召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ロムリア探訪記のその後3
最神玲がロムリアから帰還して2週間近く経った8月末の週末。この日までの玲はとにかく忙しい日々を送っていた。先ずチーターから受け取ったUSBに入っていたデータの検証である。悪霊を召喚する術式を作り出すアプリ、そのアプリが何処で作られたのか?玲はそれを知りたかった。そして可能であればその場所を特定し、制裁を加えたいと思っている。玲がそこまでする必要が本来は無いのだが、やはり何の罪もない人達の命を奪ってまで何かしたいということが全く理解できないから、と言うのが動機となるだろう。そしてどうやらそれが作られたのがフランス国内ではないかと言うことが分かったのだ。あるいはフランス人が関わっているのかもしれない。
これに関連して、昨年末、玲と物部かすみの活躍で解散に追い込まれたサモネル教団の東京支部には、サモネル教団本部への転移門が存在した。そして、その転移門を使って送られた先は、フランス国内のある地方にある農家の納屋であった。それらを総合すると、サモネル教団がフランスと何かしら関係を持つことは誰にでも分かることであった。だがそこから先へ進むにはまだ何かしらのピースが必要であることを玲は感じている。そのため、アプリとサモネル教団が何となく繋がりそうという程度で今は様子を見ることにした。
それよりも、今週末は地球に残るロムリアからの転移者へ故郷からのメッセージを届ける大事なイベントが控えていた。既に玲は、故郷のロムリアに住む彼らの家族や友人から託されたプレゼントと、その時に収録したメッセージを収めたUSBをリュックサックに入れており、何時でも現地に向かう手筈を整えていた。ちなみに、ロムリアの現社長であるエレナ・ニールバウムからの連絡で、フランスにあるタチアナの別荘において、現地時間の土曜日の正午から始めましょう、と言う案内が送られて来た。一刻も早く家族や知人からのメッセージに目を通したいという期待がひしひしと伝わって来る。ただし、時間的には日本では午後7時となるため、玲はかすみに、今週土曜日の晩は向こうで食事をする旨伝えてあり、かすみも「しゃあないな。うちはどこかで豪華なディナーでも楽しむわ」などときながら玲を見送ることにした。そして当日の午後7時少し前に玲はかすみの部屋にやって来て、「じゃあ行くね」と言いながら転移して行った。
8月末とは言え、まだまだ真夏の太陽が照り付けるフランス中西部だが、日本と違い猛暑日になることはないようだ。そして今日もフランスは快晴である。何かしらお祝い事というかパーティーをするにはこういう天気の方が気分が乗るようで、玲が転移で到着した途端、既に会場に来ていた地球残留組からは拍手で迎えられた。玲もいきなりの拍手での出迎えに一瞬面食らうも、直ぐに照れた表情になりながら指定された場所に案内された。そしてエレナの司会で慰労会が始まった。
エレナが用意したケータリングサービスを使って用意した料理を転移でこちらに持ち込み、それを味わいながら玲がまずは初めてロムリアを訪れた時の感想を伝えた。その後、いよいよ各自へのプレゼントの引き渡しである。玲が1人ずつ名前を読み上げて、預かって来たプレゼントと共にUSBを渡した。受け取った者達の中には、そのプレゼントに見覚えがあったりすると、途端に懐かしさから目に涙を浮かべて泣き出す者達が出てきた。そして各自ノートパソコンを持ってきているので、早速動画の確認をし始めたりするのだが、エレナが
「みなさーん。確認は少しだけにしてくださいね!
この後はレイさんが撮影したロムリアの様子を
収めた動画を皆で鑑賞しますよー」
と騒々しい会場に大声でそう伝えるが、果たして彼らにその声が届いたかどうかは分からない。仕方ないと首を振りながら、「レイさん、始めましょうか?」と言うエレナからの合図で、玲は会場に用意した大画面テレビに早速編集した動画を流し始めた。そして始まった途端、確認作業に没頭していた残留組の人達は、皆一斉にテレビ画面に視線を向けた。
「一応、これから流す映像は、
後日サモパラのホームページに
アップしますので、
またそちらでもご覧ください」
と玲は断りを入れつつ、早速動画の解説を始めた。
今現在のロムリアの様子が映し出された途端、会場からは驚きの声が沸き起こった。彼らは地球に来てから20年程、ロムリアの時間でも10年は経過している。やはり10年前のロムリアと今のロムリアでは、街の雰囲気とか違ったりするようだ。そして2日目の帰還組による歓迎会の模様が映し出されると、途端に「あっ、あいつ何か雰囲気変わったぞ」とか「へー、彼女お洒落になったわね」などと口々に感想を言い合っていた。尤も全員元気に向こうで生活しているのを確認したことで、皆の顔には安堵の表情が浮かんでいた。それから、玲がエンペラールとセラスティナの3人で食事に行く光景などが映し出された時、セラスティナの弟子であるエレナとゲオルグ・エクセルガーは、師匠の元気な様子を見て目に涙を浮かべていた。
「ただですね、タチアナさん、
エンペラールさんに
仕事を押し付けられたりして、
結構へたってた時もありましたね」
とその時の光景を思い浮かべながら玲は懐かしそうに語った。そして、帰還組の何人かが飲食店を経営し始めて、そこに訪れる様子が映し出されると、皆驚きの表情になった。「あっ、あいつ料理できたんだ」とか「うわー、あの料理めっちゃ美味しそう」だとか、とにかくそこかしこから感想がもたらされた。また、ロムリアの郷土料理を紹介する場面になると、「あっ、これ知ってる。凄く美味しいんだよね。また食べたくなってきたよー」とか「おー、あの軍隊飯じゃねーか。そうだ、今度あれ作ってみよう」などと、こちらは懐かしさからか感慨深い表情になっていた。
その後各地区を観光した時の様子が映し出されると、「あっ、ここ、ここ、ここで働いてたのよ」とか「おー、まだあの建物が残ってるんだ。でもあっちは無くなってるなー」などと、それぞれの記憶を頼りに、色々と思い出しては物思いに耽っていた。そして最後は、2つの太陽が地平線に沈む様子が映し出されると、皆何かしら思い出があるようで、その時の光景を思い浮かべながら静かにその様子を見守っていた。そして約2時間に亘る上映会が全員の拍手と共に幕を閉じた。
さて、この後は各自思い思いに過ごすことになったが、そんな時ゲオルグが玲に向かって、
「玲さん、私は実を言うと
エンペラール先生とは
殆ど話をしたことが無くて」
と何やら照れながらそんな話を始めた。「あら、私もそうよ」と隣にいるエレナもそう答えた。その時玲は
”そう言えばチーターさんも言っていたけど、
エンペラールさんって昔は人と関わることを
避けていたらしいもんな”
と言うことをふと思い出した。
「エンペラールさんって
殆ど皆さんと関わることは
無かったのですか?」
と尋ねると、エレナが
「そうですね、エンペラール先生は
大変お忙しい方なので、
殆どの召喚術師は先生と話す機会が
無かったと思います」
と言うことを語った。そして、その後を引き継いだゲラルドが
「幸い私たちの場合は、殆どセラスティナ先生に
付きっ切りだったので、召喚術に関しては、
セラスティナ先生から直接教わることが
出来ました」
その点、玲さんは余程エンペラール先生に気に入られたのでしょうね、羨ましいですよ、と口にした。玲は
「はい、それは大変光栄だと自分でも思います。
何しろ僕の居た千年後のサモナルドでも
エンペラールさんとセラスティナさんは
その名前が語り継がれてましたからね」
そんな偉人に会えるなんて、今でも夢を見ているようですよ、と照れながらそう話した。そしてエレナとゲラルドに対し、
「来年の8月に、約束通りタチアナさんを
こちらに呼ぶことになりますが」
実はエンペラールさんも来ることになりました、と言うことを2人に伝えた。すると2人とも驚きの表情になった。そして
「えっ、ま、ま、まさか、
ほ、ほ、本当なんですか?」
「はい、直ぐにでもこちらに
来たそうにしてましたね。
そして召喚した時には、
恐らくお二方に色々と案内して頂く
お手伝いをしてもらうかと思います」
その時は宜しくお願いします、と玲は2人に助力をお願いしたのだ。
「そ、そ、それは大変光栄ですが、何か......」
と途中で言葉を詰まらせたゲラルドは、
「緊張して変になりそうですよ、ははは」
と何とか最後まで言葉にすることは出来たようだ。ただし、彼の顔には確かに極度の緊張感が漂っていたのだが。ちなみにメインは玲が担当するのだが、玲は英語もフランス語も出来ない。そのため、通訳をしてもらうという感じのお願いであった。
さて、地球残留組へのロムリアからのメッセージは無事届け終わったので、玲は日本に戻ることにした。そして残留組の者達は今一度玲にお礼を伝えて、玲は自宅に転移して戻って行った。