召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
それぞれの日常
2月末のある平日。差間見町にある美土路神社は、この地のこの季節にしては珍しく雪が舞っている。とは言え、このような天気の時でも、信心深い人達は熱心にお参りにやって来る。そしてそのような参拝客に対して、最早ここの主とも呼べそうなこの2人、最神玲と物部かすみは丁寧な対応で参拝客をもてなしている。そんな2人の所では、何時もの日常がそこにあり、世の中が激動の渦に飲まれようとも、ここだけは昔と変わらない時間が過ぎていく。
世界、特に日本近辺では、ある大きな事態が進行中である。それはアメリカ軍による軍事侵攻の懸念である。と言うのも、アメリカの3つの空母打撃軍が日本近海に待機しているからだ。ではなぜアメリカ軍は大規模な軍事力を日本近海に配備しているのか?単なる演習にしてはその規模が大き過ぎるのだが、なぜこのような事態になったのかと言うと、実は数週間前のある出来事と関係していた。そしてその原因を作ったのが、ここにいる最神玲である。ある意味、彼の撒いた種が芽を出したというべきだろうか。ただしそれを刈り取るのは彼ではなくこの軍事力を統括する人物であるのだが、それを行うのは至難の業かもしれない。だが、玲からすると「そんなのあいつの仕事だし、自業自得だろう」と言うだけである。ちなみに彼の言う「あいつ」とは、アメリカ合衆国大統領その人である。
さて世間の耳目はアジアのある地域に集中しているというのに、この人、物部かすみの関心は全く別の所にあった。かすみの目下の最大の関心事は、お笑いのことではなく、自分のデザインした衣装が果たしてどう評価されるか、という点に尽きる。かすみは昨年末に締め切られたあるデザインコンテストに応募しており、その第一次選考の結果が間もなく発表される。そのため、毎日のように「どないやろー」と気を揉んで仕事も手につかない状況にあったりする。そんなかすみの心配気な様子を横目に、玲は黙々と仕事を続けていた。
そしてある日の正午、かすみが待ちに待った第一次選考結果がホームページにて発表されることになった。かすみは自宅に戻って昼食をとるところであるが、それよりも早く結果が知りたいためにカバンの中からスマホを取り出した。そして心臓に毛が生えている程堂々とするかすみにしては珍しく、何やら緊張のためかスマホを持つ手が震える状態でブラウザを立ち上げ、そこにブックマークしているホームページをなんとかタップした。そしてページの上段に[第一次選考結果]と表示されているバナーを見つけたとき、思わずスマホをテーブルに置いて、両手で柏手を打ったりした。そして恐る恐るそこをタップした。するとそこには第一次選考を通過したデザイナーの名前が表示されるのだが、下にゆっくりとスクロールしていくと、その中に[物部かすみ]の名前を見つけた。その途端、かすみは「よっしゃー、一次通過や!!」と大声で叫びながらガッツポーズをしていた。
"まぁ、絶対や無いけど一次通過はあるとは
思うててんけどなー"
と自分の名前を見つけた途端、何やら余裕な表情を湛えながらそんなことを考えているが、実際かすみの場合、一次選考は通過しないといけなかった。と言うのも、今回の作品はあのタチアナ・エグリスコバのアドバイスが反映されていたからだ。と言っても、タチアナは直接かすみにアドバイスすることはせず、代わりに遠回しに色々と話をしたのだ。それをかすみはうまく拾い上げて、見事に作品に反映させて仕上げたということである。そのため、もし一次選考で落ちようものなら
"うち、絶対今年の夏にロムリアに
行かれへんかったわ"
と今でこそ笑えるのだが、現実に落ちていたら、かすみはロムリアに行っても肩身の狭い思いをし通しであっただろう。そんなかすみも心に少し余裕が出たところで、"そういえば華蓮ちゃんも応募してたよな"と言うことを思い出し、早速探し始めると直ぐに「あっ、あった! やっぱなー」とそこに神薙華蓮の名前を見つけて嬉しそうにそう呟いた。昨年末に美土路神社の手伝いに来てもらった時、デザインの方向性についてかなり悩んでいた華蓮であったが、タチアナのメッセージにより後押しされたことで方向性が決まり、ギリギリになってある作品を提出したのだった。
さて自分の作品が無事一次審査を通過したことで気をよくしたかすみは、早速玲と昼休みを交代しがてら社務所でその報告をした。すると「へぇー、かすみにしては頑張ったんだねー」と何やら気に障る表現をしてきた。そのためかすみは「はぁ?玲さん、自分うちのことなんや思うてんのかなー」と言いながら早速マキザッパを召喚して玲を一シバキした。玲は「あっ、危ないな、全く。そんなことだと、二次審査落ちるぞ!」とかすみの気にすることを連発してきた。そうなるとかすみもムキになって玲を更にシバキにかかる。玲は堪ったものではないため、急ぎ自宅に走って逃げた。
"くそっ、玲の奴、後でまじで
じっくりとしばいたるからな"
と息巻くが、果たして玲の運命は如何に?
同じ頃、かすみの一番弟子の神室霊華はと言うと、こちらは仕事の合間に趣味の陶芸を続けている。最初は一過性で終わると懸念していた神室霊華だったが、気が付くと1年近く続いていたことに驚いたりする。しかも今では、別荘の離れの地下に立派な工房が出来ており、加えて本格的な焼き窯も作られている。と言っても焼き窯の所は半地下にせざるを得ないのだが、玲が色々と工夫をしてくれたお陰で安心して陶芸に打ち込める環境が出来ていた。そして彼女の目下の関心事はと言うと、自身初の個展にどのような作品を展示するかであった。
神室霊華は、降霊術で自宅を訪れた顧客に対し自分の作った茶碗に抹茶を点て、更に小皿にお茶請けの和菓子を載せてもてなしをしていた。そんなある時、陶芸に造詣の深い顧客から、その茶碗と小皿は一体どういう由来なのかを尋ねられた。そこで神室霊華は、趣味で作っているものだと答えると、その顧客から驚くべき提案がなされた。それは彼女の陶芸作品を展示してはどうかと言う提案である。つまり個展の開催である。その顧客の知り合いが、都内でギャラリーを経営しており、そこに話を通すことは出来るというのだ。そうなると、人に見てもらうという絶好の機会がやって来たことで俄然やる気が出てくるのだが、一方で作品をどうしようかと悩みだす。と言うのも、神室霊華が今まで手掛けてきた作品は、ありふれた茶碗や皿や小鉢と言った日用品ばかりである。そこで何時もの様に美土路神社にやって来て、師匠であるかすみと玲に相談することにした。と言っても彼らに何かいい考えや答えがあるかと言うとそれはないのだが、かすみが
「余り気ぃはらんと、何時も作っている物で
ええんちゃう」
というアドバイスを送ると、神室霊華は確かにその通りだと痛感した。そもそも自分に個展を勧めた顧客も、自分が普段使いしそうな茶碗やお皿を見て判断した訳であり、そう考えるとかすみの言う通りだと思えてくるのだ。そして今現在、何時もの茶碗を作りつつ、だが少しだけ土の配合を変えたりして色々と出来具合を試しているところであった。さて彼女の作品の出来上がりは如何に?
かすみの二番弟子のラハニ・カヤンは、只今仕事と育児に奮闘中である。と言いたいのだが決してそうではなく、現在はほぼ仕事のみを行っている。では育児の方は?となるのだが、こちらは主夫をしている夫のロドニーが担当していた。息子のタホマは、ハイハイできるようになった途端、部屋中を這いずり回っているようで、気の休まる暇がないとロドニーはラハニに溢している。とは言え、その表情に険しさはなく、何やら楽しげな雰囲気があったりする。毎日のタホマの成長をラハニより先に自分が知ることになるという優越感があったりするようだ。
そしてラハニの仕事の方だが、今は神室霊華の元に通い、そこで美術品の鑑定を始めとしたさまざまな鑑定を行っている。そう、様々とあるが、実は意外と骨董品の鑑定が多かったりしている。特に高価な値段で買い入れたお宝が果たして本物かどうか、そこが気になる古美術商が意外と多くいたりする。そしてラハニはと言うと、神室霊華程の高額の料金を請求していないため、需要が尽きることはなさそうである。そして、今のところは神室亭に持ち込んでもらいそこで鑑定することが主であるが、もう少し落ち着いたら出張鑑定も考えている。そして将来は海外の美術館での鑑定も視野に入っており、実際にある海外の有名な美術館からの問い合わせを受けているようだ。
そんなラハニの家族は、今は日本政府から特別に発行された在留資格により日本に長期滞在が可能となった。もっとも日本での生活実績のない家族に対し、このような措置は通常あり得ない。だがそこは、最神玲が裏から手を回した訳ではないが、ある筋にお願いして実現したのは事実である。そして漸く穏やかな日常を送ることが出来るようになったラハニとロドニーだが、日本周辺の緊張状態が、果たして彼らの生活に影響を与えないだろうか?
さてもう1人、かすみの三番弟子のRINAであるが、彼女はある楽曲をリリースした。それはツアーに向けて製作中のアルバムとは全く別物であり、彼女のあるインスピレーションから生まれた曲であった。そしてそのインスピレーションの元になったのが、今年の新年会での月旅行である。光の届かない真っ暗な空間にスポットライトを浴びてポツンと浮かびあがる真っ青な天体、地球を目にしたときの衝撃が忘れられなく、それを何とか曲にできないかと言うことで取り組んだ成果である。当時彼女はうまい表現が見つからず落ち込んでいたのだが、そんな彼女に対して玲がアドバイスを送った。そしてそのアドバイスに従って、彼女は曲にその思いを込めたのだ。するとその曲に合わせて自然と歌詞が出てきたようで、それをリリースしたのが今巷で流れている曲である。ただしこの曲は、実はRINAの今までの曲調とは異なり、全て英語の歌詞となっている。もっとも最初は日本語で歌詞をつけていたのだが、かすみから何かメッセージ性を感じるから英語にしてはどうかとアドバイスがされた。ただしRINAはネイティブレベルの英語を話せないため、ラハニに相談することになり、そうやって練りに練って完成させたのが今の曲であった。勿論発音についてはラハニのチェックを受けており、その結果動画投稿サイトにリリースされたRINAの曲は、世界を駆け巡った。そして遂にストリーミング再生回数は百億を超えたという。
このRINAの新曲の影響は思わぬところに現れた。彼女の新曲は、平和な地球を愛することへのメッセージ性が強いことから一種の反戦ソングとなったのだ。そして反戦を訴える人達の動画が投稿されるに比例して、彼女の曲は世界中に浸透していった。その結果、RINAは何やらバチカンから招待され、近いうちにローマ法王の前で歌うことになるというのだ。これには当人だけでなくM&Mの全員が余りの展開の凄さに驚いてしまったのだが、そんな中かすみはと言うと、「また、あっこであの天井画が見られるからラッキーやんか」と至って呑気にそう呟いたりした。すると神室霊華が
「それよりも、恐らく来年あたりから
世界を周るんでしょうね」
と世界ツアーの予感がするというのだが、果たしてRINAの今後はどのようになるのだろうか?