べられると想像するだけで、口から涎が垂れそうになる。
玲が店の前に到着したときは、開店前だが既に5人程並んでいた。確かチラシで見た時は、10人近く入れるとか書かれていたのを覚えていたので、これなら開店と同時に直ぐに食べれるなと、今から期待で胸が膨らんできた。それから玲の後に10人程並び出して、漸く開店の時間午後6時を迎えた。玲にとっては待ちに待った時が来た。早速店内に入り、メニューに目を通すことなくお目当ての[特選旨塩らーめん(麺大盛)]と[特製餃子]とビールを頼んだ。彼の中には既に何を頼むかシミュレーション済みだったのだ。先ずはビールと餃子で晩酌を楽しみ、やがてお目当ての特選旨塩らーめんがやって来た。あー、この香り、最高と、どんぶりから立ち上る湯気に感動しつつ、レンゲでスープを一口飲んだ。「おー、この透き通るスープ、やはり塩はこうだね」、「おお、何やら魚介の旨味を感じるぞ。うん、なかなかいいな」などと心の中で呟きながら塩ラーメンを思う存分楽しんだ。そして塩ラーメンを堪能すること20分程して店を出た玲であった。店の外には10人程並んでおり、ここは押しも押されぬ人気店になっていたようだ。玲も期待通り、いやそれ以上に満足して店を後にした。
玲は心と胃袋が満たされて満面の笑みを浮かべる所を何とか我慢しながら夜道を歩いて自宅に戻っていった。そして美土路神社の石段を登って境内に到着し自宅のある右手方向に歩きかけた時、境内の中程に突然人が現れた。それも転移ではなく、文字通り突然である。転移であれば、玲は転移門を容易に見て取れるが、その人物は転移ではない方法で突然現れた。もしかして霊力の強い幽霊かとも思われたが、社務所の前には街灯が設置されており、そこに人物がいて、しかも影が出来ていることは確認できるものの、残念ながら顔までは分からない。そこで玲は、好奇心からか、突然現れたその人物の居る方向に向かうことにした。だがそれから直ぐに玲の後方と左右両方向にも突然人が現れた。周りを見回すもやはりそこには転移門はなかった。そして玲は、この謎の集団にどうやら囲まれてしまったようだった。尤も玲であれば、瞬時に転移してこの場を逃れることは可能だが、自宅の場所を知っていてここに来たということは、自分またはかすみに用事があるとみて間違いない。そうなると、逃げてもまたやって来ることは十分に考えられる。それよりも、こいつらの目的が何なのかが分からないと、こちらもその後の対応に苦慮しそうである。そこで少し相手をしようと思ったのだが、その裏には転移以外で突然現れた方法を知りたい、という好奇心がこの場合勝っていたのは事実だろう。後は、何時もの「何となく面白そう」が働いたようだ。そこで玲は、最近開発した防御用降霊転移門を自分の周囲に展開した。少なくとも銃撃や刃物による攻撃に対しては有効に作用するように改良済みである。そして玲は、まず最初に現れた目の前の人物と対峙した。その時玲の左手、丁度手水舎の傍に現れた人物が何やら話し出した。玲はそれを聞いて、どうも英語っぽい印象を受けた。そうすると、この前みたいにアメリカ軍が関係しているのか?でもあれについては、国防長官に直接話をつけているからその線はないと信じたいが、まあ何なら魂を分離して尋問すればいいか、とかなり余裕を持つに至った。それから最初に現れた人物、どうやら白人の中年男性のようだが、その人物も何やら英語で相手していた。うーん、何か喋っているよりも攻撃なりなんなりしてきてよね、と少し苛ついてきた玲である。それから、玲の真後ろ、石段を登り切ったところに現れた人物が突然日本語で語り掛けてきた。一応そちらに振り返ると、暗がりで人物像がはっきりしないが声からすると年配の男性っぽい印象を受けた。そしてその人物が「レイ・モカミさんですか?」と玲に尋ねてきた。ここで大人しく「はいそうです」と言うのも何か面白くないと思ったのか、沈黙でもって答えにした。しかし尋ねた相手はどうやら上手く伝わってないものと勘違いしたようで、もう一度同じ質問を投げてきた。そこで玲は
「先ずは、あなた方が誰なのかを
名乗るべきでは?」
と逆に問い返した。すると、その人物は周りにいる仲間に何やら英語で話しかけ、やがて
「失礼、俺はステイン、それで...」
手水舎の人物がヨハン、最初に現れた人物がケビン、玲と自宅の間に現れた人物は唯一の女性で、カーラというのだと玲に教えた。尤も、全員の名前を直ぐに覚えられるほど、実は賢くない玲、いやカーンフェルトであるが、一応その場ではうんうん、と頷きながら黙って聞いていた。そして、「僕は玲です」と答えた。それで満足して帰ってくれれば良いのだが。いや、瞬間移動の方法は聞きたいからそれは良くないか、と思い直したりして、暫しその場で様子を見ることにしていたが、ステインが玲にまた尋ねてきた。
「すまないが、モカミさん、
俺たちと一緒に来て欲しいんだけど」
と言われて、「はい、そうですか」と付いて行く馬鹿はいない(かすみなら、「そんなアホおるわけないやろ」だが)。だがここでも、何となく興味があるので、「どこに?」と聞いてみた。すると、
「悪いが、それは言えない」
と言われてしまった。まあ予想はしていたが、一応念のために鎌をかけてみることにした。
「そこって、東京近郊にある
アメリカ軍基地のこと?」
すると、言葉にはしないが、何やら驚いた気配が漂って来た。そうか、そこ関係なのか?一応もう一つ尋ねてみた。
「あなた達は、アメリカ軍の関係者ですか?」
どうせ何も答えないだろうし、その時は魂を尋問すればいいか、と呑気に思っていた玲だが、思いがけずステインが「軍とは関係ない」と否定して来た。おや、軍ではないのか、だとすると一体どこの誰なんだ?と、ますます興味が出てきた玲である。かすみの悪影響がかなり玲にも浸透しつつある兆候であろうか。まあ、何れにしても、ここは拒否一択で出ることにした。
「すいません、一緒には行けませんね。
何分皆さん凄く怪しげなんで」
するとステインは、玲の言葉を翻訳したのか、周りにいる仲間に英語で話し出した。すると、突然周りの空気に緊張が走る気配を感じた。どうやら臨戦態勢に入り、力ずくでも連れて行こうということにしたようだ。
「仕方がありません、力ずくで連れて行きます」
とステインが玲に警告したが、玲は既にそうなることを予想して迎え撃つ体制に入っていた。尤も、周りの人物からは玲が唯ボーっと立っているだけにしか見えないのだが。そして暫く動かずにいたが、突然玲は手水舎の方向に走り出した。不意を突かれた4人組は、走り去ろうとする玲を追い掛ける訳でもなく、その場でそれぞれ玲に向けて手を翳し出した。すると
「おー、な、な、何だ?」
と玲は素っ頓狂な声を発しながら、前方に倒れ込むところを瞬時に地面にマットレスを召喚し、転倒時の怪我を防いだ。そして直ぐに召喚解除したが、今や手も足もでない、というか手も足も動かせない状況である。ただし、正確には手首の自由は効くので、召喚術を行うには何の支障もなかった。しかし、何だこの抑え込んでいる力は?と果てしない疑問が頭の中を巡っている。それよりも、起き上がりたいが足の自由も利かないため、寝転がった状態で横向きになり、相手の様子を確認することにした。見た所、玲が話していたステインと唯一の女性のカーラが両腕を前に突き出した状態でおり、それ以外は、特に何もせずニヤニヤ笑っていた。恐らく「何だ、こんなに簡単に済んだぞ」とでも感じているのだろうか。何れにしても、両腕を突き出している2人が、この得体のしれない拘束術を使っていることは何となく分かったので、先ずはこれを解除させることにした。その方法は簡単で、「召喚」と玲は呟くや否や、ステインとカーラの足元に降霊召喚門が展開されて、と同時に魂が肉体から分離され、彼らは意識を失った。そして玲の考え通り、謎の拘束状態から解放されたのだ。そして玲はゆっくりと立ち上がると、その様子を見ていた2人、ヨハンとケビンは、ニヤニヤ顔が引き攣りだし、やがて驚きの表情を湛えた。まさか、俺たちの拘束から逃れることが出来たのか?という疑問符が頭の上に浮かんでいる光景を玲は想像した。念のため彼らは、ステインとカーラの居る方に振り向くと、2人が地面に倒れている状況を確認した。一体彼らに何があったのかを理解できず、驚きの表情で一瞬固まってしまった。だが、早くもヨハンは正気に戻り、今度はヨハンが片腕を玲に突き出したかと思うと、手のひらから無数の石が現れて、玲に向かって高速で飛んできた。「おいおい、まじか!」と驚く暇もなく石礫は玲の所に達したが、全て玲が展開した防御用召喚門に吸い込まれていった。この光景に石礫を飛ばした本人は、再び驚愕で目を見開いて唖然とした。次にもう一人のケビンが同様に片腕を玲に突き出した途端、そこから火炎が放射された。だがこれも玲が展開した防御用召喚門によって無効化されたが、しかし
「あ、熱っつー!」
と玲は叫び声を上げた。足元を見ると、玲のズボンに炎が移っていたのだ。急ぎ手水舎に走って行き、そこの水をズボンにかけて何とか火を消したが、よく見ると、足元に少しだけ防御用召喚門の隙間が出来ているのを認めた。そっか、この隙間から入って来たのか、と漸く落ち着いて冷静に判断した玲は、これはもう少し改良の余地があるなと、心に留めた。
さて、これらの攻撃を何とかした玲は、残り2人の足元に降霊召喚門を展開し、魂を分離した。結果として4人全員、今は魂が分離されて意識を失うことになった。さて、これから尋問を始めようか、と言うことで日本語のできるステインに対して尋問を行う事にした。
「あなた達の目的は何ですか?」
「・・・レ、イ、モ、カ、ミ、を、
つ、れ、て、く、る、こ、と」
「どこに連れて行くのですか?」
「・・・ラ、ン、グ、レ、-」
ラングレー、どこだ?と言うことで、玲はコートのポケットに入れていたスマホを取り出し、ラングレーを検索した。すると検索画面を見て
「CIA本部のことか?」
と一人呟いた。と言うことは、彼らはCIAの人間と言うことか。そして、誰の指示で動いているのかについても聞きだしたところ、彼らは表向きどこにも所属していないようだ。そして本来は工作担当の副長官からの指令を受けて働くようだが、この作戦に関しては更に上のCIA長官フレデリック・バーンスタインから直接指令を受けたということだ。そうすると、答えは一つ、召喚術師に関する情報を知っており、無理やりでも協力させるか、解剖して研究するつもりで拉致しようとした、ということなのかと推測した。全くこの連中の考えることは、どの組織も同じなのかと玲はかなり憤慨した。
まあ、とりあえず目的と依頼主は分かったので、次は肝心の彼らの能力について質問した。その結果、この4人は、所謂「超能力者」であり、CIAが抱える超能力者集団の中でもエリートなのだという。そして玲を抑え込んだ力、それはサイコキネシスとか、日本語では念力と呼ばれる能力であること、そして石礫などの物理攻撃を行う能力はテレキネシスと呼ばれる能力だということが分かった。そう言えば、石礫を出していたヨハンが横たわる地面を見ると、そこにあるはずの玉砂利が無くなっていることに気づいた。くそ、神社の大事な玉砂利を霊界に放り込んじゃったぞ、と少しだけ後悔するが、そうしないと自分が大怪我していたので、まあ後でこいつらに弁償させようと心に留めた。そして最後に火炎放射をした能力は、パイロキネシスと呼ばれる実はかなり特殊な能力のようである。まさか、あれをまともに食らったら、こっちは焼け死んじゃうぞ、僕を無傷で連れて行くんじゃないのか?、全く無茶な事ばかりしやがって、とこの時ばかりは玲はかなりご立腹になったのだった。
さて、玲を襲撃した者達の素性が明らかとなったので、これからどうするかを考えた。今の時間は午後7時半。今からとりあえず転移して、CIA本部のあるラングレーに殴り込みを掛ける心算でいるのだが、向こうは午前6時位かと考えて、まあ早朝から叩き起こすのも悪くないか、と思い至り、早速準備に取り掛かった。まずは、この4人を縛り上げるために一度自宅に戻り、ビニール紐を何束か持ってきた。このビニール紐、そう、数カ月前にやはりアメリカ絡みの依頼を引き受けた時に使ったビニール紐の残りである。何の因果か、同じ国の相手に使うことになるとは、と何やら感じて一人含み笑いをし出した。そして、一人ずつ身動きが取れない位にぐるぐる巻きして、ただし歩けるようにはしたが、それから念のためにアイマスクを召喚し、彼らの目を隠すことにした。さて、CIA本部のどこに転移するのかだが、それに関しては既に彼らがCIA長官バーンスタインの下で動いていることが分かっているので、長官室に向かうことにした。ただ、詳しい場所は分からないので、何となくそれらしいところに転移して、後は連中に案内させようと考えた。その前に、焼け焦げたズボンを何とかしないと、と思い至り、部屋に戻って着替えてから、再び境内にやって来た。それから魂を元の体に戻し召喚を解除した。
暫くすると、超能力者達は目を覚ましたが、身動き取れずに横たわったままであり、しかも目隠しされていることに、心底驚くと共に何やら騒ぎだした。もう煩いなと言うことで玲は、知ってる英語で「シャラップ!」と叫んだ。すると、騒ぎはピタッと止んだ。それから玲は、ステインに対しこれからの予定を伝えた。それを彼は、かなりの緊張からか、しどろもどろになりながら同僚に英語で伝えると、彼らの中に緊張が走る様子が見て取れた。ここでステインが玲に対し、
「い、今から、ちょ、ちょ、
直接ラングレーに向かうのか?」
と玲としては当然のことだが、彼はなぜか驚くように玲に尋ねてきた。どうやら、ここにいる4人は簡単な瞬間移動は出来るようだが、その距離は精々数キロメートルらしい。うーん、それって初期のかすみじゃねえ、とは玲の感想だが、もしこの言葉をかすみが聞いたら、「玲、私のこと馬鹿にしてんのか!!」と玲に対し襲い掛かってしばいてきただろう。だが、所詮は地球の超能力者はその程度の能力なのであった。まあ、こんな所で時間を潰すのも馬鹿らしいので、玲は自分と4人を含むアニュラス型の転移門を地面に展開し、そのまま転移していった。