召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲も拉致される? (第4幕)
トラックの荷台に再び戻って来た最神玲は、さてこれからどうしようかと思案した。一応取れる準備はしておいたため、後は時間を持て余すことになってしまった。仕方ない、何時もの召喚術の研究でもするか、と言うことで簡単な照明器具を召喚して、オセロの白石も召喚した。これはヘキサグラム型召喚門の研究で用いたあの石である。今現在の玲の関心事は、全てヘキサグラム型召喚門に向けられている。そして幾つか新しい術式を見出したのだが、特にヘキサグラム型による転移の発見は重要な意味を持つと認識していた。と言うのは、ヘキサグラム型の転移は、かなり複雑であり、しかもアニュラス型やバレル型召喚門による転移と比較しても召喚エネルギーを多く消費することが分かった。もしこの通りの転移がされていたとしたら、恐らく日常で使用するにはかなりの制約を受けるだろうし、例えば軍隊丸ごとの転移などは絶対出来ないと確信できる。だとすると、ロムリア滞在中に見つけた”死者の宴”、” 魂の門を叩く者”、そして” 命脈を絶つ鎖”と名付けられたあれらの召喚術がそれぞれ意味を持つように感じるのだった。そして、恐らくだが、ヘキサグラム型の使い勝手に問題があったため、その後バレル型と呼ばれる召喚門が出来たのではないかと推測した。
玲がそんなことを考えながら召喚術の研究をしていた時、トラックが停止し、助手席側のドアが開けられた。
“ん?もしかして着いたのか?”
と玲は警戒し始める。念のため転移門でサーチすると、確かにあのゲートがそこに現れた。そこで急ぎ召喚していたものを解除し、猿轡用のガムテープと結束バンドを召喚して口に張り付け、そして両手足に結び付けた。後はビニールシートの中に転移するだけだが、この時玲は一つ重大なミスをした。それは
“しまった! このままビニールシートの中に
転移すると、体の中にシートが
めり込んじゃうんじゃない?”
そう、ビニールシートの中に空間がないため、そのままでは転移出来ない。しかも空間を作って転移するまでの時間が恐らく足りないため、玲はかなり焦りながらどうしようか思案していた。そして、いっそうのこと、ビニールシートを緩めて、起きて暴れていた時にあたかもそこから転がり出て来た風を装うことを思いついた。おっと、頭に被せてあった袋を被るのを忘れる所だった、と言うことで、とりあえず拉致された時の状態を再現してからその辺に寝転がりながら、呻き声を上げていた。
やがて荷台の扉が開かれると、
「おいおい、野郎起き出してやがるぞ」
と1人の男が怒声を上げた。玲は「うーうー」と呻きながら転がる演技を続けていたが、結局男達に押さえつけられ、そのまま建物の中に運び込まれていった。そしてそのまま乱暴に放り込まれたのだが、コンクリートの床に尻がぶつかった時、玲は”こいつら、絶対後でマジでしばく!”とかすみではないが、そう息巻いていた。その後玲の体の上に乗って胸と足をコンクリートの地面に押さえつながら、目隠しのカバーと口元のガムテープを乱雑に剥がされて、玲はその場で悪態をつく演技を始めた。だが、男たちは玲に目もくれず、だが玲に対し一応一蹴り入れてからその場を去って行った。
さて、男たちの姿が見えなくなったところで、玲は両手足を縛っている結束バントの召喚を解除した。そして蹴られた所を摩りながら、天井からの声を待つことにした。すると、
「お待たせしたね。最神玲さん。
何か手荒な真似をされたようだが」
との声が天井付近から聞こえて来た。この部屋の天井は高く、恐らく2階分がぶち抜かれた構造になっている。そのため、玲が召喚解除した結束バンドは見られずに済んだようだが、玲は内心”うわー、やばかった”と焦っていたのだった。さて、ここからが本番である。玲は先程のモニター室ににくたまを召喚し、通信装置のプラグを抜いてもらった。すると、「体の方は...」と途中で聞こえなくなった。恐らく「体の方は大丈夫か?」と尋ねようとしていたのかも知れないが、今は正直どうでも良い。こうなると、向こうでは一体何が起きたのかの原因を探し始めている筈である。そして原因がこちらの施設にあるという結論が出てからここにやって来るまでに1時間かそれ以上ありそうと踏んでいる。とりあえず、施設周辺ににくたま軍団を召喚しておき、誰かがやってきたら知らせてもらうようにした。そして自分は、先程のモニター室に向かうことにした。
玲はモニター室にある椅子に座って再び召喚術の研究を始めるのだが、30分程経った頃、何やら外から音が聞こえて来た。「あれ?早過ぎない?」と玲は訝しむが、そのうち1匹のにくたまがやって来て、「ご主人様、ヘリコプターがやって来ます」と告げてきた。えっ、まさかヘリで来たの?とは玲も予想していなかった事態であるが、確かにこの建物の屋上は真っ平である。従って一刻も早く状況を確認するには、ヘリがベストな選択なのだが、
“こいつら、一体どこの組織なんだ?”
と玲は疑問に思うのだった。とりあえず、机の下に隠れて様子を見ることにした。まさか、こんな所に拉致した人間が隠れているとは想像できないだろう。そのうち、ヘリが確かに建物の屋上に着地したのを確認した玲は、念のため転移門でモニターすることにした。そこには数名の男たちが降り立ったのを確認するが、1名はアサルトライフル銃を携行している。となると、どこかの軍人か?となるのだが、その軍人に加え残り2名の男達の姿はどうみても日本人ではない。また、アメリカ軍か?と錯覚しそうだが、その可能性は否定できる。となると他にどこの誰がこんなことをしでかしているのか?玲の疑問は尽きない。そのうち、2名の男達がモニター室に現れて壁に固定されている装置を調べ始めた。だが直ぐに原因が分かり、外れたプラグをコンセントに差し込んだ。そして無線で何やら伝えているのだが、その言葉を聞いた途端、玲はこの男たちの正体が分かったのだ。
“そうか!!こいつらはあの事件の
当事国の連中か!!”
一昨年の年末に、ある北の大国の指導者が突然死を迎えた。公には病死として発表されているが、実は就寝中にナイフで胸を刺されて殺害されたのだった。なぜ玲がその事実を知っているのかと言うと、その殺害した当事者達の逃亡の手助けをしたのが玲であるからだ。正確には玲とタチアナ・エグリスコバとなるが。そう、その当事者はタチアナと同じロムリアからの転移者であり、今は平穏にロムリアで暮らしていることを先日ロムリアに滞在していた玲は確認している。
さて、映像が無事送信されたことで監禁部屋の様子も確認できるようになったのだが、どうやらそこに玲の姿が見えないことで、無線機から怒鳴り声らしきものが漏れ聞こえて来た。仕方ない、ここでそろそろ魂の分離をしようかと考えた玲は、そこの2人に対し実行した。そして彼らの魂に対し尋問を始めるが、どうやら玲の話す日本語が分からないようだ。その時”もしかして、ラハニってこいつらの言葉も分かったりしないかな?”と頭に浮かんだ玲は、直ぐに美土路神社に転移した。丁度かすみとラハニは自宅に戻っていたので、早速現状をいんで2人に伝えた。すると
「ワタシ、スコシダケナラワカリマス」
と言うことだった。何とラッキーな事だろう、と玲は嬉しくなった。そこでかすみとラハニを伴って、監禁されていた建物に向かった。
幸い、外で警備している軍人には中の様子が分からないようで、気づかれた雰囲気はない。そしてラハニは早速玲からの指示に沿った質問をすることにした。その結果、彼らはあの国の大使館に勤める書記官ではなく、非公式で様々な下受けを行っている連中であることが分かった。そして彼らに指示を出しているのが、大使館の一等書記官であるという。一応そこまで分かったところで、玲はかすみとラハニと今後のことを相談した。
「うちは、今直ぐにでも
殴り込みに行きたいねんけどな!!」
とかすみは自分のをに当てながら息巻いていた。一方のラハニはと言うと、確かにかすみと同じ心境なのだが、それよりもこの事態をあまり飲み込めていない。そこで玲に簡単に説明してもらうことにした。そして漸く、自分がかつて追っていたあの事件が今回のこの件と繋がっていることに驚愕するとともに、そのお陰で召喚術が学べて、更に玲やかすみ、あるいは神室霊華と言う仲間に出会えたこの奇跡に感動を覚えたのだった。
「よし、じゃあ、前の時みたいに
今晩にでも夜襲をかけるか!」
との玲の一言で、彼らの方針が固まった。その後2人の魂を元に戻してから、玲はかすみとラハニを伴って自宅に戻って行った。
自宅に戻って来た3人は、玲が夕飯の当番だったのだが、拉致されてそれどころではないため、結局デリバリーサービスを頼むことにし、配達を待つ間、リビングで寛ぐことにした。その時かすみが、
「玲、あん時探したUSBやねんけど、
あれの中身って何か知ってんねんな?」
「うん、まあね。勿論中身は見てないけど、
想像は出来るよ」
と言うことで、ラハニの手前真実は口に出来ないため、当たり障りのない範囲で答えた。
「じゃあ、そん時の殺害の様子が
USBに記録されていた、
そんでそれをアメリカは手にすることで、
何かメリットあるんか?」
とは当然誰しもそう思うのだが、玲はここも推測と言うことで、
「まあ、外交的な交渉には
使えるんじゃないのかな。
後はやはり転移術を直接目にする
証拠になるから、あれをそのまま
放置するわけにはいかないと
思ったんじゃない?」
他国が転移術に興味を持つことは十分に予想される。アメリカ政府としては、それが公になることは避けたかったのではないかと玲は考えていた。ラハニは、腕組みしながら難しい顔をして考えている。
「それとな、玲、何で自分の寝室に
カメラなんかを置いて
隠し撮りしてたんやろか?」
まさか、自分のプレイを録画して楽しんでいたのか?とかすみは勝手に色々な事を妄想し出した。このかすみの問いに対する答えを玲は知っており、実際玲は殺害した当人達から話を聞いている。そしてかすみの予想通りのことが行われていたのだが、ラハニの手前、今この場で答えることは差し控え、後でかすみにだけこっそり話しておくことにした。その後注文した料理が届いたため、話は中断して、早速3人は夕飯を共にしたのだった。