召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 初日 (後編)
和食に似た会席弁当とロムリアの伝統料理によるもてなしを受けながら、最神玲はエンペラールとセラスティナとの会話を楽しんだのだが、結局はセラスティナに対し最近の地球の出来事を話すことが主になっていた。そして料理を一通り堪能し、エンペラールとセラスティナのもてなしと言うか彼女達の優しさを感じた玲は、心に深く染み入るのを感じたものの、そんな彼女達に玲は残念ながら土産を何も持ってきてはいなかった。だが、忘れていたというのではなく、意図的に持ってこなかったのだが。
「何か、お二方のおもてなしを受けて、
凄く感動しております。
ただそんなお二方に対し、
僕からお土産と言うかそんな感じの物を
持参してないのですが...」
恐らく、お二方には、こちらのお土産の方が相応しいかと思います、と言って玲はタチアナがロムリアに帰還してから習得した幾つかの召喚術式を披露した。
「まず、タチアナさんもご存じの
バレル型の降霊転移門ですが、
実はこの正しい使い方が分かりまして」
と言って、降霊転移門の術式が描かれた場所に、上から更に別の術式を載せる方法を教えた。
「これだと、僕が考えた方法と
同じ量の召喚エネルギーを
消費するだけですし、しかも」
こちらの方が簡単であることを伝え、かすみは今では創成召喚に対しこれしか使わないことを付け加えた。試しにエンペラールとセラスティナも行ったところ、2人とも同じリアクションで驚きの表情を見せた。そしてもう一つあれも披露した。
「実はですね、降霊転移門の術式を
同じ場所に上書きするとですね」
このように外れるんですよ、と玲は召喚門の破片を一つ掴んで笑いながら彼女達に説明した。エンペラールとセラスティナは、玲が一体何を言っているのか直ぐには理解できなかった。そして試しに自分達も同じことを試みた途端、「えー!! な、な、何でこうなったの?」と騒ぎ出した。当然、召喚術師の常識として、召喚門に触ることは出来ないし、ましてや分解されるなどあり得ないことである。エンペラールに至っては、何かに憑りつかれたのか、破片を手にしたままブツブツと何やら呟いていた。そんな様子が心配になったセラスティナが、立ち上がるやエンペラールの元に向かい「先生、しっかりしてください!!」とエンペラールの肩を揺すって何とか正気に戻させたのだが、玲は、
「す、すいません、ちょっと、
刺激が強すぎましたか」
と頭を搔きながら2人に謝罪した。セラスティナは玲との付き合いがある程度あるので、こういう事に対する免疫はある程度できていたが、しかし召喚門が触れて外れると言う非常識さには流石に度肝を抜かれていた。それでも、
「ね、ねえ、レイ君、
こ、これって何に使うの?」
と至極当然の疑問を口にした。玲は、
「すいません、タチアナさん、
僕もまだ分からないんですよ。
ただですね...」
と言って、今度は最近発見したヘキサグラム型召喚門をその場に展開し、同じようにヘキサグラム型召喚門をバラバラにした。当然、セラスティナはヘキサグラム型召喚門を初めて目にするだけでなく、これも触れてバラバラになるという事実に、もはや驚きを通り越して脳がマヒして彼女から一切の感覚を奪っていた。そしてエンペラールはと言うと、最初こそ1人違う世界に飛んでいたようだが、今は正気を取り戻していた。そして、玲がヘキサグラム型召喚門を展開した途端、大声で
「レ、レ、レイさん、こ、こ、これを、
ど、ど、どこで見つけたのですか??」
と騒ぎ出した。どうやらヘキサグラム型に興奮したのではなく、その中に書かれた召喚言語に対してであった。そして玲も、エンペラールの反応に驚きと共に興奮し出し、
「エ、エ、エンペラールさん、
こ、こ、この文字が、
わ、わ、分かるんですか?」
と震える声でそう尋ねた。エンペラールは声には出さず、ただ頷くが、その後何故か首を横に振った。えっ、どっちなんだろう、と玲は訝しく感じたが、どうやら両方の意味があるようで、エンペラールが落ち着いたところで
「先ずね、レイさん、
この召喚言語を見たことはあります。
これは...」
今から数千年前の古代の召喚言語であるという。ただし、
「残念ながら、今はその召喚言語に関する
資料とかは残ってないの。
だから意味も全く分からないけど」
ある場所にそれに関する資料があるかもしれないというのだ。そこは
「このロムリアを統治している
王室があるんだけど、」
そこの書庫であればもしかしたらあるかもしれない、と言うことらしい。まさかロムリアでこの召喚言語のことが分かるかも知れないというのは、玲も予想だにしないことであった。ただし、王室に簡単に行くなどは出来無さそうであり、今回の予定にも入ってないため、玲はエンペラールにその資料を何とか見せてもらえないかお願いしてもらうことにした。エンペラールも確約は出来ないが、何とか実現できるように努力することを約束した。
さて、三者三様に興奮冷めやらぬ中、どうしてもセラスティナは手に持ったヘキサグラム型召喚門が気になってしまい、
「ねえ、レイ君、これって何に使うの?」
やっぱり分かんないよね、と笑いながらそう尋ねた。これに対し玲は、かすみの野生の勘が導いた結論を披露した。
「かすみの奴が言うには、これを手に持って」
ブーメランみたいに出来るんちゃう、とかすみの口真似で答えた。セラスティナはかすみの意見が実は的を得ている感触があり、
「流石はカスミさんね、
私も何となくそんな感じがするのよね~」
と言って、その場で少し投げてみた。確かに真っ直ぐある程度飛ぶことは確認できたが、これが手元に戻るのかはまだ分からないし、玲もそれを確認したことはない。
「ここの庭は広いから、
後で試してみましょうよ!」
とエンペラールも手で持ちながらそう言うので、後程確認することにした。
「しかし、レイ君のお土産は、
相変わらず破壊力があるわね」
とセラスティナは昔を思い出しながらコロコロと笑い出した。
その後3人は、エンペラールの後に付いて、屋敷の外に出た。そして手に持ったヘキサグラム型召喚門を夜空に向かって投げてみた。ただ残念ながらそれが戻ってくることはなく、そのまま庭の周囲にある雑木林の中に消えて行った。
「やはり、ブーメランではないんですかね?」
と玲は少しがっかりした表情でそう呟くが、セラスティナはと言うと、
「もしかして、ブーメランにするような
術式が必要なのではないかしら?」
と自分の考えを披露した。そうであれば、可能性はありそうだし、今この時点でここに書かれている召喚言語は全く理解できないため、結論は後日に持ち越しとなった。
それよりも、玲は改めていま目にしている夜景に見入っていた。確かにここはサモナルドであり、夜空に輝く星座は、地球で見ていたものとは全く異なっている。むしろカーンフェルトにとっては、見慣れた夜空であった。それよりも、間近にえる巨大な塔、日本でもスカイツリーがあるが、それを遥かに超える高さの塔がそこにある。そして玲、いやカーンがロムリアにて驚いたのは、街中の至る所にある建物に電気がついていることであった。日本から来たばかりである玲は、ロムリアの夜景に対し違和感を持たないのだが、カーンからすると、サモナルドにも電気があったのかと言う事実は、驚異であろう。ケンタリアでも、夜には発光石のような特殊な石で明かりを灯していたが、地球の生活に慣れると、あの頃の明かりが如何に暗いかを実感する。ところが、ロムリアはセラスティナに聞くところでは、電気を使っているというのだ。こんな凄い文明があったのに、その遺産が千年後には全く残されていない謎、これは一体どういうことなのか?やはりあのクレーターが原因なのだろうか、と考えるが、当然そこに結論は見いだせない。そんなことを止めどなく考えていた玲に対し、セラスティナは、
「そろそろ、中に入って休みましょうか?」
と提案されたので、玲はそれに従った。そしてセラスティナに車椅子を押してもらって、先程横になっていた部屋に連れて来られた。
「じゃあ、レイ君、また明日ね」
と言って、セラスティナとエンペラールは部屋を後にした。
玲を休ませるために部屋に戻し、その後エンペラールとセラスティナは、一旦エンペラールの執務室に向かった。そして部屋に入り椅子に座るやいなや、エンペラールは開口一番、
「セラちゃん、レイ君の召喚エネルギーって...」
あなたの言っていた通り凄まじいものね、と興奮しながらそう口にした。そして確かに自分の召喚エネルギーを遥かに上回ることも分かったが、それ以上に彼の召喚術に関する知識の豊富さと飽くなき探求心を目の当たりにしたことで、セラスティナが彼に師事したいという理由も十分に理解できた。むしろセラスティナと同様、自分も彼に師事したいと願いそうになった。もし今の立場が無ければ、間違いなくそうしていたであろうが、エンペラールの立場上、そのようなことは一切許されない。なぜなら、彼女はこのロムリアを統治する12人の大臣の1人だからである。