召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 2日目
最神玲は、惑星サモナルドの都市国家ロムリアの2日目の朝を迎えた。昨日はいきなりサモナルドの重力の影響を受けて、いきなり気絶し、その後回復するも立ち上がること叶わなかったが、今朝は何とか立ち上がる所まで回復したようだ。尤も一瞬ふらつく場面があったが、今は普通に歩くことが出来る。しかし残念ながら、飛び跳ねたりすることは全くできない。まるでかすみを背負っている時のような負荷が足腰に掛かっているようだ、と表現するとかすみのことだから「うち、そんなに重くないわ!!」と言って玲をシバキにかかっただろう。だが、この状況下で筋肉をつけたりしたら、地球では超人じゃないのか?と玲は想像すると、普段全く筋トレなどに興味のない玲でも少しやってみようかと考えてしまう。いやいや、それよりも、先ずは体調を万全に整えないと、この後の予定が大幅に狂ってしまうため、今は自重することにした。
そう言えば昨日は余り感じなかったが、今朝は少し肌寒さを感じた玲は、ベージュのジャケットを召喚し、今着ているTシャツの上にそれを羽織ることにした。なお、下はデニムのままであるが、これくらいで今は丁度いい感じである。早速部屋の外に出てみると、室内よりも更にひんやりした空気に包まれていた。セラスティナの話では、今のサモナルドは漸く冬が終わった頃だという。そうすると、これから徐々に暖かくなるんだろうと想像すると、暫くこの地に滞在したくなったりする。そんなことを想像しながら玲は、外に出ようとするものの、どこが出口か分からなくなっていた。ここが2階であることは確かだが、そもそもこの建物が何階建てなのかすら分からない。昨晩、セラスティナの案内で晩餐室に向かうとき、ここがエンペラールの私邸であり、しかもベルサイユ宮殿かそれ以上の広さの屋敷であることを教えてもらった。
その時、以前タチアナの招待でパリにかすみと2人で訪れた時、観光でベルサイユ宮殿に行ったことを玲は思い出した。そしてかすみが、室内の景観と装飾品をみながら「こんなとこ、人の住む所じゃないよね」とボヤいていたことを思い出し、玲は思わず「でもここに人住んでるんだよな」とその場にいないかすみにツッコミを入れたりして楽しんでいた。だが今改めて廊下に出て思うのは、「ほんと、ここ人住んでる気配全くないよな」であった。しーんと静まり返った廊下を歩きその先にある階段に向かうが、階段の踊り場に降りても下の階からの物音は何一つ聞こえてこない。そんな時に玲は、大学の卒論の研究で携わったある民間伝承を思い出していた。それは「」である。なぜ「迷い家」の話を思い出したか?、実はよく分からないが、あの話は人の住んでいる気配を感じない「迷い家」の中の物を持ち出すと裕福になるとか、そんな話だったと思ったが、人の住んでいる気配を全く感じない点で似てると思ったのだろう。だが、決定的に違うのは、そもそもこの屋敷内にそんな持ち出せる物があるのかすら疑わしい点であろうか。恐らくこの屋敷の主であるエンペラールが華美な装飾を好まないからかと想像したりするが、そのせいか、今どこに居るのかを把握することが難しくなっている。ベルサイユ宮殿であれば「あそこのあの絵の所」とか「あの甲冑が置いてある廊下」など何かしらの目印があるのだが、ここには何もなく、似たような廊下や階段があるだけだ。それでも何とか試行錯誤を繰り返し、漸く外に出る扉を見つけた玲は、そのまま外に出ることにした。
一体何年振りだろうか、サモナルドの朝を迎えた玲ことカーンフェルトは、東の空に昇る2つの太陽を拝みたかった。だが残念ながら、丁度東側にはロムリアの高層建物群が聳えているため、直接まだ太陽を拝むことは叶わなかった。しかし、
「何か凄いな、ロムリアと言う都市は!!」
と玲が独り呟きながら感嘆しているが、恐らく似たような都市は地球上には存在しないだろう。とにかく、建物の高さが半端なく高いのだ。玲は何度か東京に行ったことがあり、そこでも高層ビル群を目の当たりにすると、圧倒されてしまう。ところがロムリアは、東京の比ではない。高さが数百メートルは普通にある高層建物の密度と言うか密集具合が濃いのである。確かに、サモナルドのこの地域は地震が殆どというか、全く無いため、地震による倒壊を心配する必要はないと思われた。そして、殆ど全ての建物が円筒形や楕円型の円筒など、逆に地球で見られるような角柱型の建物が全く見られない。そう言う意味では、まさに異世界の都市にやって来た感があると言うものだろうか。そんなロムリアを眺めていた玲の後ろから、
「レイさん、おはようございます。
お体の方は回復されましたか?」
と声を掛けられた。玲が振り返ると、そこにはエンペラールが立っていた。早速玲も、「おはようございます。エンペラールさん。お陰様で、今日はこの通り歩くことが出来るまでには回復しました」と言って、まだゆっくりとだがその場で歩いて見せた。そんな玲の様子を見ていたエンペラールは、嬉しそうに頷いて、
「では、少し散歩でもしますか?」
と言って、玲を連れて散歩に出かけた。散歩の最中、玲は目の前に聳える高い塔が何なのかが気になって、それをエンペラールに尋ねた。すると、
「あそこは、ロムリアの王宮ですね。
あそこに、この国を統治してきた
王室の方々が住まわれてます」
と言うことらしい。ただし、今はロムリア王室に政治的な実権は殆どなく、しかし議決権は12人の大臣同様に持っているため、王室の意向を無視することは出来ない。ちなみにロムリアにおける大臣とは、
1) 軍事担当(ハンターの管理を含む)
2) 農業担当(食糧生産と流通全般)
3) 科学技術担当
4) 経済担当(ロムリア全体の経済活動の管理)
5) 財政担当
6) インフラ担当
7) 治安担当
8) 内政担当(治安を除く生活全般)
9) 教育文化担当
10) エネルギー担当
11) 衛生管理担当(医療行政含む)
12) 召喚術担当(転移装置の管理を含む)
に関する行政組織の責任者を指す。そしてエンペラールは、召喚術の管理及び召喚術全般に関わる責任者であるという。そのため常に多忙を極めているということを昨日セラスティナが玲に語っていたが、玲を案内するエンペラールにはそのような慌ただしさを一切感じない。それも当然で、ほぼすべての仕事をセラスティナに丸投げしているからである。このようなロムリアに関する基礎知識を紹介してもらいながら、玲はエンペラールとの会話を楽しんだ。そして
「さて、戻って朝食にしましょうか?」
とのエンペラールからの提案で、玲はエンペラールと共に晩餐室に向かった。
晩餐室に入ると、セラスティナが難しい顔をして腕組みをしながら、あっちへ行ったりこっちへ来たりを繰り返していた。そしてエンペラールの姿を見た途端、
「せ、先生!!何やってんですか!遅いですよ!」
とエンペラールに対して怒り出した。どうやらこれからのスケジュールにおいて無駄な時間はないと言わんばかりの剣幕であった。実はエンペラールは、玲を部屋まで迎えに行き、そのままここに連れてくるはずであった。ところが玲はどこかに行って不在であり、彼を探しているうちに玄関の扉が開いていたので外に出たら玲がそこにおり、そのまま2人で散歩した、と言うことであった。そんなことを説明されたセラスティナは呆気に取られていたが、「とにかく、これから食事して、直ぐに出発して頂きますからね!」とエンペラールに忠告したのだった。セラスティナの立てた予定では、今日中に7件の残留組の家族と面会することになっている。そして先方には、何時にそちらに向かうということも昨日のうちに連絡済みである。そのため、セラスティナとしては1分1秒も惜しいところなのだ。そして慌ただしい朝食後、玲とエンペラールは最初の訪問先に向かったのだった。
今日の訪問先は全てロムリア市内にあるため、全て転移で向かうことが出来る。地球の様に転移先に人が居ないことを確認してから転移する、と言った面倒な作業はいらない。玲としては、ある意味新鮮な感覚で転移したのだった。そして訪問先では、殆ど皆同じ反応を示したが、ロムリアを統治する大臣の1人であるエンペラールが同行していることに驚きを持って迎えられた。玲は全く預かり知らないことだが、もし何か要望などがある場合、普通は地元の役所に陳情後、幾つかの段階を経て中央に挙げられる、というプロセスが踏まれる。ところが、直接大臣に陳情できるのであればそれがベストであり、今まさにその機会に恵まれたのだった。だが、エンペラールは機先を制して
「今回私は、こちらのレイ・モカミさんの
案内役で来ておりますので、
陳情等はご遠慮ください」
と訪問先で必ずそう伝えていた。それ位に、ロムリアにおけるエンペラールは大きな存在なのであった。そしてそのような偉大なエンペラールを従えたこの男は一体何者なのか?という疑問を皆一様に感じたようだが、エンペラールの手前あからさまにそのような事を口にする者はいなかった。
そんな状況を知ってから知らずか、玲は地球に残る人達からのメッセージをノートパソコンと大画面モニターを召喚してそこに映し出した。最初は皆一様に興味を持って動画を眺めていたが、実は動画自体が物珍しいのではなく、2次元の動画自体を珍しがっていた。と言うのは、既にロムリアでは、3次元での立体映像技術が当たり前のように普及しており、却って2次元の動画は古き良き時代の遺物のように珍しがられたのだった。玲はそのような状況を昨晩の晩餐会でセラスティナから聞いており、2次元の動画を見せることで怪しまれないか心配した。それに対しセラスティナは「いいえ、むしろそのような技術であるからこそ、この世界の人ではないことが分かると思うわ」と言われて、結局そのままの映像を流すことにした。最初は興味半分、怪しさ半分と言う表情で動画を眺めていた人達も、そこに確かに行方不明になっていた親や兄弟姉妹そして子供たち、あるいは友人が映し出され、そして彼らの声で今は別の世界にいるという事実を知り、しかも元気に暮らしていることを知って安堵し、涙するのだった。その後、玲は彼らから預かって来た土産を家族や友人などに渡した。なお玲は、そんな彼らの様子をウェアラブルカメラを通して常に録画しており、加えて、地球に残る残留組の家族や友人に対しメッセージをビデオカメラで録画することを行った。また少量であれば何か持っていくことは可能と言うことで、服やメッセージカードが手渡されたりした。玲は、それを恭しく受け取り、しっかりとリュックサックに仕舞った。そして無事初日の7件の訪問を終えることが出来た。
「エンペラールさん、有難うございました。
お陰で順調にメッセージを届けられました」
と玲は早速エンペラールにお礼を述べた。それに対し、
「お礼なら私でなく、セラちゃんに
言ってあげてね」
とやんわりと制されつつ、セラスティナへの感謝を伝えて欲しいとお願いされた。当然玲は、帰ったらすぐにセラスティナに対してお礼を言うことにしていた。
エンペラールの屋敷に転移後、直ぐにエンペラールと玲は、彼女の執務室に向かった。そこでは、セラスティナが額に汗しながら、エンペラールのすべき仕事を肩代わりしていたのだが、
「タチアナさん、只今戻りました」
との玲の挨拶で、セラスティナは我に返った。そして笑顔で、
「レイ君、お帰り。疲れたんじゃない?」
とセラスティナからわれてしまった。いやいや、僕よりもタチアナさんの方が疲れてませんか?と玲は聞き返したが、セラスティナは「何時ものことだから平気よ」と軽く受け流していた。そして玲は、早速順調に残留組のメッセージを家族や友人に伝えられたことを報告し、セラスティナに感謝の言葉を伝えた。そして今回届けたメッセージを何時でも再生できないか、と言うことをセラスティナに尋ねた。それに関しては、データを変換するなどで対応できるかも、と言うことでその対応をセラスティナにお願いして、今日の分のUSBを彼女に渡した。そして暫くエンペラールの執務室に滞在していたが、夜には帰還組の人達が集まって玲の歓迎会が催されるため、玲とセラスティナは揃ってこの屋敷の大広間に向かった。なおエンペラールは、やり残されている仕事を片付けるために、執務室にて作業を続けることになった。
大広間に入ると、既に帰還組の人達全員が集まっていた。そして玲の姿を見た途端、皆駆け寄って来て挨拶を始めた。玲としては、まだ別れてから地球時間で1年ほどであるものの、皆元気にロムリアで生活を送っていることを知り、玲は安心した。何と言っても、帰還方法を考案した1人である以上、彼らの無事の帰還だけでなく、その後の生活も心配していたのだが、杞憂に終わったことで安堵した。それから皆で食事を楽しみながら、各自の近況報告会が開催された。転移前に就いていた仕事をそのまま続けている人もいれば、地球で培った技術を使って新しく商売を始めた人もいて、皆それぞれにこれからの人生を楽しむ姿がそこに現れていた。なおこの時の模様は玲のウェアラブルカメラに収められており、玲が地球に帰還後、地球に残る残留組の面々と一緒に見る予定にしていた。そして玲も差し障りのない範囲で地球での出来事を話したりして、和気あいあいとした夜が過ぎていった。
「エンペラールさん、タチアナさん、
楽しい夜を過ごさせてもらって、
有難うございました」
と玲は、セラスティナと共に執務室に戻ってから2人に感謝の言葉を伝えた。尤も2人とも「そんなこと気にしないの。楽しければいいのよ」と答えたのは言うまでもなかっただろう。その後玲は、自室に戻りシャワーを浴びてから今日撮影したデータを整理し、後日それらを地球に戻ったら直ぐに送れるように手配を進めた。後残りは7件。そのうち6件は既に場所が分かっているが、もう1件、チーターの実家はまだ分からない。これについては明日エンペラールとセラスティナに確認してもらうことにし、玲は睡眠カプセルと呼ばれる寝台に横になった。やはりまだ重力の影響があったようで、横になった途端足先に多く溜まっていた血液の一部が全身を巡りだすのを感じた。まあ、明日になれば完全復活出来るかな、と少しばかり余裕な表情をしながら玲は瞼を閉じたのだった。