召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、新弟子を取る (後編)
その後午後6時になったところで、ヘンドリクソン一行は帰ることになった。勿論、ヘンドリクソンは最神玲と物部かすみを食事に誘うので、玲は差間見町の商店街で良かったらどうでしょうか?と提案した。恐らく日本の田舎町の居酒屋などには絶対行くことは無い方達であるため、「奥様への話のネタにでもどうぞ」と言って彼らは差間見町商店街にある居酒屋に向かった。まさか店の方では、世界最強の軍隊を統括する人物がここで酒を飲んでいるとは想像できないだろう。
2時間程であるが日本の酒と肴を堪能し、日本の居酒屋の賑わいを満喫したところで、彼らは店を出た。そしてヘンドリクソンが
「モカミさん、モノベさん、
エラン中尉を宜しくお願いします」
と言いながら玲とかすみと握手を交わし、エラン中尉はヘンドリクソンに向かい敬礼を返した。そしてヘンドリクソン一行は、そのまま米軍基地に戻っていった。
美土路神社の自宅に到着した3人は、先ずエラン中尉を真ん中の空き部屋に案内した。
「この部屋は誰も使ってへんから、
自由にしてええねんで」
とかすみが言うのだが、どうやらかすみの日本語がよく分からいようで、不思議そうな表情をしていた。
「かすみ、多分かすみの言葉が
分からないんだよ。
かなり癖のある言葉だもんな」
と玲が指摘したことで、かすみも漸く合点がいったようだ。かすみは、玲との付き合いが長いことから、最近は大阪弁で喋る習慣がついてしまい、ついつい、何時もの癖で喋りかけたのだった。
「あっちゃー、ゴメンね、エランさん」
とかすみは両手を合わせて謝罪した。すると、
「ダイジョウブデスヨ、モノベサン。
ソレトワタシノコトハ、ラハニト
ヨンデクダサイ」
と言うことで玲とかすみは「じゃあ僕らは、玲とかすみで良いですよ」とお互いにファーストネームで呼び合うこととした。
「それとね、ラハニさん、
実は召喚術師の仲間が
もう一人居るんだけど」
と玲は、東京に居る神室霊華のことを話した。すると、
「アッ、シッテマス!
ニホンノユウメイナレイノウリョクシャデスネ。
ソノカタモ、ショウカンジュツシデスカ?」
とラハニが尋ねてくるので、かすみが
「召喚術師になってから
まだ1年は経ってないけど、そうやで。
それとな霊華さんは
うちの一番弟子やねん」
それで、ラハニさんは2番弟子となるで、と言うことをかすみはラハニに伝えた。玲も
「ラハニさんは、かすみの所で
修業をしてもらいますね。
神室さんもかすみの下で
修業を続けてますから、
色々アドバイス貰ったりできますよ」
ラハニとしても異存はない。かすみに対し「ヨロシクオネガイシマス」と言って頭を下げた。それに対しかすみは、
「こちらこそよろしくね。それよりも...」
ラハニさんってホンマ日本人らしいよね、と感想を口にした。その後リビングに移動し、ソファーで寛いでいた時、かすみが、
「そう言えば、見た感じも何となく
東洋人みたいやねんけど、
アジア系の方なんですか?」
もし失礼な質問であれば指摘してね、とそんな疑問を口にした。まあかすみの質問も頷けるのだが、ラハニはどちらかと言うと確かに東洋系の顔立ちであり、髪も東洋人の典型的な黒髪である。ただ、二重瞼に彫りが深く鼻が高いのは、西洋人っぽい特徴も持っていたりする。そんなかすみの問い掛けに対しラハニは、
「イイエ、ゼンゼンキニナラナイデス、カスミサン。
ワタシハ、ネイティブアメリカンナンデス」
と答えた。「あー、なるほどね」とかすみは何やら感心して納得しているが、玲は「?」である。そこで小声でかすみに「ネイティブアメリカンって何?」と尋ねた。かすみは怪訝な表情で「はぁ?玲さん、そんなん知らんのか?」と毒づくが玲はうんと頷いた。しゃあないな、と言うことで玲に対し、
「あのな、玲、ネイティブアメリカンと言う人達は、
アメリカ大陸に大昔から住んでいた人達なの」
と説明したが、その時ふと何かを思い出したようだ。
「ねえねえ、ラハニさん。
たしかネイティブアメリカンの文化には、
あれ、何だったっけ...」
とかすみはなかなか思い出せずしてもがき苦しんでいた。「えっと、何とかマン、だったよな...」とぶつぶつと呟いていた時、横から玲が「ん?肉まんか?それともあんまんか?」と訳の分からないことを挟んできたので、かすみは苛々が募っていたことから「アホか、玲。そっちのマンやないわ!」と言いながら手元にマキザッパを召喚して玲をシバキにかかった。この様子を見ていたラハニは驚いた表情になり、早速かすみに対し「ソレハナンデスカ?ドコカラデテキタノデスカ?」と質問をしてきた。そこでかすみは、玲をシバクのを一時中断し(止めたのではなく中断)、
「あっ、これな、マキザッパと言って
新聞紙で出来てる棒やね。
それとこれはね召喚術で召喚した物なんよ」
と答えたのだが、まさか召喚術でこんな物が出せるとは想像していなかったようだ。尤も、召喚術の本質が物を召喚することであるのだが、勿論ラハニはこの段階でその本質は全く分かっていない。一応かすみも「後でラハニさんも出来るようになるけどな」とフォローはしておいた。そして、再びかすみのシバキが再開されるのだが、そのとき
「あっ、思い出した!! シャーマンや!」
「そやそや、やっと思い出したわ」と言って嬉しそうに微笑むかすみだが、玲は「何そのサーモンみたいなのは?」と本気か冗談か分からないボケをかましてきた。かすみも、ついついお笑いの本場育ちから、「なんでシャケがそこにでてくんねんな!」言いながらマキザッパでツッコミと言う名のシバキを入れていた。これでかすみも満足したのか、話を続けて、
「ゴメンね、ラハニさん。
こいつが余計な事言うから、
ややこしくなってんけど」
シャーマンってネイティブアメリカンの文化に確か居たよね、と言うことをかすみはラハニに尋ねた。すると、
「ハイ、シャーマンハ
ネイティブアメリカンニイマス。
タダシ...」
ネイティブアメリカンのシャーマンは、一般的な霊を見たり、霊を自分に憑依させたりするシャーマンとは異なり、むしろ部族を導く指導者としての役割の方が大きいということを玲とかすみに説明した。そして、
「オソラク、モットモユウメイナシャーマンハ、
ジェロニモ、トイウシャーマンデス」
と言うとかすみは「あっ、その名前知ってる!」と口にした。ジェロニモと言う人は、アパッチ族のシャーマンとして有名であり、19世紀中ごろの白人入植者に対する抵抗運動である「アパッチ戦争」に身を投じた人物でもあり、アメリカの西部劇によく登場する人物でもある。まさにネイティブアメリカンにおける英雄であろうか。かすみとしては、シャーマンに対する自分が思っていたイメージとは違うことに驚きを示しつつ、
「うちはてっきり、ネイティブアメリカンの
シャーマンもうちらと同じ
除霊や降霊術に長けた人達なのかと
思ってんけど、少し違うねんな」
と言う感想を漏らした。そして、
「ラハニさんがこれから学ぶ召喚術は、
どちらかと言うと、最初は一般的な
シャーマンに近いことになるんよ」
ただ、自分達は霊体を自分に憑依させることはしない、と言うことは伝えておいた。そして玲に対し、
「玲、何時から始めるん?」
と尋ねたので、玲は「それは、かすみのペースで良いんじゃない」とかすみに伝えた。序に
「かすみも、あの人形はもう出せるから、
問題ないけど...」
と玲は言うのだが、何やら語尾が怪しくなった。ん?何か気になることでもあるんか?とかすみも気が気でなくなるが、玲は一度自分の部屋に行き、再びリビングに戻って来た。そして
「これを渡しておかないと危ないからね」
と言って玲がラハニに渡したのは、召喚エネルギーの測定器である。ただし、タチアナから貰ったものは神室霊華が所持したままである。そして玲が渡したのは、ロムリアで自分が作成した物である。かすみはそれを見て”あれ?確か霊華さんのところにあったはずやねんけどな”と不思議そうな表情になるのだが、玲が「これは僕が作ったものなんだよ」とかすみに伝えた。そして、
「ラハニさん、これから召喚術をする場合は、
この測定器を腰に巻いて行ってください」
これは召喚エネルギーの消費量を測定する装置で、赤くなるとエネルギーが減って危険であることを知らせてくれる、ということを説明した。これで漸くラハニは召喚術の修行に安心して入れるのだった。その後かすみはラハニと一緒にラハニの部屋に向かい、そこでかすみの指導による召喚術訓練が始まった。