召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M Mの慰安旅行: 霧島編 (第5幕)
午前7時を過ぎた頃、離れの外から引き戸をノックする音が聞こえて来た。だがここにいる4人はまだ熟睡中である。昨晩の出来事のめためそれも仕方がないのだが、それでも何とか最神玲は布団から起き出した。そして玄関に向かい「は、はい、今開けます」と言って玄関の鍵を開けた。すると昨晩の仲居とは違う人がそこに立っており
「今から朝食の準備をしますが、
如何いたしましょうか?」
と尋ねて来た。昨日のチェックインの時に7時にお願いしていたのだ。だが流石に他の3人はまだ熟睡中のため、
「すいません、他がまだ寝てますので、
そうですね......」
と言いながら玄関に置かれている掛け時計を見た。そして「朝食ってどれくらいの量何ですか?」と尋ねた時、仲居が後ろに控えている他の仲居の状況を示した。折角持って来てもらったのに追い返すのは悪いと感じた玲は、「ちょっと待ってください」と断ってから一度部屋に戻り、寝室の襖を閉めてから戻って来た。そして
「分かりました、では居間のテーブルに
置いてもらえますか?」
と伝えた。そこで仲居達は朝食を居間の座卓の上に整え始めた。それから玲に食事の内容を伝えてその場を後にした。玲は流石に起きたばかりで直ぐに食べられるか不安に思ったが、テーブルに並べられている料理の数々、霧島の湧水で炊いた白米を始め、を使ってとろみを加えた新玉ねぎと地鶏の仕立ての汁物、そして小鉢にはと木の芽の土佐煮と霧島大根と人参の浅漬け、更にのきんぴらでを添えられた朝食に目を奪われた。それから忘れてならない卵料理はと言うと、ここの温泉で茹でた温泉卵。ただし醤油ではなく、霧島の湧水で割った薄口出汁である。それだけでも何時もの玲とかすみが用意する朝食以上の質と量であるが、更に霧島サーモンの焼きから漂うかな柚子の香りと黒豚味噌の焼き味噌の香ばしさが玲の鼻をくすぐる。流石にこうなると食べずに我慢することが出来なくなる訳で、早速女性陣を起こすことにした。
「みんな、朝食の準備が出来てるよ!」
と声を掛けると、「朝食」の言葉で真っ先に起きだしたのがあの人、物部かすみである。そして寝ぼけ眼で布団から起き出して襖を開けて開口一番「玲、朝食できたん?」となぜか自宅にいるような会話をしてくるため、玲が
「かすみ、ここは旅館だよ。
今、仲居さん達が朝食を
セッティングしたんだよ」
と伝えた。そして焼き味噌の香ばしい香りがかすみの鼻をくすぐると、目をパッチリと開けて
「うわー、めっちゃ豪華な朝食やんか~!」
と騒ぎ出した。このかすみの騒がしさに反応したのか、神室霊華とラハニ・カヤンも目を覚まして布団から起き出してきた。そして挨拶もそこそこに、目の前のテーブルに載せられている豪華な朝食を目にして、文字通り目を丸くしていた。何やらまだ夢の中にいるような雰囲気を湛えていたそんな2人を他所に、かすみは早速座椅子に腰を下ろし、「いっただきまーす」と大きな掛け声をかけて朝食をパクついた。このかすみの流れるような動作に玲は唖然としていたが、やはりこの香ばしさにはえず、自分もかすみの正面に腰を下ろして「いただきます」と唱え早速食べ始めた。そして2人の食べる様子を眺めていた神室霊華とラハニは、それぞれの場所に座って朝食を頂くことにした。
「神室さん、ラハニさん、
起きたばかりで大丈夫ですか?」
と玲は心配そうに尋ねるが、ラハニは
「レイサン、ゼンゼンモンダイナイデス。
ワタシ、オナカヘッテマス!」
と元気に答えた。神室霊華は少しハニカミながら、「やはりこの香ばしさには勝てませんね」と呟きながら、焼き味噌をご飯に載せて美味しそうに味わっていた。2人の反応に気を良くした玲は、直ぐにご飯を平らげ、お替りをした。するとかすみが
「玲、うち等の分も残しといてな!」
とクレームを言って来た。だがご飯に関して言うと、恐らく十分足りると見ているので「かすみ、心配しなくても大丈夫だよ」とおの中身を見せながら答えた。かすみは頬を膨らませながら「ふん」と明後日の方を向くも、直ぐに目の前のおかずに箸を戻した。
賑やかな朝食を済ませた4人は、美味しい朝食で満足したのか、座椅子にぐったりしていた。だがその時ラハニが突然
「、ドウナリマシタカ?」
と叫んだ。他の3人は、直ぐに夜中のことが頭に浮かんだようで、早速立ち上がるや、障子を開けて縁側に直行した。するとそこには紫がかったと、それに数輪の淡いピンク色をした笹百合を束ねた花が置かれていた。派手さはないが、朝露を含んだ花々は、つい今し方摘み取られたようにしさを湛えていた。
「えっ?これって、夜中に来た何かが
置いてったんやろか?」
とかすみが誰にともなく疑問を呈する。だがその花束をよく見ると、何やら無造作にそこに置かれた訳ではない印象を強く受ける。と言うのは、先ず切り口に刃物で切られたような鋭さがない。それなのに切り口は不思議なほど揃っており、しかも茎の繊維が潰れていない。まるで力ずくで折られたのではなく、自然に外されたという印象を受けるのだ。そしてやはり花束にしている紐である。ただし縄のような物ではなく蔓草を使った紐と言うべきだろう。ただしその結び方は独特で、ここにいる4人には全く馴染みのない結び方である。後にかすみが検索した所、それは山仕事や狩猟で使われる古い結び方だということが分かった。そしてその結ばれている位置。何となくだが人が両手で花束を受けるのに丁度いい位置に結ばれている。となると
「これって、渡す前提やんな......」
とかすみの声が低くなる。そしてこの花束の向きも意味があった。と言うのは花束は離れの内側ではなく、森の方を向いて置かれていた。つまりその意味するところは、”宿の者から客へ”ではなく、森の側から離れに向けて差し出されていることを意味していた。しかも1本だけ白いドクダミの花が他の花とは真逆に挿されていた。まるで白い花が花束の外へ向かうように。そして何らかの境界線を示す杭のように見えたりした。その時ラハニが静かに息を吐いた。
「コレハ、オクリモノデスネ。
デモ、ドウジニ......」
と言いながら、花には触れず、「コレハ、デスネ」と口にした。つまり歓迎と言うことのようだ。ただし、そこには「何をしても良い」と言う意味はなく、
——ここに入ったことは、見ているぞ。
——客として遇するが、客であり続けよ。
そんな言葉を持たない存在の礼儀を暗示しているようだ。そして神室霊華がその花束を持ち上げようした時、縁側の床板に水滴が円を描くように残っているのを目にした。まるで誰かがそこに一度立ち止まったような跡である。ただしそこには足跡の類は残されていない。ただそこには湿った木の匂いと朝露の冷たさだけが残されていた。
「どうやら、昨夜の音と同じ感じだね」
と玲がぽつりと呟いた。そう、4人に対する歓迎は昨夜から始まっていたのだった。