召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 3日目(中編)
「先生、只今戻りました!」
とセラスティナがエンペラールの執務室に入るや否や、そう声を掛けた。エンペラールはと言うと、机の上に突っ伏していた。えっ、まさか何かあったのか?と心配になったセラスティナだが、直ぐにエンペラールは起き上がり、更に
「もーう、遅い、遅いぞ! セラちゃん!
何時まで私をここに縛り付けておく気!!」
と何やらセラスティナに対し怒り出した。尤も、セラスティナからするととんだとばっちりなのだが、要するに仕事が面倒だったらしいのだ。そんなエンペラールは置いておいて、玲は2人の協力にまず感謝を伝えた。そして、
「実はですね、もう1件あるんですが...」
と言ってエンペラールとセラスティナにそう伝えた。
「えっ?地球の残留組は13人だったわよね?」
とセラスティナは玲に確認するが、玲は、
「実はもう一人居まして、
それもタチアナさんが
よくご存じの方なんですよ」
と何やら謎かけのようなことをセラスティナに伝える玲であった。セラスティナは早速自分の記憶を探り出すが思い当たる人物が出てこない。だが、暫くすると
「えっ!? も、もしかして...」
チーターですか?とセラスティナは正解を引き当てた。玲はニコニコしながら「タチアナさん、正解です!!」と答えたが、セラスティナとしては、まさかチーターからの依頼があるとは予想だにしていなかった。早速玲は、チーターからのメッセージをノートパソコンに再生した。画面にチーターの姿が現れた途端、エンペラールとセラスティナは、2人ともかっと目を見開き、開いた口を手で押さえたまま絶句した。あれ?何かやばい人だったのかな?と心配になる玲を他所に、2人は尚も食い入るようにその画面を見続けた。そしてチーターが自分の名前「ヴェレニエラ・ロムリアーナ」と名乗った時、2人同時に「えっ、まっ、まさか!!」と叫んだ。それから動画を暫し見続けた2人は、急に慌ただしく動き出した。
「セラちゃん、国王に至急面会手続きを!
もし渋るようなら緊急事態だと伝えて!!」
とエンペラールが叫ぶと、セラスティナも「了解です」と言って、エンペラールの執務机の引き出しからある物を取り出した。そんな慌ただしい2人とは対照的に、玲はこの場の事態を全く把握できず1人ポツンとその場に佇んで2人の様子を眺めていた。そしてどうやらセラスティナがエンペラールに「了解取れました!」と伝えるや否や、エンペラールは玲に向かって、
「レイさん、これから王宮に向かいます。
急ぎそのデバイスと荷物を持って
ついて来て下さい!!」
と指示したので、玲は訳の分からないままノートパソコンをリュックサックにしまい、それらを持ってエンペラールの後について行った。エンペラールの執務室の直ぐ隣には小さな部屋がある。正確には部屋と言うよりは転移門である。そしてそこに2人は入り、エンペラールが何やら操作してから転移を行った。すると瞬時に、広い室内空間が玲の目に飛び込んできた。そして玲はエンペラールの後について行くが、その途中でエンペラールが事情を簡単に説明した。
「これから、ロムリアの国王に謁見します。
そしてレイさんが見せてくれた
動画のあの方は...」
この国の第二王女様です、とエンペラールは玲に伝えた。へぇー?王女様ですか?と特に驚く事なく、平坦な調子でそう呟くが、この時の玲は感情が麻痺していたようだ。そして少しずつだが事態を飲み込むにつれて、
「えっ、えーーーー!!
チ、チーターさんって
お、王女様だったんだーー!」
と誰にともなく叫んでいた。確かに、彼女の物腰といい喋り方といい、どことなく上品さが漂うことを玲は感じていた。特に玲の直ぐ近くには、上品さから少し遠い所に位置する物部かすみと言う存在がおり、まさにその対極にいたのがチーターであった。そしてこの事実を知った時、玲は漸く腑に落ちた。彼女がロムリアからの同胞に対し自分の正体を明かさないで欲しいという理由が。「確かに、身バレすると、何かに利用されたりしかねないもんな」と言うのは玲の解釈だが、ち間違いではないだろう。ただそれよりも彼女が危惧したのは、ロムリア王室に対して否定的な人物がいたとして、彼らが自分の家族、特に娘たちに危害を加えるのではないか、と言う心配の方が実は大きかったのだが、今の玲にはそこまで気が回らなかった。何れにしても、玲はロムリアからの残留組に対し彼女の存在を明かすことは無く、今後もそのスタンスは変わらなかったことは、ここに付け加えておく。
さて、玲とエンペラールは、今ロムリア王家の謁見室にある玉座の前にいる。そして彼らの前方には、このロムリアを統治する国王のロメロ5世その人が玉座に鎮座していた。いや、正確にはかつてこのロムリアを統治していたというべきだろうか。今は12人の大臣と同じ権限が与えられるだけであるものの、やはりその重要性は昔も今も変わらない。そして玲の前方にいるロメロ5世は、特に王冠を頭上に頂くような国王ではなく、髭を口元に蓄えたそれこそごく普通のどこかのお父さんという雰囲気である。ただし、彼から発するオーラは上流階級と言うか、まさに王家に相応しい風格を伴っていることを玲は感じていた。そして「何となく、チーターと雰囲気が似ているな」とは玲にしか分からない感覚である。それからエンペラールは、両腕を胸の前でクロスさせたまま、片膝を床に着けるサモナルド式の最上級の儀礼を行いロメロ5世に対する敬意を表した。玲もエンペラールの斜め後ろで、リュックサックを傍らに置き同じ儀礼を行った。そしてエンペラールが突然の来意を謝罪しつつ、何故ここに来たのかについての説明を行った。そして玲に振り向いて
「レイさん、あれを見せてあげてください」
と言うことで、玲はノートパソコンをリュックサックから取り出し、大画面モニターを召喚して映像の再生の準備にかかった。その間エンペラールはロメロ5世に対し、玲が地球と言う惑星からこの度ロムリアに召喚したことを伝えるが、実は彼のお陰で地球に転移していたセラスティナはじめ同胞がロムリアに無事帰還できたことを伝えた。そして
「今回は地球に残る同胞の
ロムリアの家族あてにメッセージを
届けてもらってますが...」
その中に注目すべき人物が含まれていることを伝えた。そして玲に対し、動画の再生をお願いした。ロメロ5世は玲が用意した大画面モニターを物珍しそうに眺めていたが、そこに映された人物を見た途端、その動きが止まった。そして、彼女が自分の名前を告げた時、「ま、ま、まさか、ヴェラなのか?」と言葉を発したのち、再び目を見開いたままの姿勢で停止していた。それから、彼女がブレスレットを示し、「今もこれを大事にしております」と言った途端、ロメロ5世の目から大粒の涙が零れだした。そのブレスレットには王家の紋章が刻印されており、それをヴェレニエラに贈ったのがロメロ5世その人であった。まさにそこに映し出されている女性は、娘のヴェレニエラ本人なのであった。そして「あーー、ヴェラ、ヴェラ、愛しいヴェラよ」と言って、画面に映るヴェレニエラを抱きしめる仕草をし出した。その後、ヴェレニエラは自分の幼い娘達を呼んできて、「お父様、お母様、この子たちは私の娘達です」と紹介した。そう、ロメロ5世の孫娘である。そして最後に「この子たちがお父様とお母さまの絵を描いたので、それを玲さんに持って行って頂きます」と伝えて、メッセージは終了した。そして玲は、それに合わせて、リュックサックの中から彼女の子供たちが描いた絵を取り出し、
「こちらが、今お嬢様から話のあった
娘さん達の描かれた絵です」
と言ってそれをロメロ5世に渡した。ロメロ5世は、その絵を長いこと眺めていたが、その顔には少しだけ陰が差したのを玲は見ていた。この時の玲はその理由を把握していなかったが、実はそこに書かれている母親は、もうこの時には既にこの世にはいなかったのだ。母親であり妻であり王妃であるその人は、ヴェレニエラが失踪後、その行方を日夜探し回っていたが、その時の心労が祟って、ヴェレニエラが地球に転移してから1年後に帰らぬ人になったのだった。そしてロメロ5世は、エンペラールに向かって、
「エンペラール師よ、
わざわざ知らせて頂き感謝する」
とお礼を述べ、その後玲に向かって
「レイモカミ師よ、娘のヴェラのメッセージを
届けてくれたことに礼を言う」
と感謝の意を伝えた。それからエンペラールと玲に向かって、
「このお礼と言うか、
何か余に出来ることがあれば
言って欲しい」
と言うことで、エンペラールは王室の書庫にあると言われている古代の召喚術に関する資料の閲覧を要望した。ロメロ5世は、そのような事で良いのかと不思議そうな顔をするも、エンペラールが「我々は召喚術師ですから」と言うことで、早速書庫にある古代の召喚術に関する資料の閲覧を許可する勅令を出した。そして
「何時でも構わぬから、
自由に閲覧してくれ」
と言われた時には、まさかこうも直ぐにあの召喚言語を調べる機会が得られるとは、と思った途端、玲は心の中で小躍りしていた。それから玲が、
「もし宜しければ、陛下のメッセージを
録画しまして、ヴェレニエラ様に
お渡ししますが、宜しいでしょうか?」
と尋ねた。最初メッセージの録画の意味を把握していなかったようだが、ヴェレニエラ王女と同じように画像に記録することを説明すると理解してもらえた。そして「是非お願いしたい」と言うことで玲は早速収録準備を始めた。そしていざ本番と言うとき、謁見室の扉が勢いよく開かれ、そこから2人の男女が言い争いながら入って来た。玲は呆気に取られて一時録画を停止したが、その2人はエンペラールと玲には目もくれず、そのままロメロ5世の元にやってきて、こう叫んだ。
「父上、もうそろそろどちらが
後継者になるか決めて頂けませんか?」
どうやら、2人はこの国の第一王子と第一王女のようであった。そして2人が言い争っていたのは、この国の後継者にはどちらが相応しいかということであった。これは後でエンペラールから聞いた話だが、本来は既に後継者である皇太子を選び、その者に対する帝王学みたいなことを学ばせないといけないらしい。ところが、ロメロ5世は第二王女であるヴェレニエラの失踪と妻である王妃を亡くし、それどころではないという事情があり、皇太子選びを延期していたのだった。そんな父親であり国王の態度に業を煮やしたのが、今ここで言い争っている第一王子と第一王女であった。玲としてはどちらでも良いんじゃないの、とこの時はそう感じたのだが、ロムリア国民からするとそうもいかないようだ。と言うのは、この第一王子と第一王女の2人、全く人気がないという。理由は単純明快で、両者ともに利己的で他人への思いやりのかけらが無いという。そして決定的なのは、カリスマ性の欠如であることは、セラスティナが内緒ね、と言って後に玲に教えた情報であるが、玲もこの時の雰囲気を思い出し、さもありなんと感じたのだった。
一方、彼らとは対照的なのがヴェレニエラ王女である。彼女は聡明で好奇心旺盛であり、時に王宮を抜け出しては市勢を調査するなど積極的な行動をしていた。そして弱者への援助を惜しむことなく、時としてお忍びでボランティアで支援活動をするなどしていたという。そんなヴェレニエラ王女は、何時しかロムリア市民から「ヴェラ王女」と親しみを込めて呼ばれるようになったという。そんなヴェレニエラもセラスティナと同様、強制転移で地球にやって来たのだが、そんなことを知らないロムリア市民は、ヴェレニエラが行方不明になった日になると、どこからともなく集まってはヴェレニエラの無事を祈る集会がそこかしこで開かれたりするという。それ位、ロムリア市民に愛された存在であった。そして父親であり国王であるロメロ5世は、ヴェレニエラを後継者とする心算であったようなのだが、今彼女の無事を知ったことで、どうやら本気で後継者にするのではないか、と後にエンペラールとセラスティナはそのことへの懸念を口にした。彼女達の懸念は何か?と言うと、当然第一王子と第一王女が黙っていることは無く、何かしら画策してくるだろうことが容易に分かるからである。だが、玲は彼女達から話を聞くにつれ、ヴェレニエラがロムリアに戻ることは絶対ないと確信した。理由は簡単で、そんな所に大切な娘達を連れて帰ることを絶対しないとわかるからである。ただし、
「僕の様にこの地に召喚される
ということであれば、
一時滞在が出来ないことは
ないでしょうけど...」
と玲は2人に伝えたのだった。