召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 4日目
惑星サモナルドにある唯一の都市国家であるロムリアにやって来て早くも4日目となったこの日、最神玲はエンペラールからの要請で彼女が執務を執る召喚術師管理センターに向かうことになった。そこは、今いるエンペラールの屋敷からは直線距離で百キロ程離れているが、勿論転移で向かうので時間的な制約は一切ない。ただし、執務室には転移防止措置が施されているため直接転移で入ることは出来ず、一般の召喚術師同様、エントランスから専用の転移装置で入ることになる。だが実は、玲は気づいていたが、この転移防止措置、所謂アニュラス型とペンタグラム型の転移のみに反応するだけで、玲が最近よく使うバレル型の転移には反応しない。つまり召喚門の形状で判定している感じなのだ。なぜ玲がこの事実に気づいたかと言うと、昨日王宮からエンペラールの屋敷に1人で戻るとき、試しにバレル型の降霊転移門による転移を試みた。その結果、問題なくエンペラールの私邸の執務室に転移出来たのだった。恐らくこの事実は、今この世界では玲だけが知ることであろう。さて、このことをエンペラールとセラスティナに伝えるべきか?実はまだ迷っていた。とは言え、別に玲はバレル型を使って好き勝手に転移して何かやらかしたい、などと言うことは全く考えていない。だが、なぜ勝手にバレル型で転移したのかと問われた時、どう答えたらいいのか分からない、と言う方が今の迷いの元と言えるだろう。
さてそんなことを考えながら、玲はエンペラールとセラスティナと一緒に召喚術師管理センターにやって来た。この管理センターのロビーは、召喚術師の卵からベテランまで色々な世代の人々が情報を求めたり、次の仕事先を斡旋してもらうなどで訪れて、大いに賑わっていた。そんな中、管理センターのトップでありロムリアを統治する大臣の1人であるエンペラールと実質ナンバー2のセラスティナが現れた途端、ロビーは急に静まり返った。そして彼女達の後を何やら変な格好の青年がついて行く様子を見て、皆一様に首を傾げたり、あるいはヒソヒソと話し合ったりした。そんな状況に目もくれず、3人はエンペラールの執務室に通じる転移装置に向かった。
「何か、僕、場違いな所に来た感じですよ、
ははは」
と笑いながら話す玲である。玲が感じた場違い感とは、恐らく自分の恰好であろう。ベージュのジャケットとその中にロムリアのロゴ入りTシャツを着こみ、そして下はデニムとスニーカーという出で立ちは、まずロムリア市内では絶対に見かけないファッションである。一方のエンペラールとセラスティナはと言うと、実はこの2人もロムリア市内では殆どと言うか全く見かけないファッションである。むしろ玲からすると、地球のファッションを感じるようで、それ故に自分の格好もあまり気にならなくなったりしたのだった。そして彼女達の恰好は、全てセラスティナのデザインであるが、セラスティナもサモナルドに帰還してから、暇さえあれば洋服のデザインを続けていた。そして自分のデザインした服を着て仕事を楽しんでいたのだが、当初エンペラールはそんなセラスティナを好奇な目で眺めていた。だが、何やら着心地が良さそうであり、しかも同じ服を誰も持っていないというレアさを感じて、何時しかセラスティナのデザインした服を着るようになったという。
ところで、今日玲がここに連れて来られた理由は、仕事を手伝え、に近いかと思われる。と言っても玲が直接手を下す訳ではなく、玲のアドバイスが欲しいということである。尤も、人事的なことや予算的な事へのアドバイスではなく、玲の得意とする召喚術式に関するアドバイスである。それだったら、かつてケンタリアにいた頃、同じような雑務を熟していた経験があるため、玲としては問題ないことであった。そして早速エンペラールが情報端末を操作して召喚術式の判定を玲に尋ねると、玲は即座に「これは駄目ですね」、「この場合、ここを直せば使えますよ」、「うーん、こんなに難しくしなくても、これだけで済みますけどね」などと的確なアドバイスを与えた。隣で見ていたセラスティナは
「ねえ、レイ君、
そんなに直ぐに分かるものなの?」
と疑問を口にするが、試しに玲の指摘通りに召喚術を使うと、確かにその通りになる。そしてセラスティナは驚きを通り越して呆れる表情になり、かすみではないが
「ほんと、レイ君って
召喚術に関しては変態的な凄さよね!!」
と溜息交じりに感嘆するのだった。そしてエンペラールは、まあ簡単なアドバイスでも貰えればOK程度で玲に手伝ってもらう心算だったが、彼女の予想を遥かに超えた的確さにより、何時もは数日程要する確認作業が僅か半日で終えてしまったのだ。お陰でランチタイムに余裕が出たため、3人は最近のエンペラールのお気に入りの店に向かうことにした。
玲はその店の看板を目を丸くして見つめていた。
「タチアナさん、ここって...」
ラーメン屋ですよね?と玲はセラスティナに尋ねた。まさかロムリアに来てラーメンが食べられるのか?と疑心暗鬼に陥りそうになった玲だが、実はその店は地球からの帰還組の1人が始めた店だという。「あっ、やっぱりそうですよね」と漸く玲も納得したのだが、それでもロムリアでラーメンとは、これがロムリア人に受け入れられるのだろうか、と少し心配になった。だがそれも杞憂であった。店に入ると既に満席である。そして店の作りは、確かに地球の、いや日本のラーメン屋の様にカウンター席の前に厨房があり、そこでラーメンを作る様子を目にすることが出来る。実はこのような作りの飲食店はロムリアにはなく、このスタイルも新鮮に感じた一部のロムリア人が口コミで噂を広めているらしいのだ。そして3人は暫し待つことにしたのだが、そんな3人を目にした店主が早速挨拶にやって来た。先日の歓迎会でも会った帰還組の1人であり、玲も過去にお世話になった人物である。
「ホアンさん、凄いですね。
大繁盛じゃないですか?」
そう、この店は趣味で呪術の研究をしていたホアン・ヴァン・コアの店であった。
「まさか、玲さんが来るとは
思ってませんでしたよ。
本場の味を知る玲さんに
是非ご賞味いただきたいですね。
そして何かアドバイス頂けると有難いです」
と言って、再び厨房に戻って行った。玲は早速メニューを見たのだが、そこには
「おー! も、もしかして
塩ラーメン専門店なのか?」
と誰にともなく興奮した様子でそう呟いた。そう、玲の大好物の塩ラーメンが売りの店なのだった。実はロムリアでは、そもそも醤油が無いため醤油ラーメンや豚骨ラーメンは作れない。同様に味噌もないため味噌ラーメンも駄目である。結局、調味料の関係で塩ラーメンしか作れないということなのだ。ただし、魚介はサモナレイクで採れた魚介類を毎日転移で直送されるため、魚介の旨味を生かした塩ラーメンに仕上がったとメニューには書かれていた。これは楽しみ以外の何物でもない。何か想像するだけで玲の口からは、が垂れそうになっていた。
そして3人がカウンター席に着き、それぞれが注文して待つこと10分程すると、熱々のラーメンがカウンターに現れた。玲はまずスープを堪能した。うんうん、この味は上出来だ、と言わんばかりに笑みが零れた。そして麺をすすろうとするが、そう言えば箸が無い。実はロムリアでは箸を使う人はおらず、トングのようなもので摘まんで食べていた。だが玲としてはやはり本場の食べ方で味わいたい。そこで、「割箸とかないですか?」とホアンに尋ねた。すると厨房内の引き出しを開けてそこから箸を取り出した。そして「いやー、本当は箸で食べて頂きたいんですが、誰も使えませんで。玲さんが初めてなんですよ」と言って玲に箸を渡した。それは割り箸ではなく玲が自宅で使用する木製の普通の箸である。玲はそれを手に取り、早速麺をった。「ズルズルズル」と音を立てながら塩ラーメンを食べる玲。うんうん、麺とスープの相性は問題ない。そのことを店主のホアンに話すと「おー、そうですか。流石は玲さん。有難うございます!!」と嬉しそうに頭を下げて玲にお礼を言った。
ところで、玲は普通にラーメンを啜って食べたのだが、実はロムリアでは麺を啜って食べる人は誰一人いない。そして玲の隣に座るエンペラールとセラスティナも、玲の様子を見て目を丸くしていた。いや、実際は店にいた客全員が玲の様子を見ていたのだった。そして玲は、そんな2人に
「ラーメンは、麺とスープを
絡めて食べるのが大事なんですよ。
そのためには」
空気を含ませながら音を立てて啜るのが重要なんです、と言うことを力説した。こうすることでスープの香りが鼻に抜けてより強く感じることが出来るとかなんとか、そんなことを説明し出す玲であるが、店主のホアンも「本当のラーメンの食べ方は、玲さんの言う通りなんですよ」と補足した。だが、地球でも欧米人が麺を啜る行為を苦手とするように、ロムリア人も麺を啜ったことはないため、エンペラールもセラスティナも悪戦苦闘していた。だが、セラスティナはやはり地球生活を体験しており、日本にも何度か訪れているからか、そのうち何となく感覚を思い出し、
「あー、そうそう、こんな感じで
蕎麦を食べたけど、
ラーメンもそうなのね」
と言ってラーメンを啜って美味しそうに食べだした。そうなると1人取り残されて悔しい思いをするエンペラールは、玲から麺の啜り方を伝授されて漸くそれらしい食べ方を習得し出した。そして、
「あー、なるほどね、レイさんの言う通り、
確かに味の感じ方が違いますね」
とニコニコしながら玲にそう語った。玲も、こと塩ラーメンに関してはいのだが、ここのラーメンは満足の行く出来だったと、玲は店主のホアンにそう伝えた。ホアンも玲の言葉が嬉しかったようで、店の外まで出てきて「有難うございました」と言って彼らを見送った。
さて、美味しい昼食を堪能した3人は、再び召喚術師管理センターに戻り、エンペラールの手伝いをすることにした。午後からは、今建設中のある建物に対する転移対策を含む召喚術への対応に関するアドバイスであった。そこでは一般的な転移防止措置が施されるが、どれ位の規模の措置をどの程度設置するかの相談が持ち掛けられたという。はっきり言って、エンペラールの仕事ではないのだが、持ちかけてきたのが大臣の1人と言うことで、エンペラールも無下に断ることが出来ないという。だが、玲はそもそも転移防止措置なる物の存在を知らないため、先ずはそれがどういうものなのかをエンペラールに尋ねた。まさか転移防止措置を知らないとは考えてもいなかったエンペラールだが、セラスティナの補足説明により、そもそも地球では不要と言うか、転移自体が全く知られてない状況を理解した。そこで玲に転移防止措置についての説明をしたのだが、
「なるほど、要するにアニュラスと
ペンタグラムの召喚門を用意し、
そこに転移不可とかの術式を
入れるだけなんですね?」
と言うように、原理は凄く単純であった。なお、この術式はアーティファクトで行えるので、わざわざ召喚術師に設置させる必要はないという。だが、玲はこれだとやはりあれは防げないよなと思う訳で、そこでどうしようかと悩みながらも、やはり話しておこうと決めたのだった。
「実はですね、その転移防止措置ですか、
それって万能ではないんですが」
ご存じでしたか?と玲は2人に尋ねた。セラスティナは、「万能でない訳はないでしょう」と笑いながら答えるが、エンペラールは何かを察したのか、黙ってしまった。そこで玲は、その場に降霊転移門を設置し、更に転移の術式を追加した。そう、玲が最近よく使うバレル型召喚門による転移である。そして、何も言わずにある場所に転移した。そして直ぐに玲は戻って来たが、手には何やら置物を抱えていた。それは
「すいません、エンペラールさん。
執務室の机の上にあった置物を
勝手に持ってきました」
と謝りながらエンペラールに手渡した。エンペラールはそれを見た途端、はっとした表情で玲を見つめた。やはりエンペラールは気づいていたのだった。そして、
「多分エンペラールさんは
気づいておられたようですが、
バレル型の降霊転移門による転移は、
この転移防止措置の影響を
受けないんですよ」
と玲は淡々と語った。セラスティナは、まさかそんなことが、と手で口元を抑えながら玲を凝視するのだが、エンペラールは、うんうんと頷いて玲の言葉に耳を傾けた。そして玲は、
「今の所、バレル型の転移を知っている人は
ここにいる3人だけなんでしょうか?」
と問いかけた。これに対しセラスティナは
「い、いいえ、恐らく、
地球からの帰還組にいる召喚術師は
バレル型の召喚門を目にしていますね」
と現実の問題点を突き付けられたからか、額に汗を搔きながらそう答えた。そうなると、
「今の所は問題ないかもしれませんが、
何れ何か問題が起きた場合...」
真っ先に疑われるのはお二方になる可能性はありますね、と玲は忠告した。これは召喚術師を統括する彼女達にとってはしき問題であった。そうすると答えは一つになる。
「レイさん、やはりバレル型の
転移対策は必要でしょうかね?」
と言うことになる。ただし、これは玲の勘なのだが、
「もしかして、バレル型の対策さえすれば、
アニュラスとペンタグラムにも
対応できませんかね?」
と伝えた。そこで早速エンペラールは、バレル型の降霊転移門をその場に設置し、更に転移不可の術式を加えた。それを玲に見せて、「レイさん、これで問題ないでしょうか?」と確認した。玲は書式自体に問題はないことを伝えたので、エンペラールはそれを今いる執務室に設置した。それから玲は降霊転移門を設置して転移を試みるが、
「ははは、駄目ですね。
エンペラールさんの設置した
措置が上手く作動してますよ」
と言いながら、降霊転移門による転移を諦めた。次に何時ものアニュラス型を設置して転移を試みるが、
「おー、やはりこちらも駄目ですね。
どうやらバレル型はアニュラスや
ペンタグラムの上位に
位置するんですかね?」
と言うように、良く知られた方法による転移も駄目であることが確認できた。この事実は、エンペラールとセラスティナに衝撃を与えたようだが、エンペラールの方がある程度予想していたのか、直ぐに立ち直り、
「有難うね、レイさん、
あなたのお陰でより堅牢な
転移防止措置が施せそうです」
と言って、玲に感謝の言葉を伝えた。ただし、玲もこれで安心した訳ではなく、さらに追い打ちをかけるように、
「もし、あのヘキサグラム型の
召喚門が解読出来た時、
それによる転移防止が
果たして可能かどうか...」
僕には全く分からないんですよ、とを搔きながら玲は伝えた。だがそれは考え過ぎではないかとエンペラールが言うのだが、今現在それを使いこなせるのは、恐らく玲唯一人であろうし、もしそれで問題が起きれば、その犯人はレイさんとなるわね、と笑いながらエンペラールは玲に語った。「確かに、そうなりますね」と玲も笑いながら同意したが、何れにしてもバレル型の対策は恐らく急務になるのだけは確かだった。そこでエンペラールは、セラスティナに対し、重要施設における転移防止措置の見直しを至急進めることと、バレル型の転移防止措置に対応したアーティファクトの制作を依頼したのだった。そんなセラスティナに対し玲は、
「すいません、タチアナさん、
また余計な仕事を増やしてしまいましたね」
とセラスティナに謝罪するが、セラスティナは何時ものことだから心配いらないわ、と言って笑いながら玲にそう伝えた。その後、玲は折角だからと言うことで、霊界での転移事情について彼女達に語った。流石にエンペラールもセラスティナも霊界でそのような事が可能だということに理解が及ばないようで、バレル型の転移防止措置を一旦解除後、早速部屋の片隅に降霊転移門を設置し霊界に行って確認し出した。それから10分程してから2人が戻って来たが、その顔は興奮状態に包まれていた。
「レイ君の言う通り、
霊界では降霊転移門の転移が
有効だったわね。でもなぜなの?」
とセラスティナが疑問を呈するが、実は玲にもよく分からない。ただ、何となくだが、霊界からこちらの世界に戻るには降霊転移門を設置するしか方法がないことからすると、降霊転移門を使った術式が霊界で有効になるのは理解できる気がする、と言うことをセラスティナには伝えた。だが何れにしても、霊界と降霊転移門の関係はまだまだ未知な所が沢山あることだけは確かであった。
その後玲は、エンペラールから相談受けた幾つかの案件に対し的確な答えを示し、何とかその日の仕事を終えた。そしてエンペラールは、玲のずば抜けた召喚術に関する能力の高さに脱帽するのだった。そしてこの時エンペラールは、今の仕事を全てセラスティナに引き継いでもらい、自分は玲に本格的に師事しようかと真剣に考え始めていたのだった。