召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 7日目 (前編)
最神玲がロムリアに滞在して7日目、玲は何時もの時間に起きだし、今は部屋の中で簡単なストレッチを行っている。どうやら昨日一日、同じ姿勢のままで王宮内の書庫にある文献調査を行っていたためだろうか、筋肉にコリがあるようなので、それをほぐす意味でストレッチを行っていたのだ。そしてある程度コリがほぐれた時、ドアをノックする音が聞こえた。「どうぞ」と声を掛けると、セラスティナが入って来て、「朝食が出来ましたよ」と声を掛けてきた。そこで玲はセラスティナと一緒にダイニングに向かった。
何時もはそこにエンペラールが居るのだが、今日はその姿が何処にも見当たらない。
「あれ?エンペラールさんは
まだ起きてないんですか?」
とセラスティナに尋ねるが、既に出かけた後だという。
「今日は確か、午前中は王宮に
来られないんでしたよね?」
「ええ、そうよ。大変だけど、
2人で頑張りましょう!」
その日の午前中、エンペラールは仕事の関係で王宮の書庫での調査に同行できない。そのため、玲とセラスティナの2人で昨日の続きを行うことになった。
早速2人は王宮の書庫にやって来た。昨日調査したフロアの1つ上のフロアが今回の調査対象区域となる。その部屋に足を踏み入れた玲は、昨日とは違う雰囲気をそこに感じた。書庫と言うから当然昔の資料が多く保管されているが、それ以外にも当時の品物と言うか、呪術道具と呼ぶべきか、そんなものが散見された。そしてやはり、セラスティナが大いに興味を持ってしまい、早速その呪術道具を一つ一つめだした。玲としたら人手が欲しいから後にしてと思わなくもないが、ただし昨日の部屋と比べて、ここにある資料はそんなに多そうではない。そのため、まあ何とか一人でも探せるかと思ったりした。そこで玲は手近にあった書棚から調査を始めた。一冊ずつ取り出しては表紙を確認し、念のため最初の数ページを読んで関係なさそうなら次を手に取る、そんな地道な作業を繰り返していた。そのうち、セラスティナが本来の任務を思い出し、玲に謝罪して彼女も調査に加わった。そして3時間程した頃、玲は遂に古代の召喚術に関する資料を見つけた。
玲が手にしている資料は、表紙のタイトルがサモナルド語に似た文字で書かれている。残念ながら、玲はその文体を見たことが無く、なんて書かれているかは正確には分からない。ただし、タイトルの中に「召喚」を表すであろう単語が何とか読み取れるため、何かしら召喚術に関する資料であることは分かった。そこで中身を慎重に検めた所「...!!」と目を見張った。そこにはあの渦巻き模様の文字が書かれていたのだ。
「タ、タ、タチアナさーん!!」
と思わず玲は大声で叫んだ。セラスティナはてっきり何かトラブルが発生したのかと思い、急ぎ玲の所にやってきた。だが、玲が震えながら手にしていた資料に目を落とした時、セラスティナも玲と同じ衝撃を受けたのだった。
「レ、レ、レイ君! み、み、見つけたわね!」
「は、はい!」と言って玲はその資料をセラスティナに渡した。セラスティナは早速読んでみようとするが、やはり困難を極めたようだ。
「レイ君、ここに書かれている文字は、
かなり古い、初期の頃のロムリアの
文字のようね」
今この文字を読めるのは、エンペラール先生しかいないのよね、と言ってセラスティナは、エンペラールの不在を嘆くようにそう呟いた。何れにしても、午後からはこちらに合流する予定なので、その時に解読してもらうことにし、玲とセラスティナは、その資料が見つかった近辺をさらに調査することにした。すると、幾つか似た感じの資料が見つかったことで、恐らくこの一角が古代の召喚術に関する資料の保管場所であることが分かった。ただ残念ながら、どの資料も初期のロムリア文字で書かれているようで、玲とセラスティナはここでもエンペラール待ちとなったのだ。
「タチアナさん、一旦この資料を
エンペラールさんの屋敷に
持っていけませんかね?」
と玲は詳細な調査をエンペラールの屋敷で行ってはどうかと提案した。だが、
「うーん、ちょっと私には判断できないけど、
に王室の資料を持ち出すのは
良くない気がするのよね」
やはり先生が来てから決めましょう、と言うことになった。そしてセラスティナは一度その場から離れて、呪術道具の調査に向かった。玲は仕方なく、その近辺にある別の資料を見て周ることにした。暫く見て周った時、玲でも読めそうな資料があったのでそれを手にした。タイトルは「召喚術の歴史」と書かれていた。そう言えば召喚術っていつから始まったのか、玲は良く分かっていない。別に分からなくても召喚術は使える訳で、それ故に気にすることはなかったのだが、現在、古代の召喚言語を調べている以上、やはりその歴史も知っておいて損はないな、と言うことで早速読み始めた。一応玲と言うかカーンフェルトが知っているサモナルドの言語で書かれているので何とか読めるのだが、流石にカーンの知る文法と言うか使い方と異なる表現が多いため、なかなか読み進めない。丁度日本の平安時代の文献を読むような感じだろう。だが何とか読んで行くうち、最初に召喚術を生み出した人物が紹介されていた。だがその文字は良く読めない。「うーん、ヘランか?ウェランか?」何かそんな名前の人が最初に生み出したというのだ。そしてその時代はロムリアの建国から遡ること2千年以上前だという。
「すると、僕の居たケンタリアから数えると、
4千年近く前ということなの?」
と玲は誰にともなく呟くが、そんなに昔から召喚術があったことには驚きを隠せなかった。そしてどうやら初期の召喚術は、死者との対話がメインだったらしい。
「なるほどね、あのバレル型が
霊界に直接行けるのは、
恐らくこの時代の背景が
関係していたんだな」
と又も玲は誰にともなく一人呟いた。その後どうなったかについては、残念ながらその資料には記載されてない。と言うか、後半部分は無くなっていたというべきだろう。もしかしたら他の所に紛れていると考えた玲は、残りの部分を探してみたが、残念ながら見つからなかった。とその時、
「お待たせ~、皆さ~ん!
ちょっと遅くなりました」
と言いながらエンペラールが部屋に入って来た。そこで玲はセラスティナを呼んで、エンペラールに遂に探していた資料を見つけたことを報告した。ただし、どうやら古代のロムリアの言語で書かれているため、自分達ではそれを解読することが出来ないことも併せて報告した。するとエンペラールは、急に眼の色が変わり、直ぐに「レイさん、その資料はどれですか?」と尋ねてきた。そこで玲はその場所に案内し、最初に見つけた資料をエンペラールに手渡した。そしてエンペラールはそれを目にした途端、
「あー!? こ、これは...」
と叫んでから一旦言葉を切り、
「召喚言語の翻訳書になるみたいね!」
まさに今必要な資料だわ!と喜びを爆発させていた。そして、セラスティナが、
「せ、先生、これらの資料を
先生の執務室に持っていくことは
出来ませんか?」
と尋ねた所、
「あー、それは大丈夫よ。
ただし、私の執務室以外への
持ち出しは駄目だからね」
と言うことなので、早速玲が鞄を召喚し、そこにある資料を鞄の中に納めた。それと玲は、やはりあの「召喚術の歴史」が気になるので、それを手に取って最初に召喚術を生み出した人物についてエンペラールに尋ねた。
「私も何か聞いたことあるような無いような、
そんな感じなんだけど、
確かねヘランだったか
ヴェランだったと思うわ」
と答えたので、玲は持ってきた召喚術の歴史のそのページを開いてエンペラールに見せた。
「あー、そうそう、
ヴェランよ、ヴェラン」
そうか、ウェランじゃなくてヴェランと読むんだ、と言うことで納得した。そして改めてヴェランと書かれたその歴史書を眺めていたとき、何か引っかかるものを感じた。あれっ?何だろう?と玲は不思議に感じながら、その文字をじっと見つめていた。そして玲は、セラスティナにあることをお願いした。それは、
「すいません、タチアナさん、
ここに書かれているヴェラン
と言う単語ですが...」
これって地球のアルファベット表記したらどうなりますか?と尋ねた。セラスティナは少し首をかしげて不思議そうな表情を玲に見せるが、玲に言われたようにその単語をアルファベットに変換した。玲はノートとペンを召喚し、それをセラスティナに渡すと、セラスティナはノートにこう書いた。そしてノートを玲に渡した。
“Velhum”
玲は思わず手にしたノートを床に落としてしまった。だが玲は、ノートが落ちたことに気づいておらず、心ここにあらずなのか、魂が抜けてどこかに行ってしまったように、その場で機能を停止させていた。ただし機能を停止させる前にポツリと一言だけ呟いたのだった。「えっ、ま、まさか!?」
セラスティナは玲の様子が急におかしくなったことが気になって、玲の名前を呼んだが返事をしない。エンペラールも心配になって玲の目の前で手を振るが応答がない。あれ、やばくない?と2人はお互いに見合って危惧した時、玲の瞼が閉じた。そして瞬きを繰り返して何とか正気に戻った。だが一体玲に何があったのか分からないエンペラールとセラスティナは、玲に何があったのかを尋ねた。そこで玲は、地球で今現在進行中のある事件について2人に語った。
玲が話し終えた時、エンペラールとセラスティナの両名は、玲の語った突拍子もない話に暫し茫然としていた。先程の玲程ではないが、やはり機能停止寸前であったようだ。それから信じられないと言わんばかりに首を振り続けた。
「レ、レイ君、そのんな馬鹿な事
ある訳ないじゃない?」
「そうよね、セラちゃんの言う通りよ!」
と2人は口を揃えて玲の言葉を否定した。だが玲は
「僕もお二方の意見の通りであれば
どんなに楽かと思います。でも...」
ヴェルハムがヴェランと同一人物であれば、全て辻褄が合うんですよ、と玲は力強くそう伝えた。玲の言うように、バレル型の降霊転移門から始まり、ヘキサグラム型の転移門とそこに書かれている古代の召喚言語、全てヴェルハム、イコール召喚術の創始者ヴェランであれば、全て辻褄があうのだった。そして玲は確信した。ヴェルハムはヴェランが転生して地球にやって来たことを。そう、自分と同じである。ただし、玲はサモナルドの未来からの転生者であるのに対し、ヴェルハムはサモナルドの過去からの転生者である、と言う違いはあるが。ただし、それでもやはり謎が残る。それは、どうしてヴェルハムは、生者を霊界に連れ込もうとしているのか?ということである。サモネル教団がヴェルハムを崇拝していることは分かっている。その教団の目的は、先日の東京の教団の件で分かったように、信徒を本部に送ることである。つまり、あそこにあった降霊転移門で霊界に送る、ということである。ではなぜ、ヴェランの転生したヴェルハムは、そのような事を行っているのか?残念ながら今回の調査から、この疑問に対する答えを得ることは出来ない。玲は何かしらモヤモヤしたものを抱えながら、一先ず彼らの目的は達成されたので、王宮の転移門からエンペラールの執務室に転移したのだった。