召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M、未解決事件に迫る (第1幕)
警視庁刑事部捜査第一課に所属する警部補は、今年4月の人事異動である部署に配属となった。そこは同じ捜査第一課の中に設置されている特命捜査対策室、通称「特捜対策室」である。よくテレビドラマや映画などで未解決事件を扱う部署として登場するが、実はこの部署は実在する。そして実際に未解決事件を扱う部署に千歳警部補は配属となったのだが、捜査の第一線から退く感じがし、何やら左遷された感が漂ってしまう。だが、この人事異動、実は千歳本人が願い出たことであった。彼女が自ら願い出て異動した理由、それはある未解決事件が関係していた。
千歳真希が通っていた大学は、東京都内にある最難関の国立大学であった。彼女には同じ学部で知り合った同性の友人が何人かおり、特にそのうちの1人とは馬が合うというか、休みの日には一緒にショッピングに出かけたり、あるいは一緒に旅行に行ったりするほどの仲の良い間柄だった。ところがその友人は、ある事件で命を失ってしまった。千歳真希のその時の精神的なショックは計り知れず、暫くの間大学に通うことが出来なかった。そしてその事件だが、アパートの室内で心臓を包丁で一突きされてのショック死であり、凶器の包丁はキッチンに置いてある包丁であったことから、現場を良く知る人物の怨恨による殺人かと思われた。だが現場のアパートは一階にあり、ベランダ側の窓ガラスの一部が外から割られており、そこからクレセント錠を回して侵入したことも分かっているため、強盗殺人の線も疑われていたことを当時の警察の捜査記録を見直していた千歳は知るに及んだ。そして当初のこのどっちつかずの捜査方針のためなのか、結局その事件は解決されることなく、今もって未解決事件、コールドケースとして扱われていた。もし今の自分が当時の捜査を指揮していたら、間違いなく犯人をとことん追い詰めて絶対に逮捕していたと思ってしまう一方、やはり冷静になると殺人事件の捜査がそんなに簡単な物ではないことを肌で感じて知っており、恐らく自分もどちらの方針で進めるべきか判断に迷っていたかも、と思ってしまう。そしてこの心の中での葛藤のためか、あの事件のことを今も忘れずにいたのであり、願わくば自分の手で解決に導きたいと思っている。
だが、海千山千と言ったら失礼だろうが、自分よりも遥かに経験豊富な捜査員達が連日大量動員されてこの事件を追っていたはずである。ただ残念ながら、そんなベテラン捜査員達でさえも結局犯人に辿り着けなかったのに、警視庁の捜査第一課に配属されて数年の自分が果たしてそんなベテラン捜査員以上のことが出来るかと言うと、1年以上前であればまず無理です、と即答していただろう。ところが、今の千歳警部補は、過去の捜査員達が成し遂げられなかった事件の解決が出来るかもしれないという謎の確信を抱いていた。その確信の根拠とは?
「あれ?珍しいな、千歳さんから電話だ!」
と5月のある平日の夜、リビングで寛いでいる最神玲のスマホに千歳警部補からの着信があった。早速ダイニングに移動しながらスピーカーモードにして夕飯の支度をしている物部かすみにも聞こえるようにした。一応こうしないと、後でかすみがグレることを熟知している玲の対応策でもあった。そしてかすみはと言うと、料理をしつつも、当然耳をダンボにして電話の内容を聞いていた。
[もしもし、最神です。
千歳さん、ご無沙汰してます]
[最神さんですか。千歳です。
こちらこそご無沙汰しております。
すいません夜分にお電話しまして。
今宜しいでしょうか?]
と言うことで、千歳警部補は早速M Mへの依頼について話し始めた。千歳警部補からの話しに2人は耳を傾けていた丁度その時、「師匠、玲さん、こんば......」と何時もの挨拶をしながら神室霊華がやって来たが、何やらダイニングとキッチンで真剣な表情で何かを聞いている玲とかすみの姿を目にしたため、その後の言葉が尻すぼみになってしまった。
[......と言うことで、申し訳ありませんが
未解決事件への捜査協力をお願いしたいのですが]
との言葉で締められた。さて千歳警部補からのお願いに対し、今直ぐに結論を出せないため、
[少なくとも捜査協力については問題ありません。
ただですね、こちらの仕事の関係もありまして、
今直ぐに結論は出せないのですが、
正式な返答は少し待ってもらってもいいですか?]
[はい、それで結構です。
すいません急がせたようで申し訳ありません]
[では失礼します]と言って電話を終えた。
「あっ、霊華さん、ごめんな、挨拶せんと」
といってかすみは神室霊華に向かってそう口にするが、神室霊華は全く気にすることなく、逆に「いいえ、師匠、そんなお気遣いなさらないでください」と逆に気遣ってしまった。それよりも、一体何が話し合われていたのかが気になったので、かすみにそれとなく尋ねることにした。
「何かな、警視庁の千歳さんっておったやんか?」
「あー、あの女性の警部補さんでしたね?」
「うん、その人がな、4月から異動して
特命、特命...特命係やったっけ、玲?」
「かすみ、それは右京さんだろ。
千歳さんは特命捜査対策室!
かすみ、どこで特命捜査対策室が
特命係になるんだ?」
とかすみに一応ツッコミと言う名の抗議をする玲である。ちなみに玲は、かすみの言葉がボケであることは何となくだが分かっていたようだ。流石に4年間も一緒に暮らしていると、かすみの言動にあるボケ感が漸く理解できるようになってきたようだ。そして一応玲からのツッコミがあり、かすみとしてはもう少し鋭いツッコミが欲しいと思いつつも、今の段階では仕方なくそれで満足したのだった。それよりも玲が右京さんを知っているのには驚かれた方もおられるだろう。玲は暇なときは大抵召喚術の研究をしているが、一方で相変わらずニュースを中心にテレビもよく見ている。そしてニュース以外に他の番組、例えばかすみの大好きな新喜劇などを見ることは全くないのだが、例外として、右京さんが出て来る刑事ドラマは、何やら謎解きが面白いのか、偶に見ていたりする。そしてこの経験が今回のツッコミに生かされたたのだった。
さて、話が脱線したので元に戻るが
「要するにな、霊華さん、
千歳さんが何やら未解決事件を扱う部署に
異動したんやって。そんでな、
その未解決事件への捜査協力を
うちらに依頼して来たっちゅうことや」
そして神室霊華はかすみからの説明を聞いて、やはり皆が思う疑問を口にしたのだった。
「それって、千歳さんが左遷された
ということなんでしょうか?」
「んにゃ、自分で異動を申し出たらしいわ。
何やら事情がありそうな雰囲気やったけど...」
もしかしてバラバラになった死体を見るのが嫌になったんかな~、とかすみは夕食の前に変な想像をさせることを平気で口にした。神室霊華はバラバラ死体を想像した途端、顔に嫌悪感を漂わせる。もし今晩のおかずが血の滴るステーキであれば、神室霊華は間違いなく食べるのを拒否して自宅に帰ったかもしれない。だが幸いにも、この日のメインは旬の野菜を中心に使った天婦羅であったので、神室霊華の嫌悪感は美味しい夕飯と共に雲散霧消した。そして3人はかすみが揚げた天婦羅を囲んでの食事を楽しむのだが、食事中も結局この話題が中心になった。
「ほいで、玲、どないすんにぇや、
千歳ひゃんの件?」
とかすみは好物の紅ショウガの天婦羅、かすみの地元であればと呼んでいるが、それを口に入れながら玲に問い掛けた。玲は
「まあ、未解決事件だから
今更急ぐ必要もないと思うよね。
だから、土日の週末であれば
僕らが行って対応しても良いと思うけど」
とこちらは玉ねぎの天婦羅を箸で持ちながらそう答えた。
「まあ、そやにゃー、後は費用やにゃー」
と相変わらず紅白天を口にしながらかすみは答えた。ところで神室霊華は、かすみが美味しそうに口に入れている謎の天婦羅が気になってしまい、玲とかすみの話が実は頭に入って来ないようで、
「師匠、話の腰を折って
大変申し訳ありませんが、
師匠の食べておられる物は
一体何なのでしょうか?」
と申し訳なさそうに上目遣い気味に尋ねた。かすみは半分ほど口に入っている紅白天を指差しながら、「これにょこと?」と神室霊華に確認した。神室霊華はうんうんと頷くので、かすみは残り半分を皿に戻し、
「あー、これな、紅ショウガを
天婦羅にしたやっちゃ。
うちとこでは、紅白天言うて、
皆よう食べてるで!」
と説明した。玲は何度となくかすみが作っているのを知っており、最近では特に違和感もなく普通に食べるのだが、関東育ちの神室霊華からすると、確かに全く馴染みのない食材であった。だが師匠が美味しそうに食べているのを目にすると自分も食べないと師匠に失礼だと思い、神室霊華は意を決して箸で摘まんで口に入れた。
「へぇー、何でしょうか、
ショウガの辛味と酸味が混ざって、
確かに食べたことのない味ですね」
でも美味しいです、とニコニコしながら、結局1個をペロリと平らげた。そんな神室霊華の様子を見て、かすみも紅白天を気に入ってもらえて満足していた。