召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 6日目
惑星サモナルドの都市国家ロムリアでの滞在も6日目になった。この日の最神玲の予定は、エンペラールとセラスティナと一緒に王宮に向かい、王宮の書庫にあるとされる古代の召喚言語に関する資料を探すことである。なお、今回向かう所は場所が場所なだけに、玲はウェアラブルカメラを装着することを差し控えた。それと室内での作業に支障を来さないように、薄手のジャンバーと綿のパンツで王宮に向かうことにした。そして3人で朝食を摂った後、王宮に向かって転移した。
王宮には既にこれから向かうことをエンペラールが伝えていたため、特に咎められることなくスムースに書庫に入ることが出来た。そこで早速資料探しとなるのだが、王宮の書庫でも精々街の図書館位の規模かな、と玲は想像していた。ところが、ロムリアの王宮の書庫は、塔内の7フロアを占有する程の広さがある。そしてそこには膨大な数の様々な資料が保存されていた。なお閲覧時には注意すべきことがあり、一見紙のように見える資料が、実は羊皮紙のように動物の皮膚を薄く伸ばして乾燥させたものだったりする場合があり、雑に扱うと破損する危険性があるため扱いには細心の注意が必要となったりする。そのため慎重な作業が要求され、なかなか思うように進まない。ただし幸いにも、玲が必要とする古代の召喚術は、ロムリア建国以前の資料になるため、2フロア程の探索にまで狭めることが出来る。それでも、結果として1フロアを3人で調査するのに丸1日を要することになった。しかも今日の調査では、それらしい資料が見当たらなかったため、何となく骨折り損の何とやら、になったりした。ただし、玲としてはお目当ての資料が見当たらなかったものの、エンペラールとセラスティナは、それぞれに興味のある分野の資料が見つかったりしたようで、その場で黙々と読み始めたりした。何となく引っ越しの時に昔の新聞を見つけてそれをつい読んでしまう心境と言うべきだろうか。
そうやって、結局昼休みを取らず資料探しをしていた3人だが、やはり空腹には勝てず、夕方になって一旦王宮を離れることにし、エンペラールの屋敷に戻って行った。そして夕食を堪能した後、玲は話題提供ではないが、最近遭遇した呪い返しの話を2人に聞かせた。セラスティナは、地球人が呪術とかに興味を持つことは知っており、呪いを行う過程で呪いが自分に跳ね返る呪い返しと言うものが存在することも知っていた。だが実際に彼女は呪い返しなる物を目にしたことは無いという。そしてエンペラールだが、玲ではなくカーンフェルトもそうだが、サモナルドでは呪いと言う行為は有り得ないことを知っている。何かを使って相手に霊体を憑依させるよりも、直接その人物に対し降霊術をすれば済むからである。従って、その過程で発生する呪い返しの存在すら意識したことはない。そのため、先ずは地球における霊体と呪術の関係を玲は説明した。そして、
「もし憎い相手を殺そうとするとき、
直接手を下したくなければ、
呪いと言う行為で相手を殺すことが
できるんですよ」
と言うことをエンペラールに話した。だが当然のことながら、エンペラールは
「えっ?霊体を使った殺人なら、
直ぐに治安部隊に捕まるんじゃないの?」
と質問をしてきた。そこで玲は、地球では呪術で人を殺しても、それを罰する法律がないことを説明した。そして
「なるほどね、だから呪術なるもので
人を殺そうとするわけなのね」
それだったら確かに捕まえられないわよね、と言うことでエンペラールに納得してもらえたのだった。そこで漸く玲は本題に戻れたのだが、その時に遭遇した呪い返しと言うのが、どうも創成召喚されたものであることを伝えた。そして、
「ここに召喚したのが、
その時僕を襲ったものなんですが」
一応、これは何も攻撃はしないので安心してください、と付け足した。彼らの目の前には、あの時玲を襲った白い少女のような霊体と言うか物体が佇んでいる。だが、エンペラールは、そこに別の何かを感じたようだ。そして玲に対し、
「ねえ、レイさん、この人って...」
昔の話に出てくる守護者に似てるのよね、と言うことを玲に伝えた。勿論実物を見たことは無いが、特徴が何となく似ているというのだ。セラスティナはと言うと、
「うーん、そうですね、
そう言われれば特徴は
そんな感じでしょうか...」
とこちらは自信無げにそう答えた。ちなみに、エンペラールの記憶によると、その守護者は人々を悪霊から守る存在だったという。玲は「うーん、悪霊を退治した人が襲われているから、どちらかと言うと悪霊を守る存在じゃないの?」であった。何れにしても、ここで結論が出る問題ではない。今調査中の古代の召喚言語と平行して調べれば何かしら出てくるのではないか、と言うことで今は保留となった。ただし玲としては、この召喚物による特異な攻撃がどうしても気になる。特に超能力者のように念力と言うかそんな力で人を二つ折りにしようとする力は何なのか?その正体を知りたかった。だがエンペラールは、「そもそも今存在する術式の中に、そのような念力と言うの?そんなことを指示する術式は無いわね」と言う。エンペラールは今現在までのロムリアで発展した召喚術式が全て頭の中に入っている。その彼女が断言する以上、ロムリアで発展した術式にはないとみて良いだろう。そして玲と言うかカーンフェルトのいたケンタリアは、エンペラールが発展させた召喚術が基礎になっているため、やはりカーンの知識でもそのような術式は存在しない。すると、
「そうよね、やはり古代の術式に
行き当たる訳よね」
とエンペラールが呟くように、この問題もそこに行きつくようである。するとやはりあの意味不明な古代の召喚術が関係してきそうな気がするのだった。
それともう一つ、玲には確認したいことがあった。それは悪霊を呼び出すアプリに使われる召喚言語である。
「すいません、お二方にこれを聞いて
もらいたいのですが」
と言って玲はノートパソコンを召喚し、デスクトップに置かれている[呪術変換]アプリをクリックした。一応このアプリの目的に関して2人に説明し、その後で適当に名前を入れて音声を再現した。すると、
「!!」
何やらエンペラールが反応した。残念ながらその場にあの悪霊は召喚されないが、召喚言語を再現する上ではこれで十分だった。そして、
「レ、レイさん、これって...」
と言ったきり黙り込んでしまった。セラスティナは首を傾げたままである。
「ねぇ、レイ君、これって少なくとも
私たちが使う言語とは違うわよね?」
「はい、僕もそう思います」と玲はきっぱりと答えた時、エンペラールが
「この言語、初期のロムリアで使われていた
召喚言語に近い所があるんだけど、
でもねー」
どうやらその時代の召喚言語で考えても意味が分からないらしい。その時、
「先生! そうなると、もっと古い
召喚言語と言うことになりませんか?」
とセラスティナが興奮した面持ちでエンペラールに尋ねた。エンペラールは、頷きながら
「そうなのよねー、セラちゃんの言うように、
その可能性が高いかなー」
と口にした。エンペラールの伝えたこの事実は、玲としてはかなり重要な意味を持つ。それは、
「そうすると、この謎のアプリを
作った人物か組織は、
古代の召喚術を操るか、
理解する者達ということに
なるんでしょうかね」
と言う一つの結論に達するからだ。そう、先程議論していたことと同じ、これも古代の召喚術と関係しているということになる。どうやら玲が抱えている問題は、どれも古代の召喚術と何らかの関係がありそうである。玲としては、その中身の詳細を知りたいところだが、今の時点ではそれは無理な相談である。それよりも、玲が抱える問題が全て古代の召喚術に関係した、その事実が分かっただけでも良しとすべきであると、彼は理解した。一応このアプリで作られる言語は、セラスティナにお願いして彼女の情報端末に保存してもらった。その後3人は日付が変わるまで、召喚術談議に花を咲かせたのだった。