召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 3日目(後編)
さて、話は戻って、第一王子と第一王女の乱入に対し、ロメロ5世は「今は客人との対話中である。少しは慎め!」と2人に対し一喝した。まさか怒られると予想しない2人は呆気にとられるが、そこにエンペラールが居るのを認めたことで、少しは納得したようだ。だが、その隣にいる怪しい人物を目にした途端、再び騒ぎ出したのだが。
「父上、このような得体の知れない者との
謁見と後継者を選ぶことと、
どちらが大事なのですか?」
と全く頓珍漢な事を言い出す第一王子である。玲は心の中で「こいつ、馬鹿なんじゃない?」であった。かすみであれば、有無を言わさず「うっさい、ボケー」と言ってマキザッパでシバキにかかっただろう。やはり人を見た目で判断する者にまともな者はいないということである。ロメロ5世も2人の子供たちに対して内心苛立ちを募らせているのだが、それでも口にはせず、代わりに「分かった、少し考えさせてくれ」と言うに留めた。だが、考えるということ自体今までなかったことである。そのため第一王子と第一王女は、小躍りして「では後程」と言ってその場を後にしたのだった。そしてこの時のエンペラールと玲は、示し合わせた訳ではないが、両者ともに「後継者はヴェレニエラ王女だな」と結論付けたのだった。
さて、中断を余儀なくされたが、玲は再度収録準備を行い、無事ロメロ5世のメッセージを収録し終えた。そして、
「このメッセージは必ずお嬢様にお渡しします」
と言うことを約束した。だが、果たしてこのメッセージの通りになるかと言うと、玲は絶対ないと確信していたのだが。なお、ヴェレニエラからのメッセージ動画は、後日改めてセラスティナが用意した専用端末と共にロメロ5世の手元に置いて行くことになった。そしてエンペラールはロメロ5世と少し話し合いをするためその場に残ることになり、玲は1人王宮の転移装置からエンペラールの執務室に転移して行った。
エンペラールの執務室ではセラスティナが待機していたが、玲の姿を見た途端「どうだった?」と心配そうな表情で聞いてきたので、事の顛末をセラスティナに語った。そして最後の第一王子と第一王女の乱入に至っては、
「全く、あのバカ王子とバカ王女は、
ロムリアを潰す気か?」
とその場に相応しくないようなをこの場にいない第一王子と第一王女に対し浴びせた。恐らくロムリアの一般市民の感覚はセラスティナと同じなのだろうと玲は想像した。そしてセラスティナは不安げな表情で
「ねえ、レイ君、
ヴェラ王女は引き受けるかな?」
と尋ねてくるが、玲は
「タチアナさん、ここだけの話ですが...」
と断ったうえで、ヴェレニエラの心境を語った。
「恐らく、火中の栗を拾うではないけど、
自分の娘達を危険にすようなことは
絶対しないと思います」
従って、ヴェラ王女がロムリアに戻ることは絶対ないと断言した。実はセラスティナも何となくそうかなと言う感覚を持っており、だが今はロムリアの一市民である以上、にもる思いになったのだが、
「そうね、レイ君の言う通りかもしれないわね」
と残念そうにそう呟いた。その後玲は自室に一旦戻り、今収録したデータをバックアップも含めて保存し、それらをリュックサックの中に入れている別のケースに保管した。流石に他の収録データと一緒にしておくと、万が一間違ってその動画を他人に見せることになりかねないからである。そしてウェアラブルカメラを外して、録画した今日の分を確認していた時、部屋の扉がノックされ外からセラスティナが「レイ君、食事にしましょうか?」と声を掛けてきたので、玲は直ぐに部屋を後にした。
今日の夕食は、晩餐室ではなく、エンペラールとセラスティナだけが利用するプライベート空間にあるダイニングルームである。そこでセラスティナが作った料理がテーブルに既に並べられており、どれも熱々で美味しそうな香りを漂わせていた。そして3人は早速熱々の料理を味わうのだが、玲は食事中の話題はやはり王家の後継問題になるのかなと思った。だが、その話は全く出ず、代わりに今日の昼の出来事をセラスティナはエンペラールに語っていた。そして玲が展開した降霊転移門によるシールドに話が及ぶと、早速エンペラールが食いついてきた。
「ちょっと、ちょっと、
セラちゃん、何なのそれ?
私が知らないことを
あなただけ知っているなんて、
ずるくない!」
と頬を膨らませて、少しいやかなりいじけてしまった。そこで玲は、実物は食後に披露するとして、今はそれを思いついた経緯を2人に語った。すると、
「そう言えば、ロムリアと言うか、
サモナルドには銃とかいう
武器はないもんね」
とエンペラールが言うように、これだけ文明が発達するロムリアでも銃などの兵器は存在しない。理由は簡単で、必要ないからである。今現在、ロムリアがどこかの国と戦争中であれば銃やミサイルなどの武器、兵器がどんどん開発され作られていただろう。しかしロムリアはもう数百年以上戦争とは無縁であるらしい。そのため兵器開発がされてないのは頷ける話である。なお、国内の治安維持においては、カーンフェルトの居たケンタリアでもあるように剣と盾が使われる。偶にボウガンが使用される程度で、それ以上は必要ない。もし余程酷い状況になれば、強制転移させれば済むという、ある意味最終兵器があるからこその余裕なのかもしれない。一方で、一般には全く武器の類がない訳ではなく、今日の昼に出会ったハンターが所持するボウガンは普通に普及している。これは彼らの身分が語る様に、ハンティングのための道具だからである。そして彼らが狩る対象は、地球で言うところの恐竜であるが、実はかなり皮膚が固い。そのためそれ専用の矢を開発して対処しているのだが、そんな歴史があるため、今更別の武器を使うということはしないらしい。
そして玲の作った降霊転移門によるシールドだが、この発想はロムリア国民には先ず思いつかないことである。銃などの武器が無いことも当然だが、それよりも相手を転移させれば済むからである。本来強制転移は厳罰に処されるが、例外として身の危険を感じた時に自己防衛の意味で相手を転移させることは認められている。従って、本来であれば昼間のケースも相手を転移させても罪に問われることはない。だが玲の感覚では、転移をに使うことに抵抗があるだけでなく、地球では転移はそもそも有り得ないことであるため、どうしてもその感覚が抜けずしてしまうのだ。そんな背景があることをエンペラールとセラスティナに語った。セラスティナは当然地球に長くいたので玲の言う事情を理解できるのだが、エンペラールはやはりまだ理解が及ばないようである。それから、このシールドが防火対策にも役立つことを、セラスティナもよく知る美土路神社で起きた火災の件を踏まえて語って聞かせた。これにはエンペラールは何か思う所があるようで
「確かに文化財を守る上では、
レイさんの方法はあってもいいかもね」
セラちゃん、早速それが出来る装置を作りましょうか、とセラスティナに伝えた。セラスティナはと言うと、肩を落として、「はい、わかりました」と元気なく呟いた。どうやらやる気が出ないのか、やる気はあるけど余りにも多くの問題を抱えているため、心に余裕が無いのかだが。後から聞いた話だと後者のようであった。ところで装置の話が出た時、玲はエンペラールとセラスティナに対しあるお願いをした。それは
「すいません、その装置作りですが、
僕にも教えてもらえませんか?」
であった。実は今回のロムリア訪問では、地球残留組のメッセージを届けること以外に、玲個人としては2つの目的を持っていた。1つ目の目的は、古代の召喚言語についての調査である。こちらに関しては、ロムリア王家の書庫への出入りが許可されたことからほぼ実現されると希望を持っている。そしてもう1つはアーティファクトの制作を学ぶことである。実はケンタリア時代のカーンフェルトは、アーティファクトへの興味が全くなかった。アーティファクトは召喚術が使えない人達用の補助道具的な位置づけであり、召喚術師には不要であるという立場に立っていたからであった。ところが、地球に来てM Mの仕事をするうちに、アーティファクトの重要性を認識するようになって来た。特にカフリングによる通信は、別次元間の通信も可能にするため、これのお陰で神室霊華と言う大切な仲間を失わずに済んだ。つまりアーティファクトは召喚術が使えない人用の補助道具ではなく、召喚術師の縁の下の力持ちなんだ、という認識に変わって来た。そうなると、悔やまれるのが、タチアナがアーティファクトに精通しており、彼女が地球にいる間にアーティファクトの制作技術を学んでおくべきだった、ということである。だが今玲の目の前には、アーティファクトに精通した2人の人物がいる。彼女達に指導してもらって少しでもアーティファクトを自分で製作できるようにしたい、と言うのが今は最大の目的となっていた。そして玲はそんな思いを2人に語ったのだった。その時セラスティナが
「うーん、まさかあのカフリングに
そんな機能と言うか能力があるとはねー」
と呟いたのだが、どうやら本来の目的にはない機能が作動しているというのだ。もしかしてあれをしたからか?と玲は思い出し、それをセラスティナに確認した。すると、
「えー! レ、レイ君、
そんな無茶な事したんだ!!」
と驚かれてしまった。
「いやいや、タチアナさん、
ほんの少しだけ召喚エネルギーを
余分に注入しただけですよ」
と玲は言うのだが、実はアーティファクトの性能と言うか能力が100%分かっているかと言うと、どうやらそうでもないらしいのだ。そうなると、俄然研究者魂に火が付いたような勢いでセラスティナが、
「じゃあ、明日からでも
特訓と行きましょうか?」
と言って玲の2つ目の目的も無事果たされることになったのだった。ただし、この時はエンペラールから待ったがかかった。
「ダメよ、セラちゃん。
明日は私に付き合ってもらうのよ」
と言うことで、その後で特訓となったのだった。
食後は、玲が編み出した降霊転移門のシールド機能の解説が行われたが、エンペラールは玲の持つ特異と言うか独特な発想力に舌を巻いた。先日は召喚門をバラバラにし、今回は召喚門を曲げるという、この発想が一体どこからくるのかに、エンペラールは興味を抱いた。いや、それ以前にセラスティナから教えてもらった召喚門の伸縮機能や自動追尾機能があったことも思い出した。それらは全てこの青年の発想である。そしてエンペラールは、恐らくこういう発想力が自分だけでなく、今のロムリアの召喚術師には欠けており、そのため何か問題にぶつかっても、今までの考えの範囲でしか処理できない点を危惧した。このままでは恐らく近いうちに得体の知れない問題が発生した時に果たして対処できるか、と不安にもなるのだった。
そんなエンペラールの思いを知ってから知らずか、玲は更に、召喚門を曲げるだけでなく、召喚門をくっ付けることもやってのけた。自分達の知る召喚門同士がくっ付くことは絶対ないことをエンペラールもセラスティナも確信している。ところが目の前のこの青年は、再びその常識を大きく覆してきた。ただなぜくっ付くのかについては本人もまだ分からないと言うが、それでもそれをくっ付ける発想はやはりどこをどう叩いても出てこない。エンペラールはこの時点で、玲の思考について行くことを諦めてしまった。そして降霊転移門の裏面同士をくっ付けて片方を曲げると、もう片方も同じように曲がる。そして曲がった表面を開閉させれば、確かにボウガンの矢が霊界に吸い込まれるのだった。原理は言われると単純なのだが、やはりこれを思いつくことは一生掛かってもないと、エンペラールは断言出来た。
「ちなみに、表面の開閉の代わりに
水の膜を張ると、
火災から内部を守ることが出来ますよ」
と玲は事も無げにそう伝えた。試しに火炎放射器をセラスティナに用意してもらい、玲とエンペラールがシールド内に入り火炎放射器と対峙することにした。ただし、室内では危険なので、3人は屋敷の外に転移し、そこで実験を行うことにした。そして火炎放射器から放たれた火炎の先端が玲とエンペラールに襲い掛かる手前で水蒸気が勢いよく立ち上る様子が見て取れたが、中にいる2人には全く影響はなかった。しかも熱く感じることもない。エンペラールも、
「これだったら、間違いなく
火災から確実に保護されるわね」
とご満悦の表情だった。
さて、食後の召喚術談議は尽きることなく、やがて日付が変わる頃になって漸くお開きとなった。玲としては、久しぶりに長い1日を過ごしたな、と言う感覚を味わいながら、睡眠カプセルと呼ばれるあの透明な寝台の中に横になった。