召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 8日目 (後編)
ランチを楽しんだ最神玲とエンペラールの2人は、その後いよいよロムリア市内の観光に向かうことになった。なお今日見て周る所は、5つの区域を予定していた。最初に訪れたのは軍事担当区域にある軍事施設とハンター管理センターである。観光にしては何やら物騒な所であるが、ロムリアを知る上でここは避けられないという。所でロムリアは、惑星サモナルドにおける唯一の国家である。そのロムリアで軍隊が必要なのか?一体どこと戦うのか?と思われるが、どちらかと言うとロムリア以外の地域の治安維持がメインと見た方が良いだろう。玲がロムリアに来た3日目に各地に点在する街を訪れたが、そのような街を襲う盗賊やロムリアの体制に反対する者達の集団、あるいは猛獣や野獣、場合によっては幻獣が極稀にだが街を襲うことがあるといい、そう言った脅威を取り除くのが主な仕事である。ただし、猛獣や野獣については、ハンターが請け負うことが多く、そのため軍事部門の大臣は、ハンターの管理も任されている。そして玲とエンペラールが訪れた所は、そのような役割を持つ軍隊の訓練施設である。この訓練施設は屋内と屋外があり、屋外は広大なフィールドに様々な仕掛けがあるという。そしてここの訓練の模様は、一般のロムリア市民だけでなくロムリア郊外からの人達も見学することが出来、常に多くの人で賑わうのだ。確かに訓練を見せることで安心感が得られるよな、とは玲の感想である。そんな感じで2人は暫く訓練風景を眺めていたのだが、そんな時
「エンペラール師!」
とエンペラールに声を掛けた人物が現れた。玲とエンペラールが声のした方向に振り向くと、そこには鋼のような筋肉に身を包み、髪を短く刈り込んだ、年の頃はエンペラールと同世代かと思われる女性が立っていた。
「あらー、カステリアル師!
お元気でしたか?」
とエンペラール立ち上がりながら返事を返した。カステリアルと言う名の女性、実はロムリアの軍事部門のトップである。つまりロムリアを統治する12人の大臣の1人である。
「まさか、あなたがこのような所に
来るとは珍しい限りですよ」
と笑顔で近づいてきたカステリアルは、サモナルド式の挨拶をエンペラールと交わした。
「まあね、今日はこちらのレイさんの
観光案内に付き添ってるのよ」
と言うことで玲も早速サモナルド式の挨拶をし、自己紹介をした。
「ほー、あなたが噂の召喚術師ですか」
あれ?何か僕のこと噂になっているんですか?とエンペラールに小声で尋ねるが、エンペラールは「さぁ?」と肩をすくめながら玲を見つめた。すると
「まあね、あなたやエンペラール師、
そしてセラスティナ師が地球でしたか、
あそこから帰還された人達のところを
周っていることは分かっていましたし、
つい先ほども」
召喚術の特別講義のことを興奮して話す召喚術師がその辺におりましたから、それで分かりましたよ、と言うことであった。どうやら、軍事訓練において召喚術師が野獣や猛獣を召喚して、模擬戦を行ったりするらしいのだ。そして軍事部門では、情報収集は常に必須であることから、こういった情報が彼女の所に集まるということであった。それを聞いた玲は、
「ちょ、ちょっと目立ち過ぎたんですかね、
ははは」
と冷や汗を搔きながらそう答えた。そしてエンペラールが
「ところで、カース、
何か用事でもあるのかしら?」
と何やら腹の探り合いを始めだした。尤も玲としては、軍事云々は全く分からないため、何か聞かれても答えられないのだが、どうやら単に様子を見に来ただけのようであった。だが玲もそこそこ人間関係を学んできた経験から、カステリアルの表情から何かしらの思惑を見て取った。まあ、僕に関係なければそれに越したことはないが、と玲は思うのだが、果たして。
その後玲とエンペラールは、軍事部門のトップであるカステリアルと別れて、ハンター管理センターに転移で向かった。そこは多くのハンターでごった返しており、血と汗の臭いが充満する戦闘色の濃い危ない世界でもあった。このハンター管理センターでは、ハンター登録は勿論、ハンターの狩った獲物の評価とそれに対する報酬をハンターに支払ったりする。あるいは単独での狩猟は上級者以外は基本的に禁じられているため、人員を募集しているパーティーの斡旋なども行われている。またある一角では大勢のハンターが電子掲示板に目を凝らしていたが、どうやらそこには外部から依頼された仕事の内容が掲示されているようだ。なお余談だが、後日地球に帰還してからこの時の光景をかすみと見ていた時、「こ、これって、ギルドやんか!」と興奮して騒ぎ出した。玲は分からないが、どうやらロールプレイングゲームでは定番の組織だという。
「何か凄い光景ですね。
それと以外に女性も多いんですね」
と玲はエンペラールに感想を伝えるが、確かに玲が言うようにほぼ半分は女性ハンターである。それと
「あっ、あそこにいる人達は召喚術師ですか?」
と玲が指さす方向には、ロムリアの召喚術師の衣装を身に纏う集団がいた。でもなぜハンターの中に召喚術師が居るのかと言うと、エンペラールの説明では一般には後方支援が主任務である、と言うことらしい。例えば遠征中の食糧や武器の補給を転移で担ったり、あるいはパーティーを目的地まで転移させたりなど、縁の下の力持ちのような存在であった。一方、玲と言うかカーンフェルトの居たケンタリアでも召喚術師がハンターに同行することはよくあった。ただしその場合は弓を使う狙撃兵の召喚や防御壁を展開するなど戦闘の補助を主に行っていた。勿論、ケンタリアには転移術そのものが失われていたため、後方支援と言うことは行われていないのだが。そんな昔のことをふと思い出した玲は、そう言えばロムリアではトレジャーハンターはいないのかな?と疑問に感じたので、そのことをエンペラールに尋ねた。すると、
「うーん、レイさんの言うような
トレジャーハンターはいないわね」
ただね、遺跡の調査や発掘とかは、教育文化が担当しているからね、そちらで似たような組織があるかもしれないわね、と言うことであった。確かにケンタリアでは、トレジャーハンターの目的は玲が今いるロムリア時代の遺物を探すことであり、特に目の前にいるエンペラールの著作がもし手に入ろうものなら、一生何もせずに暮らすことが出来るほどの財をなすと言われている。だが、ロムリアの現実を知った玲は、そもそもエンペラールにしろ、セラスティナにしろ、彼女達は情報端末で全てを管理しており、紙の本や資料を残すことをしない、と言うことを知っている。従って、どんなに探しても見つかることは無く、徒労に終わるだけなのだ。
”この事実を知ったら、彼らショックだろうな”
そんな話をエンペラールに語ると、エンペラールは一瞬キョトンとするも、直ぐに笑顔になって、
「では千年後のレイさん、
じゃなくカーンさんでしたっけ、
あなた宛てに何か送っておきましょうか?」
そしたらサモナルドの王になったりしてね、と笑いながら玲に伝えた。そして「尤も、それが私の著作って、どうやって証明するのかしらね?」と急に真剣な表情になって考えだした。ホント、エンペラールさんの感情の切り替わりの早さって凄いよな、と思わず感心する玲であった。
次に、玲とエンペラールは農業関係の施設を見学するために、農業部門が管理する地区に転移した。農業と言っても、その主な目的は食料の生産である。数億人の人口を抱えるロムリアは、とにかく大量の食糧が毎日消費される。それを補って余りある位の生産量の確保を計画的に進める必要があるため、様々な工夫がされているという。例えば、この国の農業は、その主食である小麦に似たパクアの生産が中心となる。それをロムリア郊外の広大な土地で生産するが、そこに人手は殆ど必要としない。理由は簡単で、一定間隔毎に設置された無人施設で肥料や水の調整、更に種まきから刈り取りまでを自動で行うからである。そして収穫物は全て転移でロムリアに転送される。なお農地の場所としてはカーンが居た時代であれば、丁度ガレンザニア国とティンカーン連邦全域になるだろうか。そして設置された無人施設を維持・管理する有人の施設が、後にガレンザニア国とティンカーン連邦の中心都市になったようだ。後は加工品として使われる様々な種類の植物の栽培も行われる。ただし最近では、遺伝子操作をした種子を使って作られる農作物がロムリア市内の工場で大量生産されたりしている。今、玲とエンペラールが見学しているのは、そのような工場の一つである。なお、この工場で作られる農作物は、冬場に足りなくなった場合とかあるいは加工品としての利用に限定されているようだが。それと肉類については、地球における牛に似た哺乳類は存在する。ただしこれは食用に向かないようで、主に乳製品の生産に限定されるという。そして食肉としては、地球で言うところの古代の草食恐竜を家畜化して食肉にしており、その牧場もロムリア郊外に存在する。そして肉の味としては、鶏肉に近いという印象を玲は受けていた。あるいは玲は食したことは無いが、肉がそれに近いかと思われる。そう言ったロムリアの食糧事情を知った玲は、こと食べることに関しては、やはり住むなら地球が良いかな、と思ったりしたのだった。
その後はロムリアの財政を管理する区域に向かった。ここはロムリア人が支払う税金の管理から各地区に配分する予算の配分処理を行っているが、同時にロムリアの金融関係も統括するところである。ロムリアでは支払いは全て情報端末経由で行われるが、この点は玲の暮らす日本も同じシステムを持っている。ただしロムリアでは、もはや紙幣や貨幣と言うものが存在しないという。それでは、例えば情報端末を持たない人が不便ではないか?と思われるが、情報端末を持たない人はいないということだ。逆に持たない人は、今の玲のようにサモナルド人ではない場合か、あるいは盗賊やロムリアに反対する勢力の人間に限定されるということになる。そして各人の資産は全て情報端末で管理される決まりになっているため、仮に脱税目的で個人資産を別途どこかに所有しようとしても不可能であった。ここまで徹底的に管理されているロムリアにおいて、少しでも個人資産を増やしたいと考える人はおり、そう言った人達向けに金融機関が独自の金融商品を販売しているという。この点は地球の金融システムと全く同じであった。
こういった説明を玲はエンペラールから受けるのだが、街中を歩いても全く人を見かけないため、「あれ?今日は金融機関とか休みなんですか?」と玲は思わずエンペラールにそう尋ねた。だが休みではなく、働く人達は皆転移で職場に向かうため、わざわざ通り歩いて移動する、と言うことは無い。そう言われると確かにそうなんだな、と玲は思うのだが、やはり人が居ない街というのは寂しさが漂う。ゴーストタウンだ、と言われたらつい納得してしまいそうであった。
財政区域の観光と言うか、実際は見て周る所が無かったのだが、その後、玲とエンペラールは経済に関する区域を見て周ることにした。ここはロムリアの経済活動全てを統括するところである。だがこの区域を観光する場合、財政区域と同様、見て周る所が実は少ない。ただしこの区域の場合、ここは企業の本社が集中するのだが、そこに関係者以外の一般人が立ち入ることは基本出来ないのだ。ではこの区域で何が行われているかと言うと、ロムリアでは工業生産も行われているし、普通に商業活動も行われている。そして経営者もいれば労働者もいる。こと商業活動に関しては、地球もサモナルドも全く変わらない。ただ地球と異なる点が2つある。1つは、ロムリアでは他国との貿易が無いことである。地球の場合は様々な種類の通貨があり、国と国との貿易では関税があったり、輸出入量を調整するなどが発生するが、サモナルドでは通貨は1種類だけであり、貿易相手がいないため関税も輸出入量の調整も起きない。そしてもう1つの相違点は、株式会社制度である。実はロムリアでは株式会社と言う概念はない。だが企業が多額の資金を調達する場合どうするかと言うと、地球で言うところのクラウドファンディングみたいなことが行われる。要するに一般市民からの直接投資である。これは全てのロムリア人が情報端末を持つことで可能となったとも言える。ロムリア人は、儲かりそうな企業や、将来有望な企業を見つけてはそこに投資する。それが企業における原資となる。このようなシステムが百年以上も続いている、と言うことで地球の株式会社制度と歴史的には似たような感じであろう。
そしてこの日最後に向かったのは、エネルギー関連の区域である。実はロムリアではロムリアの地下深くに設置されている熱核融合炉からエネルギーを得ている。そしてこの熱核融合炉の運営と管理を担うのがエネルギー担当の大臣であった。ロムリアに暮らす数億人の人々の毎日使用する電気や熱エネルギーは、全て熱核融合炉から作られている。そして今の所、この熱核融合炉は3基設置されており、そのうち2基は必ず稼働している。残りの1基はメンテナンスを受けており、これらがローテーションして運用されている。なお、玲とエンペラールが観光できるのは、現在メンテナンス中の熱核融合炉である。今2人は、他の観光客と一緒に、巨大な炉の中にいる。銀色に光り輝く炉は、玲の知るステンレスかと思ったのだが、エンペラールの説明ではどうやら全く違うらしく、恐らく地球にはない合金で作られているようなのだ。玲は、地球で今現在核融合の研究が進められていることを知っているが、ロムリアは遥か先を進んでいることを、この炉を見て肌で感じ取った。ただ玲の知識では、核融合は放射線を出さないクリーンなエネルギー源として期待されているが、今現在地球で主力の原子炉、あれが暴走したりすると危険であることは良く知られている。そしてもしこの熱核融合炉が暴走したら果たしてどうなるのか?その疑問を玲はエンペラールにぶつけてみた。だがエンペラールは「うーん、分かんないわねー」と肩を竦めてそう答えた。尤も、ロムリアの地下に設置しても大丈夫と判断してるくらいだから、多分大丈夫なのかな、と自分で結論を見出したのだが。
玲とエンペラールが地上に出た時、2つの太陽は既に西の空に沈んでおり、空には夕日の残照による綺麗なグラデーションが描かれていた。
「あらー、もうこんな時間なのね。
じゃあ戻りますか?」
と言うことで玲とエンペラールは、セラスティナの待つエンペラールの屋敷に転移して行った。