召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 3日目(前編)
何となく地球にいた時と同じ何時もの時間に目覚めた最神玲は、勝手に出歩いてセラスティナに迷惑かける訳にはいかないため、自室で今日訪れる所の確認作業をすることにした。ちなみに玲は、ウェアラブルカメラを頭に装着し、出来るだけロムリアの都市の雰囲気も伝えようとしていた。そこでカメラのチェックも入念に行い、記録用のメモリーカードも全く問題ないのを確認してから、カメラを装着した。しかし、まさかロムリアでは、このカメラも映像を表示するパソコンやモニターも、過去の遺物の様になっているとは玲も想像できなかった。ただし、エンペラールが言うには、ノートパソコン自体は元からロムリアにはないという。代わりに3次元表示できるスマホよりも少し小さい情報端末はあり、それを使って人々は色々な情報を得ているという。ただ小さいため使い勝手が悪そうに見えたが、実はサイズに意味はないという説明をエンペラールから受けた。と言うのは
「だって、情報の入力は投影される
ここで行えるからね」
と言いながら、3次元表示されたキーボードのようなものを操作し出した。そう、スマホの操作とは全く異なり、あくまでも情報端末はデータの保存と投影するためのデバイスに過ぎないようなのだ。この点では、ロムリアは地球のテクノロジーの遥か先を言っている印象を持つのだが、尤もロムリアと地球の文明の進み具合が同じことは有り得ない訳で、どちらが良いのか悪いのかの優劣をつけることに実は意味はないと思っている。例えば、地球では宇宙がどういった場所なのか、あるいは宇宙に関する宇宙物理学の研究が盛んに行われているが、ロムリアは宇宙、イコール、ネオエベレスト山の山頂よりも空気が薄い場所、と言う認識がつい最近、実際はセラスティナがロムリアに帰還するまではあったというのだ。これだけ進んだ文明を築いてなぜそのような認識なのか?と玲は疑問に感じたが、エンペラールの説明では宇宙を観測するとか宇宙空間に人工衛星を打ち上げるなどと言う概念そのものがロムリア人には無いというのだ。そして人工衛星を打ち上げる考えがないというのは、実はこのロムリアに乗り物が殆ど存在しないこととも関係していた。広大なこの都市を自由に移動するには何かしら交通手段が必要に感じるが、ロムリアでは全て転移で済ませられるため、態々移動手段を用意する必要がないのだ。それ故に、宇宙空間に何かを送る場合も転移させれば済むのではと言う発想を持つに至り、今もってロムリアにおける宇宙開発は転移で済ませる方向で行っているという。そしてその責任者が、エンペラールであるらしい。まあ、確かに転移であればピンポイントにその場所に人工衛星を置くことが出来るから、効率のいい宇宙開発であることは間違いないだろう。そんなことを思いながら、玲は朝食を摂りに晩餐室に向かった。
セラスティナの用意した今日のスケジュールでは、6件の訪問を予定していた。そしてそれら全てはロムリア郊外にあるらしい。尤も、玲は長距離の転移が全く問題ないので早速出発するのだが、今日はエンペラールではなくセラスティナが同行することになった。エンペラールは不平不満をセラスティナに投げていたが、どうしてもエンペラールでないと処理できないことがあるからと言うことで、仕方なく執務室にて仕事を行うことになった。そして玲はセラスティナと共に、6件の家に向かった。
今日の訪問先はロムリアとは違い、玲と言うよりもカーンフェルトにとっては懐かしい風景の漂う田舎町にやってきた。場所的には、そこは「もしかして、ジンギスタ帝国のある所か?」と想像したが、確かにそこはジンギスタ帝国発祥の地であった。ただし、玲が今いる時代は農耕を営む十数件の家があるだけで、典型的な田舎町の様相であった。そして1時間程滞在してから次の場所に転移するを繰り返しながら、玲はある街にやってきた。ロムリアから南東方向に数千キロ離れたその街は、今まで訪れた街の中でも比較的大きな街である。建物の数からして数千件はあるだろう。そして多くの建物はカーンフェルトのよく知るケンタリアと同じ、石とレンガで作られている。こうして街を眺めると、まるで昔のケンタリアなのか?と思ったりしたが、今いる街は場所的にはロムリアの南東側なのでそれはない。そしてこの街の周囲は高い塀で囲まれているが、これは恐らく野獣や猛獣の襲撃対策と、後は賊の襲来を防ぐためであろう。やはりケンタリアの雰囲気をどうしても感じてしまう。
そしてセラスティナはここで昼食としましょうと提案したので、その街の宿屋兼食堂に入った。丁度昼時であろうか、食堂の中は地元民で大いに賑わっており、厨房からは香草焼きだろうか食欲をそそるいい香りが玲の鼻先を漂っていた。とりあえず玲とセラスティナは空いた席に座り、注文はセラスティナに任せることにした。そして料理が来るまでの間、セラスティナと雑談をしていたのだが、どうやらセラスティナもそうだが、玲の姿もやはり奇異なようで、食堂にいた連中の注目と言うか注意を惹いていた。そして案の定、昼間から酒を飲んで酔っ払う連中が2人に絡んでくるのだった。
「おい、兄ちゃんと姉ちゃん、
何だその恰好は?」
と笑いながら酒臭い息を玲とセラスティナに向かって撒き散らした。だが玲はそんな輩を無視して、セラスティナとの会話を進める。セラスティナは内心ドキドキしていたが、玲の落ち着いた表情と態度に安心したのか、彼に付き合うことにした。そしてそれがどうやらこの男にはカチンと来たようで、自分が無視されたことで腹を立てだした。やがて、
「おい、こらー、てめえー、
俺を誰だと思ってんだ?」
俺はこの街一番のハンターだ、と大声を出してんだ。だからと言って、かすみの様に「へー、凄いでんなー」と挑発するような言葉を玲は発することはせず、無視し続けた。ただし念のため、自分とセラスティナの周りには、降霊転移門によるシールドを張った。そしてセラスティナは、自分の周りに何やら召喚門らしきものが張られているのを感じたが、今は黙っていることにした。すると、その男は、背中に背負っていたボウガンらしきものを取り出し、照準を玲の頭に合わせた。やれやれ、そんな近くから撃たないと当らないのか?と玲は挑発するようにその男に向けて言葉を発した。その男は最早冷静な判断力はなくなり、
「てめぇー、ほえ面かくなよ!!」
と言って玲に向けてボウガンの矢を放った。セラスティナは、咄嗟に「危ない!」と叫んで玲を庇おうとしたが、玲はセラスティナの行動を制した。そして放たれた矢は、玲に届く手前で消えた。突然目の前で自分の放った矢が消えるのを目の当たりにした男は、更に次々と矢をえて放つも全て玲の手前で消えて行った。そのうち、男の仲間だろうか、玲とセラスティナを取り囲みだし、更に手には同じようなボウガンを持って一斉に玲とセラスティナに向けて矢を放った。そもそも店の中でのボウガンによる攻撃はどこの街でも禁止されているが、そんなことに構わず矢を放ち続けた。その結果、店の中は突然の襲撃ではないが、それに近い状況が発生したため、阿鼻叫喚と化していた。
だが、玲はニコニコしながら涼しい表情で彼らの行動を眺めている。そして遂には実力行使とばかりに玲に掴みかかろうとするが、玲は即座にその場の男達全員に対し魂の分離を行った。そのため、玲とセラスティナを取り囲んでいた自称ハンターたちは、魂を抜かれたためにその場に意識を失くしてれてしまったのだった。ちなみに、玲は転移させることも頭の片隅にあったのだが、この国と言うかロムリアの法律上それが禁止されていることを思い出し、魂の分離を行った。ロムリアでは、自分の転移は問題ないが、他人を勝手にどこかに転移させた場合、重罪が課される。ただし例外として自分の身を守るための自己防衛であれば罪が免除されるのだが、どちらにしても、流石にロムリアに来た早々、犯罪者になるのは真っ平御免である。
さてそんなことを考えていたとき、玲とセラスティナが頼んだ料理を店員が恐る恐る運んできたので、玲は一旦降霊転移門のシールドを解除してから立ち上がって料理を受け取った。それから、店員に
「どこかに召喚術師がいたら、
その人に魂を入れてもらってください」
と依頼しておいた。ちなみに、玲はそれをする心算は一切ない。そして早速熱々の香草焼きをセラスティナと共に堪能しながら、何が起きたのかについてセラスティナに語った。玲が自分達の周りに展開した防御シールド、まさかそんなことが召喚門で可能なのか?とセラスティナは、玲の話を聞き終わってもそこには疑問しかない。
「帰ったら、エンペラールさんにも話しますから、
その時に実際に試されたら分かりますよ」
と玲は言うのだが、初日の晩に見せられた触れる召喚門と言い、物体の防御を行う召喚門と言い、最神玲はく召喚術の常識を逸脱してくる。セラスティナはそんな彼に恐れる所もあるが、それ以上に不思議な魅力を感じたのだった。やはり、今からでも彼に師事しようかと、そう真剣に考え始めていた。
食事も終わり会計を済ませた時、食堂の扉が開き、外から数人の制服を着た男達が入って来た。そして玲とセラスティナを見るなり、責任者らしき男が
「お前たちか、ここで騒ぎを
起こしたというのは?」
と詰問して来たので、セラスティナが
「いいえ、騒ぎを起こしたのは
そこに倒れている男達です。
私たちは一切手出ししてません」
ときっぱりと答えた。すると、
「それを判断するのは我々の仕事だ。
お前たちが勝手に判断する資格はない!!」
と叫ぶや、玲とセラスティナを囲みだした。やれやれ、第二ラウンドか?と玲は苦笑いするが、一応降霊転移門のシールドを再度設置し、暫し様子を見ることにした。その時、セラスティナが責任者に対し
「我々は、大召喚術師エンペラール大臣からの
依頼でこちらに来ております」
と言って、セラスティナは自分の鞄の中から情報端末を取り出した。そしてある項目を呼び出すと、そこにはエンペラールの立体画像が浮かび上がった。そしてここにいるセラスティナと玲は自分の代理で動いており、も彼らの行動を妨害することは許されないということを告げていた。すると、それを聞いた責任者の男は、突然手のひらを返したようにな態度で接して来た。
「申し訳ありません、
まさかエンペラール大臣の
代理の方々とは知らず、
数々の無礼、お許しください」
と平謝りである。まあ、セラスティナも事を荒立てる気は全くないものの、この場で気を失っている荒くれ者達の処分をお願いすることで不問に付すと伝えた。そして、制服組の連中は、男達を担ぎ出してどこかに運んで行った。その時責任者の男が「おい、そいつらはあの召喚術の爺さんに魂を入れてもらうように頼んでおけよ」と言いながら、玲とセラスティナに対し敬礼をしてその場を去って行った。
「何か、慌ただしい昼食でしたね」
と玲は笑いながらセラスティナに呟いた。セラスティナも、何とか笑顔を繕って、
「全く、これだから田舎の視察は
好きになれないのよね」
とぼやき出した。そして2人が店を出ようとした時、店の店主がやって来て、玲とセラスティナに対しお礼を述べてきた。どうやら、玲が退治した男たちは、自称ハンターと言いながら、単なる飲んだくれの屑だというのだ。ただし腕っぷしが強いため、誰も彼らに注意したりできなかったという。そんな連中に手を出すことなく静かにさせた2人の姿に店の従業員だけでなく、他の客たちも感激し、それぞれ感謝を伝えたのだった。
さて、色々あったこの街だが、目的の家は直ぐに見つかった。そしてそこに居た家族に対し、玲は用件を伝えそして地球に残る親族からのメッセージを伝えた。それから残る数件分の依頼も熟し、後はチーターの件を残すだけとなった時点で、一度ロムリアのエンペラールの屋敷に戻ることにした。