召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記のその後2
翌朝、最神玲は午前6時の何時もの時間に起床した。今日から神社の仕事の再開である。2週間以上仕事をしていなかったものの、まあ、神社の仕事自体複雑な事は何もない。そのため、朝食を済ませた玲と物部かすみは午前8時になったところで2人で一緒に社務所に向かい、社務所の受付前の雨戸を開けてそのまま室内に入った。そしてエアコンのスイッチを入れて、何時もの場所に座った。今日も猛暑日になると天気予報は伝えていたが、こんな日にも朝早くから参拝客が来ることに正直驚くのだった。いや、むしろ、朝早い方がまだ少しだけ暑さを感じない分ましなのかもしれない。
さて、玲の地球での日常が戻り、終了時間の午後5時を迎えた所で、社務所の戸締りをして自宅に向かった。今週の料理番は玲が務めることになっているので、玲は荷物を自室に置いてから早速買い物に出掛けた。何時もの差間見町商店街にて食材を買い込む。時折商店街を吹き抜ける生暖かい風に辟易しながら買い物を続け、何とか今日の分の食材を買い込んだところで自転車を漕いで自宅に戻って来た。何時もは転移で戻って来るのだが、久しぶりの日本の夏を感じたいから、と言うただそれだけの理由で玲は自転車に乗って買い物に来ていたのだが、「うーん、やっぱり明日からは転移にしよう」と後悔したのだった。
今日の夕飯は商店街の魚屋で購入した刺身の盛り合わせと豆腐とわかめのみそ汁にご飯、後は野菜不足を補うための夏野菜サラダをテーブルに並べ、早速玲とかすみの食事タイムとなった。そして玲は、話のネタとして、ロムリアにおける海鮮料理についてかすみに説明していた。
「ロムリアでは、残念ながら
魚を生で食べる習慣は無くてね」
折角新鮮な魚介類を転移で直ぐに届けられるから、絶対生で食べると美味しいと思うんだ、と言う感想を玲は口にした。それに対しかすみは、
「まあ、そやねんけどな、
結局あの生臭さを
何とかせんとあかんやんか」
「うん、確かにこっちには
があるし醤油もあるから、
それで何とか食べられるけどね」
向こうはそう言うのが無いから、何かもったいない気がするんだよな、と玲は感想を伝えた。その代り、煮込み料理や焼き料理があるから、それで美味しく食べられることも伝えておいた。
食事が終わって後片付けを済ませた玲は、そのまま自室に向かった。そして自分のノートパソコンを立ち上げて、動画編集作業の続きを行うことにしていた。その前に、溜まったメールを少し整理しようとメールソフトを立ち上げて内容を確認していた所、何やら怪しげな日本語の件名が目に留まった。そこには
[ごぶさたしてるす]
と書かれていた。[ごぶさたしてます]ではなく[ごぶさたしてるす]である。何だろう、最近のジャンクメールは、外国人の書いた日本語のメールもAIを使って精度を上げているというニュースを見たのを覚えていたが、この件名は真逆である。となると、AIにより仕上げられたジャンクメールではないのかな、と不思議に感じたので、早速そのメールを読んでみることにした。
[ごぶさたしてるす こんにちは
わたしのなまえは らはに・えらんです
きょねん あめりかでいっしょにしごとしたです
おぼえてるですか
わたしは れいさんのしじで
にほんごべんきょうしましまた
はなすのときくのは なんとかだいじょうぶ
かくのはまだにがてだ
れいさんのところで しょうかんべんきょうしたい
れんらくまてます]
全てひらがなで書かれていたが、内容は大体把握できた。そして玲は、「あっ、あの時の人か!!」と思い出したのだった。そこでかすみの部屋に向かい、「かすみ、ちょっと来てくれない」とノックをしながらかすみに伝えた。かすみは怪訝な表情をしながら扉を開けて「何なん、玲、今忙しいねんけど」とぶつぶつ文句を言いながらも玲について玲の部屋に向かった。そして玲からパソコンの画面を見せられたかすみも、直ぐに
「あー、あん時の人か!!」
と思い出したようだ。
「うん、エラン中尉だったったけ。
丁度あれから1年だもんね。
召喚術を勉強したいからと言うことで、
彼女が日本語を真面目に
勉強していたみたいだよ」
十中八九そこにはアメリカ軍の思惑があるのは分かっているが、当時の彼女の熱意は、それとは関係なく、純粋に召喚術を学びたいという意欲が感じられた。そのため、玲は日本語習得と言う条件を付けて許可したのだった。そしてエラン中尉はその約束通り、日本語を何とか習得したということだ。
「そうすると、
何時こちらに向かえるかだけど、
とりあえず向こうの要望を
聞いておこうか?」
と玲はかすみに相談した。かすみには特に異存はなく、「それでええんちゃう」とだけ答えた。ただ一つだけ気になることがあるようで、
「なあ、玲。エラン中尉って、
誰の下で修業するん?」
「そうだねー、僕としては
神室さんと同じ位置づけを考えているから、
かすみの下で修業が良いと思うけど、
かすみどう?」
「せなや~、確かに玲の下やと、
霊華さんぐれるかも知れへんしな~」
とかすみは神室霊華のことを心配し出す。無用な波風を立てないためにも、ここはかすみが一肌脱ぐことになり、
「しゃあないな、うちの所で面倒見たるわ」
と言うことで、玲は早速エラン中尉に、こちらに何時来れるかを尋ねるメールを出した。
時差の関係で返事が来るまで暫し待つことになるので、玲はかすみに有難うと礼を言って部屋に戻し、自分はそのままサモパラのホームページを立ち上げた。「うわー、返事が沢山きてるな」と玲が驚くように、会員専用の書き込み欄には無事の帰還を喜ぶ残留組からのお祝いのメッセージで溢れていた。そして現在のロムリアの社長であるエレナ・ニールバウムからは、タチアナの別荘に集まってパーティーをしながら報告を聞いたらどうか、と言う提案が出されていた。玲としては、その時に各自にプレゼントを渡してもいいかなと思い、早速了解したことを伝えておいた。ただし、編集作業がまだなので、今月末の週末なら大丈夫かも、と言うことも併せて連絡しておいた。後は、動画の編集作業である。
ロムリアで撮影した動画は、延べ数十時間はあった。そのうち見せて良い動画と絶対見せられない動画にまず分類することにした。絶対見せられない、NG動画は、チーターことヴェレニエラが関係する動画である。勿論王宮で行われた晩餐会もそこに含めた。なぜそこに招待されたかの理由を聞かれたら困るから、と言うのがNG動画に含めた理由だが、普通に一般の参加者であれば全く問題はない。ところが玲は主賓である。そうすると絶対のその理由を知りたくなるのは目に見えていた。そしてNG動画には召喚術に関する内容、特に古代の召喚術に関しても非公開にする心算である。後は古代遺跡発見についてだが、こちらは保留とした。それ以外の動画、例えば街中の散策や各大臣が治める地区の観光などはそのまま使うことにし、後は2日目に行われた帰還組による歓迎会と、ランチなどでお邪魔した帰還組の店の紹介は、勿論OKとしている。そんな感じでまとめてみると、公開可能動画はそれでも20時間程の長さがあるため、ここから更に編集して、出来れば1時間、長くても2時間程にまとめたいと考えている。上映時間が2時間であれば、普通に映画館で映画を見る感覚と同じなので、見ている方も飽きないと思われた。流石に今日はそれを纏めるには時間が足りないため、明日以降に作業を進めることにした。
翌日から時間を見つけて玲は編集作業を続けた。そんな時、エラン中尉からメールの返信があり、9月からお邪魔して良いか?、と言う問い合わせを受けた。こちらとしては特に問題はないため、OKの返事を伝えた。そして動画の編集だが、以外に早くその週末には公開可能な動画を何とか2時間で納めるまでに編集し終えた。後は再度中身をチェックして、公開できない部分が混ざってないかを確認した。これで次の週末に行われる残留組による慰労会に、この動画を公開することが出来る目途がついたのだった。
“後は、あの人用の動画だな”
と玲が心の中でそう呟くのは、チーター用の動画である。勿論彼女に渡す分のUSBには、父親でありロムリアの国王であるロメロ5世のメッセージ動画を収めている。後は、ロムリアの様子を収めた2時間の動画もそこに含めている。ただし、国王主催の晩餐会の動画は含めていない。玲としてはそれを含めるべきか否か、それを悩んでいたのだ。含めた場合、チーターことヴェレニエラを次の国王に推挙するという宣言が含まれており、これにより彼女がどう反応するか分からない。尤も、玲が持っていくあの短剣と思われる包みは、エンペラールとセラスティナの暗黙の説明によると、後継者のみが持つことを許されている品らしいので、それで判断できるとなれば見せても問題ない気もするのだった。だが最終的には玲はそれを含めないことにした。そしてチーターには、早速家族からメッセージを預かっているので何時そちらに持っていけばいいのかの予定を伺った。その結果次の火曜日の正午にロンドンの自宅で待ってますと言う返事を貰ったので、玲は火曜日の午後8時に向こうに転移すれば問題ないと判断し了承した。
さて、火曜日の夕方になり、かすみは今週の料理番のため先に引き上げ、玲は定時になった時点で社務所の戸締りをしてから自宅に戻った。そして自室にて、今日これからチーターに届ける品物を確認した。その後かすみの料理を堪能し、暫く自室にてメールのチェックをして時間を潰した。その後午後8時になった時、玲は贈り物を収めた何時もの鞄を肩にかけて部屋を出て、一度かすみの部屋の前で立ち止まり、「じゃあこれから荷物を届けに行ってくるね」と声を掛けてからそのまま転移して行った。玲が転移した場所はチーターの住むアパートメントの玄関前である。こんな所に直接転移して問題ないか?と思われるが、その部屋を映す防犯カメラは機能を一時的に停止させているという。そう言う芸当が簡単にできてしまうのがチーターなのである。そのため玲も安心してここに転移して来れたのであった。
玄関前でブザーを押して待つと直ぐにドアが開いた。そこにはチーターことヴェレニエラが立っており、玲を快く迎え入れてくれた。
「チーターさん、お邪魔しますね」
と玲は断りながら部屋に入った。なお、玲は、彼女の本名ではなく何時もの「チーター」で呼びかけたが、これは”あなたが何者であっても、自分の中ではチーターのままですよ”と言う彼なりの配慮である。そんな玲の心遣いを感じ取ったヴェレニエラは、
「これからランチにするんですが
玲さんも如何ですか?」
と玲に食事を勧めた。だが玲は
「すいません、チーターさん、
僕の所では夕飯を済ませた
ばかりなんですよ」
と頭をかきながらチーターに謝罪をした。ヴェレニエラは笑顔になりながら、
「あらー、それは残念でした。
でも時差を考えるとそうなりますものね」
と納得してくれたのだった。そして早速玲は肩にかけている鞄の中から預かっている品物をヴェレニエラに渡した。案の定、玲が手渡した品物を見た途端、強張った表情になったヴェレニエラは何かを悟ったのか、じっとそれを見つめ続けた。そして
「玲さん、こちらのUSBは
確かに頂戴しました。
でもそちらの品物は...」
私受け取れません、と視線を下に向けつつそうきっぱりと口にした。彼女の表情は読み取れないが、恐らくはそこには父であり国王であるロメロ5世への恨みか、あるいはこれを持つことの責任の重さに耐えることへの恐怖心があったようだ。そんなチーターに対し玲は落ち着いた表情で
「チーターさん、僕はあなたが
何者かについて詮索する気はありません。
ただですね...」
あなたが一番考えなくてなはならないことは、あなたのお子様達のことだと思います、と自分の考えをヴェレニエラ伝えた。すると玲のその言葉の意味を悟ったヴェレニエラは、はっとした表情を玲に向け、そして
「有難うございます、玲さん。
あなたの仰る通りです。
私にはあの子たちが全てなのです」
丁度奥の部屋から、何かで遊んでいるのか、あるいはテレビを見て興奮しているのか分からないが子供たちの歓声がここまで聞こえてきた。
「そうですよ、チーターさん。
あなたは先ず子供たちのことを考えて
判断すべきだと僕は思います」
「あっ、すいません、勝手な事を言ってしまいました」とまたもや頭をかきながらヴェレニエラに謝罪する玲である。だがヴェレニエラはそんなこと気にすることもなく、逆に玲の心遣いに感動したのか、
「本当に玲さんって、不思議な方ですね。
でも、玲さんの心遣いはとっても
心に沁みるものがあります。
私はあの子たちを守る義務があるんですよね」
と漸くあの笑顔で微笑みながら玲にそう伝えた。
「チーターさん。
もしこれが手元にあることで
苦痛を生じるのであれば、
暫くは僕が預かりますよ。
ただですね...」
来年にはエンペラールさんとセラスティナさんを地球に召喚する約束をしてますので、その時には何かしらの返事をして頂く必要があります、ということは伝えておいた。するとセラスティナはともかく、エンペラールまでも召喚されることに驚いたようで
「エンペラール師まで召喚されるんですね。
余程玲さんはあの方に気に
入られたようですね」
と何やら意味深な言葉を投げかけられた。玲がその意味を尋ねた所、エンペラールは殆どと言うか全く他人と関わることをしない人らしいのだ。とにかく召喚術を極めることに夢中だという。その話を聞いた時、「あれ、殆ど僕じゃないの?」と自分と勘違いしそうになった。勿論この情報はヴェレニエラが転移する前の話であり、今は違うかもと言う前置きはあるのだが。そしてそのエンペラールが心を許せる唯一の相手は愛弟子であるセラスティナだけであったらしい。だがそのセラスティナも地球に転移したため、その後どのような心境の変化があったのかは想像できないが、どうやらかなり丸くなったのではないかと言うのがヴェレニエラの評価である。勿論玲はそんなこと知る由もなく、ただ、
「うーん、僕が会ったエンペラールさんは、
とにかく好奇心が旺盛な方、
と言う印象が強いですね」
とにかく地球の科学や技術、そして食には大いに興味があり、ずっと僕に質問していたこともありましたからね、と玲は半ばボヤキに近いことを言い出した。
「あ、あと、仕事するのが
嫌だからと言うことで、
殆どタチアナさんに
丸投げしてましたよ」
タチアナさんも頭抱えて悩んでましたね、と笑いながらそんな話をチーターに語った。こんな何気ない会話でもチーターには心の安らぎをもたらしたようで、
「玲さん、やはりそれは、
私が預かることにします」
と言い出した。玲は「無理しないで下さいね」と言いつつ、チーターは「大丈夫です」と言うことでチーターはそれを玲から受け取った。玲としてはこれでミッション完了となったので、
「では僕はこれで戻りますね」
と言って部屋を出ようとした時、「あっ、玲さん、ちょっと待ってください」と言って、チーターは奥の部屋に消えて行った。そして直ぐに戻って来て、
「これ、玲さんが以前
私に調査を依頼した件の結果です。
残念ながら細かいことまでは
分かりませんが...」
どうやらフランス語が部分的に混ざっていたので、間違いなく作られたのはフランス国内かと思います、と言うことを伝えた。玲は
「あっ、有難うございます。
これで少し前進した感じがします」
とチーターにお礼を言ってそのデータの入ったUSBを受け取った。そして玲は、チーターの住まいを後にして、そのまま日本に転移で戻って行った。