召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 5日目
最神玲が惑星サモナルドの都市国家であるロムリアに来てから5日目を迎えた。今日から玲は、セラスティナの下でアーティファクトの制作技術を学ぶことにしていた。なお、セラスティナからは、事前にアーティファクト作成マニュアルみたいなものを手渡されており、玲はそれを熟読して予習は済ませてある。そしてそのマニュアルによると、一番大きな要素は水晶であるという。これは地球にも豊富にあるものだが、この水晶のカットと言うか加工と複数の水晶の組み合わせでその性能が決まるらしいのだ。逆に言うと、適当にそれらしい形に加工しても、それがうまく機能するとは限らないということだ。更に、加工するにもある程度のセンスが必要と言うことだが、玲は自慢ではないが、そう言うセンスは全くないと自負している。恐らく何かしらのセンスと言うことだと、かすみがそれを持っていることは分かっている。従って、最悪、この技術を地球に持って帰り、後はかすみに宜しく!と言って丸投げすることを玲は真剣に考えていた。ただし、かすみが大人しくそれに従うかは全く未知であるのだが。
そんなことを考えながら玲は、セラスティナが使っているエンペラールの屋敷内に設けられた工房で、セラスティナからアーティファクトの制作に関するノウハウの取得に励んでいた。そして悪戦苦闘しながらも、玲は何とか召喚エネルギー測定器を自分で作り上げた。そう、今は神室霊華が使っている水晶を使ったベルト型の測定器である。ただし玲が作った形は、かなり非対称性の強いペンタグラム型の水晶がくっ付いていた。これで正しく測定できるのか?と言うことで、早速セラスティナは、工房内に設置してある測定器で玲の作ったアーティファクトの性能を調査した。結果は、
「うーん、駄目ね。
これでは使い物にならないわよ、レイ君」
とダメだしされてしまった。玲はガクッとれてしまったが、尤もいい出来かと言えば絶対そうではないと断言できる。そしてこの時セラスティナは思った。天は二物を与えずと言うが地球にはあったが、あれはまさしくレイ君に当てはまるんだ、と言うことを。召喚術に対し、あれだけ特異な才能を有する最神玲も、ことアーティファクトの制作では普通以下であったのだから、セラスティナの感想も頷ける。
その後何回か挑戦して漸くそれらしい物に仕上がるまでにはなった。そして、
「まぁーねー、ギリギリ合格かな」
とギリギリ合格であっても、自分で何とか作り上げることが出来た。その後は、昼食をはさんで、午後からは触媒としての金属板、特にサモナルドであれば金が豊富にあるのだが、金の効果がどのようなものか、と言った講義を受けた。そしてこの時になって玲はエンペリアンに敷き詰められていた金属プレートの意味を理解したのだった。その後、いよいよと言うか、カフリングの構造と機能に関する講義を受けるのだが、あの小さなカフリングが意外と複雑な構造になっていたことに驚きを隠せなかった。そして内心「あれを僕が作れるのかな~」と不安に駆られてもいた。実はいざとなったら、かすみではなく職人を召喚して手伝ってもらおうと考えていた。ただし、その為にも内部構造をきちっと把握する必要があるため、玲はセラスティナに質問しながら地道に取り組んで行った。
「流石に、今日一日では
レイ君のレベルだと
カフリングは難しいから」
何時でも空いた時間にここ使って良いからね、とセラスティナは玲に伝えた。
その後玲とセラスティナは、空いた時間を利用して、ロムリア市内を少し見て周ることにした。一度部屋に戻り何時ものジャケットとデニムに着替え、更にウェアラブルカメラを装着して、玄関前で待つセラスティナと合流した。そしてセラスティナの転移で玲はロムリア市内を観光することになった。
玲とセラスティナがやって来たのは、エンペラールの屋敷からそんなに遠くはないロムリアのごくありふれた街中にある転移門である。セラスティナであれば転移防止措置が無い場所はどこでも転移出来るが、やはり玲を連れている以上、正規ルートでの案内を心がけたようだ。そして日本であれば、このような場所には道路があり、そこを多くの車が行き交うのだが、この街にはそのような乗り物を今の所全く見ない。その点では静かな佇まいの街である。いや、下手をするとゴーストタウンか?と勘違いしそうになる。そして玲はセラスティナについて行くと、どうやら商店街のようなところにやって来た。ただし、日本の例えば玲が住む差間見町の商店街の様にアーケードがあって、通りの両側に多くの店がある訳ではなく、どちらかと言うと通りの真ん中に屋台がひしめいている、そんな感じである。ただしそこで売られているのは全て食べ物である。あれ、服とか雑貨はどこで買うのかな?と言う疑問が出てきたのでセラスティナに聞いてみた。
「うーん、基本的には、
全て情報端末を使って注文するんだよね」
と言うことであった。ただし一部の高級品を除いてだが。要するにロムリアではイーコマースが100年以上前から市民生活の中に取り入れられていた。例えば衣料品に関しては、それを扱う店にアクセスし、気に入った服があればそれを選択する。すると情報端末内に3次元で表示される。更に、自分自身の身体情報が端末内に含まれていれば、その情報から自分がそれを着た時の様子をこれも3次元で確認できるらしいのだ。そして気に入れば、そのまま購入となり、直ぐに自宅にある転移門に届けられるという。なお、家具や電化製品なども同様で、部屋の中に置いた様子を3次元で確認できる。ただし大きなサイズの品物は自宅の転移門では対応できないケースがあるため、直ぐに専門の業者がやって来て、指定した場所に大きなサイズの転移門を設置し、そこに転移されることになる。とにかく、ロムリア人の生活では転移は必要不可欠な機能なのであった。
さて玲だが、セラスティナと屋台を見て周るうちに、美味しい匂いに釣られて、カップケーキのようなデザートを購入した。そして道路脇にあるベンチにセラスティナと腰かけて、早速その味を堪能した。
「そう言えば、タチアナさん、
ロムリアに何か娯楽とかって
あるんですか?」
と玲はデザートを頬張りながら何気なくそんなことをセラスティナに尋ねた。すると、
「そうねー、例えば地球で言うところの
映画や舞台芝居は当然あるわね」
ただし映画はかなり特殊で、360度スクリーンの中で自分が主人公の様に感じることが出来るという。何か凄そうな技術だな、と玲は感心した。
「それから、スポーツ観戦もあるし
コンサートも開かれるわね。後は...」
ギャンブルもあったりするわね、でもレイ君にはまだ早いけどね、と笑いながらそんなことを話した。どうやら、ロムリアのギャンブルは、30歳以上でないとダメらしいのだ。ちなみに、スポーツは主に格闘技が主流だが、最近ではサッカーも徐々に人気になりつつあるという。「えっ?サッカーってあのサッカーですか?」と玲はセラスティナに尋ねると、正確にはフットサルらしいのだ。これは当然地球からの帰還組が広めたのだが、彼らは時折公園に集まってはパーティーとか開いて地球にいた頃の話をして懐かしんだりするという。そんな時にボールを使ったフットサルをしているらしく、それが徐々にロムリア市民にも浸透しているのだという。そして最近では小さな大会が開かれるに至り、恐らく何年かしたらロムリアで大きな大会か、あるいは本格的なサッカーが行われるのではないかとセラスティナは語った。そう言う文化交流があるのは素敵な事だな、と玲は心からそう感じた。
「あっそうそう、後はね、カスミさんが
好きそうなコメディーもあるわね」
ただしどうやら漫才ではなく、漫談のようなものらしい。確か地球でもスタンダップコメディーがあるけど、それと同じ感じのもののようだ。
「ただね、不思議なことに
ビデオゲームの類はないのよね」
だからチーターことヴェレニエラは地球に転移した時に強い衝撃を受けて虜になったのだな、と玲は思った。だけどこれだけ情報網が完備されて3次元での表現が普通に普及しているのに、ゲームが無いのは不思議であった。だがセラスティナが言うには、
「後ね、ほら、レイ君の居る日本だと
アニメとかが有名じゃない。
ああ言うのは、ロムリアには
全くないのよね」
と言うことである。何となくだが、映画や演劇は役者とシナリオと舞台を用意すれば出来るが、アニメやゲームは更に役者そのものを作るという作業が生じる。恐らくそう言った地道な細かい作業が敬遠されているのかな、と想像したりした。
やがて陽が傾いて来て、西の空に2つの太陽が沈もうとする頃、セラスティナが
「さて、レイ君、そろそろ戻りましょうか?」
戻らないと先生が怒り出すからね、とセラスティナはコロコロと笑いながら玲にそう伝えた。玲も「そうですね」と答えるが、折角気持ち良く過ごし易い気候のロムリアをもう少し肌で感じていたいため、セラスティナにある提案をした。
「タチアナさん、折角だから、
エンペラール先生の屋敷まで
バイクに乗って帰りませんか?」
この提案にはセラスティナも最初は驚いたが、でも面白そうね、と言うことで玲は早速2台のオフロードバイクを召喚した。だが、セラスティナは地球にいた頃、レース用の大型バイクを乗りこなしていたので、
「ゴメンね、レイ君、
私はこっちの方が慣れてるの」
と言って昔使っていた大型バイクを召喚した。玲は繁々とそのバイクを眺めながら、「何か速そうで、おいてかれる感じがしますが...」とポツリと呟いた。そして2人はそれぞれのバイクにりエンジンを掛けた。すると2台のバイクのエンジン音が静寂に包まれたロムリアの街に木霊したため、屋台通りに来ていた多くのロムリア人が一斉に2人に注目した。だがそんなことに構わず、セラスティナが
「じゃあ行きましょうか?」
と言うので、玲は、
「タチアナさん、道が分からないので、
タチアナさんについて行きますね」
と言ってセラスティナの後を追った。こうして2台のバイクは夕暮れのロムリアの街中をエンジン音を轟かせながら走り抜けていった。
1時間程して、ヘッドライトを点けた2台のバイクはエンペラールの屋敷に到着した。ロムリアの街にも様々な理由から転移が使えない人達のための乗り物が存在するが、今この時間には運航されていない。そのため、街中の道路にはこの2台のバイク以外に乗り物は存在せず、対向車に気遣う必要はなく、更に玲の場合はヘルメットを被らなくても警察に捕まる心配が無いため、思いっきり風を感じることが出来て、今は地球では味わうことの出来ない爽快感に満足していた。
「あ~、気持ちよかった~。
有難うね、レイ君。
偶にはこう言うのも良いものよね!」
とセラスティナも満面の笑みを湛えて玲にお礼を述べた。だがそんな2人に対し、
「もー、2人ともけたたましい音を立てて、
一体何してるの!!」
と腕組みをして玲とセラスティナを睨み付けるエンペラールが玄関口に現れた。だが、エンペラールもそこにあるバイクを初めて見るようで、
「ちょっと、ちょっと、セラちゃん、
それなーに?」
と今度は興味津々な様子でセラスティナに質問をしてきた。
「あっ、先生はご覧になったこと
ありませんでしたっけ?」
とセラスティナがエンペラールに問い返すので、エンペラールは首を横に振った。そこでセラスティナが、これはバイクと言う乗り物であることを説明した。そして玲からの提案でここまでバイクに乗って帰って来たのだ、と言うことを説明した。すると、
「へぇ~、何か面白そうね。
私も乗ってみた~い!!」
となったので、セラスティナはエンペラールを後ろに乗せて、屋敷の外の道路を走った。そして10分程すると戻って来たが、今度はエンペラールが
「次は私が運転する!!」
と言い出した。ところがセラスティナのバイクはレース用の大型のため、万が一転倒した場合に大怪我する危険性がある。そしてセラスティナもエンペラールにそう説明するのだが、やはりどうしても運転したいと駄々をこねる。そこで玲が代わりに原付を召喚した。
「エンペラールさん、
これだったら初心者でも大丈夫ですよ」
僕もこれで練習したんです、と言うことを玲は説明した。実は玲が今のオフロードバイクに乗る前に、この原付で練習をしていたのは事実である。そしてセラスティナは、原付を見るのは初めてなようで、
「へぇー、これが原付と言うバイクなのね?」
と言って、早速玄関周りの広場を乗り回した。
「なるほど、これだったら先生も
安心して乗れますよ」
こちらに慣れたら少しずつ大きいのにした方が安全なんですよ、とセラスティナはエンペラールに説明した。エンペラールも玲とセラスティナからそう言われると、先ずは練習が必要なのね、と言うことで納得した。そして、原付に乗るのだが、初心者あるあるというべきか、アクセルを勢いよく吹かし過ぎたため、ウィリー状態になりかけた。尤も原付なので転倒とまではいかなかったが、エンペラールは何が起きたのか分からずその場で茫然と立ち尽くしてしまった。
「先生、アクセルは
ゆっくりと回すんですよ」
とセラスティナにアドバイスされ、漸くゆっくりとだが進むことが出来た。後はブレーキで止まるだけだが、
「先生!!レバーを握ってください!!」
とセラスティナが大声で叫んで何とか反応したエンペラールは、急ブレーキながらも無事停止することが出来た。
その後エンペラールは原付の操作に慣れたようで、スムースな加速と停止が出来るまでになった。そうなると次は少し大きいのに挑戦したくなるのだが、
「先生、それはまた別の日です。
今日はここまでにしてください」
とセラスティナにやんわりとだが制止された。その後3人は、少し遅めの夕食を摂るために、ダイニングに向かったのだった。