召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記: 9日目 (前編)
最神玲がロムリアに滞在してから9日目になった。今日の予定は、午前中は完全にフリーである。そして午後から観光の続きをエンペラールとセラスティナと3人ですることになった。本当は今日の午後は玲とセラスティナだけで観光をする予定だったのだが、エンペラールが仕事をしたくないと再び駄々をねたため、結局3人で観光することとなった。ただしエンペラールが本来すべき仕事は、今日の午前中にセラスティナと2人でやり終えないといけなくなった。そのため、フリーとなった玲は午前中にアーティファクトの仕上げと、もし時間があれば古代の召喚術の研究をする予定である。とにかく、玲と言うか中身のカーンフェルトは、暇さえあれば召喚術の研究しかしないのだった。
さて、セラスティナが強引にエンペラールを伴って召喚術師管理センターに転移した後、残った玲はセラスティナの工房に向かった。玲は時間を見つけてはここの工房で作業を行っており、最近少しずつだが成果が表れてきた。最初に作った召喚エネルギー測定器に関しては、ほぼ対称形を維持して水晶を加工できるまでになっていた。そして今は、通信機能を持つカフリングの作成中である。このカフリング、中に薄く削った水晶と金属片を重ねた構造である。構造自体は単純だが、その重ね合わせのパターンや重ねる時の水晶の状態が非常に重要である。そして耳に近い部分には水晶振動子として機能する加工された水晶を設置することで、それが振動して音に変換されるし、逆に声を召喚エネルギーに変換するらしいのだ。
ところでセラスティナは、空き時間を見ながら一組のカフリングを既に作成していた。そして玲に対し、召喚エネルギーを多く注入するように依頼して来た。丁度あの時に試したことを再現したのだ。そして少し遠く離れた地点にセラスティナが転移して玲とカフリングで交信すると、確かに性能以上の効果が得られたことを確認した。そこでそのカフリングを早速工房で分解して調査したのだが、セラスティナがカフリングから中身を取り出した途端、難しい顔をして黙り込んでしまった。一体何があったのか?実は本来は非常に細い水晶と触媒的な働きをする金属板が隙間なく敷き詰められているのだが、玲が召喚エネルギーを多く注入した結果、それらがくっ付いて一体化していたのだ。セラスティナの常識では触媒として使われる金と水晶が一体化することは絶対有り得ない。これは地球の物理でもそうである。ところが玲が召喚エネルギーを多く注入した結果、それらの境界が曖昧になり、一体化したかのような状況になっていたのだった。丁度色とりどりの粘土が混ざりつつある状況とでも言おうか。もしこれが召喚エネルギーの影響だとしたら、こうすることで今後開発されるアーティファクトの性能が飛躍的に向上することは間違いない。あるいはまったく新しいアーティファクトの開発も可能となる。セラスティナは、玲が召喚術では変態的な能力を発揮することを多く目にしていたが、まさかアーティファクトに対しても実は同じことをしていたのかと考えた途端、彼に対する畏怖と言うか彼を崇める気持ちが強くなってくるのを感じた。神と言う存在を信じないセラスティナでさえ、最神玲は召喚術の神ではないだろうかと思うに至っていた。
なお、後日談だが、玲が地球に帰還後、セラスティナはカフリングを再び作成し、そこに自分の召喚エネルギーを多く注入してみた。そして中身を確認した所、一体化するような状況が見られなかった。あれ?召喚エネルギーが足りないのかな?と思い、念のためエンペラールにお願いして召喚エネルギーを多く注入してもらった。すると、「えー!何で?」と絶叫した。エンペラールが召喚エネルギーを注入したカフリングは、玲の時と同様、水晶と金属板が一体化していたのだ。まさか、ある程度の召喚エネルギー量が無いと一体化しないのか?自分では力不足なのか?と考えた途端、少し、いやかなりショックを受けてその場で倒れそうになった。セラスティナは、自分もそこそこ召喚エネルギーは多いと自負していたが、このカフリングはそんな自分をあざ笑っているように感じたのだった。
さて、そんな遥か先のセラスティナの心情を知ることもなく、玲は黙々とカフリングの制作に励んでいた。とにかく、カフリングは如何に水晶と触媒の金属板を細く、かつ正確に加工できるかで性能が決まると言って良いだろう。玲は慎重に一つずつ水晶を削っていき、それをカフリングの本体に敷き詰める作業を黙々と行っている。そして午前中をかけて漸く片方のカフリングだけは何とか出来上がった。そこでセラスティナに教えてもらった測定器を使って性能評価を試みたが、 ん?あれ?何も反応しないぞ?もしかして片方だけでは駄目なのか? と思い念のため測定器の側面を調べると、「くそー!!」と悪態をつく玲であった。単にスイッチが入ってなかったのだ。改めてスイッチを入れて調べると、「おー!!」と玲が驚きの声を上げた。測定器は性能に問題ないと表示していたからだ。ちゃんと丁寧に仕上げれば、不器用な玲であってもやれば出来た、と言うことが示されたのだった。
午後からは、昨日見られなかった残りの地区の観光に向かうことになっていた。そして今日は、昨日一緒に周ったエンペラールだけでなく、セラスティナも同行するという。3人がこれら向かう所は、科学技術地区、インフラ関連地区、内政地区、教育文化地区、衛生管理地区、そして治安関係地区である。そして最初に3人が向かったのはインフラ関連地区であった。
ロムリアのインフラ全般を管理・運営する役所が集まるこの区域は、ライフラインとも呼べる上水道の管理は勿論、下水道や送電線、あるいは通信関連施設の維持管理を行っている。エンペラールやセラスティナが使っている情報端末で使用されるメインサーバーはこの区域内のどこかの地下にあり、そこで維持管理が行われている。それとロムリア市民の住居の管理も実はここで行われているという。そもそも住居を扱う、イコール土地と建物が絡んでくると思われるが、ロムリアは基本的に個人が土地を持つことは認められていない。理由は簡単で直径千キロに満たない円型の都市に数億人が暮らしているため、各自の土地所有を認めると、住む人が限られてしまうためである。そのため、ロムリア市民はマンションのような共同住宅へ入居する権利を買うか借りることだけが許されているのだが、その入居すべき建物は、ここインフラ区域でその建築計画から施工まで全て行われる。勿論建築する場所はロムリア全土が対象となる。そうすると、エンペラールが暮らしているあの豪邸は一体どういうことなのか?と言う疑問が出てくる。玲もてっきり個人で土地と建物を所有できると考えていたが、ここのインフラ施設に関係する資料館での説明からすると、エンペラールの私邸は明らかに違法にならないか?そこで本人に尋ねるのは失礼かと思い、セラスティナにそれとなく聞いてみた。すると、
「あぁー、あそこはね、
ある意味公邸みたいなものなのよねー」
ほら、地球でも大統領公邸とかってあるじゃない、あれと一緒よ、と言うことのようだ。それでも、やはりあの屋敷は凄く広いのだが、セラスティナの更なる説明では、元々あの屋敷は代々の召喚術師を束ねる大臣が住んできたという。ただしその始まりはと言うと、ロムリアの建国時にまでる。当然その頃は個人の土地所有も認められており、更に初代の召喚術の担当大臣の功績により、あの土地と建物をロムリア国王から賜ったというのだ。すると、
「じゃあ、あの屋敷は千年前から建っている、
と言うことなんですか?」
と素朴な疑問をセラスティナにぶつけた。だが、
「まさか、そんなことは無いわよ、レイ君。
ただ昔の面影を残すところは
あったりするけどね」
であった。とにかく、エンペラールの私邸はある意味例外であることを知ったのだった。
次に3人は、教育文化地区に向かった。ここはその名の通り、ロムリアにおける教育行政と文化財保護などを行う行政機関が集まった区域である。ロムリアの教育システムは少し、いやかなり変わっているようで、まず学校には子供からお年寄りまで誰でも通うことが出来る。ただし、成人以上のロムリア市民は、大学に相当する高等教育機関のみが対象となるが、地球の大学のように色々な学部が混ざっていたりはしない。どちらかと言うと、単科大学あるいは専門学校と言うべきだろう。例えば仕事で必要なスキルを身に着けたいと言う場合、その専門の教育機関に入り、そこで授業を受けて資格を得ることが出来る。ちなみにロムリアの労働時間は、平均5時間程度である。ただし、休日はなく、休む場合は届ける必要があるのだとか。そして、それ以外の時間は各自自由に使えるため、その時間で専門の教育機関で勉強に励むのである。そして学費は、月の収入の数%程度であるため、個人の費用負担は小さく、気軽に専門職のスキルを身に着けることができる。
一方子供たちについては、下は3歳から上は17歳までが対象となる学校が各地に多く存在するそうだ。学費は無料だが、こちらは義務教育ではないらしい。それと、特殊な学校があり、特に有名なのは召喚術師の養成学校である。要するにその道の専門家を育成する学校である。これは、玲ことカーンフェルトもケンタリアにいた頃通っていたのでよく知っているのだが、それとほぼ同じ教育システムだという。これを聞いた玲は、
「まさか、自分が居たケンタリアの時代から
遡ること千年も前に、
召喚術師の養成学校と言うものは
変わらず存在していたんだな」
と昔を思い出して少しだけ複雑な表情になりながらも、何やら感慨深げにそう呟いた。
そしてこの地区のもう一つの重要な役割を担うのが文化財の保護である。玲達3人は、文化財保護センターに来ており、そこで係員からの説明を受けている。ロムリアの歴史は千年近くあるため、ロムリア創建当初の遺跡や遺物の保護がまず優先されているということだ。それ以外に、もっと古い時代の遺跡調査や資料の収集も行われるが、例えば目下の所、玲達の関心が特に強い召喚術創成期の遺跡は、実はまだ見つかっていない。遺物と言うか古代の召喚術に関して書かれた資料は、つい最近玲達が見つけた王宮内の書庫にある分だけであるという。もし召喚術創成期の遺物や資料が新たに発見された場合、それはロムリアにおける超一級の資料になることは確実だそうだ。
「でも、殆どの地域の探索は
終わっているんですよね?」
と玲は係員に尋ねた。すると
「いいえ、まだロムリアの裏側の探索は
殆どできてませんね」
要するに、ロムリアの丁度真裏の世界である。実はカーンの居たケンタリア時代は、ケンタリアの裏側の地域に何があるかよく分かっていなかった。ただ、火山活動が活発だという情報は、そこを訪れたトレジャーハンターから伝えられていた。そして人が住める環境ではないらしく、そのため探索が殆どされてないという。それは今このロムリアでも同じような状況だそうだ。これに関してエンペラールが
「多分、セラちゃんの知識と合わせると、
ロムリア一帯はかなり古く
安定した陸地なのに対し、
サモナルドの裏側は
新しい陸地なんだそうよ」
ねえ、セラちゃん?とセラスティナに確認するが、セラスティナは
「地球でも新しい陸地の所は
火山や地震が多いもんね。
レイ君の住む日本なんかは
まさにそうだよね?」
はい、そんな感じですね、と玲は答えたが、まあ、何れにしても明日はそこに行くことにしていたので、その時にじっくりと調査をすることにしよう、と玲は心に留めた。
ところで、教育文化地区と言うからには、あの施設は不可欠だよな、と玲は思った。だがどうやらそこに向かうことは無いようだ。あれ?と疑問に感じた玲がセラスティナに尋ねると、
「えっ?ロムリアに図書館はないよ」
と言う素っ気ない返事が返って来た。えっ?昔の資料とかを保存しないとダメでは?と感じたのだが、実は大事な資料は全て王宮の書庫に保管されるということだ。そしてそう言った資料をデジタル化したものが一般に公開されているという。ただしロムリアの創成期以降に限定されるようだが。そしてデジタル化した資料は全て情報端末から閲覧できるということのようだ。何だろう、一見便利なように感じるが、玲としては紙の本のページをる動作がやはり欲しいと感じる。そして古い本特有の独特の匂い、玲と言うかカーンは結構あれが好きだったりした。そしてケンタリアにいた頃は、当然紙があるし、あるいは地球の羊皮紙のような獣の皮を薄く伸ばして乾燥させた紙もあったから、余計に紙の本への拘りが強いのかもしれない。ただロムリア市民からすると、特に紙の本に触れないことに抵抗はないんだそうだ。恐らく生まれた時から紙の本に親しみが無ければそうなるのかな、と玲は少し寂しさを感じたのだった。