召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
美少女降霊術師の心霊事件簿7: 夏合宿 in 北海道 (第1幕)
7月になると、ああ、今年もこの季節がやって来たと実感する。そう、恒例の総合大学心霊サークルの夏合宿である。このサークルのOBである最神玲と物部かすみは、サークルの顧問と言う立場で毎年このイベントには参加して来た。尤も、参加者の学生たちの懐具合と相談して大抵は平日に開催されるため、玲かかすみのどちらかしか参加できなかった。だが今年は、もう一人M Mに新しいメンバーが入ったので、最低でも2人態勢で夏合宿に参加できる。これは大勢の学生の面倒を見るうえで極めて重要な事であった。ところが、今年の夏合宿は玲もかすみも予想もしない事態になっていた。
話はおよそ3カ月程前にる。丁度島の霊能力者の集いから帰って来た頃である。かすみが夕飯の準備をする間、玲は居間でテレビを見ていた。その時玲のスマホに発信者不明の電話がかかって来た。「あれ、何だろう。詐欺電話かな?」と思いながら、何となく詐欺だったら色々と聞いてみようと、かすみではないが何やら危ない好奇心が芽生えたようで、早速玲は電話に出た。
[もしもし最神です]
[あっ、玲先輩、お久しぶりです、佐伯です]
どうやら心霊サークルの佐伯えりからの電話のようだ。そして
[あー、久しぶりだね、佐伯さん。
突然どうしたの?]
[実はですね...]
今年度の心霊サークルの部長に就任したというのだ。これには玲も流石に驚くしかない。そして、電話の内容は今年の心霊サークルの夏合宿についてだった。そこで、
[ちょっと待ってね]
と言って、玲はスピーカーフォンに切り替え、料理中のかすみにも聞こえるようダイニングテーブルに移動した。序に、
「かすみ、佐伯さんから電話だけど、
今年の心霊サークルの部長になったんだって」
と話した。すると、
「えー! まじかー!
遂に心霊サークルの男尊女卑が終わったんか」
と何やら物騒な表現が飛び出した。まあ確かに、歴代の部長は全員男だったからそう感じても不思議ではないが、
[あっ、物部先輩、ご無沙汰してます。
相変わらず同棲中ですか?]
とかすみにとっては禁句と言うか、触れてはいけない話をいきなりぶち込んできた。当然かすみは、あたふたしながら
[おい、佐伯、変な事言うな!
うちのところはシェアハウスだからな。
そこ間違えるな!!]
と吠え立てた。だが、佐伯えりからすると同棲もシェアハウスも一緒と思うようで、
[そうでしたね、シェアハウスで
同棲中でしたね。ははは]
となった。かすみは額に手を当てて、「こりゃ駄目だ」と完全にお手上げ状態になった。そして玲は、このままでは話が進まないことを懸念して、
[佐伯さん、何時もの夏合宿のことだよね?]
と先んじて話を振った。案の定
[はい、そうなんですが、実はですね...]
と言って佐伯えりが話し出したのは、玲とかすみが想像できない世界のことだった。
[今年の心霊サークルですが、
部員が全部で60人になったんです]
はぁ?60人?16人の間違いじゃないの?とかすみと玲は、スピーカーから聞こえてきた佐伯えりの言葉に対し、お互いの目を見てそう呟いた。どうやら、昨年のジーエックスから発売された[心霊怪動画蒐]の評判と、3月に行われた心霊動画コンテストの様子がネットで拡散されたようで、全国から心霊好きの学生が集まって来たのだという。そして昨年は、前部長のを始めとした上級生達が、選別と言う名の推しを決めるようなことをして、女子部員を多く採用するというとんでもないことをしでかしたが、今年は入部希望者全員を入部させたということだ。その結果が
[60人かー。まじかー]
と言うかすみの溜息であった。まさかあのサークルが60人に膨れ上がるとは、玲と言うか、その中身のカーンフェルトが知る当時の部長の稲垣ですら想像できなかったであろう。そして、
[それでですね、今年の夏合宿ですが]
2部構成で行われるということだ。どういう事かと言うと、前半30名、後半30名に分けて夏合宿を行うというのだ。そりゃそうなるわな、とはかすみの感想だが、そうすると30名を収容する施設の確保と、後は心霊スポット探しが重要だが、
[実はですね、それは全てお任せしてるんです。
と言うのは...]
今年もパトロン、ではなくスポンサーが付くようで、昨年と同じ映像制作会社ジーエックスがまずスポンサーになった。そして、
[なんとですね、あの超老舗の...]
呪いの動画制作委員会が新たにスポンサーに名乗りを上げたという。実は玲には馴染みないのだが、かすみはその話を聞いた途端、「ま、まじかー!!」と絶叫した。玲はかすみに
「えっ、そんなに凄い所なんか?」
と聞き返すが、かすみは
「いやいや、玲さん、この心霊系動画を
世に広めた老舗の所ですよ。そこは。
うちもそこの動画を見て、
この分野に興味持ったんよ」
と解説し出した。それ位、この分野では超有名な所のようだ。そんな超老舗の映像制作会社が東洛総合大学如きのスポンサーに名乗りを上げたということは、
「昨年のジーエックスの成功とちゃう?」
とかすみが言うように、恐らくそれだろう。去年ジーエックスが発売した[心霊怪動画蒐―特別編―]は異例の大ヒットを記録したという。そして、その動画のお陰で、神室霊華と言う逸材が新たにM Mに参加するに至った。そういう意味で、玲とかすみには途轍もない恩恵と言うか影響を与えた動画なのだった。そんな大ヒットを飛ばしたジーエックスを横目に、やはり老舗としては黙っていられない、と言うことだったらしい。そこで、4月に入って早々に心霊サークルにコンタクトしてきたようで、直ぐに日程を抑えたのだという。
「なるほどね、この世界も大変なんだね」
と玲は他人事の様に言うが、どこの世界も競争は激しい訳で、恐らく競争と無縁なのは、M Mくらいだろうと思われた。そして、今年の夏合宿が2部構成になることも理解して、ではどこに行くのかと言うと、
[先ずですね、ジーエックスさんは
北海道の今は廃坑となった炭鉱近くの
従業員用の住宅団地になるそうです]
そこはかつて炭鉱で栄えた街のようで、その後の石炭産業の衰退と共に団地から人が居なくなったという。そして今回の目的地はその炭鉱で働いていた従業員用の住宅団地と、その付近にある付きの湖だという。宿泊はその湖に隣接するキャンプ場のコテージになる。そして
[今回は、その付きの団地での
宿泊プランもあるそうです]
と言うのだ。「何だ、そのオプショナルツアーのような企画は!」とはかすみのツッコミである。ただし、一般のオプショナルツアーのように参加者がお金を払うのではなく、ジーエックスが宿泊希望者に1人2万円の手当を出すというのだ。危険そうだが、面白い映像が期待できると踏んだのだろう。そして勿論、往復の航空券も出すというのだ。どこまでも、学生に優しい至れり尽くせりの企画である。「ジーエックスの連中、どんだけ儲けたんや!?」とかすみが呟くように、結構な出費であろうが、それだけ出しても元が取れると見たのだろう。
一方、
[呪いの動画制作委員会さんはですね、
関東近辺のある地域でして]
元は何かの医療施設か保養所のような施設と、今は操業を停止している廃工場という。そしてこちらの場合、宿泊は温泉旅館にになるというのだ。何だろう、この究極の選択みたいな状況は。なお、北海道、関東何れの施設も、管理者の許可はとっているということで、不法侵入で訴えられる心配はないようだ。流石は大手の映像制作会社であろうか。ちなみに、玲とかすみが在学中、殆ど全ての心霊スポットは無許可での不法侵入てあったことをここに付け加えておく。
そして、現在の希望者の状況はと言うと、
[今の所、北海道組5名、
関東組が55名という感じです。
なので、後程くじ引きで
公平な抽選をします]
と言うことらしい。まあ、微妙な所だな、とはかすみの印象だが、尤も北海道に関しては、どうやらかなり自由度があるようで、往復の航空券を出すが、帰りについては任意だという。そのため、旅好きな若者であれば当然北海道行きを選んだようだ。そして、玲とかすみだが、
[ただ、こちらの状況がまだ分からないから、
直前になると思うけど、
誰が参加するかはその時に話すね]
と言って電話を切った。まあ、平日であれば、玲かかすみのどちらかしか参加できないが、連休であれば両方ともに参加できる。加えて、神室霊華と言う新メンバーの参加もあり得るので、昨年のようなかすみの召喚エネルギーの暴走による気絶のような事態は避けられるだろうと思われた。
「かすみ、とりあえず、神室さんに
この日程で行ける日と駄目な日を
聞いてもらえる?」
分かった、と言ってかすみは、早速神室霊華に連絡を入れた。今の所かなり先の話になるようで、その頃のスケジュールは全く白紙だという。と言うことで、
「一応、霊華さんには、
予定を入れてもらったよ」
と言うことで、今年の心霊サークルの夏合宿はこうして始まりを迎えたのだった。
夏合宿出発前日の夜、かすみは翌日からの心霊サークルの夏合宿の準備を進めていた。ちなみに移動に関しては、かすみは当然北海道に直接転移する予定である。そのため今年はジーエックスから旅費を全額出すと伝えられていたが、かすみも神室霊華もそれは不要として丁重に断りを入れた。これにより、彼女たちは転移で自由に北海道に向かえるのだが、では現地に直接転移するかと言うと、毎度のことながらそれは出来ない。そこで現地に向かう途中の目立たない所に転移し、そこから車を召喚して現地に向かうことに決めていた。なお、細かいことだが、車のナンバーは現地北海道のレンタカー用の「わ」ナンバーにしないと怪しまれる。そこは召喚術式を変えるだけなので大丈夫だが。後は転移場所であるが、結局かすみは現地まで2km程手前の所にあるブナの雑木林に決めた。そして転移する時刻だが、まだ神室霊華は北海道までの距離を転移することが出来ないため、かすみが神室霊華を連れて一緒に北海道に転移することになっている。そうなると、現地に近い空港は新千歳空港のため、東京から北海道の新千歳空港に向かうフライトスケジュールを考えて転移することになる。まあ、早く着いても、北海道であれば観光がてら来ましたでも十分通用するので、実は細かいことを気にする必要はないのだが。後は持っていく手荷物をキャリーケースに入れて、ほぼ準備は完了となった。
そう言えば、心霊サークルの夏合宿は昔から皆の手弁当で企画して来たよなと言うことを思い出し、今年の様に既に出来上がっている既製品というかパッケージツアーみたいな企画って、果たして良いんだろうかと疑問に感じたりした。ただし、学生からすると、自己負担なく、ちょっと遠くの心霊スポットに行けるというメリットがあるので、一概に否定できないとも思える。まあ、もう少しこちらの意見を先方に伝えるようにすれば良いのかな、と言う所が落としどころなのだろうか。
ところで、心霊サークル夏合宿前半戦に訪れる所は、北海道中央部からやや西よりに位置する炭鉱跡地である。なお、炭鉱はかなり昔に閉山となり、今は何も産出していない。そして炭鉱閉山に伴い、働いていた炭鉱夫とその家族はその後全国に散らばって行っただろう。そうすると、後に残るのは彼らの住まいとなっていた住宅である。その中でも今回訪れる場所は、比較的大規模な団地になっている所である。ただし、団地と言っても公営住宅のようなコンクリート製の建物群ではなく、所謂「炭鉱住宅」と呼ばれる平屋の家屋が集まった所である。ではなぜそこが夏合宿の候補地になったのかと言うと、実はこれには政治的な思惑が見え隠れしていた。と言うのは、その場所、比較的広大な面積を有しており、しかも新千歳空港からもそんなに遠くはない。そこで、地元の自治体や企業がその土地にインバウンド向けの施設を作ろうということになった。ところが、その団地には昔から幽霊が出るとか、あるいは祟りがあるとかの噂があり、実際一部の建物を壊して更地にしようとしたとき、作業員が事故死や大怪我を負った、と言うことが過去にあったらしい。そのためか、それ以降この土地に手を入れようとする事業者が現れず、結果手付かずのまま今に至るというのだ。では、そんな土地になぜジーエックスが目を付けたのかと言うと、ジーエックスの社長でありプロデューサーのの知り合いが北海道のこの地方の出身で、そこにお前が興味ありそうな場所があるぞ、と紹介したことが切っ掛けである。そこで、撮影許可を得るためにその土地の債権者と会った際、先のについて聞かされたのだ。そうなると、撮影許可は当然下りただけでなく、可能であればその地のを調べて欲しいとお願いされ、費用も出すと言われたため、渡りに船とばかりに飛びついたということである。勿論、こうした裏事情は、取材班を統括するディレクターのだけに伝えられており、彼以外のスタッフには知らされておらず、鬼之口から「撮影許可が出たから、誰に気兼ねすることなく思う存分撮って来い!」と発破をかけられて送り出されたのだった。