召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 8日目 (前編)
最神玲が惑星サモナルドにある唯一の都市国家ロムリアに来てから1週間が過ぎた。初日はこの惑星の強い重力と言う洗礼を受けてダウンしていたが、今は全く問題なく普段通りの生活を送っている。ただし、昨晩は余りの興奮状態から寝るのが遅くなり、結果として少し寝不足気味である。だがこの寝不足は、日本にいた時も体験しているので、玲としては特に問題にはしていない。そして今日の予定だが、午前中にエンペラールから仕事の手伝いを依頼されているのでそれをこなし、午後からはロムリア市内の違う区域を見て周るということになっていた。今まではエンペラールが管轄する区域内しか見ていない玲だが、他の区域はこことは全く違う景観だということで、玲は行くのを楽しみにしていた。
朝食を何時もの3人で摂ってから玲とエンペラールは、召喚術師管理センターに転移した。そして玲はエンペラールが管理する召喚術師管理センターのエントランスにエンペラールと共にやって来たのだが、今日は前回使った転移門ではなく別の、一般の召喚術師が使用する転移門である場所に向かった。そこは、
「これからレイさんには、
この子たちに召喚術の講義をして頂きます」
と言うように、玲は臨時の講義を行うための講義室に来たのだった。勿論玲は前夜にエンペラールから、明日臨時で講師をお願いしたいという話を聞いていた。だが何を講義すれば良いのか正直分からないためエンペラールに尋ねたが、彼女曰く
「それはね、レイさんの経験でも
話してもらえればいいのよ。
とにかく実際にこういう時に
どのように召喚術を使えばいいのか、
には分からない子たちが多いからね」
と言うことで、実際の使用例みたいなものを解説して、ということだった。だが玲は特にそう言った事例を思いつくことがなく、そのままぶっつけ本番を迎えた。先ずはエンペラールが講義室の扉を開けて中に入り、そのまま演壇に向かった。そしてエンペラールの講義を聴きに集まった数百人の召喚術師達に対し、
「さて皆さん、今日は私からではなく、
特別講師をお呼びしました」
と言う合図と共に、玲は講義室に入り、恐縮の体でエンペラールの傍にやって来た。そして、まあ予想通りと言うか、何だあいつはとか、あの男が何でエンペラール師の代わりになるんだ?などと陰口を叩かれてしまった。そんな外野の声を無視して、エンペラールは更にハードルを上げるようなことを聴衆に伝えた。
「ここにいるレイ・モカミさんは、
セラスティナ師が住んでいた
地球と言う惑星から
今回召喚してやって来てもらいました。
そして彼は、私やセラスティナ師を越える
召喚術師です。なので彼の召喚術を
しっかり学んでください!」
そうなると、玲は「いやいや、エンペラールさん、持ちあげすぎです」と小声でそう抗議するが、エンペラールはなぜか親指を立てて「大丈夫!」と言うのだった。このサムズアップは、絶対セラスティナさんが教えたんだな、と玲はセラスティナに抗議したくなったが、仕方ない、諦めて何か話すとしよう、と腹を括った。一応時間は2時間となっていたので、まあ、ケンタリア時代もこういう事やっていたし、色々と交えながら話せば時間は持つかな、と思ったりした。物部かすみであれば、2、3時間は雑談だけで持たせられるが、玲にはそのような経験と言うか特技を持ち合わせていない。そこでまずは、自分は元々この世界の人間だが訳があって地球に転生したことを伝えた。そうしないと、異世界人がなぜサモナルド語を話すのか?という疑問を持たれてしまうからである。それから、地球と言う惑星では、召喚術は全く存在せず、そのため大っぴらにそれを使うことは出来ないことを伝えた。そんな中で、降霊召喚術は色々と役立つことがあり、自分と地球にいるパートナーの2人で除霊や降霊術の仕事をしていることを伝えた。そして、
「多分皆さんも除霊とか
されることはあるかと思いますが、
普通に降霊召喚門を設置して
霊体を霊界に送ろうとしても、
その霊体が抵抗したらどうしますか?」
と言う有り触れた質問を投げた。すると前列に座る聴講生の男性が手を上げて
「それは召喚エネルギーを多く消費すれば
解決できると思いますが...」
と典型的な模範回答をした。そしてその回答に多くの聴講生が頷きで返した。そこで玲は、以前神室霊華が降霊術で使っていた練習用の召喚人形を用意した。
「多分皆さんはこれをご存じだと思いますが」
ただし、この人形は悪霊しか召喚しないようになってます、と言うや否や、目の前に降霊召喚門を設置し悪霊を召喚した。
「では、先程回答されたあなた、
ここに来てこれを除霊してください」
あっ、ちなみに、この悪霊は悪さはしないので安心してください、と一応付け加えてから自分の降霊召喚門を一旦解除し、その召喚術師に除霊をお願いした。
「降霊召喚門設置、術式...、召喚!」
と叫ぶが、悪霊には何も影響はなく、その場にじっと佇んでいた。その召喚術師は「あれ?」と首を傾げていた。
「念のため、彼の術式に問題はありません。
そして彼の召喚エネルギーは
通常よりも多く消費したのは事実です。
でも...」
残念ながらこのように除霊されずに残り続けています、と玲は解説した。「もし他に試したい方おられれば、遠慮なく前に出てきて試してください」と玲が言うと、早速何人かの聴講生が前に出てきて、自分達が考えたのか、独特な方法を交えて除霊を試みた。だが何れも全く除霊することが出来ない。そのうち、「その悪霊って、本当に霊体なんですか?」と逆切れではないが、そんな質問が出る始末である。そこで玲は念のため手で悪霊に触れてみたが、手が素通りしたことから、創成召喚物ではないことは明らかであった。そして、
「恐らく、今やって頂いた方法は、
通常の霊体であれば
間違いなく除霊されます。しかし...」
人の怨念って簡単に祓われるものではないですよね?と玲はまず聴講生たちに問い掛けた。そして
「その場合は、その悪霊や怨霊の持つ恨み、
辛み、憎しみの元を絶つ
ということが必要になります」
つまり霊との対話が重要であることを玲は語った。
「だけど、それでも容赦なく
人に襲い掛かる悪霊がいるのは事実です。
その場合は...」
強制退場させなくてはなりません、と言うや否や、玲はその場に降霊転移門を設置し、門を開放した。すると周りの空気を勢いよく吸い込みながら、玲が召喚した悪霊は霊界に吸い込まれていった。そして一旦降霊転移門を解除してから
「今お見せしたのは、かなり特殊な召喚門です。
そして悪霊が消えた先は霊界です」
と玲は説明するのだが、殆ど全ての聴講生は目の前の光景を信じられない表情で目を丸くしながら唖然と眺めていた。そのため玲の説明が果たして彼らの耳に届いたのかは分からない。
ところで玲は、今朝の朝食の席でエンペラールとこの日の講義に関する打ち合わせをしていた時、この降霊転移門による除霊を行う予定であることを伝えた。ところが、エンペラールもセラスティナもそのような除霊方法があることを知らなかったようで、2人とも目を輝かせて「ねえねえ、レイさん、それはどういうものですか?」と玲に尋ねてきた。そこで玲は、今行ったことを彼女達に披露した。そしてエンペラールとセラスティナの反応は、この時の聴講生と同じく、ただ目を瞬きながら悪霊が吸い込まれる様子を眺めていた。ただしセラスティナは、あの時のことを思い出したのか、「レイ君、これってあの時の開閉型だよね?」と玲に尋ねた。玲は頷きながら、
「ええ、ただしあれは有無を言わさず、
その前に来た人を霊界に吸い込んでましたが」
これは召喚術師の意思で開閉させます、と言うことを伝えた。その後く我に返ったエンペラールは、その時の詳しい状況を玲とセラスティナから聞き、序に今の術式を教えてもらった。そしてエンペラールは、
「この開閉って、私がセラちゃんに
昔頼んだ術式なんだよね。
まさかそれがこんな使われ方をするなんて...」
と何やら感慨深げにそう呟いた。それから一応この術式を披露することは問題ないが、詳細についての説明は避けときますと言うことを玲はエンペラールに伝え、彼女もその意見には全く同感だ、と言う同意を得た。やはりバレル型召喚門による転移が広まるのを防ぐ意味合いが強いからと言うべきだろう。
さて、その後の講義では、玲は自分が作った創成召喚物に対する自律機能と追跡機能の紹介を行った。流石に召喚門が自分の後について移動するということが最初は理解できなかったようだが、そのうち自分達の中にこの現実が浸透するや否や、驚愕の目で移動する召喚門を見つめ続けた。そして玲は、聴講生に向けてのプレゼントではないが、召喚門の拡大・縮小機能に関する術式を公開した。玲が今回紹介した機能は、ロムリアの召喚術師の誰も考え付かない突拍子もない機能ばかりであったため、皆興奮しながら玲の紹介する機能を眺めたり、実際にやって体感したりして、その日の講義は盛況のうちに幕を閉じた。そして最後にエンペラールが締めの言葉を発した。
「恐らく私を含めたロムリアの召喚術師は、
誰もレイさんの術式を
思いつかないと思います。でもね」
やはり柔軟な思考をするという行為は必要な事であり、今後は術式の改良だけでなく、自分で全く新しい術式を考えて編み出すことをどんどんやってください、と言うことを全員に伝えて、講義を終えた。そして終了後、やはりと言うか、早速玲の周りには人だかりができて、先程の除霊に関する術式や自動追尾型の術式に関する質問が飛び出した。だが、
「すいません、詳細については
エンペラールさんとの約束で
明かすことは出来ませんので、
ご容赦ください」
と伝えた。そして玲の言葉を補足するようにエンペラールが
「レイさんの紹介した術式は、
実はかなりの召喚エネルギーを消費します。
もしあれらをそのまま皆さんが行うと、
間違いなく召喚エネルギー切れを起こします!」
と発言したことで、その場の全員ははっとしていてしまった。そう、先程まで講義をしていた目の前にいるこの人物、今こうして間近で接すると、彼の召喚エネルギーがエンペラールと同程度かそれ以上であることを全員即座に理解した。そしてあの術式は彼やエンペラール先生位のレベルでないと無理なんだ、と言うことが分かったところで、彼らはれたまま自分達の席に戻りだした。ただそんな彼らに向かって玲は励ましの言葉ではないが
「もし僕が紹介した術式に対し、
もっと召喚エネルギーの消費が抑えられれば、
皆さんも安心して使えますから」
そのような改良はあっても良いと思いますよ、と言葉を掛けた。そして玲とエンペラールの特別講義は幕を閉じた。
その後玲とエンペラールは、午後からロムリアの他の地域を観光することになっている。そこで折角だから、少し遠いが有名な飲食店があるということで、そこに2人で向かうことにした。なお、セラスティナは今日一日エンペラールの残した仕事を片付けるために、エンペラールの屋敷の執務室に缶詰め状態である。そんな気の毒な境遇にあるセラスティナを残し、玲とエンペラールはその有名な飲食店に向かった。
その店は、ロムリア郊外のある田舎町にあった。丁度昼時で、どうやらロムリアの労働者達で満席状態である。玲とエンペラールは順番待ちのため待機しながらエンペラールが取り出した情報端末を使ってメニューを呼び出し、2人で眺めていた。どうやらその店は小麦に似たパクアを使った麺料理を出す店のようで、テーブルに出されている料理を見る限り、地球のパスタ料理のようだと玲は感じた。ただし、玲が知る地球のパスタとは大分色も形も違う。色はかなり赤味が強く、形はかなり平たい。ただし、確かイタリアの平打ち麺でもタリアテッレとかいうのがあるが、それよりももっと平たいようだ。そこに肉と野菜を煮込んだ緑色や赤色のソースをかけて食べる感じである。そして、今も玲の鼻先をり続けるの香ばしい香りがテーブルの上から、あるいは厨房から漂って来る。「あっ、確かにサモナルドにも大蒜みたいなのがあったな」と言うことを思い出した玲は、そうすると、増々あれってパスタじゃないの?と期待に胸が膨らむのだった。
やがて玲とエンペラールが席に通され、早速あのパスタらしき料理を注文しようとするが、果たしてどれなのかが分からない。そこでエンペラールに尋ねると、
「あ~、あれね。あれ、結構辛いよ。
レイさん、大丈夫?」
と玲を心配し出した。えっ、サモナルドにそんなに辛い料理と言うか調味料ってありましたっけ?とエンペラールに尋ねた所、どうやら地球からの帰還組がこちらで栽培を始めているということらしいのだ。となると、地球産の本物の唐辛子だろうと思う訳で、そうすると増々どんなのか試してみたくなった。そこで玲は店員にそれを注文した。エンペラールは「レイさん、忠告しましたからね」と言わんばかりに首を横に振りつつ、自分はランチセットを注文した。そして暫く待つと、熱々の料理が目の前に運ばれてきた。エンペラールは何となくボロネーゼパスタを思わせる感じの料理である。一方玲の方はと言うと、その香りを嗅いだ途端「まじかー」と呟いた。そして先ずは赤いソースをスプーンに乗せて少し食べてみた。すると余りの辛さに咳き込んでしまった。「だから言ったでしょ!」とエンペラールは心配そうに玲に呟くが、玲としては「これって、唐辛子じゃなくて、ハバネロじゃないのか?」と別のことに驚愕していた。そう、玲の指摘通り、それはハバネロであった。なお、ロムリア人はそのまま食べるのではなく、緑黄色野菜から作られている緑色のソースと混ぜながら食べる。だからこそ、赤色のソースだけではなく緑色のソースが付くのだった。玲も身をもって体験したからこそ分かったことである。そして緑色のソースと混ぜて平打ち麺と一緒に食べると、辛さが残りつつ程よい甘さと相まって丁度いい感じとなったのだ。ただ一つだけ気になることがある。それは、
「このソースって、カレーじゃないの?」
であろうか。そう、赤色と緑色のソースには、それぞれ香辛料やスパイスが含まれている。そして玲の感覚としては、これはパスタではなく、米にかけて食べた方が絶対美味しい、と結論付けられた。だが、サモナルドには米や米に近い食物は全く存在しないと断言できる。そのため残念ながら、米にかけて食べることは叶わないのだが、エンペラールは玲の呟きを聞いており、
「ねえねえ、レイさん、カレーって何なの?」
と尋ねてきたので、玲は自分の知る範囲でカレーについて解説した。
「カレーって、色々なスパイスを混ぜ合わせた
料理なんですよ。本場のインドと言う国では、
パンに似たものと一緒に食べたりするんですが、
僕の居る日本では米と一緒に食べるんですよ」
そして米自体はちょっと甘いので、その甘さとカレーの辛さが上手くバランスして、日本人の国民食になってます、ということを説明した。するとエンペラールは興味を持ったのか、
「もしね、私が地球に行ったら、
是非カレーを食べさせてね」
であった。その可能性は当然ある訳で、玲としてはセラスティナを地球に召喚する予定はしていたが、エンペラールも別に召喚しても良いんだと思うと、
「そうですね、僕としては
タチアナさんとエンペラールさんを
地球に招待したくなりましたよ」
と言うことで、唐突にだがここにエンペラールの召喚は決まってしまったのだった。