召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 初日 (前編)
惑星サモナルドにある都市国家ロムリア。そのロムリアの大召喚術師エンペラールが待ちに待った瞬間が遂に訪れた。
「セラちゃん、いい、
リラックスよ、リラ~ックス!!」
と言いながら一番リラックスすべきはエンペラール先生でしょうとかすみではないがセラスティナは心の中で突っ込んだ。セラスティナとエンペラールは今、エンペラールの屋敷にある彼女の執務室にて、セラスティナが用意した降霊転移門を注視していた。そしてセラスティナは、緊張からか喉がカラカラに渇いていたが、何とか声を振り絞って、
「召喚!!」
と叫んだ。だが直ぐには何も起きない。あれっ、失敗したのか?と不安に駆られるセラスティナであったが、次の瞬間、そこに1人の青年が現れた。
「あぁー!! レ、レイ君!!」
とセラスティナは最神玲の姿を認めた途端玲に抱き着いたのだが、玲はと言うと、セラスティナとの喜びの再会どころではなく、残念ながらこの惑星の重力の洗礼を受けている最中であった。この時の玲は「そう言えば、サモナルドは重力が大きかったんだった!」と言う事実をすっかり忘れていたようである。そして玲は、背中に背負ったリュックの重みも相まって、セラスティナに体を預けたままその場にれてしまい、そのまま意識を失ってしまった。
それから数時間後、玲は目覚めた。てっきり地球の自分の部屋にまだ居るのかと錯覚しそうになったが、彼の目にする天井は、木目の鮮やかな杉板張りの天井ではなく、高さがあり、しかも装飾が施された大理石の天井である。そして彼が目を開けたのが分かったのか、視界の隅から一人の女性が顔を覗かせた。金色のショートヘアーにオッドアイの瞳を持つ、懐かしいあの人である。
「タ、タチアナさん!!」
そうタチアナことセラスティナが玲を心配そうに見つめていた。そしてもう一人、セラスティナの横から顔を覗かせた。こちらも金色の髪をポニーテールにして、やはりセラスティナと同じオッドアイの瞳を持つが、セラスティナよりも年上の女性である。ただし、年配者というよりも、セラスティナの姉と言う雰囲気を感じる魅力的な女性ではある。そしてセラスティナと一緒にいるということは...!!
「エ、エ、エンペラールさんですか!?」
そう、エンペラールも心配気に玲の様子を覗き込んでいたのだ。そして、玲は直ぐに起き上がろうとするが、直ぐに頭が何かにぶつかった。どうやらガラスか何かに覆われた箱の中に寝ているようだ。そしてセラスティナが蓋を開けたところで、改めて起き上がろうとするが、やはり重力の洗礼は彼の体に容赦せずに襲い掛かっていた。頭から一斉に血液が抜けていく感覚を味わい、その後直ぐにに襲われてしまった。そのため、再び横にならざるを得ず、そのままの状態でエンペラールに自己紹介をした。
「すいません、こんな格好で
挨拶することになりまして。
改めて僕は最神玲と言いますが、実は...」
サモナルドからの転生者で、転生前はカーンフェルトと言う名前でした、と言うことをサモナルド語で伝えた。そしてエンペラールも、
「気にしないでください、レイさん、
私はエンペラールと言いまして」
ロムリアの全召喚術師をめています、と玲に伝えた。玲は、やはりエンペラールと言う人は伝説上の人物ではなくちゃんと実在し、しかもその人に自分が今、直接会っているという事実に興奮を覚えていた。地球の日本に例えれば、差し詰め卑弥呼様に会いました、と言う所だろうか。それよりも、玲はセラスティナに対し
「タチアナさん、もしかして色々と
予定されていたと思うのですが、
僕がこんなことになって
予定が狂ったのではありませんか?」
とセラスティナを気遣ってそう問いかけた。セラスティナも、
「そんなこと気にすることないのよ、レイ君。
それよりも体を慣れさせるようにしないとね」
と逆に玲の体調を気遣ってくれた。そして玲を暫く休ませるために、セラスティナはエンペラールを伴って部屋を出て行った。
それから数時間程して、サモナルドの空に夜のが降りようとしていた時、玲は何とかベッドと言うか透明ケースの中の寝台の上で起き上がる所までは重力へ対応できるようになった。まだ残念ながら歩くまでの力はついてないようだが、例えば車椅子を使えば移動に問題はなさそうと見ていた。そこで玲は自律型の車椅子を召喚し、それに座って移動することにした。そして車椅子に乗って部屋の出入り口の扉に向かいかけた時、扉が開いてセラスティナが入って来た。
「まぁ、レイ君、大丈夫なの?」
と心配そうに玲に尋ねるが、玲は
「はい、何とか座ることまでは大丈夫なので、
車椅子で移動してます。
ご心配おかけして申し訳ありません」
と座りながら頭を下げた。ところでセラスティナは、玲の様子の確認と、元気になっているようなら食事をどうするかを確認しに来たのだが、
「これなら、食事しても大丈夫そうね?」
とセラスティナが玲に確認すると、玲のお腹が鳴りだした。玲は恥ずかしそうに「はい、体は正直ですね」と答えたので、セラスティナは笑いながら玲の車椅子を押して、室に向かった。
玲がセラスティナと一緒に晩餐室に入った時、そこにはエンペラールの姿があった。そして玲は、所謂お誕生日席に連れて来られ、今宵は3人だけの歓迎会が催された。そして何やらエンペラールが合図をすると、奥の扉が開き、そこから数人の使用人達が入って来た。そして3人の座るテーブルの上に、黒い箱と言うか重箱のような物を置いた。その色つやと言い、質感と言い、これは...
「これって、もしかして塗りですか?」
と玲は誰にともなくそう尋ねたが、セラスティナは「そう見えるでしょ?でも違うのよね~」と玲が予想通りの答えを出したことに何となく満足した様子である。実際は木製ではなくロムリアにある金属材料で作られているのだが、箱の艶の出し方や質感は地球の日本にある漆塗りの重箱をイメージしたというのだ。そしてセラスティナの話によると、地球からの帰還組の中で飲食業を始めた者がおり、ただし普通にやっていては目立たないし儲けにならないため、同じ地球からの帰還組の人に相談してある工夫を試みたという。それが、
「日本の弁当を思い出して、
そんな工夫を取り入れたと
言っていたわね」
つまり、目の前の漆塗り風の箱は、箱弁当であった。確かに、ロムリアから転移して来た人の中に地球の工芸作品に興味がある人が居たのを玲は思い出した。そしてその人から、漆工芸についての問い合わせを玲が受けたことがあり、資料をサモナルド語に翻訳して渡したのだった。ただ残念ながら漆の採れる落葉高木がロムリア周辺には存在しないため、止む無く似た質感を出すだけに至ったというのだが、それでも再現性の高さには驚かされる。そして、玲は興味津々な表情でその蓋を開けた。すると、
「おー、は確かに和食の会席料理に
通じるものがありますね」
と感心し出した。これは恐らくあの人が作ったのかな、と玲は想像するが、玲と地球のロムリアブランドの社長秘書であるゲラルド・エクセルガーはあるサモパラの懇親会で弁当の話をしたことがあった。ゲラルドが日本式の弁当を毎日持参してランチを楽しんでいることを玲は知っており、玲も最近では昼食に弁当を用意することがあるので、それでどういった内容が良いのか、どういう組み合わせが栄養的に良いのか、などと言った話をしていたのだが、そんな時に弁当に興味を持った女性がおり、結局3人で弁当談義をしていたことがあった。そして彼女はロムリアに帰還したことを知っている玲は、セラスティナにそのことを確認した。
「そうよ、彼女がこの弁当を
作って持ってきたのよ」
と言うことであった。そしてこの弁当は、玲が召喚されたことを知って早速作ってわざわざ持ってきたと言うのだ。なお、明日の晩は、地球からの帰還組を交えた晩餐会が催されるということで、その時にでも弁当の評価を教えて欲しいということらしい。玲も皆に久し振りに会うことを楽しみにしたのだった。そして手元にあるフォークで早速一口分を口に入れた。
「あっ、これって、
味付けは醤油何ですかね?」
食材はサモナルドの肉や野菜が使われているが、味付けは和食に近い感じである。ロムリアの料理をまだ玲は味わっていないが、ケンタリアにいた頃は、塩が貴重なため塩分控えめにしつつ、野菜や香辛料を煮込んだソースみたいなものに浸して味をつける、という料理が多かったことを記憶している。一方、今目の前の料理は、醤油らしい味付けであるがそんなに塩辛くなく、和食と同じように食材の特徴を引き出した料理になっていた。そして今のロムリアでは、この食事スタイルとこの調理法が受けて今はどこも真似しているという。ただし、味付けだけはどうも真似されてないようで、唯一無二の味ということで、この店は重宝されているのだとか。しかしまさかサモナルドに来て、地球のしかも日本の味を堪能するとは予想もしていなかった玲である。むしろつい昨日まで食べていた料理そのものに近いので、本当にここはサモナルドなのか?と疑ってしまったくらいであった。
その後、今度はロムリアの料理でもてなされたが、その中のある料理に対し、玲と言うよりもカーンフェルトがその味に感動を覚えた。何が彼を感動させたかと言うと、
「この煮込み料理って、僕の住んでいた
ケンタリアにもありましたが、
まさかこの時代からあったとは...」
と言うくらい、実は歴史の長い料理であったということを知ったからである。料理としては単純で、動物の肉をハーブと香辛料で長時間煮込むものであるが、その時使用するハーブも香辛料も、カーンの居たケンタリア時代と殆ど変わっていないのであった。地球の和食なり中華料理なりが、千年も違うと少しずつか、かなり変化を遂げることが容易に予想されるが、サモナルドのこの料理はそう言った変化を殆ど遂げずに千年後も食べられていたということに、カーンは感動を覚えずにはいられなかった。