召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
落とし前 (その後)
最神玲による大規模転移術によってある国の独裁者一族がアメリカのある地に現れたその日、アメリカ政府はその一帯に軍による緊急配備を敷いた。ただし、実は陸軍基地の特殊性、即ち陸海空及び海兵隊から集められた特殊部隊による秘密の訓練場となっていたことから、広大な国有地の中に基地が存在していた。そのため、市民生活への影響は全くなく、しかも大規模演習を行うと言うカモフラージュが出来ることから秘密裏に済ませられ、結果としてマスコミへの対応が全く不要となる。そのため、大統領を始めとした政権幹部は、国民への説明対応に追われることなく胸を撫で下ろした。大統領に至っては"あの男は気を利かせたのか!"と一時は感心してしまう程であった。そして大規模転移から半日後には、独裁者一族の身柄が拘束され、FBI監視の元、ある施設に送られた。ちなみに、その独裁者はと言うと、普段は国民に対して強気の演説をして強面の表情を貫いているのだが、拘束された時はかなり怯え切った表情をしていたという。そしてこの時点で、アメリカ政府は長年悩まされ続けた様々な外交的な問題が片付いたと思い、文字通り狂喜乱舞したという。だが実はまだ大きな問題が残されていたのだが。それは――
独裁者一族の身柄が拘束されたその時間、アメリカ政府の別の組織はある問題を確認した。政府はその国の行動を24時間監視しており、そのため常時偵察衛星が上空を通過している状況になっていた。そしてその偵察衛星からの映像によると
「大統領、確かにあの場所に
我が軍の基地があることを確認しました」
とフィリップ・ガゼット国防長官は、国家安全保障会議の席でそのように報告した。偵察衛星による高解像度の画像からも、現時点での基地の詳細だけでなく、恐らく特殊部隊の隊員達だろうか、外に出て何が起きたのかを確認し始める様子も見て取れた。
「フィル、向こうと連絡はとれたのか?」
「はい、幸い非常用電源が機能しているので、
通信環境には問題ないということのようです」
「それよりも、大統領、これは一体全体
何が起きたのですか?」
と突然、首席補佐官が大統領に対し説明を求めた。だが大統領は首を横に振り「わからん」とぶっきらぼうにそう答えた。彼としては、そう答えざるを得ない。当然、その場に同席していたフィリップ・ガゼットには緘口令を敷いていた。もし事の詳細がこの場で披露された場合、間違いなくここの誰かが外に漏らすだろう。すると人の口に戸は立てられないの諺がこの国にあるかは分からないが、結局漏れ出た情報は燎原の火の如く一気に燃え広がる。すると
"恐らく世界中で召喚術師探しが
始まるだろう"
と懸念される。だがそのような存在を果たして誰が信じるだろうか?何も知らない政治家や指導者であれば、一笑に付すだろう。だが、数年前に起きたある大国の指導者の突然死の原因を知る者達は、この件を真面目にとらえるだろう。現に、本来ならこの情報を知るはずのない同盟国の日本からも、その件に関する情報提供を依頼されたという報告も入っている。もっとも日本からすると、たまたまこのタイミングで依頼したに過ぎないのだが。勿論無料で寄越せとは言っておらず、現在の恐らく最大の関心事であるもう一つの超大国、あそこの指導者に関する極秘情報の一部と交換と言う条件付きである。そこまでして手に入れたいということは、やはり彼らの存在とその能力を知ってのことだろうと容易に推測される。
"一体、何時まで隠し通せるだろうか..."
と不安になるが、それよりも彼らの逆鱗に触れた以上、身の安全を考えると最早一刻の猶予もなくなった。
"あの計画を遂行するか。
そうすれば彼らの援助は見込めるな"
と何やら不敵な笑み湛えながら何か決心がついたのか、大統領はこの件を担当する補佐官に対しある指示を出した。そしてこの時の決断が、後にM&Mの玲とかすみに対して大きな影響を与えることになるとは、当人達は全く予期しないことであった。
それよりも、まずは目下の懸案事項であるあの国に転移させられた同胞をどのようにして救出するかであるが、これに関しては大統領はある決定を下した。それは
「直ぐに彼らを救出するために軍を派遣しろ!」
であった。直ちに、日本の横須賀に待機中のアメリカ海軍第七艦隊に指令が飛び、早速現地に向かうべく行動に移されたのだが、ここで彼らの予期しない事態が発生した。それはその国の隣国にあるもう一つの超大国が、アメリカ軍の異常な行動を察知して、直ちに行動を中止するように警告してきたのだ。もしこの警告を無視すれば、自分達の同盟関係を盾に直ちに軍隊を派遣すると脅しをかけてきた。つまり過去に起きた戦争の悪夢を再び蘇らせるというのだ。確かに現状は停戦中であるため、どちらかが停戦合意を破れば、即開戦となり戦争が再び発生しかねない。そしてこういう脅しに対して、この大統領はかなり弱気になって警戒してしまい、挙句の果てに第七艦隊の派遣を中止させてしまった。その結果、どのようになったのかと言うと――
取り残されたアメリカ軍基地の隊員達は、本国からの救援が期待できなくなったため、絶望の淵に追い込まれた。そんな中、このような場合に備えて常に訓練を欠かさない特殊部隊は、直ちに行動に移った。それは基地を捨てて自力で国境を越えるということであった。そして数日後には、彼らは無事国境を越えて、今は先日のM&Mの4人が訪れた駐留基地に姿を現した。一方で、残された数百人の隊員達だが、実はその大半は文官である。と言うのも、任務の特殊性から、主に情報収集や分析が主体となっており、実行役は特殊部隊に任せていたためである。そのため、基地がその国の軍隊によって取り囲まれた時点で隊員達に残された道は、最後まで戦うかそれとも降伏するかであるのだが、彼ら全員迷うことなく降伏を選んだのだった。
ところで、最神玲による大規模転移の数日後には、アメリカ国内で何が起きたのかに関する報道がされ始めた。当然この報道に激怒した大統領は、直ちにリークした政権内の人物を探すとともに、報道機関には報道規制を要求した。だが、報道規制するための正当な理由が明かされない限り、彼らは従うことはなかった。なお、この情報が報道機関にリークされたのは事実であるが、それを行ったのはM&Mであった。彼らが撮影していた映像は録画もされており、そのデータと何が起きたのかを添えて、秘匿性の高いSNSアプリを使って世界中の主だった報道機関に送信した。勿論その情報を最初から信じる報道機関は皆無だったのだが、アメリカ国内のある地域で異様な規制が入ったこと、そして民間の衛星による情報を分析した結果、どうやら映像にある情報に間違いなさそうとなったところで、直ちに速報がなされた。
するとアメリカ国内の世論は真っ二つに割れた。一方は、今回の措置、つまり独裁者一族の身柄を確保と言う点に対し、国益を重視した最善の対応を取ったと言うことで大統領を称賛し支持する人達である。それに対しもう一方は、こちらはある報道を機に、独裁者一族を元の国に戻せ、と訴える人達である。実は後者に関しては、あの国の臨時政府から降伏して捕らえられた基地隊員達の身柄と引き換えに自国の指導者を引き渡せ、と言う要求に端を発した。要するに人質の交換である。そしてもし応じなければ、裁判にかけて処刑していくと脅しをかけてきたのだ。すると国のために働いた者達を国は見捨てるのか、と言う論調が激しさを増し、特に退役軍人たちの反応は凄まじく、「ここで彼らを見捨てるということは、彼らの愛国心を踏み躙るに等しい行為だ!」と声高く叫び出した。そうなると、いくら大統領であっても彼らの意向を無視することは出来なくなる。この国益を取るか愛国心を取るか、大統領は苦渋の選択を強いられることになった。そしてこれこそが、最神玲がこの男に課した落とし前であったのだった。