召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲も拉致される? (第3幕)
M Mが除霊の依頼を受けた当日、最神玲は午後1時まで神社の仕事に従事した。その後昼休みを取りつつ指定された場所に向かう準備を整えた。本来ならギリギリまで仕事をすることは可能だが、どこで連中が見張っているか分からない状況のため、ここは普通に現地に向かいますを装う必要がいると判断した。そこで美土路神社前にタクシーを呼び、それが到着した時点でタクシーに乗って現地に向かうようにした。本来は除霊費用とは別に交通費を別途請求できるのでタクシーで現地に向かったとしてタクシー代を請求することはできる。だが、恐らく連中は支払う心算が無いと見ている。現に物部かすみとラハニ・エランが降霊術の件で向かった時も、結局降霊術の代金は支払われていない。尤も、かすみは何もしないまま拉致されたので、こちらから請求することは出来ないのだが。それよりも、この落とし前をつけるためにも、それなりの報酬を頂くつもりではある。そして玲は何時もの制服に着替えて午後2時少し前に自宅を出た。
タクシーで1時間弱で到着した所は、富岡町にある一軒の農家であった。確か2年位前にも来たことがあるが、富岡町はとにかく水田が多い。そして今は収穫を待つ金色に輝く稲穂が辺り一面を埋め尽くしていた。そんな田園地帯のど真ん中に問題の農家は存在した。その家の表札を見ると、そこには確かに[伊藤]とあった。そこで呼び鈴を鳴らしてみることにした。暫く待つと玄関引き戸が開かれて、中から年配の女性が現れた。玲は来意を告げると、早速こちらですと案内された。玲がやって来たのは離れにある一室である。そこで霊に憑りつかれた息子をここに隔離していると、その女性は話した。その切羽詰まった表情と言い話し方と言い、普通の霊能力者であれば信用してしまう。玲もこれは本当に除霊案件か?と感じるほどであったが、その部屋の前に来た時に、”あっ、やっぱりね”となっていた。そう、部屋の中から霊体のれの字も感じなかったのだ。となると、あの女性は恐らく雇われた役者か何かだろうな、と玲は想像したりした。とりあえず、玲も霊能力者の役になるべく、真剣な表情でその部屋に入ることにした。
部屋の中には布団が敷かれ、その中に確かに中年の男性が寝ていることは分かった。だが
“この人も多分役者なんだろうなー”
と玲は呑気にそんなことを想像していた。とりあえず、こちらも霊能力者の役をすべく、何かしら意味のありそうな言葉を並べて除霊の真似事を始めた。そして10分程経った頃、部屋の中に甘い匂いが立ち込めてきた。玲は直ぐにガスマスクを召喚し、鼻と口を覆うようにした。なお、召喚したガスマスクは、空気中から不要な成分を除去するだけなので召喚した物でも安心して使える。だが、このままだと怪しまれるので、玲はそのまま横倒しになる演技をすることにした。ただし、入口から顔が見られないよう配慮はしている。そして更に10分程経つと、部屋の入口の扉が開かれる音がしたので、玲は急ぎ召喚を解除した。入って来たのはどうやら男が2名である。それぞれ何かを持っているが、それを確認することは出来ない。だが、
「どうやら、ぐっすり寝んねのようだな」
「あー、今回もこれで1人百万何て、
美味し過ぎるけどな!」
「でも今回は野郎かよ。前の時にみたいに
美人だったらよかったのになー」
ん?かすみとラハニのことか?と玲は思った。そうか、こいつらが拉致したんだなと思った途端、何やら腹が立ってきたが、じっと我慢して暫くは大人しくすることにした。
「さーて、まずは言われた通り、
この首輪を嵌めようぜ」
との声が聞こえた時、玲は2人の周りに降霊召喚門を設置して魂の分離を行った。すると男2人はその場で意識を失ってれてしまった。2人が意識を失っていることを確認した玲は、先ず問題の首輪を取り上げて転移門経由で自宅に置くことにした。その代わりに玲が召喚した首輪を自分の首に着けて、あたかも彼らによって取り付けられた風を装った。念のため箱の部分のLEDが点滅する仕様となっている。それから、この2人の名前と所属を確認するが、どうやら単に雇われただけで、普段は米野市内で何でも屋を営んでいるらしい。そして彼らへの依頼であるが、まあ、予想通りと言うか、電話なりメールなりでの依頼であり、直接会ってのやり取りは無いみたいだ。後はこれからどこに向かうのかを尋ねると、どうやら関東近郊の山中にある施設だという。そこへは配送トラックに偽装したトラックで直接向かうというのだ。向かっている最中に目的地に直接転移して調べれば大丈夫だろうということで、玲は一旦彼らの魂を戻し、自分はその場に倒れる風を装った。
「あっ、あれ?俺たち寝てたんか?」
「くそっ、まだあのガスが
残ってたんじゃねーの。全く」
と2人はぼやきながらも玲を拉致する作業を続ける。
「しっかしよ、あの時の女達は、
俺の好みだったんだけどよ」
「だが、絶対傷物にするなとの命令だ。
じゃないと1人百万どころか、
奴らに何されるか分かったもんじゃないぞ」
「へいへい、仰る通りです」とお喋りしながらも玲をビニールシートに包む作業を続ける。今の玲の姿は、目隠しされた状態に加え、口にはガムテープによるをされ、両手両足は結束バンドで固定され身動きが取れない。尤も玲の場合、自律型の鋏でも召喚すれば簡単に解除できるので特に心配はしていない。だがそれよりも、
“こいつら、かすみとラハニに
何かしようとしていたのか?”
と考えた途端、が煮えくり返る思いをするのだった。”絶対後でしばいてやろう”と心に誓った。
さて、玲をビニールシートできにしたところで、2人の作業員は玲の頭と足の部分を持って、乗って来た2tトラックの荷台に放り込んだ。玲は思わず「痛ぇ!」と叫びそうになるが、じっと我慢した。そして暫くするとエンジンがかかり、トラックは進みだした。さて、これから2時間程の時間が出来たので、先ずはビニールシートからの脱出を考えた。流石に直接破いたりするのは無理なので、ビニールシートの隣に転移した。どうやらトラックの中には何もないようなので、玲も安心して転移出来たのだ。それから自律型の鋏を召喚し、両手と両足を縛っている結束バンドを切断した。後は頭に被せられている袋を取り、口に張られているガムテープを外して、漸く一心地ついたと安堵した。だが、実はこれからが本番である。早速2人から聞き出した場所を転移門でサーチすると、直ぐにかすみが残したマーカーを発見した。「なるほど、ここね」と呟く玲、その周囲は森林以外確かに何もない。未舗装の道路もこの建物の手前までは続いているようだ。とりあえず、目的地が分かったので、玲はその場所に転移して行った。
建物のある敷地から少し離れた空き地に玲は転移した。直接建物のある敷地内へ転移することも考えたが、場合によっては監視カメラが設置されていることも考えられるので、まずは外から様子を見ることにした。転移門からは確認できなかったが、どうやら鉄条網でこの施設は囲まれているようだ。そしてゲートには監視カメラが設置されている。そしてかすみの話では監禁された室内にも監視カメラがあったということから、この建物の周りにも監視カメラが設置されていてもおかしくない。そこで直接建物内に転移すべく転移門で建物の中を調べることにした。確かにかすみの言う通り、建物内には誰もいない。だが、
「なるほどね、ここは中継施設なのかな?」
と玲がある小部屋を目にした時、そんな感想を漏らした。念のため天井付近を見て見るが、この部屋には監視カメラはなさそうなので、そこに直接転移した。その部屋には、事務机が置かれており、その上には幾つかのブラウン管式のモニターとマイクが設置されている。だがそれらは最近使われた形跡が全くなく、今現在は埃を被った状態のままである。昔は何となく、この画面越しにマイクを通じて指令を出していたとか、そんな印象を受ける。そしてそんな机の隣に、こちらは現在稼働中の、何やらLEDライトが点滅を繰り返す装置が床近くの壁面に固定されている。それが恐らく敷地内の監視カメラの映像を送信するための通信機器かと思われる。そしてこの建物の屋根には、確かに小型のパラボラアンテナが設置されているのを玲は確認している。となると、この通信機器を通じて、建物内部を確認しつつ外から色々と指示を出していたのだろう。しかし残念ながら、玲の知識では逆探知するなどは全くできないため、発信元を辿ることは不可能である。だが、
“そんな時は、この機器を使えない様にすれば
慌ててやって来るだろうな”
と玲が考えるように、何かトラブルが起きた場合、確実に原因を探るべくこの建物に人がやって来る。そいつらを尋問すれば元凶が分かるのではないか、と玲は考えた。だが今直ぐに壊しては意味がない。と言うのは、恐らく外のゲートも外部からの通信で開錠されると思われ、もしゲートが開かなければ、玲はそのまま置き去りにされてしまう。なので、玲がかすみ達が監禁された部屋に放り込まれて、外からの通信が入った時に壊す、と言う方が迅速かつ確実に彼らがやって来ると見ている。そこで、タイミングを見計らってにくたまを召喚し、彼らに壊してもらうことにした。と言うよりもプラグをコンセントから引き抜くだけで恐らく問題はなさそうだが。
さて、基本的な対応はまとまったので、玲はかすみとラハニが監禁されていた部屋を見に行くことにした。念のため、通信機器のプラグを抜いて監視カメラの映像が送信されるのを避けることにした。もし万が一今の状態でも向こうで何かモニターしていたら、「あれ?映像が送られてこないぞ?」としく思うだろうが、直ぐに回復すれば通信障害か、と思われるだけになりそうである。そして早速部屋を見に行くと
「うわー、これは酷いな。
こんなところに僕監禁されるの?」
と玲はぼやくが、そこには魂を抜かれたままのツキノワグマが放置されたまま朽ち果てていた。そしてその悪臭が玲の鼻を突くのだった。これは堪らないということで、ツキノワグマを転移で外に移し、消臭剤を召喚してそれを蒔いた。これで何とか匂いは問題なくなるだろうし、召喚した消臭剤のガスをそのまま吸い込むと、召喚解除後に体に悪さする危険性があるが、十分な時間が経てば空気中の消臭成分は消えるので、恐らく危険性は回避されるとみている。まだここに到着するまで1時間半はある。とりあえずモニター室に戻りプラグを少しだけコンセントに差し込んでから、玲は一旦自宅に戻ることにした。
「かすみ、戻ったよ!」
と玲はかすみの部屋の前で声を掛けるが、時刻はまだ午後4時である。「そっか、まだ仕事中だった」と今の状況を思い出した玲は、とりあえずトイレで用を済ませてから、トラックに戻ることにした。