召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
なぜ物部かすみは拉致されたのか? (第4幕)
物部かすみが拉致される半年ほど前のことである。異世界のサモナルドから4人の重要人物を地球に召喚する少し前の7月下旬の平日のある日、美土路神社の社務所に1人の人物がやって来た。
「最神さん、物部さん、ご無沙汰しております」
と白の半袖のシャツに薄いグレーのスラックスという出で立ちのその人物は、県警の立花刑事であった。早速玲が「お久しぶりですね、立花さん。また何か事件ですか?」と尋ねると、立花は何やら別件の捜査でこちらに来る事があったようで、その序にここに寄ったという。ただし、
「最神さん、今日は事件というよりも
個人的なお願いがあって来たのですが...」
とプライベートなことに関する依頼のためにやって来たことを玲に伝えた。そこで玲は、社務所の集会室の冷房を入れて、彼を集会室に案内した。念のため、かすみには後で話を伝えることを言い置いて、冷蔵庫から麦茶を取り出して集会室にて立花の話を聞くことにした。
立花が最神玲と物部かすみに会いに来た理由、それは
「実は最神さん達に、降霊術をお願いしたいんです」
という、玲とかすみにとっては、いわゆる彼らの本職に対する仕事の依頼であった。そして降霊術を行う対象であるが、それは
「自分の幼馴染なんですが......」
と少し伏し目がちにそう呟く立花のその眼には、薄っすらと涙が滲んでいるのを玲は目にした。恐らく彼にとっては大事な友人だったその人を亡くしたショックから、まだ立ち直れていないことを玲は察した。それもその筈で、つい1週間前に幼馴染が亡くなったという知らせを彼の家族から受けたばかりであったからだ。そして通夜と告別式を彼の家族と友人だけで行い、今はただ納骨を待つだけだという。そこで玲は、仕事の依頼である以上、そこに断る理由はないため、いつ行うかを決めることにした。その結果今度の週末土曜日の午前中に、米野市内にあるマンションに向かうことになった。
さて、県警の立花刑事から個人的に降霊術を依頼された玲とかすみの2人は、揃って米野市の隣町に建つ指定されたマンションにやって来た。そこは外壁がレンガ調で装飾されたお洒落な感じのマンションである。オートロックパネルで部屋番号を押すと、直ぐに立花の声がスピーカーから聞こえてきた。そしてオートロックが解除されて、玲とかすみはそのまま2階の201号室に向かった。
その部屋の主だった今は亡き立花の幼馴染とは、小学生の頃から続く長い付き合いがあり、小中高と同じ学校に通ったりするほどの間柄でもあった。特に高校に入ってから、立花は柔道部へ、塚原はラグビー部へそれぞれ入部し、お互いにインターハイを目指して切磋琢磨していた。そんな塚原は、40歳手前であるにもかかわらず、お腹が出ることなく、筋肉質の健康的な体系を維持していたという。そんな塚原理が、突然死を迎えたことには、未だに彼の家族を含め、信じられない思いが強いというのだ。そんな今の心情を、塚原理の妻の理香子は淡々と玲とかすみに語っているが、その姿を見ていると、何やら心を無くしてしまったように感じてしまう。
玲とかすみは、早速降霊術の準備を進める。と言っても、特に何かする必要はないのだが、玲が
「とりあえず、降霊術をする前に
お伝えすることがありまして――」
といつもの注意事項をその場で伝えた。要するに、必ずしもその人の魂が呼び出される訳ではなく、その場合は費用が発生しないなど、ここはあくまでもビジネスをする態度でそのように説明した。そして早速かすみがその場にアニュラス型の降霊召喚門を設置して、お出迎えの術式を記述してから「召喚」と呟いた。だが、
「ん?なーんも現れへんな?」
「玲、術式間違ってないよな?」とかすみは玲に確認を求めるのだが、玲も彼女の術式に問題ないことは分かっている。となると、
「まさか、もう既に転生して
しまったんだろうか......」
と魂が既に別の世界の別人に転生したのではないかと玲は考え始めた。残念ながらそれを確認する手立ては、玲とかすみには無いのだが。
そんな2人の挙動に何やら戸惑いを見せていた立花は、一体何があったのかを2人に尋ねた。すると玲が
「実はですね、こちらの塚原さんの魂が
降霊できないんですよ」
と立花が予期しない言葉を返した。そのためか、立花は口を開けて何かを喋ろうとするも言葉が出てこない。そのうち何とか落ち着いたところで
「こ、降霊できないって、
ど、どいうことでしょうか?」
と玲にその原因を尋ねた。そこで玲は、先ほどの注意点にも触れたことを再度言葉にしつつ、その原因として
「多分ですね、塚原さんの魂は別の誰かに
転生したと考えられるんですよ」
と魂の転生について説明を行った。流石に立花も、そして塚原理の妻の理香子も、転生云々といわれても「はいそうですか」とは答えられないため、結局そのまま黙り込んでしまった。そして部屋の中に何やら重たい空気が垂れ込めつつあったその時、かすみが興味本位からか、塚原理がどのような状況で亡くなったのかを立花に尋ねた。そこで立花が掻い摘んで事の経緯を説明し始めた。
その日は朝から梅雨時の終盤にしては珍しく、空が抜けるような青空が広がっていた。塚原理は何時もの様にリュックを背負い、自転車用ヘルメットを被ってから家を出て、愛用のロードバイクに乗って会社に向かった。ちなみに彼の勤める会社は、電子部品を製造する中堅企業であり、その本社が米野市内にある。そして、自宅からそこの本社まで、自転車で片道1時間弱で通えるという。
「彼は、自分の体形を気にしてまして、
そのため電車や車ではなく自転車による通勤を
していたようなんですよ」
と立花が詳細を語った。そしてその日も特に何事もなく仕事を終えた塚原理は、帰りに1カ所だけ顧客の所に寄った後、そのまま自宅に戻るつもりだったようなのだが、
「何やらいつも帰宅する時間になっても戻らないと、
こちらの理香子さんから相談を受けまして――」
それが丁度日付が変わる少し前だったという。そんな時間に連絡されて大丈夫なのだろうか、と何やら非難めいた表情を漂わせるかすみに対し、立花は
「私は仕事柄、勤務時間があって
無いようなものでして......」
塚原理には何かトラブルがあったらいつでもいいから自分に連絡するように伝えておいたという。そして普段通りに帰宅しない夫の帰りをひたすら待っていた妻とすると、堪ったものではなかっただろう。そんな彼の妻の心情をった立花は、夜中にもかかわらず、塚原家にやって来た。そして
「直ぐにこの家から彼の職場までの間を
車でゆっくりと移動しながら、
何か痕跡が残されていないか調べました。
するとですね――」
ある公園の前の歩道に、塚原理が愛用しているロードバイクを見つけたという。しかも
「見たところ、特に異常というか、
事故によるダメージを受けた様子は
ありませんでした。
しかも歩道に施錠して置かれてましたから、
てっきり――」
その公園で何か用事が出来たのかと思い、立花と塚原理香子の2人で公園内を捜索したのだった。だが
「......残念ながら、彼も、あるいは彼の持ち物も
全く何も見つかりませんでした......」
そして夜も遅いため、一度塚原理香子を自宅に送り届けた後、立花は再び公園に戻って、付近を調査するのだが、流石に夜中の調査には限界があり、結局一度帰宅することになった。
立花はたまたま翌日が非番であったのと、夜中の捜索で疲れたのか、朝になっても起きずにそのまま寝ていた。だが昼近くになったとき、彼のスマホに着信があった。
「てっきり、本部から殺人事件の招集がかかったと思って
飛び起きたんですが――」
その電話は塚原理香子からであり、電話口での彼女の取り乱した様子から、最悪の事態を想定した。そして立花は、塚原理香子が訪れている市内の病院に急ぎ向かったのだった。