召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
神室霊華、霊障の相談を受ける (第3幕)
神室霊華が霊障に関する相談を受けたその日の夕方、彼女は少し早めに美土路神社にやって来た。最神玲と物部かすみの2人は、まだ社務所にて仕事中である。だが直ぐに、今日の料理番の玲が一足早く自宅に戻ってくると、神室霊華が既にキッチンにいることに驚きつつ、「あれ?神室さん、今日は早いですね?」と挨拶もそこそこにそう尋ねた。そこで神室霊華は、2人に相談したいことがあるため少し早めにやって来たことを伝えると、
「まあ、その件はかすみが戻って来てからですね。
とりあえず...」
先ずは夕飯の準備をするということで、玲は着替えを終えてから直ぐに手分けして作業を始めた。そのうちかすみが戻ってくると「あれ、霊華さん、早ないか?」と玲と同じことを尋ねられたので、神室霊華は少し可笑しくなってつい笑みが零れてしまった。幸いかすみは直ぐに着替えをするために自室に向かったため、笑みが零れたことに対するツッコミを受けずに済んでほっと一安心した。そしてかすみが戻って来た所で、今日あったことを簡単に2人に伝えた。すると
「そんなん、そいつの自業自得やろ。
霊華さんが気に病む必要ないで!!」
とかすみは神室霊華の心配性を揶揄する訳ではないが、そんなに真剣に悩む必要はないことを指摘した。そして丁度そのタイミングで大蒜の香ばしさが漂う今晩のメイン料理である春のあさりを使ったボンゴレビアンコとミネストローネスープが出来たので、早速3人で旬のイタリアンを頂くことにした。かすみはあさりの身を貝殻から外しながら
「しっかしなー、霊障ってよく言うねんけどな、
あれって結局なんなん?」
と玲に向かってその点を尋ねた。玲は手にしたビールを一口飲んでから、
「うーん、何かと言われるとよく分からないけど、
僕の経験から言うと――」
霊体の持つ霊力による被爆ではないかとの推測を披露した。ちなみに玲と言うよりもその中身のカーンフェルトの経験なのだが、ケンタリアに居た頃、そのような実験を召喚術研究所の第5部で行っていたことを思い出しただけである。それによると、
「要するにね、電子レンジのように
何かしら霊体の持つエネルギーで
焼かれるという感じかな」
と言うことである。ただし、電子レンジであればスイッチを切ればその時点で被爆は停止するが、
「霊体による被爆はね、それを排除しても
確か被爆し続けるんだよね」
といわゆる原爆の後遺症のようなことを指摘した。ただし原爆の場合は放射線が影響するのだが、霊障の場合はどうやら霊体の持つエネルギーがトリガーになり、加えて自身の生命エネルギーが燃料となりその後の被爆症状を継続するようで、一度火が付いた紙がそのまま燃え広がるような感じだと説明した。するとかすみが
「ほな、水みたいなもんを掛けたら
消えるんちゃうの?」
と指摘するのだが、残念ながらその水に相当するものが分からない。するとかすみは「ちっ、使えねぇな―」と玲に向かってボヤクが、こればっかりは玲のせいではない。そのため玲も「そんなこと僕に文句言われても迷惑だよ」とかすみに反論する。そしてこの後は何時もの様に何か始まる予感しかしない神室霊華は先回りをして、
「では玲さん、代わりの方法は
ないのでしょうか?」
と尋ねた。玲は腕組みをして考えるが、
「多分ね、紙に点いた火を消す場合、
方法としては――」
それ以上燃え広がらないように燃えている部分を破り捨てるか、あるいは酸素を遮断して鎮火させるしか方法はない、と言うことを答えた。すると、神室霊華が
「で、では、最初の方法を選択するとなると、
それって......」
と言い淀むが、それは患部を切断することに相当する。一方、後者の方法だとどのような方法になるのか?
「実はそれがまだよく分かってないんだよね。
そもそもケンタリアに居た頃は、
霊体が電磁波を発生するなどと言うのが
分かって無かったからね」
と言うことであり、もし可能性として考えるとすれば
「生命エネルギーが被爆症状を
起こしていると仮定すると、
それを断つしかない訳で......」
と何やら口籠るが、その答えはかすみと神室霊華には容易に想像できた。それは霊界に連れて行く、と言うことである。霊界であればまず悪霊の持つ霊力はなくなるが、同時に生命エネルギーも失われていく。そうすれば延焼は防げるものの、
「そう、当人がそのまま死んでしまうという、
本末転倒な話になるんだよね」
であった。だが実はもう一つの考え方があることを玲はこの場で説明し始めた。
「まぁ、電磁波の特性を利用して、
逆位相の電磁波を持つ霊体を召喚する
という方法かなー」
と言うのだが、するとかすみが
「ん?それって、ドッペルゲンガーん時の話に
似てるねんけど、それとおんなじなんか?」
と質問するので、玲は
「うん、理屈としては多分そうかな。ただし――」
ドッペルゲンガーは周期が同じで逆位相の魂が近づくとそれらが消滅するのだが、今回のケースはまさにそれを利用して患部の表面に残る霊体のエネルギーを消滅させることになると付け加えた。ただし、
「その場合問題なのは、その霊体を捕らえて
そのエネルギーの状態を測定しないと
いけないんだよね」
理屈の上では先の通りだが、それを実行しようとすると実は幾つか越えるのが困難なハードルが存在するのだった。
ところでこの時のかすみは、一つだけ気になることがあり、その点を玲に尋ねた。
「玲、もしな、その怨霊か悪霊をやな
成仏させてしまった場合って、
どないなるんや?」
つまりこの世に問題の悪霊が存在しない場合はお手上げではないかという懸念を示したのだ。これについては残念ながら玲は明確な答えは持ち合わせていない。だが
「うーん、まあ、例えば、幻聴がするとか
体の自由が利かないといった症状であれば、
成仏させればそれで解決するんだけど......」
とそこで一旦話しを止めて、喉を潤すためにビールを一口飲んだ。そして
「多分ね、今回のケースは成仏させても
解決しない気がするんだよね」
と指摘した。その根拠はと言うと、
「僕の予想だけど、今現在も
紙に燃え広がる火のように
その影響が広がり続けているんだよね。
だとすると――」
恐らく患部にその霊体の霊力の痕跡が残っているのではないかと推測した。もしそうであれば、直接患部から情報を引き出すことも不可能ではないのだ。ただし、
「恐らくかなり弱いと思うから
果たして正確な情報が得られるかどうかは
全く分からないね」
である。何れにしても、何かしら対策はあるようで、相談に来た神室霊華としては内心ホッとしていた。
"やはりここに来て相談したのは正解でしたね"
だが原因が分かったところで、その対策はと言うと、流石の玲でも未知な領域である。
「まあ、神室さんのその依頼者が言っていた
心霊スポットに行って、
その怨霊か悪霊を捕らえることが先だね」
と言うことで、結局今度の週末に現地に向かうことが決まった。