召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 7日目 (後編)
エンペラールの執務室に戻って来た3人は、なぜか皆押し黙ったままであった。最神玲はまだ未解決の問題が残っていることに対するモヤモヤ感がある一方、エンペラールとセラスティナは、召喚術の開祖とも呼ばれるヴェランが今地球に転生している、と言う衝撃的な事実に直面したことによる。そんな中で、真っ先に口を開いたのはセラスティナであった。ただし彼女が言った言葉は「ねえ、昼ご飯にしませんか?」であった。確かに玲も、腹が減っては何とやら、と言うことでセラスティナの提案に賛成した。そこで3人は、エンペラールとセラスティナが良く通う店に向かうことにした。
そこは、地元の人達に昔から愛されている食堂である。3人は店の人の案内で奥の席に座った。玲は良く分からないため、セラスティナにお任せした。そしてセラスティナは、何時も頼む料理を店員に注文した。その後3人は料理が来るまで暫し雑談するのだった。
「ねえ、セラちゃんは、
レイさんが言ってた
ヴェルハムのことは
知らなかったんでしょ?」
とエンペラールがセラスティナに問い掛けたので、セラスティナは
「ええ、全く。
だけど、サモネル教団のことは
耳にしてました」
とエンペラールに答えた。そして玲は、自分の推測を交えて、セラスティナが地球にいた頃に追っていた召喚術式を広めていた組織が恐らくサモネル教団ではないかと言うことを話した。セラスティナは一瞬ビクッとしたが、その後「やはりね」と何か思い当たることがあったのか、納得したようだ。ただし、サモネル教団がヴェルハムを崇拝していたことは初耳だったようだ。
「もしヴェルハムと言う人物が
創始者ヴェランであったら...」
私はもしかしたらサインを貰いに行ってたかしれませんね、とコロコロと笑いながら玲に答えた。エンペラールも、
「そうね~、私もセラちゃんと
同じことしてたかもね~」
とこちらも笑いながらそう話した。玲としては、そんな呑気な事言っている場合ではないですよ、と心の中では訴えていたが、まあ確かにロムリアの人達からは遠い世界の話だからな、と諦めてもいた。かく言う玲も、本当ならエンペラールとセラスティナのサインは欲しいと思っていた。結局皆思いつくことは一緒なんだな、と納得した玲であった。その後、料理がやって来たので3人は地元の料理を大いに味わった。
美味しい料理を堪能した後、3人はエンペラールの私邸の執務室に戻った。そこでいよいよ、古代の召喚言語の翻訳作業に入ることになった。玲は勿論だが、やはり現代の召喚術の基礎を作ったエンペラールも、興奮を抑え切れない様子が伺えた。恐らく、この資料だけを見た場合、古代文字と現代文字の関係だけが説明されているため、余程の物好きでなければ興味を示さないだろう。だがここに居る3人は、それが実際に使われている状況を目にしている。そのため、それを応用する手段をその資料から見つけることが期待できるわけで、そのために3人共大いに興奮していたのだった。そして玲は、この時の模様をしっかり録画するためにウェアラブルカメラを用意して装着した。
「では最初のこの文字ね。
この渦巻きに似た形だけど...」
:
「それと、この文字ね、
これはどうやら接続詞的な
役割みたいなのよね」
:
「あと、これは今の召喚言語にはないわね。
意味としては...」
とエンペラールによる解説は続けられた。玲とセラスティナは、エンペラールが話す説明を一言一句漏らさず書き続けた。ただしセラスティナは情報端末にその翻訳内容を書き続けており、玲の場合は既にウェアラブルカメラでその資料を隅から隅まで記録しており、後は持参したノートに日本語に変換しながらそれらの意味を書き続けているが、これは後日かすみと神室霊華に説明する時のことを考えての措置である。そして、
「これで最後ね。意外と文字数としては、
今の召喚言語とそんなに変わらないみたいね」
とエンペラールが言うように少し少ない程度だが、やはりこれだけの召喚文字数を古代でも必要としたようだ。そしてエンペラールの解説に基づき、玲は早速ヘキサグラム型召喚門を呼び出して確認を行った。そして早速エンペラールがそれを見て、
「あー、なるほどね、こうして見ると
このヘキサグラム型でしたっけ?
ここに書かれている召喚文字は
降霊転移と同じと言うことのようね」
と言う感想を口にした。それ故に、霊界と繋がったということのようだ。あっ、あれも調べておこう、と言うことで玲は序にある物を召喚した。それは、最近北海道で確認された古代の召喚言語で書かれたである。早速エンペラールが訳した言葉に置き換えた所、玲は
「ほ~、やはり何か精霊みたいなものを
召喚する文字でしたね」
と言うことを確認した。だが玲は、今ここでそれを召喚するかどうか判断に迷っていた。もしあの時のように攻撃的なものが召喚されたらたまったものではない、と言う懸念からである。玲がそのような懸念から躊躇していると、横からエンペラールが、
「それ、召喚してみたら?」
と玲に催促して来た。どうやら何が出るのか興味津々のようである。玲は万が一攻撃的なものが召喚されると危険なので止めた方が良いと思いますよ、と一応懸念点を伝えるが、エンペラールは、
「ここに3人の優れた召喚術師が控えてるのよ。
心配することは無いわよね、セラちゃん」
とセラスティナを巻き込む発言を行った。だが、セラスティナもエンペラールの意見には賛成のようで、
「まあ、最悪、それを宇宙に
転移させれば良いんじゃない?」
と言うことで、玲は「知りませんよ!」と一言忠告してから、手元にある誓詞と同じ召喚言語をヘキサグラム型召喚門の中心に記述した。すると、
「わ、わ、わ、な、何か出てきましたよ...」
と玲が驚くように、そこに何やら白い物体が召喚された。ただ、よく見ると、何となくあの形に似ているなとは玲の印象である。それは、
「これって、かすみの好きな
ドラちゃんに似てるんですが...」
尤も、エンペラールもセラスティナも、そもそもドラちゃんは知らない。むしろ彼女達からすると、
「ねえねえ、セラちゃん、これって...」
バンディーだよね、とエンペラールは嬉しそうにセラスティナに話した。セラスティナも「ええ、絶対そうですよ!」と太鼓判を押した。玲はキョトンした表情で2人を見つめるが、セラスティナが玲に説明した所によると、昔からロムリア市民には親しみのあるキャラクターらしい。そしてそのキャラクターの原型は、古代の生物と言うか伝説上の生き物バンディーだという。そしてこのバンディーは、別に何か悪さをすることは無く、どちらかと言うと家や家族を守ってくれる用心棒のような存在らしいのだ。日本だったら守り神と言う所か?と玲は想像したが、恐らく間違ってはないだろう。ただし、玲と言うかカーンフェルトは分かっているが、サモナルドにはそもそも神と言う存在はないため、守り神と言われても恐らく理解されない。ただし、エンペラールの説明の通りだと、ここに召喚されたこれは無害と言うことになる。実際に玲は触ってみたが、プヨプヨした感じの物体である以外、特に玲に対し攻撃的になったりすることは無い。だが守り神と言うからには、もしここに何かしら災いが起こりそうなら、それに対応して動き出すことは考えられた。そして、
「エンペラールさん、
もしこれが召喚されたまま
ずっとそこに居続けた場合って
どうなるんでしょうか?」
と玲はエンペラールに尋ねた。だが彼女は「それは分からいなー」であった。恐らく長時間召喚しっぱなしと言うことは、召喚術師としては有り得ないからだろう。特にアニュラスやペンタグラム型の創成召喚であれば、召喚後に召喚エネルギーを消費するため、召喚しっぱなしと言うことは絶対有り得ない。だが玲が最近多用するバレル型の降霊転移門の場合、最初に召喚した時だけ召喚エネルギーを消費し、それ以降は全く消費しない。そのため、それがずっと召喚されっぱなしの場合どうなるかは、恐らくこれからの課題と言うことになるのだろう。とりあえず玲としては、そこに何が召喚され、それが有害か無害かが分かっただけでも良しとした。
その後、古代の召喚術式を利用して、ヘキサグラム型の召喚術の可能性を調査した3人は、どうやらある術式を加えることで「あれ」が機能することを発見した。それは、
「なるほどね、レイ君の言う通り、
これを追加すればブーメランになりそうね」
とセラスティナが言うように、かすみの予言したブーメランになりそうなのだ。そこで玲は、早速その術式を追加したのち、ヘキサグラム型をバラバラにし、それを手にしてエンペラールの屋敷の庭に向かった。
庭に出てから早速玲は手にしたヘキサグラム型の召喚門の一つを前方に投げてみた。その召喚門は真っ直ぐに飛んで行ってそのまま見えなくなったが、暫くするとちゃんと戻って来た。そして玲の手の中に着地した。そう、そのまま飛んで行ってから戻ってきて危うく投げた本人に当りそうになると言うブーメランあるあるのような危険はなく、それは玲の手の上に着地した。
「おー、おー、何か凄いですよ、これ!!」
と玲は興奮を隠すことなくそう叫んだ。続いてエンペラールも手にしたヘキサグラム型の召喚門を投げた。暫くするとそれは戻って来たが、なぜか玲の手の上で着地した。「えっ?私の所じゃないの?」とエンペラールは驚きと共に不平を言うのだが、恐らく召喚した人物の元に戻る仕様なのだと思われた。そこで玲は、エンペラールとセラスティナにヘキサグラム型の召喚門を彼女達の召喚の書に記述し、序にショートカット化した。そして、
「それを宣言すれば大丈夫ですよ」
と言われたので彼女達はそのようにした。すると
「うわー、出た、出た、これがそうなのね?」
と嬉しそうにエンペラールがぎ出した。こういう時のエンペラールは年齢に関係なく、本当に無邪気で天真爛漫なんだなと、玲はつくづくそう感じた。そして、彼女達も自分のヘキサグラム型召喚門を空中に投げた。すると暫くしてからそれらが手元に戻って来たので、
「うんうん、やっぱり、
ブーメランになったんだね」
とセラスティナは嬉しそうに玲に語り掛けた。さて、こうなるとこのヘキサグラム型召喚門の可能性が広がる訳で、玲はその後寝る間も惜しんでヘキサグラム型召喚門の研究に没頭したのだった。