召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、霊界からの使者に会う (後編)
別荘から帰って来て何時もの様に自宅のベッドで眠りに就いた物部かすみは、深夜2時過ぎ、ふと何かの気配を感じたのか珍しく目を覚ました。一応、この住宅周りには、玲が毎晩降霊召喚門による結界を張っており、幽霊からの不意を突かれる攻撃を防ぐ措置を施しているのだが、何やら結界が有効に作用していない感じを受けた。
”まさか玲の奴さぼってんとちゃうやろな!”
とキレそうになるかすみだが、勿論結界の気配を感じているので、そう言うことは無いのは分かっている。だが念のため自分でも確認しておくかと思い、ベッドから起き上がった。とその時、部屋の真ん中辺りに何かが立っているのを目にしたかすみは、気が動転しそうな位に強い衝撃を受け、ほぼ条件反射的に降霊召喚門を目の前に展開した。だが、そんなかすみの反応を他所に、その何かがかすみに近づいてきた。カーテンの隙間から差し込む境内の街灯の明かりに照らされたその姿は黒の燕尾服を身に纏い、中は白いシャツに黒い蝶ネクタイと言う出で立ちである。まるでどこかの執事のような雰囲気を漂わせているが、そんなことよりもかすみは
“えっ、うそ、うそ、
何であいつ自由に動けんねんな?”
と動揺を隠せず慌てふためき出した。だがその何かはかすみに近づいたところで停止し、胸に手を当ててお辞儀をしながら、
「初めまして、物部かすみ様。
私、霊界からやってまいりました
イラトスと申します。
こんな遅い時間の訪問、
どうぞお許しください」
とな挨拶をしつつ、かすみに対しな訪問を謝罪した。かすみはと言うと、まだ唖然としてポカンと口を開けているが、漸く一言「あっ、ど、どうも」とだけ返事をした。するとイラトスは、
「本日、物部様の所にお邪魔したのは、
先程物部様が仰っておりました件に
関係しておりまして...」
とかすみに伝えるのだが、かすみはまだ正常な判断が出来ず、首を傾げている。イラトスはそんなかすみにお構いなく、
「物部様には、こちらの世界で彷徨っている霊体を
私共の所に送って頂いて大変感謝しております」
と感謝の言葉をかすみに伝えた。それでかすみも漸く”あっ、さっきのあの話か?”と思い至ったようだ。だがまさか本当にそんなことがあるのか?もしかして、裏で玲が何やら悪戯してるんとちゃうやろな!?と思うに至ると、なぜか段々腹が立ってきた。勿論玲はこの件には全く関与しておらず、イラトスも
「私の訪問に関して、最神様は一切何も
関与しておりませんのでご安心ください」
とかすみの心の中を読んでいたのか、そんなことを口にした。まさか自分の心の中が読まれたのかとえだすかすみを他所に、さらにイラトスは話を続けた。
「さて、私が今回物部様の所に参りましたのは、
あなた様にお礼を差し上げようと思いまして」
と伝えてから、両掌を上に向けて前に差し出すように
「何かご要望がございましたら承ります」
とかすみの目を見つめながらそう口にした。えっ、まさかホンマのことなんか?とかすみは自分の耳を疑うのだが、再びかすみの心を読んだようで「嘘ではございません。ただし...」と一度言葉を切り、
「生まれ変わった時にその願いを
叶えることになります」
というのだ。かすみは思わず新喜劇の転びをしそうになるが、よくよく冷静に考えても今直ぐにあの願い、 もう少し身長が欲しい が叶ったら、どう説明すれば良いのか分からなくなる。それこそ「かすみ、あんた整形でもしたんか?」と母親の京子を始め、高校時代の親友たちから弄られ、最後は白い目で見られかねない。それよりも来世で叶うならそれもありかと思いつつ、だがどうやってそれを確認できるのかが分からない。ここで適当に約束して来世になったら、ハイサヨウナラ、となりかねない訳で、しかもその時は前世で約束したことなど100%覚えてないだろうことは確実である。それでもかすみとしては、やはり何か面白そうだと思ったようで、幾つか確認してみることにした。
「なあ、もしな、来世は一生遊んで暮らせるような
金持ちになりたいと言ったら、そうなるんか?」
「はい、そのような方の所に
生まれ変わることになります」
「あるいはな、うちはお笑いが
メッチャ好きやねんけど、
お笑い界の頂点に立ちたい、
ちゅうことも出来るんか?」
「はい、生まれ変わられたらそうなります」
かすみは腕組みをして考え出す。これはこれで凄く魅力的に感じていた。そして
「ほな、この世界を救う英雄とかもありなんか?
あるいは、全く違う惑星の支配者になるとかは、
どうなん?」
「はい、どのような要望も叶えることは可能です。
ただし...」
霊界の支配者にはなれませんのでその点ご注意ください、と言われた。
ん?霊界の支配者ってなんなん?
閻魔大王のことか?
と疑問に感じたかすみは、イラトスに霊界の支配者のことを尋ねた。
「いいえ、物部様の言葉で言うところの
『神』
でございます」
成程な、そうなんか......
霊界って神のような人なのか霊体なのかが
牛耳ってんねんな
と言うことがかすみには分かった。ちなみにこの情報は、地球上でかすみ唯一人が知る事実となっていることにかすみは気づいていない。そんなかすみは、霊界の支配者になれないことに対し、まあ何となく分からなくもないし、そもそもそれ以外の支配者とか独裁者になる気は全くない。そうすると、やはりかすみの願いは一つ。それは、
「ほな、分かった。うちはな、..................」
とイラトスに伝えた。イラトスは微笑みながら、「それで宜しいでしょうか?」と念を押してきたので、かすみは「ええで、それで頼むわ」と答えた。するとイラトスは何やら手元に手帳か本のような物を取り出し、そこに何やら書き込み始めた。やがて
「では、物部様のご要望はしかと承りました」
と深々とお辞儀をした。その後かすみの目を見つめながら
「物部様、物部様の願い事は
誰にもお話してはなりませんよ。
もし誰かにお話ししたら...」
この約束はになるというのだ。そして「ではこれにて」とイラトスが立ち去ろうとした時、かすみは
「あっ、そや。なぁ、1つ教えて欲しいねんけど」
と言ってイラトスを呼び止めた。イラトスは怪訝な表情を浮かべるが、かすみから「うち等、何体の霊体を送り届けたん?」との質問を受けた途端、笑顔になってこう答えた。
「はい、物部様は191体です。そして最神様は...」
202体です、とかすみに伝えた。この時のかすみは”くそっ、玲に負けてるやんか!”と心底から悔しそうにしたのだった。れい(玲、霊)と言う名のつくものには絶対負けたくないという気概があるかすみとしては、僅かな差であろうとも許すことが出来ない。早速明日どこかで10数体程除霊してこようかな、と心に誓った。
そして、玲の所にも同じような要望を聞いたのかを尋ねると、既に玲からは要望を貰っているという。かすみはその内容が凄く気になるのでそれを教えてと頼むが、
「申し訳ありません、物部様。
個人情報保護法に違反する行為になります」
と言われてしまった。ここでも新喜劇の転びをしそうになり、序に「おいおい、霊界に個人情報保護法とかあるんか!」と思わずツッコミを入れてしまったが、どうやらあるらしいのだ。仕方ない、後で玲から直接聞き出そうと思うが、誰かに話した途端反故になるからまず無理かと思い直し、かすみはイラトスとの会話をそこで打ち切った。その途端、かすみは何やら眠気を感じてしまい、再びベッドの中で深い眠りに就いたのだった。
朝の6時になって何時もの様に起床したかすみは、ベッドの上で仰向けになった状態で何やら昨晩誰かと会ったなと漠然とだが思い出していた。だが、相手の顔はと言うと実ははっきりと覚えていない。名前も、何やらあやふやである。まるで夢を見ていたように感じるのだが、一方で、確か来世になったら叶う願い事を聞いてもらったことは覚えていた。そして
“そや、霊体のお見送りの数で玲に負けたんやった!”
と言うことを思い出し、再び悔しそうにするかすみであった。そんな時、洗面所の扉が開く音を耳にしたかすみは、急ぎ部屋を出て洗面所に向かった。そして早速昨晩のことを玲に尋ねた。玲は歯磨きをしながら
「うん、何かやってきたね」
と答えたが、そこから先はどうしても話そうとしない。逆に「かすみは何をお願いしたんだい?」と口をゆすぎながらニヤニヤして聞いて来るので「そんなん、絶対言われへんやろ!」と毒づいた。お互いに秘密にしているようで不気味だが、それを口にすることは絶対できないため、結局けん制し合っただけになった。そしてそのまま朝食を済ませて何時もの様に社務所に向かった。
玲: かすみのことだから、
どうせお笑いの頂点に立ちたいとか、
そんなことかな~
かすみ: 玲のことやから、
元居た世界で生まれ変わりたいとか、
究極の召喚術を極めたいとか、
しょうもない願いしたんとちゃうんか?
お互いに全く見当違いなのか、あるいは当たらずとも遠からずなのか、そんなことを想像しながら、仕事を続けていた。ところで2人は何をお願いしたのか?それは秘密と言うことで。