召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、霊界からの使者に会う (前編)
物部かすみの二番弟子であるラハニ・エランの結婚式の行われる1週間程前、かすみは毎年恒例となっている税務署への税務申告を行った。本来であれば電子納税(e-Tax)が利用できるはずだが、M Mの売り上げが特殊なため、昨年もお世話になった税理士と相談のうえでかすみが直接出向いたのだった。そして税務署から帰って来ると誰にともなく愚痴を零すのも、殆ど恒例行事と化した感じだ。
「もう、ええ加減にせぇよな、この税金の高さ!!
うちら真面目に働いて
高い税金納めてるっちゅうのに、
は違法な献金受けて
税金の申告せぇへんねんで。
脱税して平気な顔できる神経、おかしいやろ!
全く無茶苦茶やんかー」
その日一日、かすみの口が閉じられることは無く、何時もの様に夕飯を共にする神室霊華は、ただ黙って師匠の愚痴を聞き続けていた。
「こんなん、取られるばっかやったら、
うちらそのうち餓死するんちゃうか!」
最神玲も神室霊華もただ黙ってかすみの愚痴を聞きながら食事を続けていた。そのうち神室霊華に何やら飛んできたようで
「霊華さん、いつもどない思ってるん?
滅茶苦茶やないかって感じせぇーへん?」
と尋ねて来るので、神室霊華は「そうですね」としか答えられない。神室霊華の場合、コンスタントに毎年数千万円を稼ぐので、ほぼ同じくらいの税金を毎年収めているのだが、どうやら麻痺しているのか、最近では余り気にならなくなっていた。だがかすみの言うことももっともであり、自分達の収めた税金が正しく使われているのかは気になる所だった。
ところで、今年度M Mが稼いだ金額はいくらだったかと言うと、昨年度のように超大型案件がある訳ではないため、売り上げは大きく減った。ただし、それでも一億五千万円以上の収入はあった。一体どんな案件があったのかと思われるが、殆ど全てアメリカ政府、正確には国防総省からのラハニの教育費名目の振込である。つまり、ラハニを召喚術師にして教育するための費用として、百万ドルが振込まれたのだ。ちなみにそれを除くと、数百万円ほどであるが、これが実質M Mが純粋に稼いだ金額と言うことになる。一時のように蘇生案件が今年度は無かったため、純粋に降霊術と除霊のみとなっている。もし来年度大きな案件が無い場合、数百万円のM Mの収入で社員を養わないといけなくなる。世間一般の企業であれば社員のリストラに向かう所だが、M Mの従業員は玲とかすみと神室霊華、そして今は見習いのラハニの4人だけであり、しかも誰か1人欠けても困る。従ってこのうちの誰かをリストラすることは不可能である(と言ってもかすみの場合、冗談で玲をリストラしかねないが)。
そこで、玲とかすみは最近の物価高も考えて、そろそろM Mの料金も値上げした方が良いのではと思い始めており、結局来月の4月から降霊代金も除霊代金も一律20万円とすることに決めた。「除霊」ではなく「お祓い」の代金としてみると高い印象を受けるのだが、M Mでは効果があるのか無いのかよく分からないお祓いは全くしておらず、確実に憑りついた霊体を(どんな手段を講じても)取り除くことができる除霊を行うため、これ位は大目に見て欲しいと思っている。ただ、もし値上げしたことで依頼が来なくなったらまた考え直すつもりのようだが。いや、それよりも、M Mのホームページを何とかした方が良いのではないかと思うのだが...それでも売り上げが減ったからと言って玲もかすみも、今の所明日の生活に困るということは全くなく、完全に無職になったとしても、一生暮らせる分の貯蓄はあるため、実はそんなに危機感を持っている訳ではなかった(特にかすみの場合、ロトくじの高額当選金もあるし)。
そして4月になり、玲とかすみは美土路神社にやって来て4年目を迎えた。彼らは、4年前と変わらず美土路神社の社務所にて神職の手伝いと言う名のアルバイトをしている。相変わらず彼らは正規の神職ではなく単なるアルバイトのままなのだ。従って月々の給料は時給千数百円のアルバイト料となっていた。では、もういい加減非正規のアルバイトではなく正社員と言うか正規の神職に就いたらどうかと思うのだが、2人とも「遠慮します」と答えるであろう。やはり今のままで十分だと感じている。そして4年目を迎えたこの日、何時もの様に神室霊華を迎えて夕飯を摂っていた時、かすみがふとこんなことを口にした。
「そう言えばな、うちらというか、
うちと玲やねんけどな、
霊体をどんだけ除霊したんやろか?」
この4年間と言うか、玲とかすみに関しては、それ以前から除霊はしていたのだが、一体どれくらいの霊体を霊界に送り届けたのか、と言うことをかすみは気になったようだ。
「うーん、そう言われるとねー、
何十かなー、あるいは
何百になるのかなー」
とは玲の感想である。確かに、Gホイホイのように降霊召喚門を設置して、そのまま一度に何体もの浮遊霊を霊界に送り届けたこともあるし、降霊転移門を全開して悪霊を一気に霊界に送り届けたりもした。そうなると確かに何十のレベルではなく、最低でも百は越えている。だが正確な数字は分からない。ちなみに神室霊華はと言うと、
「師匠! 普通は1体除霊するのも大変なんですよ。
私もこの術を学ぶ前は、全部合わせても
精々数十と言う所でした」
と苦笑いを浮かべながらそう説明するのだが、一般的な霊能力者の場合もっと少ない数となるだろうし、大抵はその数を正確に把握している筈である。だが玲とかすみの2人からすると、捕らえた獲物を簡単に処理するように霊体を霊界に送り届けるため、もはや正確な数字を把握することに意味をなさなくなっていた。それ位に召喚術による除霊はすさまじい威力を持つのであるが、一方でかすみからすると、それ以外の方法を使ったことが無いため、その辺の感覚が鈍くなっていた。ある意味これは仕方のないことではあるのだが。そしてそんなかすみだからこそ、先のような疑問を持つに至ったのだ。そんな時かすみは更に皆が唖然とするようなことを口にした。
「それよかな、うち等はホンマやったら
霊界の連中のやる仕事を受け持ってる訳やんか。
ほな、霊界の奴等、うち等にお礼くらい
言ってもええんちゃうやろか?」
と遂には恩着せがましい発言をするに至った。これは言い方を変えれば、閻魔大王に少しは自分達の所に菓子折り持ってお礼なり挨拶にこんかい!と言うに等しい暴言であろうか。尤もかすみからすると、別に霊界のやるべきことを肩代わりしている感覚ではなく、困っている人を助けている感覚で行っているので、特に誰かから御礼を言って欲しいとは思っていない。だがこの発言の真意はと言うと、ちょっとしたネタになったらオモロいんちゃう、という関西的なノリと見た方が正確だろう。ただ残念ながら、そのかすみのノリを玲と神室霊華は理解できず、真剣にかすみの話を捉えてしまった。そのため、かすみのノリに対して上手く返すことが出来なかった。ただそんな時に玲が
「かすみ、もしお礼に来たらどうするの?」
と真剣な表情でかすみに尋ねた。かすみとすると、単にノリで言っただけなので、真剣に尋ねられても困るのだが、
「せやなー、何かお礼を頂戴って言うかもな!
でもなー、閻魔大王にお礼って、
まさか地獄に落ちた時に手加減して、
とかになるんかなー、ははは」
と何やら楽しそうに笑い出した。その時、神室霊華が
「師匠はもしかして、
地獄に落ちること確定なんですか?」
と真顔になって尋ね、玲も「かすみなら、仕方ないかなー」と同調するに至ると、かすみは玲の言葉にカチンと来たようで
「はぁ?玲さん、うちが地獄に
まっしぐらって思ってはんのかな~?」
と何時もの様にマキザッパを召喚して玲をシバキにかかった。
「か、かすみ。そう言うところが、
地獄にまっしぐらになるんじゃないの?」
と玲はかすみに対し反論し出した。この辺は何時ものお約束の展開なのだが、それよりも、
「師匠、でも本当に霊界から
そのような接触があった場合
どうされるんですか?」
と何やら真剣な表情で神室霊華が尋ねて来るので、かすみは真面目になって
「うーん、せやなー、どないしようか......」
“まさか嘘から出たになったら、
マジどないしよ?”
と腕を組んで真剣に考えだした。もし今直ぐに「あなたの願い事を叶えましょう」とか言われたら、迷わず「もう少し身長を伸ばして欲しい」というだろう。神室霊華やラハニ位の身長があれば、洋服もそうだがヘアスタイルも色々と試せそうだと思うのだ。だが流石に、神室霊華はともかく、玲の前でそんなことは絶対に口に出来ない。そのためかすみは、何やらお茶を濁すような答えに留まった。ただ、かすみは自分が小さいことに対しコンプレックスを抱いているようだが、かすみの身長は160cmに少し足りない位で、恐らく日本人女性の平均身長かと思われる。実際、かすみの高校時代の何時もの親友達、山本明日香と俵京香はかすみより少し背が高いものの、谷田美鈴と村上希美はかすみと同じくらいである。そのためかすみが親友達と一緒にいる分には、自分の身長の低さを感じることは無かったのだ。ところが、いかんせん、目の前の神室霊華と言い、アメリカに住むラハニと言い、かすみの周りにいる女性が170cmを越えており、そうなるとやはり相対的にだが自分が小さく感じてしまうのだった。
かすみの冗談から始まった話が何やら深刻な展開になりそうな雰囲気を察した神室霊華は、
「私、これから別荘に行って、
電気釜の状態を確認しまして、
その後露天風呂で疲れを取ろうと思いますが、
師匠と玲さんはどうされますか?」
と楽しそうな雰囲気でかすみと玲にそう尋ねた。玲はそのまま「良いですね、行きましょうか!」と言い、かすみも余り深刻にならならいように、ここは一緒に温泉に入った方が無難だなと思い、「うん、露天風呂に入りに行こか!」と言って神室霊華と一緒に別荘に向かった。そして3人は露天風呂に浸かって今日一日の疲れを取ったところで、そのまま各々自宅に戻って行った。